Sword Art Online -Project Salvation- 作:青き勇者
ザッカリアにある教会の鐘が正午を知らせる旋律を奏でる。半刻になると一度だけ打つ音とは違いメロディーがちゃんとある。その鐘の音と同時に花火のような物が小爆発するパンという乾いた音と観客の歓声、その三重奏に歓迎されて選手である僕たちはこの街最大のイベント、その主役たらんと足を会場へ踏み入れた。
東西に舞台があり、途中まで足並みをそろえていた二列は別れて各々の舞台へと進む。東組二十九名、西組二十八名が舞台に整然と並び終えると、南側の貴賓席に陣取るザッカリアの領主一族へ一礼する。
まずは現領主のケルガム・ザッカライトが少し長めの演説を行う。あれは統治者としてのカリスマ性は無いなと残念な視線を送っていると観客の拍手で開会式は終わり、大会の幕は上がった。
いきなり試合という訳ではなく予選の演目は型の演武だ。型というのは剣、足、手、それぞれの
この演武で八人まで減らされることとなるから、倍率だけで言えば後の試合よりも高い。演武を行う選手がクジの順番通りに呼ばれていく。
「一番、舞台へ」
「はい」
一番手、トップバッター、
舞台の真ん中に来ると一礼して息を一つ吐き剣の柄を握り集中する。観客席をちらりとでも見てしまえばそのプレッシャーに
剣を鞘から抜いて構える。一の型、二の型、三の型……。踏込を、
型の練習をやりはじめた頃、それはそれは悲惨なものだった。なんせ我流の時期の方が剣を振っている時間は長かったので、癖が出て剣や足はブレブレで正確さや美しさなんて口に出すのも
アインクラッド流に関してはソードスキル自体にシステムアシストが存在するので癖が強かろうがとっかかりは掴みやすかったし、そこから癖を
でも、だからこそ、練習の成果が実ってユージオに大丈夫だと太鼓判を貰った時は嬉しかったし、絶対的な自信が付いた。だから、練習通りにすればいいんだ。ユージオの言葉を信じて、ユージオにそう言って貰えるだけの練習を積み重ねた自分の努力を信じればいい。
最後、十の型を演じ切ると静かに剣を鞘へ戻して一礼した。段々と自分と剣だけの世界から抜け出してくると遠い歓声が押し寄せる波の様に大きな音となって届く。やりきった僕は口許を緩めると舞台を後にした。
「お疲れ様!」
「うん」
舞台から降りると笑顔で出迎えてくれたユージオに抱きつきたい思いを堪えて、笑顔で頷くと自分の待機場所へ戻った。ユージオに話しかけたい思いはありありと有ったが、周囲の張り詰めた空気とユージオの集中を途切れさせたくなかったので、誰と話すでもなく静かに進行する予選を眺めていた。
しかし、退屈だ。みんな同じような感じでつまらない。型自体指定されているから同じになるのは仕方が無いと言えば仕方ないけど、それでも僕は型と型の繋ぎを
それに比べて他の参加者は型を演じるのにどこか機械的で面白さがない。そうだな、個性が欠如しているといえばいいのか、工場で量産された物みたいで代わり映えしない。
「十番」
「はい!」
緊張しているのかどこか上ずっているような声で番号が呼ばれたユージオは返事をした。「いつも通り、練習の時みたいにやればいいからな」と声援を小声で送る。聞こえてはいないだろうが、ユージオは舞台の中心で一礼した後に顔つきが変わった。いつもの顔だ。
ひたすら同じ動作を繰り返し、ひたすらに体へ叩き込んで覚えさせる。機械のような正確さをもって行われるユージオの演武はしかし、機械では到底生みだせない丁寧さを備えていた。僕の様に型を繋いだりはしないし、奇を
ただ丁寧に、足を踏み出し、体を使い、剣を振る。そのどこをカメラで切り取ったとしても一つの作品となるような洗練された美しさが現れる。これがユージオの真面目で努力家な性格によって生み出される、一つ一つを丁寧にやりきる演武。
僕の様に珍しいことをしたり難しく見えることをして人目を惹く
やはり凄い。片時も目を離すことはできないし、瞬きすら惜しいと思う。最後の型をやり終えたユージオは一礼の後に舞台を降りてきた。清々しい程にやりきったという顔をしているユージオにお疲れと声を掛ける。
