敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい 作:集う炎帝
【
使用すると、『牛乳』を入手する。
1日に1度しか使用できない。
なんというか、酷いスキルだ。『牛乳』はMPを少し回復する効果があるとはいえ、このスキルで手に入れたものはあまり使いたくないな……
【無限牛乳】を取得したあと【炎鳥の巣窟】と【巨像の神殿】でボスを食べると、無事スキルを入手できた。
【
火傷を無効化する。
取得条件
炎鳥をHPドレインで倒すこと。
【
炎鳥の力を意のままに扱うことができる。
MPを消費して炎魔法を使用できる。
取得条件
火傷無効を取得した上で炎鳥をHPドレインで倒すこと。
【
拘束を無効化する。
取得条件
巨像をHPドレインで倒すこと。
【
巨像の力を意のままに扱うことができる。
MPを消費して像魔法を使用できる。
取得条件
拘束無効を取得した上で巨像をHPドレインで倒すこと。
【炎鳥】の炎魔法は火魔法よりも広範囲なものばかりで、その分MP消費も大きい。【巨像】の像魔法は、ゴーレムを造れる魔法で、石の手で相手を拘束したり、小さなゴーレムを使役したりできる。どちらのスキルも【毒竜】のようにボスを召喚して攻撃することもでき、ボスの能力を元にしただけあって強力なスキルだ。
この昔のRPGならどうとでもなるが、このVRの世界での【拘束耐性】はどんな感じなのか気になっていたが、拘束からの脱出率を補正するスキルのようだ。STRが低くても藻掻けば100%抜け出せる。豆腐のように簡単に抜け出せてしまうので不思議な感覚だった。
こういった検証をしていると、いつの間にかNWOのアップデートの時間になっていた。
一度リアルでの栄養補給などを済ませNWOにダイブする。ついでに【炎鳥】や【巨像】【悪食】などのスキルを共有しておいた。
今回のアップデートのメインは第二層の追加だ。
新たなダンジョンを攻略することで、追加されたマップに進むことができる。
かなり広いらしいので、とても楽しみにしていた。
せっかくの新マップだから、フレンドと二層探索の約束をしていたけど、そろそろ来てるかな?
時間には少し早いが俺は町の中心へ向かった。
待ち合わせ場所の噴水にたどり着くと、見慣れた2人組がいた。
「トートおっせーぞ!」
そのうちの1人、大剣を背負った金髪の女性が呼びかけてきた。
彼女はサッキー。大剣使いで髪だけでなく、鎧や大剣も金色で統一している。鎧単体だと悪趣味とも思えるが、彼女の野蛮……いやワイルドな顔には良く似合っている。
「お久しぶりですねトートさん」
もう1人の蒼い髪の男性はトキワ。メイスを持っているが、基本的にヒーラーをやっている。服も白と青を基調としたまさに聖職者といった感じで、穏やかな雰囲気を醸し出している。
この2人とクロム、そして俺で二層を攻略していこうとなっていた。
「久しぶり。クロムは、まだ来てないか」
「集合時間前ですしね。クロムさんですから遅れたりはしないでしょう」
「そうだな」
「それよりも見たぜ〜。あんな方法よく見つけたな!」
「確かに、モンスターを食べるなんて考えもしませんでしたよ」
「2人とも見てくれたんだ。毒竜の噛みつき喰らったら欠損してさ、興味本位でやり返したらなんか手に入った」
「発想が狂ってるな!」
サッキーが笑い出した。俺もつられて頬が緩む。
正直、俺もまともな方法じゃないとは思っていたし、100周した影響で疲れていたのだろう。素面だとあんなことを思いつけた気がしない。
そんなことを話してるとクロムがやってきた。
「クロム!やっときたか〜!」
「すまん、待たせたか?」
「まだ時間前ですし、全然大丈夫ですよ」
「俺らが早かっただけだしな」
これでメンバーが揃った。ダンジョンに出発だ。
北の森にある第二層への入口、【蔓鹿の大樹】。
草木の茂る古い遺跡から入るこのダンジョン、道中はほぼ一本道のシンプルな造りになっている。襲ってくる猪型のモンスターを相手に、軽く連携を確認する。
「フンッ!」
鈍い音を立て、クロムが突進してきた猪を右手に持った大盾で受け止めた。
「オラァ!」
そこをすかさずサッキーが右から斬りつける。クロムも左手の短刀で突き差し、残りHPは3割ほど。
「【ストーンキャノン】」
斜め上から俺の魔法が命中し、猪は光の塵へと姿を変えた。
「僕の出番はありませんでしたね……」
「まあ、このメンバーだとな。ボスでも俺が前に出てヘイト集めるから、その時は回復たのむぜ」
