敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい 作:集う炎帝
少し短めです。
ボスの王様が完全に光の塵と化し、戦闘が終わった。
「おつかれ」
「やりましたね!」
「うむ」
「いえーい!」
「やったね!」
離れた場所ではメイプルとサリーがハイタッチをかわしている。
それを見たチョコさんが両手を上げて近づいてくる。
……えーとっ
「い、いえーい」
「わーい!」
なぜか俺たちもハイタッチを交わすことになった。まあ、悪い気はしない。普段の面子だとこういうことやらないし。
そうしていると、地響きとともに王様の座っていた玉座がズレ、隠し階段が現れた。全員で階段を下ると、その先には豪華な装飾の施された巨大な宝箱が鎮座していた。
中には、銀のメダルが3枚と、小型化(それでも普通の槍くらいのサイズはあるが)されたトライデントや指輪、王冠、首飾り、腕輪といった装備品。そして卵が2つ。
「【モンスターの卵】……ですか?」
「あっそれ、私たちも見つけたよ!」
そういってメイプルが【覚醒】と唱えると、小さな緑色のカメが現れた。別の場所で手に入れた卵が孵ってこのカメが生まれたらしい。
「私にはシロップがいるし、この卵は皆さんで分けてください!」
「私も、今は朧がいればいいので」
「私は……戦闘であまりお役に立てなかったので……お2人で分けてください!」
メイプルとサリーそして、チョコさんが辞退し、卵は俺とカスミで分けた。
装備もそれぞれで分けたのだが……性能的に、王冠が一番合っているという結論に至った。
【海皇の王冠】
【INT+40】【MP+10】
スキル【海皇の威光】
【破壊不可】
今の頭装備よりもINT補正が高く、スキルはあの魔法陣からビームを放つ攻撃のようだ。今のスタイルとも相性はいいのだが、普段使いするには見た目がすこし恥ずかしい。
黒いローブを着ているのに頭だけは王冠。アンバランスすぎる。いっそのこと、装備を新調し王冠の方に合わせるべきだろうか。
メダルは事前に決めた通り、メイプルたちに2枚、カスミに1枚渡し、報酬の分配も終わった。
帰還用の魔法陣に乗り、転移すると、俺の復活地点にほど近い砂浜だった。まだ日も高く、イベントの終了時刻まで数時間ある。
「せっかくだし、海で遊ぼっか」
「さんせー!」
「私もそうしよう」
「あっ私もいいですか?」
女性たちは海で遊んで過ごそうと話していたが、俺はもう別れるつもりでいた。フレンド登録もしたし、装備の使い心地も確かめたい。今回のイベントで見えてきた弱点もある。
メダルは集まったとはいえ、のんびりしてるのはどうなのか。でも……
「トートさんも!いっしょにあそびましょう!!」
たまにはこういうのもありかもしれない。
笑顔で手を振るチョコさんに考えを改めた。
【モンスターの卵】をインベントリから出し、孵化を待ちながら時間を過ごす。
砂浜に城を築いたり、メイプルの持ち込んでいたボードゲームなどで遊んだりしていた……のだが。
「えっ……?」
目の前には、黒と白が入り混じったリバーシの盤があった。
メイプルと対戦していたのだが、その結果──ギリギリの差で負けてしまった。
「ふっふっふー、リバーシには結構自信があるんだよー?」
勝ち誇った顔をするメイプルを前に俺は打ちひしがれていた。
「メイプルこんなに強かったんだね……」
「うむ……」
「メイプルさん強いです……」
近くには俺と同じくメイプルに負けた人々が重なっていた。
「でもカナデにはまけちゃったんだよねー」
これよりも、さらに強い人がいるのか……
世界は広いな……
そんな場にピキッという破壊音が響いた。
「あっ、卵が孵るよ!」
1人だけ元気なメイプルが俺たちを呼び寄せる。
