アメイジング・ナデシコ   作:我楽娯兵

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悪魔の作品

「探したよ! マイ・フェア・レディ!」

 

 セウが意気揚々と再登場してくるが私たち、綾瀬、リリー、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターと皆がそのハイテンションについていけれる程に元気を有していなかった。

 それもその筈で、団芝三とダンブルドアの開催した化かし大会で皆が疲弊しきっていた。

 私たちはまだ歩けるほどの症状だが、他の魔法処生徒、ホグワーツ生徒は急性心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が現れたので癒者テントに担ぎ込まれヴァルプルギス運営員会は大騒ぎとなっていた。

 その原因の団芝三とダンブルドアの大化かし大会の弊害で、歳を数えて齢一五〇歳にもなろう老狸が年甲斐もなくはしゃぎ上げた挙句に生徒たちはその心象に多大なるトラウマを植え付け、幸福感の欠如、パニック、建設的な未来像の喪失など被害を起こしたために、校長二人は大人げなく彼らより歳を重ねた者たちに大目玉を食らっていた。

 散々怒られればいい。あの者たちは第一はしゃぎ過ぎなのだ。

 私たちも生徒たちの例に洩れず、強大な虚無感と無気力感に支配されホロ衣カフェのテーブルで頭を抱えていた。

 

「どうしたんだい! マイ・フェア・レディ! 君に悲しみの顔は似合わない!」

 

 セウの感情は衰え知らずで私に対する熱病も未だに衰えていない様子だった。

 嗚呼、いずこかに消え失せたあの楽しき夜よまた舞い戻らんこと願い給う、私は楽しみに飢えている故に。

 

「元気な主が羨ましいのだ」

 

 私は机に突っ伏して言った。

 セウの居姿は『元気』と例えるに正しい姿であった。珍妙な衣服と言い、ラテン・アメリカの血筋は疲れ知らずと見える。

 懐広く、男は女の尻を愛で、顔よりも尻で女子の魅力を計るが伯剌西爾付近の男性の趣向と言うが、私と来たら乳はなく、尻も張りの如く薄いではないか。このような女子に何を求めてか言い寄るセウに不思議と興味が湧いた。

 

「主は私に何故付きまとうのだ……」

 

「何故って、君の血の香りに引かれてだもの!」

 

 胸を張るセウの伊達男ぶりと来たら何とも鬱陶しく白々しい。その居姿もそのうさん臭さに拍車をかける原因だ。

 しかしながら珍妙な事を地で征く男だ。私の血の香りとな。

 私の隣に座ったセウはバーテンダーに注文をした。

 

「新鮮な血液は願います! 採りたて三日の者があったら嬉しいな!」

 

 そういいセウに私たちは驚いた表情で見た。

 お品書きにも珍妙な物が多々あることは知っていたが、それの一つ人血を頼む者がいるとはといった心境で私たちは奇怪な存在が現れたと思い、セウを見た。

 セウはその顔に少しだけ不思議そうな表情を浮かべ次には笑顔に変わった。

 

「珍しいだろう! 僕は吸血鬼なんだよ! ブラジルの吸血鬼一家、ロビショメンの次男坊とは僕の事さ!」

 

 奇妙な姿勢でそう宣言しするセウ。ああなるほどと皆が納得したが私ばかりはよく分からなかった。

 

「きゅうけつき?」

 

 吸血鬼──人血を啜るまか珍しい魔法族の変種だ。

 魔法族と呼ばれる種、常人にも種類があり、通常種、亜種、変種の三分類だ。

 その者たちは『ヒトたる存在』と呼ばれ、魔法を繰る者たちを通常の者とするなら、予言を行い、動物と会話をし、生後に人の姿を変化させる事の出来る者が亜種とされる。

 私、石槌撫子の天狗は亜種の中でも希少種とされる『高貴なる青の血筋(ブルー・ブラッド)』と区別されている。

 そしてその他の『変種』とされる区分で鬼婆(バーバヤーガ)巨人(ジャイアント)小鬼(ゴブリン)狼人間(ウェアウルフ)の区分の中で『吸血鬼(ドラキュラー)』が存在する。

 吸血鬼は人として生を成しているが、特徴として鏡に映らず、日光を嫌う性質があり最たる特徴は人血を呑むと言うものだ。

 ニュートン・アルテミス・フィド・"ニュート"・スキャマンダー著『幻の動物とその生息地』の中で、この世は三つの生物で分けられているそうだ。

『動物』、『霊魂』、『存在』の三つだ。人は『存在』に相当し、ヒトたる存在の区分で、人とされる存在は、理性を有して法を理解でき、地に足を付け、産まれた時の形状が人型であると言う事が明確に区分されている。

