アンデッド・アポカリプス ~ゾンビに嫌われた俺が行く終末世界~ 作:鬼管いすき
目を開けると心配そうにこちらを見ている鈴鹿の顔があった。
「恭平、よかった。気がついた」
「ああ、鈴鹿。どれぐらい寝てた?」
「まだシロに運び込まれてすぐだよ」
それほど時間は経っていないようだ。
寝かされていたソファから体を起こし辺りを見る。
ここは百貨店の一階か。
フロアにはシロの他に母犬と黒い犬がいた。
それと白い子犬のきなこと、黒い子犬。
子犬たちは珠子を筆頭に女性数人にオヤツを貰ったり撫でられたりしている。
床に寝そべった黒犬の背中には大きな裂傷が一つあり、一人の女性が血の溢れる傷を針で縫っていた。
あの女性の名前はなんだったか。
……たしか
しっかりと名前を覚えねば。
名札でもしてくれているとわかりやすいんだがな。
香織の手伝いは友里がしていた。
血を拭ったり、縫う際に剃っただろう犬の毛を片したりと急がしそうだ。
「ワン」 (狼の人)
「シロ、どうした」
治療の光景を見ているとシロに話しかけられた。
シロは俺に感謝を述べると、今後のことを話し出した。
周辺を荒らしていた赤カブトの脅威がなくなったことにより、いなくなった動物たちが戻ってくるだろうということ。
それから、黒犬――クロという名のメス――のケガが治るまで俺たちの護衛等はできないということ。
そして母犬の出産もあるからしばらく住処から動けなくなるということ。
そして俺に頼りすぎるのは良くないからと、元の住処に戻ると言い出した。
こちらが気にするなといくら言っても聞かず、その意思は固そうだった。
子犬二頭はきなこがここに残ると言い張り、きなこだけを預かる形となった。
女性連中にすっかり餌付けされてしまったのか。
「まあ、わかったよ。奥さんのケガ、早く良くなるといいな」
「クウン」 (すまぬ)
とりあえずはクロが歩けるようになるまではここにいてもらう形でシロとの話は終わった。
あとは、俺のことを女性たちに話すだけか。
シロと俺の話を黙って聞いていた皆の顔を見て口を開く。
「あー、悪いが少し話がある。皆も俺に聞きたいことがあるだろう。落ち着ける場所に移動したいんだが、良いか?」
「うん、そうだね。移動しようか。レストランで良いよね?」
「そうですね。温かい飲み物でも用意します」
鈴鹿や珠子以外の皆も頷いてくれたので、九階へと移動した。
皆でテーブルを囲み、珠子の用意してくれた紅茶を一口飲む。なんだかリラックスできたような気がした。
「さて、まずは礼を言う。皆が出てきて助けてくれなかったらきっと俺は死んでいた。ありがとう。感謝する」
頭を深く下げる。
本当は危険な真似はやめて欲しいのだが、彼女らのおかげで命が助かった手前、何も言えない。
「皆が気になっているのはこの腕だと思う」
左腕をあげ、皆に見えるようにする。
視線が腕に集まるのを感じる。
「この腕がこうなったのは俺がゾンビウイルスに感染したことがきっかけだと思う」
「恭平、いつ噛まれたの!?」
「そんな、恭平さん……」
「ああ、違う違う。俺が噛まれたのは四ヶ月も前の話なんだ」
それから俺の身に起きたことをいろいろと話した。
ゾンビに噛まれはしたが、薬を打ちゾンビ化はしなかったこと。
それから四ヶ月も植物人間状態だったこと。
目覚めてから視力、聴力、嗅覚、身体能力が増していること。
ウイルスはまだ俺の中にいて、そのせいで腕が変異したのだろうということ。
皆は俺の話を黙って聞き終えると、議論のようなものを始めた。
「でもさ、ウイルスに感染してるかもだけど私らにうつらないよね。恭平の体液とか触れてんのに」
「おい、体液っていつどこで触れたんだよ」
「恭平が寝てるとき? っていうかさ、ゾンビの治療薬ってなに?」
「薬なんてあるんですね。それがあればゾンビにならないなんて凄いです」
「その外国人女性が怪しいね」
「その薬本当に治療薬なのかな~?」
「怪しい薬? でも本当に治ってるし」
「その薬くれた人なら腕のこと知ってんじゃね?」
「あー、それはあるかも」
「あの、その腕カッコイイです」
「不思議と怖くないよね」
「恭平だからだね」
「わ、私もカッコイイと思います!」
「なんかヒーローみたいじゃね」
「アニメにいたわ~、そういうキャラ」
女が一斉に話すと誰が何を言っているのかわからなくなる。
それでもこの化け物のような腕を怖がらないのはありがたい。
俺の腕を撫でたり握ったりして、わあわあ、きゃいきゃいと話す女性らは放っておく。
おそらく、この腕の原因になったのはマキシーンの薬だろう。
ゾンビを治す薬ではなく、別の生き物に変化させるウイルスだったのではないか?
