Sword Art Online -Project Salvation-   作:青き勇者

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第二章 モディファイアー -Modifier- 10

「ユージオ先輩! おはようございます!」

 

 明るい声が部屋いっぱいに広がり、こちらの気持ちまでも明るくしてくれる子はユージオの傍付きであるティーゼ・シュトリーネン初等練士。

 

「テオ先輩。おはようございます」

 

 落ち着いた雰囲気に柔らかい声色を発する子は僕の傍付きであるエルソン・セーツヴィル初等練士ことエル。

 

「おはようございます。ユージオ先輩。テオ先輩」

 

 少し大人しくて遠慮している子がキリトの傍付きであるロニエ・アラベル初等練士。

 

「みんなおはよう」

「おはよー。エル、ありがとう」

「お礼を言われるほどではありませんよ」

「そうか、ま、今日は楽しもう」

 

 エルは貴族の中でも四等爵家の長子だから目立って嫌がらせをされることはないが、陰口が広まっているのを僕は知っている。そしてその原因の一つが僕であることも。だから、安息日までこうして付き合わせるのは申し訳ないと思っている。

 とはいえ、こっちにいるほうが居心地はいいと言ってくれているから、それを信じて今日は楽しんでもらうしかない。

 

「今日はテオ先輩にご馳走していただけると聞いたので楽しみです」

「料理の腕には自信があるから期待していいよ」

 

 ティーゼの言葉に袖をまくって腕をたたいて見せると本当に楽しみにしてくれているのか笑みを浮かべながら頷く。

 それはどうやらロニエも同じだったらしく、ティーゼと頷いている。一方のエルはというといつもと変わらず落ち着いていた。

 少しでも気分が上がってくれればと思って今日頑張って作った弁当にエルの好きなものを入れておいたことを話す。

 

「エルの好きなやつも入れておいたから」

「好きなものを話した覚えはありませんが」

「見てりゃわかるよ。エルは好きなものを最後にとっておく癖があるからね」

「食堂は初等練士と別の食堂ですよね。一緒に食事をしたことはないですよね。もう一度聞きます。好きなものをお教えした覚えはありませんが?」

「いや、ほら、好きなものが食べれるならそれでいいじゃん!」

 

 一切表情が変わることなく淡々と責めてくるエルに顔を逸らすしかない僕は、ティーゼとロニエの視線も痛くなってきたところで、まだキリトが来ていないのに部屋をでようとソファから立ち上がる。

 

「あはは、この日のためにこっそりと初等練士寮の食堂に行ってたんだよ」

「こら、ユージオ話すなよ」

「どうしてそんなことしてるんですか……」

「喜んでほしいからだよ」

 

 呆れたように溜息をついたエルへ投げやりに返すと驚いたように目を丸くして少し微笑んだ。不愛想で無表情な顔を常にしていたエルが最近は少し表情を覗かせてくれるようになって素直に嬉しいと思う。

 だが、それによって女子の目が変わり始めているのは少々複雑な思いだ。今までとのギャップにでも萌えたのかエルの色気にやられる者が多い。

 

「テオはエルソン君のことが大切なんだよ。知ってるかい? 最近は話の内容の半分はエルソン君のことだよ」

「ちょっ、余計なことまで言わないでいいから!」

 

 ユージオがフォローのつもりで言ってくれた言葉にかなりのダメージを負いながら恥ずかしさで部屋の隅に蹲ると耳を塞いだ。

 ユージオには隠し事とかなるべくしないって決めてるし、自分の思ってることとか考えていることもなるべく共有しようと思ってる。だから、僕がエルの複雑な事情を知っていることも、僕が原因でエルの噂話が立ってしまっていることに責任を感じていることも、弟のように大切に思ってることも知っている。

 それをユージオは知っているからこそ、エルにも知って欲しいんだろうとは思うけど当事者がいるのに話すのは公開処刑だと思うんだよ。抗議してもいいかなユージオ君。

 

「ありがとうございます」

「……礼なんて言わなくていいよ」

 

 わざわざ僕の傍まで来てありがとうなんて言うエルに目を合わせることなんてできるはずもなく、キリトがくるまでの1分間は蹲ったままだった。

 

