アメイジング・ナデシコ   作:我楽娯兵

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悪戯

「嬉しいですわ。ようやく竜人様と二人っきりになれました!」

 

「……死にてぇ」

 

 竜人が連れ添う女性は、嫌厭している女性であった。

 藤原薫──同級生で同じクラスメイトだが、なんの為しか迷妄に憑りつかれて竜人を『運命の人』と勘違いした哀れな女だ。

 竜人とて女に興味がない、バイセクシャルなどと言った事はなく、正常な健康男児だが、毛色がこの女とは合わない。

 妖狐の勘というのか。この女は狩人の類だ。

 手段を問わずじわじわと退路を断ってくる類の女で、それが狩りではなく恋の駆け引きならその手段は苛烈なものになる。

 恋は患い、即ち精神疾患だ。そう考える竜人はその恐ろしさを身をもって知っている。

 恋愛は人を盲信させる病であり、自分自身を思いもよらない行動に突き動かす。

 鬱なんて比ではない。唐突にくる熱病である。

 それに中てられた薫に連れ添うなど、ある意味では自殺行為だった。

 

「どこか見たいところはありませんか。竜人様?」

 

「そうだな……誰もいない光景が見たい……」

 

 自暴自棄にもう誰とも会いたくない程気分が落ち込んでいた。

 薫が途轍もない醜女という訳ではない。むしろ誰もが日本男児ならば一度は夢見る美女のそれと合致している。

 黒髪の美しく淑やか、体格もよろしいと来た美少女。となれば恋仲となれるのは誰もが嬉しがるだろうが、竜人は招かれざる恋人である。

 恋など不要、そう自分に言い聞かせて竜人は今の状況を必死になって耐えるしかない。

 

「つれない態度も唆られますわ竜人様」

 

 竜人の籠手に指先で突く薫の仕草。まあ、気のあるモノならいちころだろうが、竜人はその気がない。

 一方的な押し問答だ。はぁ、とため息を付いて石槌と離れた事を悔いるばかりだ。

 

「竜人様! あそこを見て行きませんこと?」

 

「……好きにしてくれ」

 

 俺は仕方なしに彼女に手を引かれてテントの一つに入った。

 ツンと鼻を刺激するスパイシーな香りが鼻腔を刺激した。魔法薬の素材を取り扱った店であった。

 ホワイトセージやら、狒々の涎、偽火の幼草など惚れ薬に使えば効能の凄まじい物が大量に使われている。

 やはりここもヴァルプルギスの例に洩れず、『惚れ薬屋』だ。

 薫は何やら素材を探しているようで店主に何やらないかと相談して竜人をチラリとて蛇の如き視線を向けてくるではないか、ゾクッと背筋に悪寒が走った。

 

「最悪だ……」

 

 薫の得意科目は魔法薬学。竜人に続く成績で綾瀬すら抜いて二席の座についている。

 彼女の手に掛れば惚れ薬などお茶の子さいさいだろう。きっとここに訪れたのも竜人を自らに惚れさせる薬の素材を調達しに来たのだ。

 自らの首を真綿で絞めるような気分だ。ここにいるという事は自ら薫の手製の惚れ薬を呑むのと同じである。

 せめてどうにかして惚れ薬の解毒薬を作らなければ、そう思い必死になって解毒に使われる材料を探して回った。それこそ必死になってだ。

 

「ベゾアール石は要るな……。ユニコーンの蹄も……」

 

 血眼になって解毒に使われる材料をかき集めているとき、ベゾアール石を入れた箱を見つけてそれを買おうとしたらそれを箱ごと持っていく者がいた。

 

「ぬっあ!」

 

「ん?」

 

 不思議そうにベゾアール石を入れた箱を者が竜人に振り返った。

 大層顔色の悪い青年だった。黒髪の青年は不思議そうに竜人を睨みつけて、そして意地悪そうに少しだけ笑った。

 

「それを少し分けてくれ……」

 

 同年代に頭を下げてるなんて柄でもないが竜人は頭を下げていた。

 本当に柄でもない。竜人はこれまでに味わった事のないほどの苦汁をここ数日で舐めることなく鯨飲しているだろう。

 これ以上苦い思いをするほど心は広くない竜人は会釈とも取れる頭のさげ方でその者に頼み込んだ。

 

「頼む、どうしても必要なんだ」

 

「僕も先生に買い出しにこれを頼まれてるんだ。済まない」

 

