史上最強の番外短編集 ~おまけ~ 作:(´・ω・`)ガンオン修行僧
一日一話しかないと思った? 残念、追加の欲張りセットも投稿してくれるわ!
こんな文量のもの書いてる暇があったら本編を書いて、どうぞ。
とは自身で感じているため、これ以上言ってはいけない(戒め
ちなみに、書き忘れていましたが、琳お姉さんはケンイチ世界基準の巨乳です(ガンギマリ
「……やけに静かだ」
一人で過ごす夜。このボロ家を不思議と広く感じ始めたのは、いつの頃からだったろうか。
縁側という、日本家屋特有らしいスペースで夜半の月を眺めながら、ぼんやりと修行内容を考えていた時に、ぽつりと口から言葉が漏れた。
視線を落とせば、昼間にあの子が叩いていた木人椿が月明かりに照らされている。
食べかけの、少しお高めのアイスクリームを縁側に置いておもむろに立ち上がり、普段自分が打つより少し低い位置に軽く手を触れる。
そして、古傷に障らないギリギリの力で木人椿に突きを入れる。気持ちの良い音を立てた木人椿に、さらに続けて突きを入れていく。
……思えば、再び本格的な鍛錬を再開したのも、このボロ家を広く感じ始めたのと同じ時期だったか。
自身の胸中の変化に自嘲気味に笑い、アタシは新たな日課となった鍛錬をさらに続ける。
「……あっ」
縁側に戻ったのは、食べかけていたアイスクリームがすっかり液体になってしまった後だった。
―――――――
―――――
―――
「俺、このままずっと琳姉ちゃんと一緒にいる!」
「っ―――!?」
金曜日の修行もほとんど終わり、小休止を取っていた時のことだ。
基樹がいきなりそんなことを言うもんだから、アタシは飲んでいた水が変なところに入り、むせ返ってしまった。
基樹が突然変なことを言い出すのが慣れっこだったが、さすがにこれは予想外だった。
「ず、ずっと一緒にって……えぇ!?」
「週末に父ちゃんと母ちゃんが出かけちゃうから、琳姉ちゃんのとこに泊まりたいんだー!」
「なんだ、そういう……そういうことはちゃんと言いな。あと、アタシのことは琳師父と呼ぶように」
はーい、と気の抜けた返事を寄越す愛弟子の頭を軽く小突く。
すると思ったより力が入っていたようで、基樹は小突かれた額を両手で押さえながら、少しだけ目を潤ませていた。
……ちょっとだけ可哀想なことをしちゃったかな。
「そんで、泊まっていいのかよー」
「そういうことなら構わないよ」
そういえばこの子が毎日うちに通うようになってかなり経つが、泊まっていくのは初めてだな。
よくよく考えれば、小学生男子が友達と遊びもせず、来る日も来る日もいい歳した女の家に通うのは普通ではないんじゃないだろうか。それが今度はお泊まりだって?
……もしかして、自分はとんでもない申し出を軽く了承してしまったのかもしれない。
「……ご両親には友達ん家に泊まるとでも言っておくんだよ」
「え? なんで?」
「それは……えっと……いいから言う通りに! ほら続ける!」
理由を問われて返答に窮したアタシは、修行を再開して強引に話を打ち切った。
いい歳した女が幼気な小学生男子を家に連れ込んで何かしていると思われると色々とまずいから―――などという理由は、死んでも口にできなかった。
そうして、土曜日の夕刻を迎えた。
一日の修行も終わり、いつもなら基樹が帰っていく時間だが……今日はそうならず、基樹と一緒にボロ家へと入っていく。
……子供の世話って、何をすればいいんだ?
とりあえず居間に通し、向かい合って座ったアタシの頭の中は、すっかり真っ白になってしまっていた。
「えっと……基樹、何かして欲しいことはあるか?」
「んーと……あ、琳姉ちゃん、オレお腹空いた!」
「よし飯だな! よし!」
意気揚々とキッチンへ向かうが……よくよく考えたら冷蔵庫にはアイスクリームやらコンビニスイーツやら、ろくなものが入っていない。
……こんなものを見られたら師父としての威厳が無くなってしまう!
そもそも、普段食べているのはそこいらで買ってきたジャンクフードや、デリバリーのピザばっかりだ。こればっかりは昔から変わらない。
キッチンに来たところで、買い置きの即席麺くらいしか出せるものがない。
「……なあ基樹、せっかくだしどっか食べにいかないか」
「えー……オレ、琳姉ちゃんのご飯がいいー」
「な、ならまずは買い物に行こうか! そうしよう!」
そうだ、これは決して弟子の我が儘に折れたわけではなく、健康的な食事を摂らせるために必要不可欠なことだ。
弟子の身体作りも師匠の務めのうちだ。きっとそうだ。料理だってほとんどやったことはないが、截拳道の地獄の鍛錬ほど難しいものではないだろう!