 そして吸血鬼は生まれ出た時より人の姿で、地に足を付けているとされ、自らの血族を増やす方法として吸血鬼同士の交尾と他のヒトたる存在へ直接的な吸血行為でその数を増やすと言われている。

 しかしながら世界魔法省連盟によって吸血鬼の吸血行為は原則禁止とされる御触れが発令されて以降、罰則対象になっている筈だ。

 となれば、セウは純正の吸血鬼と言う事になろう。

 よくよくその歯を見れば八重歯がやけに鋭利に突起しているが分かった。

 爽やかな笑顔の中にある凶暴な本性、今迄言い寄ってきた意味が分かった。

 

 ──君の血の香りに引かれてだもの! ──

 

 要は私の血を吸わせてくれという大変誤解を招く口説き文句であったのだ。

 吸血鬼の無差別な吸血行為は禁止されているが、役所に吸血届と言う書類を提出、要するに婚姻届なのだが、それを提出すれば吸血鬼は初めてその吸血行為を魔法界で許される。

 バーテンダーが運んできた血液入りのタンブラーに口を付けた、セウは喉を鳴らして血を呑むではないか。

 あまりにも美味しそうにそれを呑む姿に私たちも喉が渇いてきた。

 ゴクッと喉を鳴らして私たちはその姿を見ていた。

 とろけたような艶やかな顔でうっとりとタンブラーに付着する血液をテーブルの上のカンテラに翳して望むセウの姿は不思議と色っぽく見えた。

 瞳の瞳孔が炯々と赤く輝き、色っぽく唇に着いた血を舐め取るセウ。

 私に今にも接吻しそうなほど身を寄せてきて訊いてくる。

 

「マイ・フェア・レディ……君の血は本当に青色なのかい。ぜひとも僕に飲ましてくれないだろうか!」

 

「いぃ嫌なのだ」

 

 高等過ぎる口説き文句に私は身を引いて断わった。

 何故にこのような者に私の血を分け与えなければならないのだ。それに私がこの者に血を与えると言う事は結婚を受け入れると言う事であり、天狗でもあり吸血鬼でもある妙な存在となることになる。

 珍妙奇怪、人の血を啜る天狗など妖怪にも劣る存在だ。

 顔を近づけてくる血腥い呼気に私はセウを押しのけて、綾瀬を挟んで座り直した。

 

「連れないねマイ・フェア・レディ……。でも諦めないさ! 僕は君と共に久遠の時を生きると決めた。いやこれは最早運命だ!」

 

「そんな運命願い下げなのだ……」

 

 身重になるのはもう少し後でいい。吸血鬼は日を嫌う、お天道様を避けて生きるなど私は嫌なのだ。

 皆にカボチャジュースを振舞うセウの太っ腹の豪胆さに私たちは拍手で応じて甘ったるいそれをグイっと飲んだ。

 

「竜人様、竜人様!」

 

 この声は薫と見えた。竜人が幾人かを伴ってホロ衣カフェの幕を捲って入って、綾瀬がここに呼び寄せた。

 ゲッソリとこけた頬に溜息が漏れ続ける竜人にべったりな薫、そして大層怒られたのだろう、少し疲れた様子の団芝三とダンブルドアが到着した。

 

「まったく、なっておらんのう。江戸の頃ならばあの程度草書に書き記される偉業であろうに」

 

 団芝三は困った困ったとカカカッと笑って見せるが私たちはその様子にあからさまな陰険な視線を向けて応じる。

 何が江戸ならば伝説だ。人を化かすにもやりようがあろうに、あの化かし方は度を越している。

 ただでさえ並み化け術ではないのを重々この者は理解すべきだ。

 ダンブルドアもダンブルドアで、そのやんやん言ってこられた運営委員会に唇を尖らせて世間は厳しくなったと嘆いていた。

 

「数十年前ならば、あの程度でああも怒られなんだなあ」

 

「左様、化け術を披露する事、狸のそれ故に制御も出来ようものか」

 

 そのようなことを言っているから化け狸がいつまで経っても魔法省の存在認定から除外される原因となるのだ。

 化け狸は正確なところを言えば存在としての扱いを受けていない。

 理性知性はあるが堪え性がない。そのせいで法を介さない存在と認定され杖を持つことを許されないのだ。それを容認している三大化け狸たちであるのだから性根からそんな者たちなのだろう。

 

「学生たち仲睦まじい事大変よろしい。拳を交えた中でも我々が緩衝材と成れたこと誠に嬉しい限りよのう。ダンブルドア教授」

 

「うむ、まさしくその通りよ団芝三よ」

 

 二人は肩を組んでこれ嬉しき哉と言わんばかりにワイングラスを傾けて酒乱のそれの如く大爆笑だ。

 私たちはこの者二人に聞かれぬように肩を組んでひそひそ話だ。

 

「この者たちは凝り性のないのだ」

 