 そう言って断られそうになった時、竜人は悲痛な顔を浮かべて顔を上げた瞬間、かの者が少し首を捻ってよくよく竜人の顔を覗いてくるではないか。

 どこかで見た事あると言わんばかりの表情で竜人の顔を覗くその者が少しだけ嬉しそうな顔になった。

 

「君か。ポッターとやり合っていたのは」

 

「ん? 何の事だ」

 

「スカッとしたよ。いや悪いね。こっちの話だ」

 

 そういう彼は握手を求めて手を出してきた。

 

「僕はあいつが憎いんだ。それを代わりに果たしてくれたこと嬉しく思うよ」

 

「なんだか知らねえが……あぁ」

 

 握手を素直に受け入れた竜人、その者の握手の手の中に違和感を感じて手を見れば大粒のベゾアール石があった。

 

「欲しいんだろ。これ位しか渡せないが、お礼だ」

 

「済まねえ恩に着る! っと、名前はなんていうんだ? あとで困るだろ」

 

「僕はセブルス・スネイプ。ホグワーツのスリザリン生だ」

 

 ホグワーツはイギリス魔法学校で、魔法処と違い寮制で組み分けられると聞き及んだことがあった。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンと創設者の名を取り四組で生徒は分けられるそうでスネイプはそのスリザリンの寮生だった。

 嬉しきかな、これも何かの縁だ。この縁を大切にせねばと彼を菩薩か何かのように拝んだ竜人は、しっかりとベゾアール石を握り込んで今度は会釈とは取られない頭の下げ方をした。

 

「ベゾアール石を何に使うんだい?」

 

 そう聞いてくるスネイプに竜人は薫に聞こえないように耳打ちした。

 

「あそこの女居るだろ? 十二単の。アイツに言い寄られて敵わないんだ。惚れ薬ぶち込んでくるからな、その解毒に」

 

「ならこれを使うと言い。解毒にはよく効くよ」

 

 スネイプは竜人の様子に見かねて別の材料を勧めてきた。

 竜人も見た事のない材料で少し困惑する。

 

「どう使うんだこれ?」

 

「これを炒って粉末にするんだ。それでカボチャジュースに混ぜると正気は保てる気付け薬になる」

 

「へー……それは知らなかった」

 

 竜人は彼の話に真摯に聞いた。彼の語り方、その態度は魔法薬学への造詣は相当なものと見て取れる。

 手広くやっている竜人とは違い一点突破となれば竜人の知識量を遥かに超えたモノになるのは当然で、セブルス・スネイプの魔法薬学の知識は竜人のそれとは遥かに超えたモノを誇っていると見えた。

 百聞は一見に如かず、見聞きして損となる知識は早々ない、真剣に聞くのが吉だ。

 様々な事を話し込んでいると、どこぞより寄ってくる少しふくよかな男性がいた。その者は見た覚えがあった。あの乱闘でマローダーズを止めに入ったホグワーツの教員だった。

 

「ああ、セブルス。買い出しは済んだかね?」

 

「すいません。スラグホーン教授。もうすぐ終わります」

 

 買い付けを頼まれていたのかスネイプは少し急いだ様子で会計を済ませて戻ってきた。

 

「君はいったい誰だね?」

 

「アンタんとこの馬鹿と殴り合った大馬鹿だよ」

 

 皮肉めいた言い方で返す竜人に見かねてスネイプが割って入った。

 

「彼は魔法処の生徒です。マローダーズと殴り合った子ですよ。名前は──」

 

「安部竜人。二年生だ」

 

「そうか。あまり乱暴事は私は好まないのだが、君の手際は大変素晴らしい。あの喧嘩も殴られてすらいない様子で」

 

 スラグホーンは竜人の体をべたべたと触り、殴られた跡がないかと探すが。あの程度の素人にパンチを貰うほど軟な訓練は六波羅局はしていない。それこそ血反吐を実際に吐くくらいの訓練で肉体凶器を実践している役所など六波羅局だけだろう。

 

「体格もよろしい。決闘の実力もよろしい、見た限り血統もよさそうだ。後は知識があれば良いのだが」

 

「当然あるに決まってますわ。何せ竜人様は私たち二年生の中でも抜きんでた麒麟児であるのです」

 

 見て回り終えたのか薫がスラグホーンに反論する。胸を張って己の事のように竜人を自慢するように言った。

 

「ほう? 二年生の中で一番かい?」

 

