敏捷魔法使いはメイプルちゃんに勝ちたい 作:集う炎帝
魚群を倒した後、地面に生えていた珊瑚の中から、銀のメダルが1枚とスキルスクロールが手に入った。
覚えられるスキルは【
あのボスと同じくダメージを受けても消えないが、STR10程度の攻撃で吹き飛ばされてしまうので、防御壁としても使いどころは難しい。さらに使用中はMPを消費する上出せる数も5匹と少ない。中々使い所が難しいスキルだ。
報酬の確認も終わり、現れた魔法陣から元の祠に戻る。
地上に出るとすっかり日が暮れていた。
今日はこのままセーフティーゾーンを探して寝てもいいのだが、何かしらの夜限定のイベントもあるだろう。
初日で気力に余裕がある間に探しておきたいので、今日は徹夜で探索を続けることにした。
真夜中の海を彷徨い、見つけたのは幽霊船。中はダンジョンになっていて、ボスの幽霊を倒すと銀のメダルが1枚手に入った。
モンスターの強さは大したことがなかったのだが、厄介な謎解きが多くあり、攻略が終わった時には空が白み始めていた。
時間がかかっただけはあって、換金用アイテムや強力な装備がいくつか手に入ったが、杖や魔法を強化するものがなかったことは残念だ。
だがこの金でできた大剣なんかはサッキ―に似合いそうだな。剣で切ると爆発するスキルがついてるし。
夜が明け、昨日に引き続き人魚の王様の弱体化ギミックを探していく。
赤い魚群がいたのだから装飾に描かれていた他の配下、巨大イカと巨大サメもどこかにいるはずだ、と海を探していき見つけたのだが、意外と楽だったというのが正直な感想だ。
まずどちらも的が大きい。イカは触手に攻撃してもダメージが入らなかったが、本体が大きい上に触手も破壊できる。小さな本体を倒せない魚群を散らしながら攻撃しないといけないやつとは段違いに楽だ。
そしてAGIが下がらなかった。赤い魚群では水の中にいるだけでAGIが下がったが、他の2ボスでは素のAGIで挑めた。そのおかげで攻撃を簡単に回避できた。
もちろん、厄介な攻撃もあった。イカは破壊された触手は回復するし、AGIを下げる水を纏った魚を召喚してきた。サメは歯を飛ばして攻撃してきたし、サメらしく巨大な渦を発生させた。
だが、どちらも当たらなければ効果はない。
結局、最初に戦った赤い魚群に一番苦戦したのは拍子抜けだったが、メダルやスキルも手に入ったので、まあよし。
こうして王様の配下らしきボスを全て倒した俺は、王様に再戦を挑むことにした。
魔法陣に乗り、決戦の場へと移動する。
巨大なドームに囲まれ、水に満たされた玉座の間。
玉座に繋がれたこの空間の主は、俺を認識するや否や、右手に持ったトライデントを煌めかせた。
同時に電撃が命中し俺のHPが減少する。
水に触れている限り、必中の攻撃。だがその威力は低く、VITとHPが低い俺でも、HPの4割ほどしか減っていない。だが、AGIは今回も減っている。他の攻撃を躱せなければ、このダメージは響いてくる。
王様の出方を伺うが、あの配下らしきボス達は現れなかった。やはり、事前に倒すことで召喚を妨げられるギミックだったのだろう。
だが、それでも王様の攻撃は凄まじいようだ。
トライデントを掲げると複数の水の渦が俺を囲んできた。
「【ジェットブースト】」
渦の下部の隙間を通り抜ける。
AGIが減らされた今はスキルを使わないと躱しきれない攻撃だ。
王様の周囲に複数の魔法陣が現れ、青いビームが発射される。
「【糸使い】【左手:糸】【伸縮糸】」
地面に糸を貼り付け糸を巻き取って回避するが、ビームが1本掠ってしまいHPが3割ほど削られる。
「【ヒール】【ウォーターキャノン】【ロックキャノン】」
回復しつつ反撃したが、周囲を見ると上からいくつもの大きな泡が漂ってきていた。
「【ファイヤーボール】」
警戒しつつ魔法を当てると、泡は連鎖的に爆発し、俺は衝撃で地面に押さえ付けられた。
ダメージこそ受けなかったが、拘束の状態異常ではないらしく、行動が数秒制限された。
そこに8本の触手が襲いかかってくる。
元を辿ると王様の背中から伸びていた。
「【ウォーターストーム】」
杖を上に向け水の渦で触手を絡め取る。
地面を蹴ってその場から離れるがまだ2本の触手が追いかけていた。
「【フルフレイム】【エアブラスト】」
1本ずつ魔法で破壊するが、【ウォーターストーム】で攻撃した触手には傷がなかった。破壊した触手を見ると既に回復を始めている。
なんとなく察してはいたが、この王様は配下の能力の一部を使えるようだ。
イカの触手やサメの渦、魚群のAGIデバフ。もちろん、配下がいた時と比べると手数は減っているが、それでも十分強力だ。
そして王様独自の能力も厄介ときている。
