「そもそも、有史以来一人の人間が複数の
「そーなの? 私めっちゃレアキャラじゃん」
ランプの薄明かりに照らされた部屋に、小さな声が響く。
クレムとの問答でようやく落ち着きを取り戻した私は、とにかく今後の事をみんなと話し合っていた。
「能力を失った
客室に据え付けのテーブルの上に腰掛け、大仰な態度で頷く幽霊少女。えらく威厳たっぷりな仕草だけど、小っちゃいから子供が背伸びしてるみたいで可愛い。いや、真面目な話をしてる最中なんだけどね。
「……やはり、ナオは特別な存在なのでしょうか?」
ベッドに腰掛けたクレムが、深刻そうな面持ちで尋ねる。さっきは励ましてくれた彼女だけど、やっぱり異常な能力があると厄介ごとを引き寄せやすいから、私を心配してくれてるみたい。
「まず間違いないだろう。問題は、誰が、何故、どのようにして、ナオにそのような力を与え、この地に導いたかだ」
クレムの質問に、ミリーは
「我々はどのようにして、の部分に注目し、
幽霊少女は一旦言葉を切って、私とクレムの反応を窺う。そして、
「これらの能力は明らかに
「……やはり、神様がナオをこの地に招来なされたのでしょうか」
「神に比肩する奇跡を行える者がいれば、話は別だがな」
ミリーとクレムが話を進める。
どうやら、私はホントに神様に呼ばれてこの世界へやってきたらしい。
「う~ん。でも、全然実感はないんだけどなぁ」
だって、路地裏で意識が飛んで、目が覚めたら全裸で水の中だったんだ。どう見ても人さらいの手口でしょ。もっとこう、神秘的な体験とかあったなら納得できたんだけど。
「子供の声は、今でも時々夢に見るけど……」
ああ、そう言えば、私はこの世界に来る前に子供の声を聞いたのだ。あの悲痛な鳴き声は今でもはっきり覚えている。
「泣き声か……」
「どのような意味があるのでしょうか」
「普通に考えれば、窮状を訴えているのだろうが……」
「いやいやいや、そんな期待されても私何もできないよ? 地球にはもっと凄い人いっぱいいるんだし、そっちにお声がかかるでしょ!?」
ミリーとクレムの考察に、私は慌てて待ったをかける。
その話だと、私は神様でも匙を投げる問題の解決に呼ばれたことになる。理屈としてはすごく納得できるけど、どう考えても人選ミスだ。
「もっともな意見だ。そもそも、
と、ミリーも私の主張に同意してくれた。そして、
「つまり、我々はこれから「何故」を探っていく必要があるということだ。ナオに下された
幽霊少女は重々しくそう告げる。
――この世界に呼ばれた本当の意味を、見つける。
「でも、そんなのいったいどうすれば……」
方針は漠然と定まったけど、どこから始めればいいのか全然分からない。手がかりが何もないのだ。
「まずはナオに宿った能力を明らかにすることだ。授けられた力が分かれば、対処すべき事柄も分かるかもしれない。あの毛糸の
「あ、うん。資料を全部調べなおすから、それまで秘密にしておいてって」
私が復活させてしまった毛糸玉は、ユニスさんが鞄に入れて持って帰った。効果や取り扱い方法などを今一度調べて、それから実際に起動してみようとの話になったのだ。
あと、関係ない話だけど、ユニスさん
「順当な対応だ。
「えっ!? そんな物騒な物あるの?」
「多数ある。「エンザールの炎石」は発現時に千人以上が焼死したし、「ウィンセスラの剣」は事故で百人の人間の首を刎ねた」
「な――」
「待ってください! 剣の話は、エイルマー王が反逆者を退治したという逸話ではなかったのですか!?」
すると、クレムが血相を変えてそう尋ねる。何でも、彼女の知る歴史上の事件と内容が異なっていると言うのだ。
「宴席で反旗を翻した賊徒を、王が宝剣で手打ちにした。という話か? それは後世教会と王室によってねつ造された話だ。……神の奇跡によって、無辜の血が流れたという事件を残すのは憚られたのだろう。事実は酒が絡んだつまらぬ諍いだ。前後不覚になるほど酩酊したエイルマー王が、部下の些細な失態に腹を立て、
「ッ――」
クレムが絶句する。心なしか顔も青ざめてるみたい。
酔っぱらって大量殺人ってのもめちゃくちゃヤバいけど、都合が悪いから歴史をねつ造するって、それ、かなり悪質な所業なんじゃ……
「元よりその手の話は枚挙に暇がない。それほどに
「「…………」」
物憂げに語るミリーに、私とクレムは言葉も無い。
魔法のアイテムだなんて単純化して納得していたけど、そんな代物があれば、いったいどれだけの事件が引き起こせるかなんて、考えもしなかった。
今更ながらに、私は自分が授かった力の凄まじさに戦慄する。
「以前に話した時はクレムの気を悪くしたが、
ミリーは説明しながら、灰色の目で私たちの反応を窺う。
私はまだ平気だけど、クレムは結構ショックを受けているみたい。でも、
「ならば、ナオが呼び寄せられたのは、必ずしも善良な理由からではないと?」
クレムは気丈に話に参加する。きっと私の身に関係することだから、頑張ってくれているんだ。
「分からない。そもそも君が話した通り、神の意思は人間には予想もつかないものだろう。我々の尺度で推し量ろうとするのは、単なる愚行かもしれない」
そう言って、ミリーは小さな頭を横に振る。
う~ん、それってつまり、為す術無しってこと?
「ただ、そうだな。私もナオが招かれたことに、何らかの意図があるとは思う。……今まで様々な奇跡を見てきたが、このような事例は初めてだからな」
消沈する私たちを励ますように、幽霊少女がそう告げる。そして、
「……そう気負うことはない。先を見れば不安にもなるだろうが、まずは目の前の事から始めていけばどうだ。今や君たちには頼れる人々もいるだろう」
幼い顔立ちに慈母のような微笑みを浮かべて、ミリーがそう提案する。
「うん。そうだよね。私たちにはやる事いっぱいあるもん。
「はい。それに私たちだけでは限界がありますし。折を見て、皆様にも相談を持ちかけてみましょう」
思わず抱きついて甘えたくなるような幽霊少女の包容力に、私とクレムはすっかり不安を忘れてしまう。
わいわいと明日からの話を相談し始めた私たちに、白い少女は満足そうに頷くと、
「さて、それではこの有難くも迷惑な贈り物を、調べてみようか」
歌うような軽やかさでそう告げた。