「そうですわ。竜人様は魔法処随一の知識人、そして当世一の陰陽師になり私の旦那様になる方なのですから」

 

 怖気もしないような恐ろしい発言をさらっとする薫に血の気が引いた竜人。この場でゲロを吐いて気絶でもできればいっその事楽になれるのだろうが、そんな間もなくスラグホーンが竜人に問題を出した。

 

「ならば、煙突飛行粉の原材料を聞こうかな」

 

「竜の火袋の乾燥粉とアッシュワインダーの卵の粉末、火焔石で燃やしたヨモギの灰。製造には魔法省の認可が必要だ」

 

 咄嗟に次いで答えてしまった。

 気絶しようにもそう器用に気絶失神できるほど鍛えられていない竜人の思考は余計な事でもしっかりと答える事が出来る脳味噌を持っている。

 そしてその答えが、貴重な魔法薬の原材料で本来各国魔法省の製造員のみが知る内容であっても無意識に即答できるだけの正気を未だに持っているのが悲しきかな。

 

「おお! なんとこれを知っているとは……恐れ入った」

 

「ん……? あ、……いけねぇ。今のは忘れてくれ……守秘義務があるんだ」

 

 薫に念押しするように竜人は言った。

 煙突飛行粉の製造管理は厳格だ。暖炉に体を入れて行く先を言うだけでどこへでも行ける物などと言う便利な物は大変危険だ。

 魔法省は立ち入り禁止区域に侵入されることやマグルの暖炉に飛ばないようにそのネットワークの管理、強いてはその製造その物を厳格化することでそう言った事故を未然に防いでいる。

 本来なら学生などが煙突飛行粉の原材料を知っているなどあり得ないが、そこは竜人のお役所の勤めの結果で、六波羅局はよく煙突飛行粉を利用して各地に飛んでいる。

 それ故に製造方法や原材料を知っていてもおかしくない。しかし、この場合は知っているのがおかしいかった。

 

「何故君がそれを知っているんだい?」

 

 スラグホーンが目を細めて聞いてきた。隠し立ては出来ない、そう判断する竜人は諦めたように言った。

 

「俺は日本魔法省の一部署の六波羅局員だ。お役所勤めだから知ってたんだ」

 

「なんと魔法省の職員でもあったのか!」

 

 スラグホーンは嬉しそうに竜人の肩を叩いた。

 我が慧眼に狂いなしといった様子で竜人の肩に手を回してくる。

 

「この歳で魔法省に勤めているとはなかなかの才覚。どうだね? このヴァルプルギスのどこかで私のサロンに来ないか」

 

「あんたが求めているような知的会話は俺にはできないぞ」

 

「ふふっ……日本人は謙虚と聞いていたが確かに。大丈夫だ。サロンと言ってもちょっとした食事会だ。どうだね? そちらのお嬢さんと一緒に来ては?」

 

 竜人はスラグホーンの勢いに気圧される。否が応でも竜人をそのサロンに誘いたいようでスラグホーンの手が振り解けずにいた。

 もうこの際だ、どうとでも成れと捨て鉢に竜人は返答した。

 

「分かりましたよ。少しだけ顔を覗かせるだけですよ」

 

「嬉しい限りだ」

 

 にこやかに笑ったスラグホーンに対し、竜人は苦笑いだった。

 

 

 

 

 

「なんと、ホグワーツは渡り階段は動くのか!」

 

「そうですよ」

 

 私はリリーと共にヴァルプルギスを回ることに決めた。お飯事の恋人ごっこはもう飽き飽きしていた頃合だった。

 天敵セウはどこぞへ逐電して姿を現していない、故に安全になったと言っても過言ではない。

 竜人の方が全くその枠組みに入りきれていないのだが、自らどこぞへ行ったのだ。知った事ではない。

 自由意志と竜人を見捨てて私はこの祭りを楽しもうぞ。

 私はリリーと互いの学校の話で盛り上がり、その特色を言い合いながらヴァルプルギスの夜を巡っていた。

 特色と言っても学校だ、さして違いはないと思っていたが、国を跨げは人も違い、そして建物も変わってくる。ホグワーツは古城を学校として使っておるらしく、そこでは只人の作りし物は正常な動作をしなくなるそうな。

 そして何より魔法処と違うところと言えば、生徒の立ち入り禁止の場所があると言う事だろうか。

 魔法処は原則的に立ち入り禁止などと言うところは存在しない、皆が意識的に避けているか。そこに保管されているモノに原因がある場合が多いい。前者は去年の珊瑚の宮、後者は封印御所『天岩戸』がそれに当たる。