ユージオの完璧で美しい演武に観客たちは多少盛り上がっていたが、それよりも待機席に座っている人や審査席に座っている人たちの方が明らかに一目置いていた。大体、待機席に座っている奴らの中でユージオの凄さを分からない奴は予選に出場するまでもなく落第だよ、落第。
ユージオが終わってから一人挟んでキリトの番となった。東ブロックの為に少し遠いが注視しているとキリトがこちらに親指を立てたので僕とユージオで返してやる。舞台の中央まで行く足取りに緊張している感じはしない。
間を置いて一の型に入ったキリトが十秒という一つの型に与えられた時間の五分の一しか使わずに演じると、風切り音がした後に剣風が届いたのか観客席から悲鳴が上がる。練習ではこんなことを一度もしてなかったのに、いきなり本番でなんてことをしているんだと呆れていると、二の型、三の型と続くにつれ悲鳴に歓喜の色が混じりはじめる。
全員同じような動きをしている中でキリトの様に分かり易いくらい迫力のある演武を見せられたらそりゃ観客も沸くという物だが、果たして観客の心を捉えるのと審査員の付ける点数とは全くの別物だということを分かっているのだろうか。
型の演武に個性は大してないというのが予選を見ていた中での感想だ。だが、例外は何にでもある物で、僕たち三人の剣には個性がちゃんと出ていた。だからこそ、観客はそこに輝く物を見出して歓声を上げるのだろう。
僕たちの剣に漢字を一文字当てるとするなら僕は『雅の剣』ユージオは『誠の剣』キリトはさしずめ『豪の剣』だろうか。もっとも、ユージオとキリトの剣はこの型だけでなく普段の剣術にもこの演武と同じような色が出ている。だが、僕の剣は演武用に
僕の普段の剣を表すなら『変の剣』だろうか。変態とか変化とか変則的とかそう言う感じで、とにかく戦っている最中でもよく変わってしまいやりにくいとキリトやユージオからは言われる。
何故そうなったのかは、やはり我流期間の影響が大きい。まだ我流だけなら良かったものの、キリトとの練習で
そして僕はどうやら戦いを楽しんでいる節があるようで、戦いの中でふと思いついたことや相手の長所を取り入れようとして変化し、相手にとってはやりにくいことこの上ない。ただ、この変化は相手の意表を突けることも有れば慣れないことをして隙を突かれることも有るので、一長一短だな。
……変態については言いたくないから割愛する。
思考している間にキリトは十の型を終え、それと同時に観客席はドッと沸いた。今日一番の大きな歓声に酔っているのかキリトは一礼すると観客席に手を振りながら舞台を降りていく。
さてはて、吉と出るか凶と出るか。ま、今までの流れが基本的に物語に沿っていることを踏まえるとこのシーンを僕が忘れているだけで、この通りだったのかもしれないから特段心配する必要は無いかもな。
僕が呑気に考えているとユージオは顔を青ざめさせてキリトの方へと駆け寄っていった。今頃ユージオは説教を垂れ、キリトがそれを
それからは特に面白いことが起きることもなく一時間ほど予選が続き、二時の鐘が鳴るころに終了した。舞台上へ開会式の時の様に全員が並び、本選出場者の名前を若い衛兵が呼んでいく。最初に僕の名前が呼ばれ、三人挟んでユージオの名前が呼ばれて次にキリトが呼ばれた。全員が無事に予選を通過したことに一先ずほっと胸を撫で下ろす。
四十一名もの参加者が肩を落として帰路に就き、残りの十六名は三十分の休憩を待機所で過ごしていた。
「本当によかったよ……キリトの名前が呼ばれた時は気が抜けて倒れそうだったよ」
「大げさだな。俺はいけると思ってたぜ」
「まあ、僕は何だかんだ行けるだろうとは思ってたけどね」
ユージオはキリトのせいでかなり気疲れしたのか長い溜め息を吐いていた。これから本戦だと言うのに無駄にユージオを疲れさせたキリトは根拠なき自身で溢れている。
これからトーナメント表が張り出されて一戦目の対戦相手を知ることとなるだろうが、決勝戦の相手だけは既に決まっている。もちろんユージオだ。今頃僕のシナリオを実現するべく監視者であり協力者でもある彼女がトーナメント表作成の現場で
午後二時半の鐘が鳴り、それを合図に楽団が勇壮な音楽を奏で始めると、待機所で座っていた僕たちはそれぞれの舞台へと歩き始める。観客の歓声と拍手が降り注ぐ中、予選前と同じように三人で拳を突き合わせて翻るとキリトに背を向け、ユージオと並んで歩き始める。
