敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい   作:集う炎帝

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8.魔法使いと赤い魚群

 王様を弱体化させられるギミックを探すことにして、海の探索を続けていた。

 日が傾き始めた頃、石碑の跡があった島のさらに沖に洞窟のある島を見つけた。洞窟は地下に続いていて、進んだ先には──見覚えのある魔法陣が佇んでいた。

 

 おそらくあの人魚の王様みたいなボスのところへ繋がっているのだろうが、さすがにあいつほど強くはないだろう。というか、あのレベルのやつが何体もいてたまるか。

 俺は少し躊躇いながらも魔法陣に踏み入った。

 

 

 

 転移した先は海水に満たされた大きなドーム状の空間。あの王様のいた場所と同じくAGIは下げられているが玉座やカーペットはなく地面には巨大な珊瑚が生えている。

 そして──珊瑚からは赤い魚群が現れた。

 

 王様のいた部屋で見た魚群と同じように見える。

 

 俺の推測通り、事前に倒すことで王様と戦う時に手出しされなくなるのだろうか?分からないが、やることは変わらない。

 とにかく、こいつを倒すだけだ。

 

 

 

 赤い魚群は 一塊になって海中を動き回っている。

 

 AGIが下げられた今は、スピード勝負では勝てない。カウンター狙いでダメージを重ねていくのがベストだろう。

 

 俺は地面の近くで相手の攻撃を待つ。

 

「【ファイヤーボール】」

 

 長射程魔法で狙ってみるが、この距離だと簡単に躱されてしまった。だが、ようやく攻撃態勢に入った。

 小魚の群が、大きな魚影となって突っ込んでくる。

 少し左に動いてみると、魚群もそれを追随し、向きを変えてくる。

 

「【遅延魔法:サンドストーム】【遅延魔法:ウォーターストーム】」

 

 俺は動くことを止め、地面に魔法を設置し魚群を待ち受ける。ギリギリまで引きつけて一瞬で距離を取る、それを狙う。

 

 魚群到達まで、あと5秒。

 

「【瞬間装備】」

 

 装備を変える。INTは下がるが、この状況なら変えた方がいいだろう。こういう時にうってつけの装備を用意している。

 

 あと4秒。

 

 

 膝を曲げ、地面を蹴る準備をする。

 

 2、1。

 

「【ジェットブースト】」

 

 地面を蹴ると同時に靴から突風が噴出し、俺を一気に加速させる。

 イベントの告知後に手に入れたブーツ、【スタントブーツ】のスキルだ。水中だと急加速や方向転換、地上だと二段ジャンプのようなことができる。

 

 魚群から5mほど距離を取った。

 魚群に向き直ると砂と水の渦に飲み込まれ、ダメージエフェクトをまき散らしている。

 

「【属性付与(エンチャントエレメンタル)(ウォーター)】【メテオインパクト】」

 

 俺自身も火力の高い魔法で追撃していく。

 【マジックグラトニースライム】からドロップしたスクロールで覚えた【属性付与】は次の自分の攻撃に属性を付与するスキルだ。さらに【土魔法】に水属性を付与すると、俺の【沼地の杖】の補正が2重でかかる。

 これが現時点の最高火力──だが、相手のHPを減らすことはなかった。

 

 水を纏った岩石は魚群に命中したが、どうやら本体以外に命中してもダメージはないらしい。渦でのダメージエフェクトも魚群全体からは出ていなかった。

 赤い魚は破壊不能オブジェクトのようなものだろう。倒せない赤い魚を避け、本体に攻撃を与え続ける。中々に面倒な相手だ。本体を見分ける方法はあるのだろうか。なかったら範囲攻撃でちまちま削っていくしかないが。

 そして攻撃手段も気になる。突撃だけならどうとでもなるが、他の攻撃が加わると躱しきれなくなるかもしれない。

 

 魔法の効果時間が過ぎ渦から抜け出した魚群は、再び集合し俺に突撃してくる。

 【ジェットブースト】はCTが30秒。まだ明けていない。本体の見分け方を探るためにも、ギリギリでの回避を狙う。

 

 最初と同じように魚群が一塊で突撃してくる。

 

 俺に到達する直前に水を思いっきり掻き魚群の上に回り込む。

 

「【エアブラスト】【ワールウインド】」

 

 空気の塊が魚群の一部を吹き飛ばし、突風が魚群を内側から散らしていく。

 何か、違う奴はいないか?

 ──見つけた。

 

「【属性付与:水】【ロックキャノン】」

 

 赤い魚群のなかに見えた黒い影。岩の砲弾が命中すると、ダメージエフェクトが煌めいた。残りのHPは9割ほど。

 

 【暗視】があるとはいえ、この海中では少し闇がかかった視界になる。そのせいでさっきは見逃していたらしい。赤い魚群の中に紛れた1匹の黒い魚。そいつが本体だ。

 

 魚群は三度集合し俺に突撃してくる。

 今の行動パターンはひたすらに突撃と散らされた後の集合だけのようだ。そして集合も本体を中心に集まっている。

 

 本体を孤立させられれば簡単にダメージを稼げそうだ。

 

 

 

 地面に立ち、突撃を待ち構える。

 

「【アースリフレクション】」

 

 魚群はギリギリのタイミングで地面から現れた岩壁に激突し、魚群の形が崩れる。

 岩壁を掴んで顔を出し、密度の減った魚群から本体を探す。

 ……いた、丁度魚群の真ん中あたり、壁のすぐそばだ。

 

「【糸使い】【右手:糸】」

 

 俺の右手から伸びた蜘蛛の糸が本体を捕らえる。

 

「【ジェットブースト】」

 