「なんでテオはあんなとこにいるんだ?」

「なんでもないよ。みんな揃ったから行こうか」

 

 ユージオの言葉に僕は立ち上がると若干きまずい空気の中後ろをついて学院の敷地内にある森へと向かう。

 その道中、僕のことが気になるのかキリトがちらちらとみてきたが顔を合わせないように後ろの方を歩いていた。いつも先頭を歩くのに今日に限って後ろにいるのだからよほど気になるらしい。もう大して気にはしていないのだがいまさら前へと出ていくのも気が引けて、学校の中とは思えない自然を見ていた。

 鬱蒼と生い茂る木々に様々な小動物。灌木はきれいに剪定されており、無秩序に伸びている草木はほとんどなく綺麗な状態だ。

 芝は短く刈られているし土は固められて道となっている。とても手の込んでいることがよくわかる。

 

「よくもまあ、これだけの敷地を」

 

 そう呟かずにはいられないほどの光景だ。実を言うと、初等練士寮付近しか知らない僕は上級修剣士寮からさらに離れた位置にあるこちらは初めて来る場所だ。

 もちろん初等練士寮付近だって手入れされた林はあるのだが、手間を減らすためか木々は少なく敷地面積も狭いのだ。

 そんな風に自然を楽しんでいると何か言いたそうにエルがこちらを気にしていたのでさりげなく近づいて隣に並び歩く。

 

「テオ先輩」

「どうしたの?」

「最近、同室の傍付きの子が精神的に参っているという相談をあの二人から受けまして」

「そうか……。話してくれてありがとう。事情を詳しく知らないと動けないから折をみて話し合うよ」

「ありがとうございます」

 

 とうとうこの時が来てしまったか。三日前にユージオからジーゼックとひと悶着あったことは聞いていたから覚悟を決めなければとは思っていたが、結局はどっちつかずな状態で今日まで来てしまった。

 それにしてもエルが相談を受けているとはね。面倒見はいいし僕とユージオとキリトが一緒なのも手伝って、エルとティーゼとロニエは割と仲がいいからな。同じ傍付きということもあって貴族としては四等爵と六等爵でかなり壁があるといはいえ相談しやすかったのかもしれない。

 

「わぁー、綺麗ですよ。ユージオ先輩!」

 

 少し先を歩いていたティーゼとロニエ達は森の中にある小さな池を見つけたようで燥いでいる。親睦会も兼ねた今日のピクニックの目的地はその池で、そこで僕の作ったランチを食べることになっている。そのランチは僕の手から離れてティーゼとロニエが持って行ってしまったけれども。

 さっそく、池の近くにレジャーシートというよりはただの麻布を敷いて座る場所を確保し、お楽しみのランチボックスを開ける。

 

「わぁー」

「すごいです!」

「ささ、食べて食べて」

 

 一人一つ、それぞれの好みに合わせたサンドウィッチを取ってもらい、あとはみんなで食べる用のパイを切り分けた。

 

「ユージオ、おいしい?」

「おいしいよ。僕の好きな味だ。変わらないね」

 

 ユージオには何度か作ってあげたことのある白身魚を蒸してほぐした身をタルタルソースのような自家製ソースで和えたものを用意した。

 

「エルは?」

「おいしいです。私の好きな組み合わせです」

 

 エルはといえば肉が好きだということは割と早くに分かっていた。そのため、肉を豪快に挟んだサンドウィッチにしようかとも思ったのだが、意外にも葉物野菜も好きだということに気づいて、葉物野菜と肉の組み合わせに食堂でもよく出されるシンプルな果実ソースをかけたものを用意した。

 キリトやティーゼとロニエにもそれぞれの好みに合わせたものを用意したので、なかなかの好評だ。

 会話は弾み、楽しい時間が過ぎていく。サンドウィッチも残りわずかとなったところで、キリトはロニエに剣術の話を熱くし始め、ユージオとティーゼも二人で話し始めたので本来の目的である親睦会、もとい傍付きとの親交を深めるための集まりであることを思い出して、少し離れることをユージオ達に伝えてエルを連れ出した。