トキワが嘆くが、クロムの言う通りヒーラーはボス戦でこそ重要だ。
「クロムの言う通りだ。気にすんなよ」
「つーかいつまで張り付いてるつもりだよ」
俺も励ましたら、サッキーからツッコまれた。
俺は今、【糸使い】で足から出した糸を天井に張り付け、それを手繰って天井に立っているのだ。
今いる通路は非常に狭い。大盾使いにクロムと大剣使いのサッキーが前に出ると、魔法で援護する隙間がほとんど無くなってしまう。そこで高さをつけることで、2人に当たらないよう援護したのだ。
伸縮できないが、それでも十分便利だな【糸使い】。
道中はクロムとサッキーが前で突進を受け止め、俺とトキワが援護する。そうやってすんなりと攻略は進み、ボス部屋へと辿り着いた。
大きな扉を開き、ボス部屋へと足を踏み入れる。
奥行きのある部屋で天井も高い。さっきまでいた通路とは比べ物にならないほど幅も広いが、奥行きと比べると狭く感じた。奥には大樹がそびえ立っている。
背後で扉の閉まる音が聞こえた。
大樹がメキメキと音を立て、姿を変えていく。木の幹が手前に曲がり、地面から根が引き出されていく。真っ赤な林檎を実らせた枝は2つに分かれ攻撃的なフォルムに。気付くと根は4つの細長い塔へと姿を変えていて、ボスの全容が明らかとなった。
大樹が変化した鹿、それがボスの姿だった。
鹿の足元に緑の魔法陣が現れ輝き出す。
──その刹那、剣閃と石柱が天井から鹿を襲った。
「【アサルトスラッシュ】ゥゥ!!」
「【アースクエイク】」
敵を待ってやる理由はない。大樹が変化し始めた段階で、俺とサッキーは移動を始めていた。壁はサッキーの持つスキル【クライミング】と俺の【糸使い】で、鹿の真上で待機。ボスが動き始めると同時に攻撃を仕掛けた。だが……
「無傷!?」
甲高い音を立て、サッキーの攻撃も、俺の魔法も緑に輝く障壁に阻まれた。
鹿が蔓を操り反撃してくる。
「【ロックバインド】」
「【挑発】」
だが、魔法で鹿ごと拘束され数を減らし、残りも大半はクロムのスキルでクロムに向かった。いくつかは俺とサッキーにも向かってきたが、AGIを上げている俺達にとっては、先端だけ気をつければ安全に着地できる足場でしかない。
俺とサッキーは一度クロムの後ろへと退避する。
「ノーダメじゃん」
「クッソ、最初にド頭叩けりゃ楽勝だったのによ」
NWOのモンスターには弱点が設定されている。ほとんどは頭とか首とか胸とかで、そこを狙うことで大ダメージが与えられるのだが、このボスにはあっさり防がれてしまった。
「おそらくあの魔法陣で防がれたと思います。今攻撃した頭と背中以外を狙っていきましょう」
トキワはヒーラーで後ろに下がっているのもあって、全体がよく見えている。
こうして話してる間もクロムには蔓が殺到している。その全てを大盾で逸らして、受け止めて、防いでいるが、負担は少なくない。
トキワの言うように、速く弱点を見つけよう。
「じゃあ私は足元からだな!高いとこは任せたぞ!」
「もちろん。死ぬなよ」
「誰に言ってやがんだ!」
サッキーが足を切りつけるが緑の障壁に防がれる。魔法陣自体を攻撃するが効果はない。俺も首から胸元、そして腹を狙うが全て防がれる。
どこだ?この部屋自体に仕掛けがあるのか?
改めて鹿を正面から見据える。
──目の端で何かが光った。あれは……林檎だ。思い返すとさっきから光ったり消えたりしている。某食いしん坊なピンクの悪魔に出てくる木みたいに、落として攻撃する前兆かと注意していたが、一度も落ちてこない。ならこれは……
「トートさん、角です!!角を狙ってください!!」
トキワから声がかかる。俺の気付きが確信に変わる。
「オッケー、【ウォーターキャノン】!」
角へと魔法を撃つと、角から1つ、林檎が落ちた。
「攻撃が通った!もう1回、【フルフレイム】!」
巨大な炎が鹿の角を覆う。元が植物だからか、炎がどんどん燃え広がり、林檎が落ちていく。その数が0になると魔法陣が消えた。
「よっしゃぁ入ったぁぁ!!」
大きな斬撃音とサッキーの叫びが聞こえてきた。HPバーも減少している。
あの赤い実が魔法陣を維持していたらしい。
「流石トキワ!ありがとう!!」
「いえ、攻撃は任せましたよ!【リカバー】」
トキワが回復魔法を使っている。クロムにダメージが蓄積していたらしい。
クロムのおかげで、ほとんど攻撃を受けずに攻撃できていた。
鹿の角は燃え落ちたが、そこで延焼は止まった。
「ハッハー!」