そのウイルスがゾンビウイルスを押さえこむのに要する時間が四ヶ月だったのか?
そして目覚めたことから俺の中のウイルスも活発化し、だんだんと化け物に変化しているということか。
マキシーン、いったい何者なんだ。
何故あの薬を所持していた?
そういえば奈津実たちを助けたのも謎の女性だった。
もしや、マキシ-ンがそうなのか?
顔を隠せば外国人だとはわからない。
可能性は充分にある。
薬のことを問いただすべきだ。
今、どこにいるんだ?
……美香いわく友人を一人で助けに行ったらしいが。
その友人はどこに?
最初に会ったときのことを思い出せ。
たしか自衛隊に助けを求めていなかったか?
断られたから俺と美香に協力を求めてきた。
自衛隊駐屯地に行けばマキシーンの友人の居場所がわかるか?
「ねえ聞いてる、恭平?」
「ん、ああ、悪い。なんだって?」
「その薬をくれた人を探したほうが良いって話してたの。居場所はわからないの?」
「今どこにいるかはわからないな。わかっているのは友人を助けに行ったことと、その友人を助けるために自衛隊に協力を求めたことだな」
「じゃあ決まりだね。恭平は駐屯地に行って。その薬をくれた人を探さないと」
腕が変異したのは薬の効果が効かなくなってきたからか、それとも効いてきたからなのか。
このままじゃ全身がこの腕のような化け物になってしまうかもしれない。
マキシーンを探すことに異論はないが。
「ここのことは気にしなくて良いよ。私たちでなんとか守るから」
「そうですね、恭平さんは行ってください」
「わかった。それなら皆に任せた。俺がいなくなるとゾンビが来るかもしれないから、戸締りだけはしっかりしといてくれ」
地下の穴も塞いでおいたほうが良いだろうな。
「よし、じゃあ話終わり。もう遅いから寝ましょう。恭平はお風呂入ると良いよ。だいぶ汚れてるから」
「ああ、そうだな。そうするよ。それじゃあ皆、おやすみ」
避難をしてきて日が浅い奈津実たちも癒えきっていない体でよく頑張ってくれた。
眠そうにしているのが何人かいるし、もう寝たほうが良いだろう。
着替えを持ち風呂へと向かう。
風呂も浴槽が何個か並んでいるが、今後のことを考えたら別のところに俺用の風呂を作ったほうが良いのだろうか。
以前ここを使っていたコミュニティでは、男女で時間を決めていたらしいから俺だけ時間をずらせば済む話か。
服を脱ぎ全裸になる。
姿見があったので左腕をよく観察する。
大きさや形が変異しているのは肩から先だが、白い毛は左半身の脇腹や胸にも少し生えていた。
これが全身に広がったら俺は正真正銘の化け物へと変わってしまうのだろう。
背筋に寒気が走る。
寒気を払うために熱い湯の張られた浴槽へと身を沈めた。