舞台上に並ぶと衛兵が巨大な常用紙の張られた立て板を審査員用天幕の隣に運び出した。そこにはトーナメント表が記され、第一回戦の組み合わせが載っていた。僕は一戦目、ユージオは三戦目だ。仕事をきっちりとやり遂げてくれたシャーロットに感謝しつつも、意識を試合に集中させる。
張り紙を見終え、第一回戦の一戦目に出場する人以外は舞台から降りて待機所へと戻る。その際にユージオがこちらに親指を立ててくれたので気分は上々だ。
さて、張り切って望んだ一戦目。結果から言うと呆気ない程に僕が圧勝して終わった。他の流派なんてガン無視の僕が相手の初撃を弾き首に剣を当てて終了した。その時相手が浮かべた呆然とした表情にかわいそうだと思い、次いで手応えが余りにもなかったことで複雑な表情を浮かべることしか出来なかった。
二戦目はなるほどこれが本来の試合なのかと頷きながら見ていた。いっそ稽古だと思うほどに形式ばった打ち合いで、欠伸が出るほど退屈でしかなかった。攻守が規則正しく入れ替わり先に体力が尽きた方の負けと言うなんとも見ごたえのない試合だ。
だから、三戦目でキリトが気を付けろと言っていた奴とキリトのソードスキル同士の激突で決着をつけた時は会場で割れんばかりの歓声が巻き起こった。その陰でユージオは何事もなく勝利していた。
そして、順調に試合は進み決勝戦。舞台上で僕に正対する相手は亜麻色の髪と、僅かな緊張や高揚に緑の瞳を揺らす同い年の少年。
前世で出逢って入れ込み、今世で五歳から共に過ごして今では恋人の関係。元気を与えた、愛を与えた、給料を貢いだりもした。そして、傷つけた。
ここでお別れなんてしない。いま君に向ける刃は傷つけるための物でも、縁を断ち切ってしまうための物でもない。君を、ユージオを死と言う結末から救って新たな物語を切り開くために振るう。
「試合開始!」
審判の声と同時に振り降ろされた手が降りきる瞬間に僕らはスキル発動のモーションを完成させ、十五メルもの距離を一瞬で詰めて剣を互いに叩きこむ。単発突進攻撃『ソニックリープ』だ。
スキルのぶつかり合いによって衝撃が会場に響き、根元近くで噛みあう剣は力が拮抗してビクともしない。息遣いが聞こえるほどの至近距離で視線を一瞬合わせると、お互いに一歩離れてすぐに攻撃の姿勢へと入る。
他の流派がしていた稽古のような試合ではなく、より実践に見えてより派手な試合。しかし、一見型破りに見えるこれも実際は何度も練習し、何度も調整した型でしかない。
「せぁああ!」
「やぁああ!」
スキルは発動させずに相手の弱点を正確に狙う一撃を次々と互いに繰り出し攻防一体の剣戟を繰り広げる。そこには形式なんて存在しない本当の命のやり取りが行われていると錯覚するほどの迫力を生み出し、会場を容赦なく飲み込んでいく。
ユージオの目は本気だ。本気で僕を切り伏せようと言う意志を持って剣を振るい、僕もユージオを殺すつもりで剣を振る。そこに生まれる空気は殺伐とし、相手を殺すために磨くはずなのに傷つけないようにするための技術が発達すると言うこの世界の矛盾した剣術を真っ向から否定していく。
首を狙って剣を振り降ろしてそれを防がれ、反撃とばかりに心臓を狙った鋭い突きをいなしてから攻撃に移ると、一瞬の拮抗が生まれる。剣から伝わる衝撃は、感情は確かに本気で切りに来ていることが分かるし、急所を狙う剣筋に迷いはない。しかし、ここまで本気で打ち合えるのも急所を迷いなく狙えるのも積み重ねた努力の上に成り立つ信頼関係があってこそだ。
何合うち合ったのか分からないと、これが命を賭けた本当の闘いなら表現するだろう。だがこれは努力で築き上げてみせた演技であるから、僕が横に剣を薙ぎ払ってユージオが距離を取り、僕も数歩後ろに下がって仕切り直すここまでで、十一合うち合っていると把握している。
「しめと行こうか」
僕の言葉にユージオは剣を背に担ぐことで応えた。それに遅れて剣を担ぐようにして背に回すと初撃の再現をするべく集中を高めていく。
ユージオは今どんな心境で剣を振っているのだろうか。僕は今この瞬間が少し楽しいよ。最愛の人に剣を向ける状況がこういう平和な物であればいいと願っても、この先どうなるかは分からない。もしかしたら本気で命を賭けて剣を交えることになる日が来るかもしれない。でもね、ユージオ、この瞬間だけは凄く楽しくて君に勝ちたいとさえ思っている。