 

「実は少し相談があってね」

「私にですか?」

「僕よりしっかりしてるし頼りにしてるんだよ?」

「傍付きとしてはかなり頼りにしていただいていると感じてます」

 

 まさかの皮肉に苦笑いする。ここまで打ち解けてくれたことを喜ぶべきか、はたまた皮肉を言われるほどエルに面倒を見てもらっている現状を恥じるべきなのか。

 ともあれ、頼りにしているのは本当のことだ。

 ユージオ達のいる場所とはちょうど対岸になる場所で手ごろな木の根を見つけて座り込む。エルも座ったことを確認して向こう岸の四人をみながら口を開く。

 

「エルは大切な人を守るために誰かを犠牲にすることを許せる?」

 

 突然こんなことを言われても反応に困るだけだろうとは思うけれど、もう決めなくちゃいけないんだ。

 僕の知っている物語通り進めるためにティーゼとロニエが酷い目にあうことを見過ごすのか。それとも二人を助けるために動いてまた別の物語を歩むのか。

 不確定要素が比較的少なく済むのは前者であり、ユージオを死なせないという目的を達成するのに最善だといえる。

 後者は人として、あんな未来があると知っているのだから助けるのが最良の選択だといえる。しかし、その後にどうやってカセドラルへ行くのか、ユージオは禁忌目録という壁を越えられるのか、整合騎士の配置はどうなるのかなど不確定要素ばかりになり、最悪の場合にはユージオを失う結果になるかもしれない。

 

「……」

 

 しばらくの沈黙が流れ、エルは少し顔を俯かせてからこちらを見た。

 

「悩んでいるということは誰かを犠牲にはしたくないということですよね」

「うん」

「なら、誰かを犠牲にしない方がいいです。助ける相手に許される、許されないではなくて、自分が自分を許せなくなってしまいます」

 

 やっぱりエルに相談してよかった。これで覚悟を決められる。

 お礼を言おうと思って目を合わせると、エルは穏やかな口調で続けた。

 

「ただ、どんな選択をしたとしても私はあなたを責めない。その選択に悪意はないと信じていますから」

「…………ありがとう」

 

 こんなにも信頼してくれるようになったなんて嬉しいよ。最初は中々に気難しそうな子だなと思っていたからこのひと月で打ち解けてくれてよかった。

 僕はエルのことを弟のように大切に思っている。けど、言葉を裏返せば弟がいないからその代わりのようにエルを見ているともとれる。

 でも、そうじゃないんだ。エルのことが大切だっていう想いは弟の代わりっていう身勝手な考えからじゃない。このひと月で積み上げた、後輩であり、弟子であり、お互いを認め合う関係が大切で、エルというひとりの人間が大切なんだ。

 僕は守らないといけない。ユージオもエルも、そしてキリトやティーゼとロニエも。あの二人の悪意から守ってやらないといけない。どうせカセドラルに乗り込むというのなら、人殺しなんてことをせずに街中で公理教会をぶっ壊すとかいって乗り込みたいもんだ。

 池に浮かぶ蓮の葉からカエルが飛び降りたのを見て瞬くと、腰かけていた木の根から立ち上がる。

 

「聞いてくれてありがとう。戻ろうか」

「はい」

 

 池の周りをぐるりと回ってユージオ達のもとへ戻っていく。

 守ると決めた以上は一人でどうにかしようとせずに、二人へ相談しないといけないなと思いながら、ティーゼとロニエにはどう話せばいいのか、エルは今回の件にどんな形でかかわってくるのかが分からない。

 寛いでいる四人のもとへ戻ってくると、開いている場所に腰かけて持ってきていた水筒からコップにシラル水を入れて飲む。のどの渇きを潤し終えると、どうやらみんなも一段落したようでつかの間を小鳥の鳴き声や木々のざわめきが主張する。

 次に話し始めたのはどこか思いつめた様子のティーゼだった。

 

「あの、ユージオ先輩、テオ先輩、キリト先輩。実は相談したいことがあるんです」

「うん? どうしたんだい?」

 