 私から言わしてしまえば生徒が使うのだから生徒が立ち入り出来ない施設など何のためにあるのかと言いたい。

 

「国も変われば、学校も変わるのう」

 

「魔法処はホグワーツみたいに寮制じゃないんですか?」

 

「実家から通う事が出来るが、私は下宿先に放逐された。野良犬荘という」

 

「下宿ですか。みんなとワイワイしてそうですね」

 

「そうでもないぞ。夜は息を殺して眠らねば、荘長の山姥に取って食われるのだ!」

 

 と言っても個室の扉には結界で山姥は入れない為に安全である。

 しかし私はリリーをワザと驚かす様に言って見せた。

 リリーはクスクスと鈴を転がすような可愛らしい笑い方で私の話を笑ってくれた。

 

「別の学校の事なんて聞く機会がないから楽しいです」

 

「そういう私もそうなのだ。特に寮によって競い合う制度はなかなか面白そうなのだ!」

 

 リリーはグリフィンドールという勇気や度胸、騎士道を重んじる者たちが多くいるそうだ。私も恐らくホグワーツに入学したのならそこになりそうな気がするが、人間とは隠し持った本性は自分自身でも分らぬもので人の目見られてようやく分かるものだ。

 その組み分けの儀式なるモノ受けて見たくあるとそう考えていると、ふととある集団が目に入った。

 その者たちは見知った、というよりも悪印象の強い者たちだった。

 

「……よし、ぶち込むぞ」

 

 意気揚々と手に持った何やら癇癪玉のような物を『ホロ衣カフェ』に投げ込もうと身を潜めていた。

 その者たち、即ち悪ガキ悪戯集団の『マローダーズ』だった。

 

「何個ぶち込む? 玉ねぎ爆弾はいくらでもあるぞ」

 

「いっそ全部投げ込んでしまえ。プロングス」

 

 そういう彼らに私とリリーは顔を見合わせた。

 私は呆れ顔、リリーはいつもの事と言わんように苦笑いを浮かべていた。

 キッと眉間に皺を寄せて私は胸を張ってズカズカとその者たち、マローダーズの背後に寄った。

 

「何をしておるのだ。主らは!」

 

「うわっ! びっくりさせるなよ──ってお前か」

 

 丸眼鏡の青年が手に持った癇癪玉をローブの背後に隠し全員がこちらを見た。

 

「今度は一人か? 仕返しに来たか」

 

「そうな訳なかろうが。何をしておるのかと聞いたのだ」

 

 私がそう言い、彼らはその反応に顔を見合わせた。

 敵わない事はもう重々承知したのだろう。争うよりもその手を取ることに決めたようだった。

 私の肩に手を回して彼らと同じ視線に座らされる。

 

「な、なんだ!」

 

「しっ、静かに。あれ見えるか……」

 

 ホロ衣カフェの布を少し捲った青年が指を差した。

 そこにいたのは団芝三とダンブルドアと呼ばれた男性が何やら真剣に話し込んでいるようだった。

 その様子に青年らは本当に悪い顔を浮かべて、しめしめと言った様子で笑った。

 

「あの二人の会話をこれでぶち壊してやろうぜ。これは手製の玉ねぎ爆弾っていうすげえ臭い匂いを炸裂させる癇癪玉だ」

 

 そういう丸眼鏡の青年は大量の玉ねぎ爆弾なる癇癪玉を私の手に握らせてくるではないか。

 炸裂していないがそれに匂いは強烈で、腐った玉ねぎの香りが持っているだけで香ってくるようであった。こんなものテントの中で炸裂させたらどんな騒ぎになることやら想像に難くない。

 

「悪戯は好きか?」

 

 丸眼鏡の青年が聞いてくる。

 私は答えた。

 

「程々には。人が傷つかぬような物なら大好きなのだ」

 

「なら十分だ。お前も俺達のマローダーズに入れてやるよ」

 

 今にも玉ねぎ爆弾を投げ込みかねない様子の青年らに私は名前を聞いた。

 

「主らの名前を私は知らん。素性の知れぬ輩の片棒を担ぎたくないのだ」

 

「そうだったな」

 

 丸眼鏡の青年が名乗った。

 

「俺はジェームズ。ジェームズ・ポッター。皆からはプロングスって呼ばれてる」

 