視線が中空で絡み合い、微かに目を細めたことを合図に攻撃へと移る。突進技である『ソニックリープ』は完璧に発動し、突進の勢いを乗せた剣がぶつかり合い火花を散らす。だが、本気で振るった剣は右腕に微かに走った痛みによって狂ったせいで僅かに鈍った。腕の痛みのせいか、それとも少しでも勝ちたいと思ってしまったがゆえか、ユージオの剣は半ばからぽきりと折れてしまう。
スローモーションのように技の勢いを乗せた僕たちはすれ違うようにして遠のいていく。視界には宙を舞うユージオの剣先と、僅かな驚きに彩られたユージオの顔を捉えていた。やがてそれは諦めに満ちた悲哀に彩られ、僕はさらに減速する世界の中で走馬灯のようにあの時のことを思い出す。
ダークテリトリーへと投げ出されそうになったユージオを引きとめた時、確かにあの時も今と同じように時間が遅くなった気がした。思考が加速しているからなのか、周囲の時間が減速しているからなのか……原因はどうでもいい。だが、この現象が起きる理由はきっとユージオとの別離が際まで迫った時の危険信号なんだ。
ここで諦めたら離れ離れになる。絶対に諦めたりしない。ユージオとの別れはまだまだ先なんだ。
振り抜いた僕の剣は半ばで折れて剣先を宙に躍らせ舞台に突き刺さった。
「りょ、両者、武器破壊により戦闘不能」
審判は折れてしまった僕たちの剣を見てそう判断を下した。予定通りと言えばいいのか、トラブルが起きて失敗しかけたから成功とは言えないのか、取り敢えずの目的は達成することができたので折れた剣を舞台上に放り投げてどさりと座り込んだ。
最後の最後でへまをやらかした僕は、天命が残り一桁くらいになっているであろう剣の腹を瞬時に殴って折った。なんとも安直で脳筋的な行動だったが、ソニックリープの勢いがついていたことで傍目からはよほど動体視力がよくない限り視認できないこと、普段から体術の鍛錬をしていたおかげで剣を殴る際も瞬きするくらいの速さでできたこと。これらが重なって上手く行ったのだろう。
体力が底を着きかけ、息を荒く吐いていると今まで静まり返っていた観客席が一気に噴き出した。鼓膜が破れそうなほどの熱狂ぶりに驚いて顔を上げると、それはそれは盛大な称賛が僕たちへと送られていた。よく聞き取れないが、きっとブラボーとかアメイジング的なことを言っているに違いないと脳内で補完していると、ユージオが立ち上がったので僕も立ち上がって歩み寄る。そして、一礼の後に握手をすると健闘を称えてなのか、まだ大きくなる余力があったのかと呆れるほどに歓声が膨れ上がった。
正面のユージオが苦笑するのにつられて僕も口角を僅かばかりあげると左に振り向いた。
さあ、ここからが正念場だ。ざわつく審査員たちを言いくるめて僕とユージオを優勝者にして貰わなければならない。その切っ掛けとして戸惑う審判に声を掛ける。
「あの……引き分けの場合どうなりますか?」
「し、少々、お待ちを!」
僕の言葉に慌てて審査員用天幕に駆け込む審判の後を追って、ユージオと一緒に歩いていく。どうやら審判の「どうしましょう……」という至極純粋な質問を発端として喧々諤々の議論が巻き起こっている様だった。
どうして引き分けにしたのか、それは大会規則に穴があるからだ。
大会規則の一部にはこう書かれている。「決着の規定。決着とは試合に於ける勝敗がついた場合及び試合が続行不能であると判断された場合のことを指す」「優勝者は決勝戦に於いて決着がついた場合に勝者より決定する」。このルールの抜け穴は人数が明記されていないことだ。だから、少々強引な解釈をした場合この抜け穴を活かせることとなる。
決着に関しては続行不能であると判断されれば勝敗がつかずとも、引き分けでも問題ないと解釈できる。そして、優勝者は決着がついた場合に勝者から選ばれる……つまり決勝戦で決着をつけてしまえばその時点で勝者が生まれる訳だが、引き分けの場合双方を勝者とすることができる。