「当然だろ。ダンブルドア教授だぞ。怖いものなしだ」

 

「団芝三も頭の螺子が緩んでるからな。真面に取り合ってもけむに巻くのが目に見えてる」

 

「修正のしようがないと思う」

 

「右に同意」

 

「せめて人の子であってくれたなら……」

 

「諦めるしかないよ」

 

 散々のいいようであるがそれが的を射ているのだから仕方がない。

 この酒精に憑りつかれた老人共に付き合っていたらまた化かされるのも時間の問題と思え、その場を後にしようとみんなが身支度を整えてホロ衣カフェを出ようとした時だった。

 

「おお、そうだ。ご褒美を忘れておったわ!」

 

 ダンブルドアがそう言い。懐からとある小箱を取り出した。

 竜人を手招きして呼び寄せ、その小箱を手渡した。

 

「賢く使いなさい」

 

 そう言われ私たちは興味がてらその小箱の中身をまじまじと覗き込んだ。

 その箱から出てきたのは──。

 

「ペーパーナイフ?」

 

 小洒落た形の黒曜石のペーパーナイフだった。

 何だとジェームズ達はなんだペーパーナイフと言った様子であったが、よくよく私はそれを見ると妙な物を感じる。

 縁切りに長けているのだろう。何やら魔法が掛けられているような感覚が私の天狗の勘がそう囁く。

 月夜の月光にそれを翳して不思議そうにしている竜人。私もそれの不思議な魅力に魅入られているときだった。

 慌ただしく、黒衣の魔法使いたちがそこ退けそこ退けと言わんばかり焦ったように会場の外へと向かって行く。それに合わせて会場が不穏な騒めきに支配された。

 

「あれ、オーラ―じゃないか?」

 

「オーラ―?」

 

 ジェームズが聞き慣れない事を言うので私は不思議そうにすると綾瀬が説明してくれた。

 

「闇祓いの事だよ。日本じゃ『禍祓い』て言った方が通じるかな」

 

「ああ、役所の者どもなのか」

 

 しかし、その尋常ならざる剣呑な雰囲気たるや、何やら事件だろうか。

 ジェームズたちマローダーズ達が顔を見合わせ、いやらしい悪戯を思いついたのだろうか、意地汚い笑顔を浮かべた。

 

「ちょっと見に行かねえか?」

 

 そう提案する彼らに私たちは気乗りしなかった。

 触らぬ神に祟りなし、妙な事に首を突っ込んで厄介事を持ち込まれるのは大変嫌なのだが、しかしながら少しでも団芝三の化かしの後遺症から抜け出したいのも確かで、少しだけ興味が湧いた。

 私たち学生十人で祭の余興だと言わんばかりに楽し気に彼ら闇祓いに続いたが、それ続く事はまさしく『祟り』であった。

 

「どけ! どくんだ!」

 

 闇祓いたちの剣呑な声で人だかりを分け入ってその騒ぎ中央へと向かって行く。

 

「すごい人だかり、これじゃ何が起こってるか見えないね」

 

 リリーがそう言うが、私は何のそのだ。

 羽根を広げて、団扇を軽く仰いで風の力を借りて、空へと舞った。

 セウや竜人は自らの術で飛べるために私が綾瀬、リリーを担ぎ。竜人とセウがマローダーズと薫のグループで飛んでそれを望んだ。

 そして私たちは後悔した。

 私たち以外にも箒で飛んでそれを見ようとした野次馬たちが嘔吐いている。

 それもその筈で、その人だかりの中央には──死体があったのだから。

 

「なんだありゃぁ……」

 

 竜人が呟いた。

 その骸の状況を見ればまさしく疑問を持ちたくなる。

 まるで死体を飾り立てているかのように死体の周囲を花々が囲い、血の海に沈む骸は十字の形を取ってそれを囲うようにその骸の血で花々に赤い円が取り囲んでいるではないか。

 まるでケルト十字に酷似している中に骸が十字をなぞるように死んでいる。

 その骸は、あまりにもボロボロであまりにも赤く染まっている為にすぐには判別できなかったが、その衣服の形状からヴァルプルギスの運営に係る12人の選ばれた司祭の一人だった。

 血の海に沈んだ骸の口にはパセリの花が詰め込まれている。

 

「酷い……誰がこんなことを」

 

 リリーがそう言い今にも吐きそうだと言わん様子で口を押えた。

 確かに酷い。まるでこの者の死を、骸を弄んでこれを見せたいと言わんばかりの犯行現場に、私はそれが目に入った。

 それは骸の顔に綴られた焼印。犯人であろうものがの作品に名を刻むが如く書かれたその一文に私は怖気が上ってくる。

 

私はゾディアックだ(This is the Zodiac speaking)

 

 犯人の名前、その意味に混乱の中にその夜は終わりを告げた。

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