化け物の腕を観察をする。
濡れた左腕は、少しだけ細く見えた。
ボリュームのある毛のせいで太く見えていたようだ。
指の一本一本が太く長くなっており、爪は鋭く尖っている。
その手で右腕を握って力を入れてみると、かなりの痛みを感じた。
力も以前の二倍以上はありそうだ。
この腕を見ていると、ああ俺は化け物になったのだ、と実感できた。
体を洗おうと浴槽から出る。
風呂の湯は汚れてしまっていたので一度抜き、軽く浴槽を洗ってから新しい湯を張る。
その間に体を洗ってしまう。
腕が長くなったので、背中が洗いやすくなったことに少しだけ感動した。
左腕も洗おうとしたが、アカスリタオルじゃ泡が立たなかったのでボディーソープを追加してかけて手で泡立てていく。
洗えば洗うほど泡が立つのが面白い。
面白いが、泡を洗い流すのにめちゃくちゃ時間がかかったので体がすっかり冷えてしまった。
手早く髪を洗い、泡を流して浴槽へ戻る。
温かい風呂に浸かっていると、疲れが溶け出ていくようで、心地よい。
まどろんでいると、誰かの足音が聞こえた。
「おーい。問題ないー?」
「ああ、大丈夫だ」
仕切りの外から鈴鹿が声をかけてきたので返す。
いつもなら俺があがるまで誰も来ないのに、珍しいことだ。
そんなに心配してくれているのか。
ありがたいことだ、と思っていると、鈴鹿が仕切りの壁からヒョコッと顔を覗かせた。
「うんうん。大丈夫そうだね。じゃ、お邪魔しまーす」
「はぁ!? ちょ、ばか、お前、なんで裸なんだよ!!」
「え? お風呂入るからだけど」
「今俺が入ってんの! 出ろ!」
「嫌だよー。寒いから入るし」
「あ、ちょ、おい! じゃあ俺出るから!」
「良いってそのままで。ふいー。良い湯だねえ」
鈴鹿が浴槽に入ると、量の増えた湯がこぼれていく。
柔らかい体が足の先に触れ、思わず伸ばしていた足をたたみ体育座りをしてしまう。
そこまで広くない浴槽で、俺と鈴鹿はお互い体育座りをして向き合っていた。
自然と俺の視線が下がっていくので、慌てて横を向く。
視界の端に鈴鹿の裸があるのがわかるので、意識がそこへ集中してしまう。
本能が勝手に鈴鹿を見ようとしてしまうので、目を瞑る。
パチャリと音がして、鈴鹿が近寄ってきたのがわかった。
左腕に触れられ、ビクリと体を撥ねさせてしまった。
「不思議だね、これ。痛くないの?」
「あ、ああ。痛くない」
鈴鹿が俺の左腕を握ったり撫でたりとしてくる。
「感触はあるの?」
「ああ、ある」
「じゃあ、これわかる?」
「ば、ばかやろう! なにしてんだよ!」
「あはは、なに照れてんの?」
手の平に柔らかな感触がしたので慌てて腕を引っ込める。
くそ、落ち着け、落ち着くんだ。
大きな水音がした。
鈴鹿が立ち上がったのか?