道着姿の基樹を連れ、近くのスーパーマーケットで買い物を済ませる。周りの視線が気になって仕方ない。
基樹はそんな視線など気にも留めず、ハンバーグが食べたいだのシチューも食べたいだの好き放題リクエストを出している。
幸い、ハンバーグは昔っから食べているハンバーガーに挟まっているアレのことだろうし、シチューとやらも何度か食べたことがあるし、ご丁寧に作り方も書いてある。
これなら何とでもなるだろう。
なんとかなりそうな敵を前に、いくらか落ち着きを取り戻してキッチンに立つ。
まずは食材を切るとあるが、そういえばうちにキッチンナイフの類はない……まあ、拳でいいか。
手刀で叩き切った食材を鍋に放り込み、火にかける。中火?とあるが、火が強い方が早く出来上がるんじゃないか?
腹を空かしているあの子のためにも、さっさと仕上げてしまおう。始める前は少々身構えていたが、いざやってみると楽勝だな!
そうして完成したものは、あたしの思い描いていたものとは少し……いや、ほんとに少しだけずれたものだった。
外側はいい色に焼けていると思うのだが、ハンバーグってこんなに中が赤かったっけ……?
それにこのシチューとやら、野菜の歯ごたえがこんなに残っていて良いものなのだろうか……?
基樹が何か言いたそうな顔をしている気がしないでもないが、目を合わせないようにして食べ進める。
あ、そういえば日本人はどんなおかずの時もライスを食べるんだったか。食べる習慣がないからすっかり忘れていた。
「……米は、明日また一緒に買いに行こう」
「う、うん……」
その翌日、アタシは炊飯器とやらが必要なことや米は洗わなければならないこと、そして何の味もしないと思っていた米が案外美味いことを弟子に教えられるのだが……それはまた別のお話。
基樹を風呂に行かせてから少しした頃、アタシの胸中にふと悪戯心が湧いて出てきた。
あいつがアタシに弟子入りしてからもう二年も経ち、あいつももう二年もすれば中学校へ入るくらいの年齢だ。
思春期に入りつつある子供が風呂に入っているところに乱入すれば、どういった慌てぶりを見せてくれるだろうか。
もちろん、首元から腹部にかけて残るこの傷跡があるからこのタートルネックを脱いだりはしないが……それでも十分に慌ててくれるだろう。食事の準備やら何やらで散々振り回してくれた礼だ。
それに、身体の様子を確認するためとか言っておけば師父の威厳も保てるさ。
そう、もっともらしい言い訳を用意しつつ脱衣所へ行き、あいつに声をかけるなり返答も待たずに扉を開いた。
すると我が弟子は面白いくらいに慌てふためき、身体の前半分を隠して立ち上がろうとした。それがいけなかった。
身体を洗っている最中だったのだろう。足や床についた泡で足を滑らせ、基樹がすっ転びそうになる。
こんなくだらないことで怪我でもされたら、それこそあいつの家族に顔向けができない。素早く浴室へと身を滑り入れ、その身体をしっかりと抱き留めて支えてやる。
まったく、こんなことで転びそうになるなんて、もっと精神と平衡感覚の修行をさせたほうが良いかもしれない。
そんなことを考えていると、すっかり大人しくなったあいつが身を縮こまらせ、腕の中からアタシの顔を見上げていた。
「―――あー……」
他愛もない悪戯を仕掛けようとしていたアタシは急に恥ずかしくなって、功夫を確かめに来ただの怪我がなくて良かっただの明日から鍛え直すから覚悟しとけだのよくわからないことを言い、呆気に取られる基樹を置いて浴室から出て行った。
全く、いい歳して未来の闇人に何をしているんだアタシは……。
それからどこか気まずそうにしているあいつを寝室に放り込み、自分の床に就く。
普段し慣れないことを色々とやったせいか、今日はやけに疲れた。
すぐに寝付いて、そのまましばらく経った頃だ。部屋の前から物音が聞こえて、アタシは目を覚ました。
そして扉を開けると、そこには枕を抱えた基樹がいた。
「どうした? こんな夜更けに」
「えっと……それが……」
そう問いかけるも、返事はいまいち要領を得ない。
「怖い夢でも見たか?」
さらにそう問うと、基樹は無言で首を縦に振った。
怖い夢を見て独りで眠れなくなってしまったが、十一歳にもなってそれを言い出すのは恥ずかしい……といったところか。
案外、可愛いところもあるじゃないか。
無言であいつの頭に手を置いて撫でてやると、そのまま同じベッドに押し込んで横になる。
すると基樹も無言のまま、アタシの手をそっと握ってきた。
あまり甘やかして情に厚い人間になると、殺人拳を目指す上でその情が邪魔になりかねないのだが……今日だけは特別に許してやるか。
そうして一緒に眠りに就いたアタシは、何故だかいつもより深く眠ることができた。
明日投稿分の本編を全く書いていないため、明日の本編投稿は……ナオキです……