再びのトライデントの煌めきと共にダメージを食らった。
中でも厄介なのがこの回避不能の電撃。1発目から1分ほど経っての2発目だが、2度食らう度に回復を余儀なくされる。
回復魔法はあるし、ポーションも持ち込んでいるが、常にこのペースだと不味い。攻撃魔法を使わなくともMPの回復が追いつかないし、ポーションも有限だ。そして何よりも、相手の体力が高過ぎる。【属性付与】を使わなかったとはいえ、【沼地の杖】の補正が掛かった攻撃を2発食らいHPバーの減少は極僅かだ。
玉座から動かないから攻撃を当て続けることは簡単だが、削り切ることは難しい。呼吸も続かない。
──ここは、【悪食】に賭けるしかない。
こんな間にも爆発する泡はバラ撒かれ、触手は俺を追いかけ、ビームは撃たれ続け、そして水の渦は俺を囲むように少しずつ動いている。
「【ヒール】【蔓鹿】【左手:糸】」
突撃に備え、HPを回復させる。
蔓でできた鹿が現れ、爆発で泡と触手を一掃していく。ドームの中をハチャメチャな水流が埋め尽くすが、鹿に糸で張り付きやり過ごす。
「【ジェットブースト】」
水流が収まると同時に加速し、玉座へ距離を詰める。
触手は再生中、泡もほとんどない。ビームも魔法陣を見れば予測できる。
攻撃を躱しながら近付くと、王様はトライデントを後ろに引いた。
俺が到達する瞬間、そのトライデントが突き出された。
「【
トライデントの側面に杖を叩き付ける。反動で俺の体も浮かび上がる。
「【右足:糸】【伸縮糸】」
右足から出した糸を王様に付け、円を描きながら距離を詰める。
鎖に繋がれた王様の左腕に口元を合わせ、噛みつく。【悪食】で抉られ魔力結晶が左手に蓄えられた。
「【属性付与:水】【メテオインパクト】」
玉座を蹴ってビームを避けながらトライデントの射程外に逃れる。魔法で追撃もしてHPバーを確認するが、1割も減っていない。
──この一瞬の余所見が、命取りになった。
王様はトライデントを横に薙いだ。
届かない距離に逃れていたはずが、その動きは飛ぶ斬撃を生み出し俺に襲い掛かった。
体を傾け回避を試みるが、斬撃は俺の脚に命中し、HPを8割消し飛ばす。
そこを囲うように幾重ものビームが発射され、俺は──光の塵となった。
3度目となる景色。復活地点の浜辺に戻された。
さっきの戦闘を振り返る。
最後はただの油断だが、あのまま続けていても倒せたかは怪しい。
【悪食】と【メテオインパクト】を当ててのあの減り具合。さらに行動パターンの変化もあるだろう。その対処や近付く手間を考えると、MPはいくらあっても足りない。
──パーティーメンバーが欲しい。
複数人で挑めば火力不足や攻撃への対処は解消される。だがAGIへのデバフ、水中にあるフィールド、そんな中で実力を出せるプレイヤーとなると極々一部だろう。
そもそも、そんな仲間を誘えなかったから1人でイベントに挑んでいるのだ。
今更そんなことを考えても無駄だろう。
だが、1人での限界は感じている。
これを解消するには、仲間を見つけるか、さらなる弱体化ギミックを探すか……
ふと海を眺めると、水平線上に噴き出す潮が見えた。
あれは──クジラか?
なら、アレがあるはず。
さっきまでの思考は隅に消え、ゲーマーとしての思考に切り替わる。
俺は直ぐ様潮が噴き出した場所を目指す。
想像通り、巨大なクジラがいた。
クジラは俺を認識したのか、口を開け海水ごと俺を呑み込もうとする。俺は流れに身を任せる。
流れ着いた先はピンクの壁と天井に溜まった水。そして壊れた船。
やっぱりそうだ。
巨大なクジラの腹の中には、船が呑み込まれている。100年以上前からのお約束だ。
廃船を探索していく。
会議が行われていたであろう広い船室に、宝箱を見つけた。
中には銀のメダルと古びた航海日誌が入っていた。
航海日誌にはこの船が歩んできた冒険とクジラに食われてから朽ちていく日々が綴られていたが、その途中に目が止まる。
それは冒険の途中で聞いたらしい古い伝承。
海の皇が3体の幻獣を従え地上を攻めたが、返り討ちに会い、神殿に封印されてしまった。
その封印を保つため、山に住む一族が石碑を護り、直し続けているという話。
海の皇があの王様なら、神殿は魔法陣のあった場所だろう。石碑は、神殿の真上の小島に残骸があった。その石碑は水の力を弱めるらしく、これがさらなる弱体化ギミックなのかもしれない。
いや、これだけの作り込みだ。関係ないはずがない。
次に目指す場所は決まった。石碑の修復のため、石碑を護り直す一族の居た場所、山岳地帯を目指す。
クジラの腹はセーフティーゾーンらしく、モンスターが出ない。徹夜明けということもあり、早い時間だが、この船で眠ることにした。
イベントは残り5日。必ず倒してやる。