なんせ、双方を敗者としてしまえば優勝者が決まらなくなり規則違反だ。そして、決着がついているのにも関わらず引き分けだからとどちらかを敗者にする訳にもいかない。どちらかを敗者にする場合誰が決めるのか問題になるし、再試合を行うのも決着がついているのだから規則違反だ。つまり規則通りとすると勝者は必ず決定しなければならないが敗者はその限りではない。
今まで引き分けなんて問題は起こらなかったんだろうし、そんなことを想定してもいなかったのだろうから例外に関する規則は何もない。だから、引き分けにしてしまえば両者が優勝者となれる。
衛兵隊に選ぶ際の規則も「東西両組の優勝者から選ばれる」としか書いておらず、人数は限定されていない。優勝者と言えば必ず一人だろうという思い込みが生み出した穴だな。
禁忌目録では条件をかなり限定的にして法律の抜け穴を無いように配慮されているし、この大会の規則でも決着の定義は定めている。しかし、その後の文には粗が目立つことからこの規則を作った人はどうにも他人がどう考えるかまでを想像できないらしい。恐らく決着の定義は四帝国統一大会あたりから引用した物だろう。他にも定義されている言葉とこの大会独自の規則でチグハグさが目立つ。
その点、最高司祭はあらゆる可能性を考慮して自分の脅威となりそうな項目に関しては鉄壁にしてある。それ以外はザルだけれども。
本当ならここで大会規則を持ち出して理詰めにしてやればいいのだが、それだと反感を買ってしまい今後の衛兵隊での活動に影響が出るから、できればそれとなく誘導して五人の審査員側から両者を優勝者とするという言葉を貰いたい。
「再試合をさせては」
「それがいい」
「あのー、大会の規則では決着がつくと優勝者を決めるとなっていますが……」
再試合で纏まりかけていた審査員たちへ遠慮がちに規則と言う部分を強調して口を出すと黙りこくってしまった。審査員は衛兵隊の偉い人や退役した人達だそうで、それなりに頭は回るはずなんだがな、と呆れていると髭を生やした威厳のある老人が言葉を発した。
「では、予選での得点で決めればよいのではないか?」
「おお、その手が!」
マズイ。マズイよ、マズイ、頭が回っていなかったのは僕の方だった。どうしてこんなにも簡単な可能性が思いつかなかったか。ああ、何回も何回も色んな可能性を考えて計画を練ったと言うのにこんなところで終わりたくない。
この状況を覆せるだけの説得力を持たせられる説明は何かないのか。考えろ考えろ、必死に考えろ。
頭がパンクしそうなほどに思考を巡らせているとある人が疑問を呈した。
「双方を優勝者には出来ないのですかな?」
「何を言っておる。優勝者は一人だろう」
「それもそうですか……いや、二人とも是非うちの衛兵隊に入ってもらいたいと思いまして」
クジの時に説明をしてくれた隊長がまさに僕の望み通りのことを言ってくれた。まさに神からの助けだと思い、若干身を乗り出し気味で予選の得点から勝者を決めようとしている審査員たちへの説得を始める。
「あの! 隊長さんの言う通りにはできないのでしょうか!」
「確かに君たちの試合は素晴らしかったがね……」
「き、規則には、確か……そう、優勝者の人数はかかれていなかったはずです!」
白々しいにも程がある演技を必死に続けて、ポケットへ確認するために入れていた大会規則の書かれた大会要項を取り出すと、机上に広げて上から項目を指でなぞっていく。そして、ある場所で指を止めると、喜色を滲ませて訴える。
「『優勝者は決勝戦に於いて決着がついた場合に勝者より決定する』とかかれています。つまり、決着がすでについている今回の場合、二人とも勝者にするのは可能だと思います! この規則だと勝者を決める必要はあっても敗者を決める必要は書かれていないので、大丈夫だと思います! お願いします、僕はあれだけの試合ができる相手と優勝したいです!」
「ぼ、僕からもお願いします!」
半ば興奮しながら懸命に訴え、僕とユージオが頭を下げると隊長が僕たちの意を汲んでくれたのか、隊長からも他の審査員たちを説得してくれた。隊長の説得と僕の規則上問題ないと言う訴えが届いて異例中の異例ではあるが、西ブロックの優勝者は引き分けた僕たち二人となった。
終始僕に任せて交渉を見守っていたユージオは、本当に二人で優勝できるか半信半疑だったようで、舞台上で表彰され、観客の惜しみない歓声を浴びて漸く実感が湧いたようだった。