 ユージオの言葉に少し俯くとティーゼは続けた。

 

「大変申し上げにくいことなのですが、指導生の変更申請に関して、学院管理部門へお口添えいただきたいのです」

「え、ええっ? それは、僕の傍付きをやめたいってこと? それともテオかキリト……の?」

「ち、違います!」

「ははっ、今のユージオちょっとかわいかった」

「もう……笑わないでよ」

 

 ティーゼの入り方がまずかったのか勘違いをしたユージオの慌てっぷりに思わず吹き出してしまうと、心臓を抑えてほっとした様子で恥ずかしそうに呟く。

 

「す、すみません。私たちじゃないんです。お三方の傍付きはむしろ変わって欲しいって子がいっぱいいるんですよ」

 

 まさかの僕まで含まれている言い方に視線をエルに移すと、苦笑いをして肯定した。

 

「ぼ、僕もなの?」

「そうですよ。どうやらテオ先輩はご自身が原因で私の悪い噂が流れているとお思いのようですが、それは一部で、実際は同室の者から羨ましいという声があるのです。貴族同士、変なしがらみがあるせいで、そう言ったものがない私たちの関係が魅力的に見えるようですね」

 

 なるほどと頷いてはみたものの、今まで散々に自分のせいだと思いつめていたこともあってなかなか納得できない。

 唸っているとみんなの視線がこっちに向いていたことに気づき、慌ててわざとらしい咳をして誤魔化す。

 

「その、変更をお願いしたいのは寮で同室のフレニーカっていう子なんです。真面目で一生懸命で、剣が強いのに控えめなとってもいい子なんですが……」

「実は、フレニーカを傍付きとしてご指名なさった上級修剣士殿が、かなり厳しい方らしいのです……。特にここ数日はちょっとした粗相にも長時間の懲罰を課されたり、学院内では少々不適切と思えるようなお世話をお言いつけになったりされるようで、フレニーカが本当に辛そうで……」

 

 ロニエとティーゼはわが身のことのように、辛そうな表情をしている。胸の前で握りしめられた小さな手は震えている。

 そんな痛々しい様子にユージオは事の深刻さを感じたのか、真剣に向き合うも戸惑いは隠せないようだった。

 

「でも……いくら上級修剣士でも、学院側に定められた範囲外の仕事を傍付き練士に命じたりは出来ないはずだけど……」

「はい、それは……院側に抵触するようなことはもちろんお命じにならないようですが、院側もあらゆる行為を網羅しているわけではありませんから、違反にはならずとも、その、女子生徒としては少々受忍しがたいご命令を、いろいろと……」

 

 結局はこうなるのかと頭を抱える。僕は一緒に寝ているユージオにさえ手を出さないようにしているというのに、あの下種どもはただの傍付きにみっともないことしやがって。

 

「いや、それ以上言わなくても、その子の状況は分かったよ。すぐにでも……」

「待った」

 

 先に話を進めようとするユージオを制して立ち上がる。

 

「話の内容から察することはできる。けど、詳細を知らずに話を進めるのは危険だよ。こちらの主張に一貫性や具体性がない場合、例え相手が悪かったとしてもこちらが不利になりかねない。だから、辛いとは思うけれど、もう少し詳しく聞かせてくれないかい?」

 

 何か言いたげにユージオはこちらを見たけれど、僕の言うことに異を唱えるつもりはないらしく、当の本人たちを見て無理しないでねと助言した。

 ロニエとティーゼは僕の言うことに納得したのか詳しいことを話してくれた。雑巾の絞りが甘くて机に水気が残ってただけで1時間は立たせ、稽古では型がなってないと言いがかりを毎度つけては一方的に打ち付ける。しまいには風呂上がりのマッサージと称して服が濡れるだろうと抜かしてフレニーカに下着姿になるよう強制。

 よくもまぁ、酷いことを。とはいえ、これが規則に触れるようなものでもなければ帝国基本法や禁忌目録に触れるものでもない。結局は合法であるということだ。

 