芳しい匂いが漂い、頭がクラクラしてくる。
「あはっ。そんなになってるってことは、そういう気分ってことだよね? やろうよ」
「ち、違う。これは疲れたとか死にそうだったとかいろいろあったからで……」
「ねえ、細かいことは良いって。我慢しなくて良いんだよ? ここには私たちしかいないんだから」
「それでも、俺には……。俺には、俺は、風呂ではしないんだよ」
「あ、恭平」
苦し紛れの嘘をつき、浴槽を飛び出て脱衣場へ行く。
風呂どころか家中どこでもしてたというのに……。
頭を振り思考を
鈴鹿の「いくじなし」という声を背中に浴びながらタオルで体を拭いていく。
早々にここを離れてしまいたかったが、毛に含んだ水の量が思いのほか多く、時間がかかってしまった。
既にバスタオル六枚目だ。
大型犬を風呂に入れる作業は大変なんだろうなあ、などと思いながらびしょ濡れの左腕を拭いていると、鈴鹿が風呂から出てきてしまった。
「あれ? まだいたの?」
「ちょ、おま、早く服を着てくれよ」
「ああ、うん。着るって。もう迫らないから安心してよ。恭平の
「……ああ、すまん」
鈴鹿が服を着る音を背中で聞きつつ、そういえば自分もタオルを腰に巻いただけだったと着替える。
下にジャージを履き、Tシャツを着ようとしたが左の肩から先がびしょ濡れなのでやめた。
「それよりどうかしたの? まごまごして」
「ああ、毛がな……」
着替えを終えて髪を拭いている鈴鹿にそう答える。
タオルでずっと拭いてはいるが、未だに湿っている。
「あ、そっか。乾きにくいもんね。手伝ってあげるよ」
「すまん、助かる」
鈴鹿がドライヤーを二つ持ってきてくれたおかげで、俺の左腕の毛をなんとか乾かせることができた。
毛の長さは三センチほど。
ドライヤーで乾かしたおかげかフワフワとしている。
なんだか誇らしい気分になった。
「犬の毛みたいだね。中に柔らかい毛が生えているし。なんだっけ、ダブルコートって言うの?」
「いや、わからないな。犬は皆こうなんじゃないのか?」
「どうなんだろうね? 犬飼ったことないから知らないや」
「まあ犬の毛質なんかどうでも良いだろ」
「そうだねー。恭平、そのうち尻尾とか耳とか生えてくるのかな?」
「どうだろうな。つうか耳が生えたら四つになっちまうぞ?」
「それもそうか。じゃあ耳毛とか生えてとんがるんじゃない?」
「不気味だな……」
鈴鹿と他愛もない話をしながら、八階にあるベッドへと行く。
既に皆寝ているようで、たくさんの寝息が聞こえる。
自分のベッドに潜ると、すぐに眠気が襲ってきた。
「それじゃ、恭平、おやすみ」
「ああ、おやすみ……」
心地良い感覚に包まれながら、意識を手放した。
苦しさで目が覚める。
目を開けると至近距離に鈴鹿の寝顔があり驚く。
俺の左腕を抱きしめ、足で挟んで寝ている。
ふと、昨日の鈴鹿の裸を思い出してしまう。
くそ、朝だから元気だ。
裸は忘れろ。
このままじゃまずい。
今すぐ離れねば。
体の向きを変えようとすると、背中に何かが当たる。
首だけで振り返ると珠子が寝ていた。
こいつら……セミダブルのベッドで三人で寝たら狭いだろうが!
違う、落ち着け、そうじゃないだろ。
軽く混乱しているようだ。
これからもこのようなことを続けられたら、どうなってしまうかわからない。
真剣に対応を考えねばならない。
まあ、俺だけ違うところで寝れば済むわけだが。
しばらく体を動かせずにいると、二人が目覚めたのでようやくこの地獄から抜け出すことができた。
本当に、朝は勘弁して欲しい。
いろいろとまずいのだ。
朝食を終え、皆で今日のミーティングをする。
「とりあえずは昨日の熊を片付けたい。そのまんま燃やしても良かったんだが、シロたちが食いたいそうだから解体しようと思う」
「熊肉、美味しいんですかね?」
「ちょっとたまちゃん。私、人を食べた熊とか食べたくないんだけど」
「う、そうでした……」
俺もそれをシロへと伝えた。
仲間を食った熊だがそれでも食うのか、と。
シロは、食べることで我らが繁栄すればそれが弔いになる、と良くわからない理論で述べてきた。
まあ、良いなら良いんだけど、とその話は終わったが。
シロたちが食うにしろ持って行くにしろ、小さくしたほうが良いだろう。
六メートルを超える巨体の熊を唯一ケガのないシロ一頭で運べるはずがない。