全員で見守ると、ヒビが卵全体を覆い──モンスターが生まれた。
「キーッ!」
「キャウ!」
俺の卵からは黄色い鳥、カスミの卵からは白い狼が生まれた。
2匹とも飼い主にすり寄ってきて、甘えている。
……可愛いな。
それにしても──
「卵から狼が生まれるんだな」
「あはは、サリーとおんなじこといってるー」
「モンスターだし、関係ないのかもな」
卵の殻が輝きだし、指輪になった。俺の指輪は黄色、カスミのは白い指輪で、それぞれモンスターの色に対応していた。
そして指輪の説明がこうだ。
【絆の架け橋】
装備している間、一部モンスターとの共闘が可能。
共闘可能モンスターは指輪一つにつき一体。
モンスターは死亡時に指輪内での睡眠状態となり、一日間は呼び出すことが出来ない。
共闘すると必ず装備枠が1つ潰れてしまうが、初期ステータスは完全武装したプレイヤーと同等以上。AIのレベルにもよるが、かなりの戦力になりそうだな。
「名前はどうするの!」
「えーっと……」
名前か。ステータスの名前欄を見るとノーネームとなっている。好きなものをつけられるようだが、どうしようか。
「私は……ハクにしよう。……少し、安直だろうか?」
「そんなことないよ!ハクちゃんかーかわいいな~」
「トートさんは、何にしました?」
「こいつの名前は……リーベンだ」
「キーッ!」
「かっこいいですね!」
純真な誉め言葉に少し照れる。
正直、由来は説明したくない。それを言うと、俺のプレイヤーネームの由来までバレかねない。
メイプルとサリーもモンスターを出し、みんなで戯れていると、いつの間にかイベントの終了時刻になった。
体が光に包まれる。
「じゃあ、また会いましょう!!」
そういいながら手を振るチョコさんに俺も手を振り返す。視界を光が埋め尽くし、俺はイベントが始まる前にいた場所へと転移された。
アナウンスがあり、30分後に交換所に転移されるのでその間にメダルの受け渡しを済ませてほしいそうだ。
特にそういったことがない俺は、アイテムの整理などを行って30分を過ごす。
メダルの交換場所にはただ1つ浮かぶ青いパネル。数多くのスキルが並び、その中から使えるスキルを吟味していく。
金が1つと銀が10個で2つのスキルと交換できるが、1つはすぐに決まった。
【ワイズマン】というスキルで、INTを1.5倍にしてくれる効果を持つ。条件や消費もなく、火力を高められるので、見つけた瞬間これだと思った。
もう1つは少し迷ったが、最終的に、【繰魔術】というスキルにした。魔法の軌道を操るスキルで、その操作性はDEXに依存する。だが、全く動かせないのと少しでも操れるのでは大きく変わる。今回のイベントでサリーに攻撃を当てられなかった。このスキルで、今度戦う時は勝てるようにしていきたい。
普段のフィールドに戻った俺は、リーベンのレベリングをしながら強さを確認していく。
ステータスはAGIとINT、MPが高くSTRとVIT、HPが低い。メイプルとサリー、カスミの相棒もそうだったので、飼い主のステータスに影響されるようだ。
戦闘スタイルは高いAGIとINTを生かし、スキルで電撃を纏い突撃する。レベルを上げたらスキルは増えそうだし、かなり強くなりそうだな。
「いいぞー」
「キーッ!」
戦闘後に褒めながら撫でると、嬉しそうにリーベンが鳴く。
その後はしばらくの間リーベンのレベル上げをし、ログアウトした。
暗い部屋の中、VRヘッドセットを外し、ベットから起き上がる。
時間はそろそろ夕飯時。
部屋の扉を開けると、お盆の上に置かれた食事。
少し冷えたそれを食らって、シャワーを浴び、再びNWOの世界へとダイブする。
ふと目についた棚に納められた教科書には埃が積もっていた。