 隣の黒髪の青年と茶髪の青年が答えた。

 

「シリウス・ブラック。皆からはパッドフットだ」

 

「リーマス・ルーピンって言うんだ。皆からのあだ名はムーニーだ」

 

 私は二人と握手を交わした。そして最後に彼らの陰に隠れた小柄な青年が名乗った。

 

「ピーター・ペティグリュー。ワームテールって呼ばれている」

 

「そうか。私は石槌撫子。皆よろしく頼むのだ」

 

 昨日の敵は今日の友。事情変わればこの者たちは味方である。

 団芝三に悪戯とは何とも楽しそうだ。去年に散々なほど化かされて鬱憤が溜まっている。

 どうせ悪戯するならあの者たちを阿鼻叫喚の地獄に叩き込んでやることにしようではないか。

 私は玉ねぎ爆弾を付き返し、杖を抜いて地面に向かって魔法を放つ。

 

集まれ、ゴキブリ(コーリージェンティーズ・コックローチ)

 

 私が唱えた魔法に反応してかどこからともなく集まってきたゴキブリたちが豆腐大の四角形に固まっていくではないか。

 これは私が開発した悪戯道具の一つ。『ゴキブリ箱』だ。

 何とも麻薬的な輝きを放ち、その凶悪性と来たらあの仏頂面で勇名を馳せる竜人の口から悲鳴を引き出すことに成功した物質だ。一度こいつを放てば辺り一帯を黒いカーペットの如く染め上げ、体を這い登ってくるくらいの量のゴキブリの集合体だ。

 人間誰もが嫌いな昆虫だろう。私とて正直触りたくない禁忌の物質を製造してしまったと後悔しているは言ってはならないが、これで竜人から悲鳴を引き出せたのだ。十分有益さを持った物質であるがしかしながらその外見的嫌悪感は他の追随を許さない群を抜いたグロテスクさだ。

 

「こ、こっちの方が良いのではないか」

 

「なんて悪魔的なものを開発しやがる……天才か」

 

 ジェームズはそう言ってゴキブリ箱に手を伸ばそうとするが私は制止した。

 

「触れるでない。これが崩れたなら、ここらは地獄になる」

 

「正気じゃ考え付かないな」

 

「狂気の産物じゃないか」

 

 リーマスもシリウスも私の才能に恐ろしいといった様子で、頬を伝う汗を拭った。

 確かに私もこれを開発した時は正気を失っていたかもしれない。団芝三の再三なる化け術の冷やかし、竜人の憎まれ口に天狗としての矜持がボロボロになりその仕返しの為に血眼になって作り上げた物質だ。

 まさしく狂気の産物。私の矜持を保つために羅刹となった故に私の頭の中から生まれ出た最悪の物体だ。

 

「そんなチャチナものより。こいつをぶち込んでやった方がよっぽどだろう」

 

「良し。そっちにしよう……で。誰が投げ込む……」

 

 瞬間私は身を引いた。どうしても皆このようなものを触れることなかれと生きてきているのにそれを集めて固めるなど狂気の沙汰だ。その狂気に触れようなどどれほどの勇気か。

 

「グリフィンドールの者は勇者と聞き及んだのだ。頼んだぞ」

 

「逃げるな石槌!」

 

「製造責任の責務から逃げるな!」

 

「レディーファーストでしょここは」

 

 ジェームズ、シリウス、リーマスはこれに触れたくないようだ。当然だ。私だって触れたくない。

 しかし作ってしまったならいつ爆発してもおかしくない時限爆弾だ。さっさとほり込まなければこの場で爆発して私たちが地獄を見ることになる。

 そんな中静かにしていたピーターに皆の目線がいくではないか。

 顔で嫌だといった様子で首を振る青年にその任を投げて渡そうとした時だった。

 

「何やら面白そうなことをしておるなぁ」

 

 私たちがまごまごしているのを感じ取ったのか、ホロ衣カフェより団芝三とダンブルドアが私たちの前に出て来たではないか。

 私たちは彼らを見上げて、苦笑いである。

 

「元気があることは大変よろしい。そうだな、ダンブルドア教授」

 

「そうだな。団芝三教授」

 

 カカカっと笑った団芝三が提案する。

 

「そこまで元気があるなら。私の化け術を馳走してやろう。主らだけでは可哀想だ。魔法処のみならずホグワーツも巻き込もうぞ」

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