「えー、解体方法とかは良くわからないから手探りでやろうと思っているんだが……。ん? なんだ?」
俺が話している途中で、おずおずといった様子で手を上げる女性がいた。
名前はたしか……。なんだったか……。
ああ、そうだ。
間違っていないと良いが。
「どうした、直美?」
「は、はい。えーとですね……」
良かった。名前はあっていたようだ。
「あ、あの、私、実は狩猟免許持っていましてですね……。熊はやったことはありませんが鹿と猪はあります……。一応、熊も勉強したのでできると思うのですが……」
「えー! 凄いねー!」
「カッコイイです」
「一時期流行ってたよねー、狩猟系女子。見るのは初だけど」
「尊敬しちゃいます」
「は、はは、恐縮です……」
「凄いじゃないか。じゃあ熊の解体は直美が指示をしてくれ。俺も手伝うから」
各自が仕事に取り掛かり、俺も直美の手伝いを開始した。
包丁は大量にあるので大きいものや重いものも持ってきた。
熊の解体が始まった。
俺は、気軽に手伝うと言った自分を殴ってやりたい気持ちになった。
「違います! もっと丁寧に! ああ! また破けちゃってる!」
「すみません……」
毛皮を剥ぐ作業だけで、既に疲労困憊だった。
熊が大きすぎるのもあったが、直美が思いのほかスパルタだったのだ。
そして、解体作業はかなりショックの連続だった。
肉をいただくということは、命をいただくということなんだなあ、と達観した気持ちになった。
「よし! これで終わりです。あ、あの、恭平さん、お疲れ様でした……」
「はは。お疲れさまでした」
乾いた変な笑いが出てしまった。
遠くの方では、犬の遺骸を集めて火葬をしていた。
俺と直美以外の全員とシロで、犬たちの遺骸を集めてきたらしい。
燃える火を座ったままジッと見るシロは何を考えているのだろう。
何個ものバケツに入った熊の胃腸を持ち、その火へと投げ入れた。
さすがにシロも自分の仲間の血肉が入った胃腸は食いたくないだろう。
一晩経つとクロも歩ける程度にはなっていたので、シロたちが出発をすることになった。
熊の毛皮に肉や内臓などを包んでシロに持たせてやる。
きなこは珠子に抱かれたままで、特に何も思うところはなさそうだった。
なんともあっけなくシロたちは行ってしまった。
名残惜しいと思うのは人間だけなのだろうか?
きなこは女性たちをすっかりとメロメロにしてしまったようだ。
昼食後の自由時間、珠子がきなこへ芸を仕込んでいるのを見かけた。
「きなちゃん、お手!」」
「アン!」 (はい!)
「良い子だね~。きなちゃん、おかわり!」
「アン!」 (はい!)
「賢いね~。じゃあきなちゃん……伏せ!」
「アン!」 (はい!)
「わあ~、良い子良い子。ほら食べて良いよ~」
「アウン」 (できたでしょー)
「そんなドヤ顔してないで食べて良いんだよ~」
「クウ? アン!」 (たべる? あ、おいしいやつたべる)
他の女性たちにもきなこは可愛がられている。
この調子で彼女たちの心を癒してあげてほしいものだ。
アニマルセラピーなる言葉を聞いたことがあるが、こういうことなのだろう。
その日の晩、皆へと明日の朝に自衛隊駐屯地へ向かうことを告げた。
熊の骨や血が外には置かれているから、それがゾンビ避けになってくれるかもしれない。
そもそもゾンビは俺が触れたものでさえ嫌がって逃げていくのだから、百貨店周辺に現れることもなさそうだ。
そう伝えると、皆ホッとしたような顔になった。
朝、駐屯地に行く準備をする。
左腕は包帯で巻いて見えなくしておいた。
太くなった腕が通らないので、長袖の左腕部分を切り取ってから着た。
そのままじゃ寒いので、コートの右腕だけを通し、左肩に羽織るようにして着る。
こうすると左腕も見えなくなるので一石二鳥だ。
「それじゃあ、皆、行ってくる。いろいろと気をつけてくれ。鈴鹿、頼んだぞ」
「うん、任せて。行ってらっしゃい」
『行ってらっしゃい』
皆の声に送られ、百貨店を出る。
まずは駐屯地でマキシーンの友人の居場所を聞き、それからそこへ向かわないといけない。
かなり時間はかかるかもしれないが、それでもやるしかないのだ。
駐屯地でマキシーンの行く先がわからなければそこでゲームセットだが。
どうか情報を知る者が居てくれよ、と半ば祈るような気持ちで歩き出した。