サッキーの笑い声が聞こえてきた。蔓を使って鹿の頭上に跳んでいる。
「【アサルトスラッシュ】ゥゥゥ!!」
この鹿に対して、1番最初に放った攻撃。最初は障壁に防がれたそれが、今度は命中した。
「【メテオインパクト】」
CTの関係で俺も合わせることはできなかったが、俺も魔法で追撃していく。
鹿が叫び声を上げる。HPは残り4割まで減っていた。
サッキーは鹿の頭を攻撃した勢いで背中に乗っている。俺も引き続き魔法を放つ。
だが、鹿の背中が赤く輝き出した。
「みんな!避けてくださ」
トキワの注意が言い終わらないうちに、鹿が爆発した。
不味い、サッキーが避けきれず吹き飛ばされた。
「【エアバッファー】!」
サッキ―が飛ばされた先に風のクッションを置き、勢いを殺す。
「【リカバー】!」
トキワがすぐに回復したが、サッキーはスタン状態。鹿は次の攻撃の準備を終えていた。
もう一度背中が輝き出し、幾つもの光線を形づくり、その矛先をサッキーに向けている。
「【サンドウォール】【アースリフレクション】!」
「【カバームーブ】【カバー】!!」
地面から2枚の壁が現れサッキーを守るが、3度の光線で破られた。だが、スキルでサッキーの元へ移動したクロムが、盾を構えている。幾重にも降り注ぐ光線を受け止める。
数度の爆発音が響き、爆発が止む。砂埃が晴れるとそこには──攻撃を防ぎ切ったクロムが立っていた。
「【ヒール】【ピュリファイ】」
すかさずトキワが回復するが、【リカバー】はまだCTらしい。サッキーのスタンも回復してくれて、鹿の攻撃は蔓に戻った。
反撃開始だ!
「トート!アレやるぞ!!」
サッキーが俺に声をかけて来る。
アドリブでアレやるのかよ。
若干の戸惑いはあったが、俺はサムズアップで答える
「【ウォーターストーム】【サンドウォール】!」
水の渦が鹿の顔を覆い、地面から現れた砂の壁がサッキーを打ち上げる。
「【真空斬】ンン!!」
サッキーが空中で大剣を振るうと、剣先が届いていないはずの鹿の胸が切りつけられた。その勢いのまま天井まで上がったサッキーは鹿の背中目掛けて天井を蹴った。
蔓がサッキーを襲おうとするが
「【ロックバインド】!」
地面から噴出した土砂に固められ動きを止める。
サッキーは鹿目掛けて一直線に落ちてくる。
「【レーザーブレード】ォォォ!!」
「【ボルケーノ】!」
サッキーの大剣が輝きながら鹿の背中を突き刺すと同時に、炎の奔流が鹿の胸を襲う。
背中を何度も切りつける。炎が燃え広がり、鹿の体が崩れていく。
鹿が断末魔を上げた。
甲高い音が響きわたり、鹿は光の塵になった。
サッキーが光の中から姿を現す。
「やったな!ダンジョン攻略だ!!」
「おう、皆お疲れ」
「お疲れ様です」
「お疲れ。いやー、意外と苦戦したな」
「そうだな。毒竜とどっこいどっこいくらいじゃねーかなって思ってたけど想像以上だった!」
「いや、毒竜は毒竜で装備の耐久に気をつけないとだから大盾使い的には気を使うんだぞ。こっちはただの蔓と光線な分」
「はいはい、大盾使いの苦労は分かってますよ。いつも感謝してますって」
「そうか?ならいいが」
「それよりもサッキー、最後のは合わせるのめっちゃ神経使ったんだぞ!」
「いやあ、成功したんだからいいだろ。まああれだけ完璧に合わせられるとちょっと引いたぞ!」
「確かに、あの精度は凄かったですね」
「だな。俺がサッキーカバーした時も、壁がなかったら危なかったし」
「そっ、そうか…なら良かった」
互いに労い合うこの時間は、正直好きだ。戦闘での文句を言い合ったり、逆に褒めたり、全く関係ない話をしたり。この3人とパーティを組むと落ち着く。戦闘でもサッキーの無茶振りに答えるのはなんやかんや楽しいし、クロムの背中は安心するし、トキワの声は冷静になれる。この3人と今後もパーティを組んでいきたいな。
「じゃあ、ボスも倒したことだし──もう何周かしようぜ!」
「だな!今度は【炎鳥】とか使って見ようぜ!」
「あの爆発攻撃の条件も気になりますね」
「おいおい、盾役は疲れるんだぜ──そんな何度もは付き合えねえからな!」
「さっすがクロム!話が分かるな!!」
俺が周回を提案すると皆乗り気だ。こういう検証が好きなのも、俺と気が合うとこなのかな。
そうして始めた2周目。
「うわあ」
「おいおい……」
「凄まじいですね」
「……ついでに食べとくか」
俺たちが見たのは【炎鳥】の炎を浴び、林檎も、攻撃手段の蔓も、体も燃やされ、ただ立ち尽くしながらHPを減らす鹿の姿だった。
『スキル【