 岩壁を蹴りながらスキルを発動。地面スレスレを通り、魚群から距離を取る。

 

「【ホールドンゴーレム】」

 

 地面から現れた岩でできた巨大な手が俺と魚群の本体を包み込む。

 【巨象】で使える像魔法の1つで敵を拘束できる魔法だが、逆に攻撃を防ぐ盾にもなる。一定の時間かダメージで解除されるがそれまでは俺とこいつは1対1だ。

 

「【バインドヴァイン】」

 

 隔離した内側で、蔓が本体を拘束する。

 

 動けないのを確認し──俺は本体に頭から嚙みついた。

 

 【悪食】が発動し、本体の2割ほどが抉り取られる。

 

 二口目──さらに2割が抉り取られる。

 

 三口目──さらに2割が抉り取られる。

 

 普通のモンスターなら、すでに倒れてるはずの欠損だ。だが本体は消えない。それどころか、体が再生している。HPバーも残り3割ほど残っている。

 

 もう一度噛みつく前に時間が経ち、岩の手が消えた。

 

 拘束は続いているが、隔離が解けた以上魚群が本体の下に集まってくる。

 

「【トルネード】」

 

 俺と本体を中心に渦巻いた竜巻が、魚群を散らしていく。

 だが、その数は隔離する前から大きく減らしていた。

 

 群れを吸収して回復したのか?それとも本体と群れがリンクしてるのか?魚なのはあくまで外見だけなのか?

 

 可能性はいろいろ考えられるが、HPが減ってないわけじゃない。HPバーを確認すると残りは3割ほど。俺がやるのは攻撃を続けるだけだ。

 

 

 魚群はドームの高くに上がっていった。

 俺は追いかけるが、集合した魚群は3つに分かれた。最初と比べて1つ1つの魚群はとても小さい。だが、密集していて本体がどこにいるのかは確認できない。

 数度の突撃を躱しながらも本体を探していくが、一度突撃した魚群は他の魚群と接触し、本体の場所は常に分からない。

 

 

 探す方法を少し考える。

 

 俺は左手の甲を確認した。【悪食】で蓄えた魔力結晶は残り11個。今の残りMPも考えると足りそうだ。

 ドームの中を移動し、魚群を3つとも狙える状況を待つ。

 

 しばらく攻防が続き、ついにチャンスが巡ってきた。

 

「【毒竜】」

 

 10個の魔力結晶を消費し現れた三つ首の毒竜が、3つの魚群にそれぞれブレスを放つ。

 狙う場所を調節しブレスを魚群に命中させると、ドームの天井スレスレ、俺から一番遠い魚群にダメージエフェクトが見えた。

 

 あそこか。

 

「【ジェットブースト】」

 

 加速し、一直線に本体を目指す。

 本体のいない魚群が突撃してきた。速さ勝負になると不味い。

 

「【サンドストーム】【ウォーターストーム】」

 

 砂と水の渦で2つの魚群を絡めとる。魔力結晶はこれで尽きたが、これで邪魔は入らない。

 本体のいる魚群は、俺から逃れようと移動し始めた。

 

「【エクスプロージョン】」

 

 移動先を爆破し、群れを散らす。爆発で発生した波に本体は動きを妨げられている。

 

「【属性付与:水】【メテオインパクト】」

 

 水を纏った巨大な岩石が本体に命中した。

 HPが一気に減少し、残り1割5分。

 

 追撃しようとするも、急に赤い魚が増殖し始めた。分裂を繰り返し、どんどん魚群を大きくしていく。本体もすぐに飲み込まれ、姿を隠した。

 

 俺は一度距離を取り、地面に降りる。その間も分裂は続き、すでにドームの天井が7割隠れるほどになっていた。

 想定外の動きだ。俺はMPポーションを飲みながら観察する。この探索イベントでは消費アイテムは貴重だ。運営からは補給手段がないこともアナウンスされていた。この序盤で使うつもりはなかったが、これはヤバい気がする。

 敵のHPが回復した訳じゃないが、この数は対処が難しい。本体を見つけるためにもMPの回復は必要だろう。

 

 ポーションを4本消費し、ほぼMAXまでMPを回復させる。

 

 赤い魚の分裂が止まった。ドームの天井は真っ赤に染まっている。

 

 

 ──魚群の中心が、動き始めた。

 

「【属性付与:(アース)】【遅延魔法:毒竜】【属性付与:土】【遅延魔法:炎鳥】」

 

 地面に魔法を設置し、迎え撃つ準備をする。

 

 

 一瞬の静寂を経て赤い魚群が巨大な波となって押し寄せてくる。

 

 

「【属性付与:土】【蔓鹿】」

 

 俺が魔法を発動すると同時に、設置した魔法も発動した。

 

 土を纏った3つ首の毒竜と巨大な炎鳥そして蔓の体を持つ鹿が、それぞれ魚群に攻撃を仕掛ける。

 

 3条の毒ブレス、広範囲を覆う炎のブレス、爆発を伴う光線、その全てが【属性付与:土】で強化され、魚群に襲い掛かる。

 

 ──ダメージエフェクトが煌めいた。

 その場所に攻撃を集中させる。

 

 1秒毎に赤い魚群が小さくなっていく。

 

 HPは少ないのに数は増えたんだ。HPとリンクしてる魚群の減りも速い。

 

 効果時間が過ぎボス達が消えた時、魚群は残り僅かだ。本体の黒い姿が見え隠れしている。

 俺は【ジェットブースト】で距離を詰め、【ワールウインド】で魚群を散らす。

 

 

 止めだ。

 

「【属性付与:水】【ロックキャノン】」

 

 水を纏った岩の砲弾が本体に命中し、魚群共々光の塵になった。

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