「今の話を聞いている限りだと難しい……。というのも結局は規則や法に触れていないから、こちらが相手を非難するだけの材料には乏しいんだよ」

「だ、だからって、テオはこのままでいいというのかい?」

「思わないさ。だけど、法と倫理、感情は分けて考えるべきだよ。倫理観や感情のみで突っ走ったとしてこちらに正当性が認められるわけじゃない」

 

 ユージオは優しいし、普通の人間なら誰しもがそうやって怒るだろう。けれど、法というものがある限りはそれを基準に考えなければならない。でなければ、救世主のつもりがやり方次第では罪人になってしまうのだから。

 

「でも、法で禁じられていないからと言って、してはいけないことはあるし、法で禁じられていても、しなきゃいけないことだってあるかもしれないだろ?」

「その考えは危ないよ、キリト」

 

 そう、危ない。僕の知ってる物語ではキリトとユージオが罪人という形でカセドラルに連れていかれただけだ。だが、下手をすればロニエとティーゼすら罪人になる可能性はあった。だから、その言葉は危ない。

 

「法がある以上、法に従うのが賢明。相手が法の範囲内でしているのなら、こちらも法の範囲内でするべきだよ。いいかい、例え人として間違っていることだとしても、法の範囲内であるのなら、法を超えて相手を罰しようだなんて考えないこと。それはただの罪人だ」

 

 ここで釘を刺しておかなければ誰かが暴走してしまう。それは人として正しい行為なのかもしれない。けれど、それはこの社会においては悪とされる行為であるということを忘れてはいけない。ただ、法を超えて力を行使する例外もある。それはこの社会の法を変えるときだ。

 ユージオもキリトも押し黙ってしまい、ロニエとティーゼも消沈している。確かにみんなの助けたいって思いを否定したように聞こえたかもしれないけれどそうじゃないんだ。みんなを守るためでもあるんだ。

 

「そう暗くならないで。大丈夫、どうやったら助けられるのか、ちゃんと考えるから」

「……ありがとうございます」

「私もテオ先輩と同意見です。相手が現状は規則を破っていない以上、こちらも規則に乗っ取って対処する方が望ましいでしょう」

 

 ひとまずはこれでみんなの意識は規則の範囲内でどうやったらフレニーカを救えるのかという方向に向いただろう。間違っても二人が暴走して貴族裁決権行使の対象になったりすることはないはずだ。

 もしそんなことをしてしまえば、ユージオとキリト、そして僕たちを裏切ることとなってしまうのだから。そんなことはしないと信じてる。

 

「それで、本題は、変更だっけ。ユージオ、どうやったら変更できるの?」

「ええと……たしか『上級修剣士の鍛錬を最大限支援するため身辺の世話係として一名の傍付きを置く。傍付きは、その年度の初等練士より成績順に十二名を選抜し任に充てるが、上級修剣士と管理担当教官の合意があれば、傍付きを解任し、他の初等練士より再指名することを認める』だったかな」

「相手の承認もか……相手は誰なんだい?」

「その……ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿、です」

 

 知っていた僕はともかく、初めて知ったユージオとキリトは苦虫を嚙み潰したような表情で唸った。

 

「あいつ、ユージオに立ち会い吹っ掛けて返り討ちだったくせに、まだそんな陰湿な真似してるのか、次は思いっきり叩きのめしてやれよ」

「返り討ちになんかしてないってば。でも、もしかしたらそのせいで……」

 

 語気を強めるキリトとは対照的にユージオは表情を暗くしてしまう。

 

「かもしれないね。あいつはそういうやつだから。でもユージオが気に病むことじゃないよ。吹っ掛けてきたのはあいつなんだから」

「でも、テオみたいに相手にしなきゃこんなことにはならなかったのに……」

「ユージオ、自分を責めないの。間違ったことをしたわけじゃないんだから」

 

 ユージオらしいと言えばらしいのだが、あまりそうやって自分を責められるとこっちが心配になってしまう。なんとか宥めてやり過ごすと、これ以上のことはまた改めて話すことにして今日はお開きにした。

 その帰り道、僕はユージオとキリトに、僕とユージオの寮室の居間へと集まるように呼び掛けた。

 

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