原作既読者がいく実力至上主義の教室   作:三色

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4話

 その後、バスの中では特に目立った出来事もなく、私はDクラスの教室にたどり着いていた。

 教室の中には誰もいない。

 仲保のネームプレートが置かれた机に鞄を置き、その中からクロッキー帳と鉛筆を取り出した。

 そして、そのまま教室の後ろの方に移動して、鉛筆を走らせる。

 

 とりあえず、教室の模写でもしようか。

 本当なら今押しているアニメのキャラクターでも書きたいところだが、クラスメイトが入ってきて見られると面倒だ。特に初期のDクラスは民度が低い。放っておいてくれるなら楽なのだが、オタク趣味だから下に見ていいと思われると色々と面倒である。だからといってクラスの中で上を目指す気にもなれない。何が原因で原作から流れが変わってしまうか分からない。

 私がいることで既に原作でいたはずの生徒が一人いなくなっているはずだ。

 ん、今まで気づいていなかったが、実際誰がいなくなることになるんだろう。原作で特に描写されていないモブキャラが消える分には構わないが、これで原作に出ている面々がいなくなると困ったことになる。特に堀北がいなくなると私の計画に大きな狂いが生じることになるぞ。

 そんなことを考えながらきちんとした線が引けるはずもなく、紙の上には縮尺の崩れた教室が出来上がっていた。

 うーん、これはひどい。修正するよりもう一度書き直した方が早いレベルだ。

 集中も乱れてしまったので、クロッキー帳を閉じて改めて教室を見回す。まだ始業までは時間があるがすでに半分くらいの人が入ってきているようだ。その中には我らが主人公、綾小路の姿もあった。

 後ろ姿なのでよくわからないが、なんというかそわそわした雰囲気を感じる。彼はホワイトルームという実験施設のようなところで養育? され、スペックは高いが人との関わり方が全く分からないという、言ってしまえばコミュ障のような状態だった。原作が進むにつれて本性が描写の中にも漏れ出てきて主人公というより途中からラスボスのような状態になっていたが、最初の方はホワイトルームから解放された喜びでだいぶハイになっていたようで思考がだいぶおかしなことになっていた。どちらにしても変なことしか考えてねえ。

 綾小路の後ろ姿を見ていると彼が後ろを振り向いてきて目が合った。

 

「…………」

 

 お互いがお互いを認識したまま硬直する。

 仕方ないのでこちらから話しかけることにした。

 

「すまない。気になってしまったかな」

 

 おそらく、視線を感じて振り返ったのだろう。綾小路ならそれ察知してもおかしくない。

 

「私は仲保義明。どうぞよろしく」

 

 綾小路はうすく微笑みながらクロッキー帳を持ち替えて手を伸ばした私のことを不思議そうな目でいたが、すぐに立ち直ってこちらの手を掴んだ。

 

「……綾小路清隆だ。よろしく」

 

「さっきは悪かったね。後ろからとはいえ気になっただろう?」

 

「まあ、なんだろうなとは思った」

 

 はい。確実に認識した上で振り返ったことが確定。

 さっきは綾小路ならおかしくないって言ったけれども、普通の人間は視線は感じてもそんな気がする程度で確信はできないものなんですが。

 

「癖みたいなものでね。動かないものを見るとつい描くならどうしようと考えてしまうんだ」

 

 クロッキー帳の表紙を見せながらそう伝えると綾小路は納得したような表情を見せた。

 さて、このまま適当に話をしてもいいのだが、彼にはこの後堀北とのセカンドコンタクトが待っている。おそらく堀北は私と話している状態の綾小路に話しかけてくるようなことはないだろう。

 

「じゃあ、これから1年間よろしくね」

 

 なので、そこで話を打ち切って、彼の元を離れていく。さすがにそのまま席に着くのは気まずいのでクロッキー帳を鞄にしまい教室の外に出た。

 廊下の窓から外を眺めていると堀北が後ろを通って行ったのが見えた。もちろん向こうは私を知らないが私は彼女の顔を知っている。というか原作で登場したキャラクターは全員一目見ればそれと分かった。なぜかは分からないが、そういうものなんだろうと思うことにしている。

 

 少ししてスーツを着た女性が歩いてくるのが見えた。茶柱先生である。原作描写を思い出して時間になったものと判断し、教室に戻ると堀北が本を読んでいて、綾小路がタイトルを読もうと顔を屈めているのが見えた。

 席に戻り数分ほどすると始業チャイムが鳴り、同時に茶柱先生が教室に入ってきた。

 ああなるほど、外で時間になるまで待っていたのか。そりゃそうだ。

 チャイムと同時に入ってきても、チャイムと同時に到着したとは限らないなあ。外で待っていたと考えた方が自然だ。

 

 

 

 茶柱先生の説明は原作通りだった。

 原作通り毎月10万ポイントがもらえるような言いまわしである。考えてみると原作と同じシーンを見るのはこれが初めてだ。まるで普段テレビで見ているお笑い芸人のネタを生で見ているような気分で感心していると。

 

「質問はないようだな。では良い学園ライフを送ってくれたまえ」

 

 と原作と一言一句同じセリフを残し、教室を去っていった。説明の中では多少違う言葉回しもあったので偶然だろう。

 おそらく私という異物が存在する時点で、原作と全く同じことは起こらない。原作の開始以前から私がいたことにより様々な差異が生まれていて、それはバタフライエフェクトとして、世界に違いを与えているだろう。

 

「皆、少し話を聞いてもらってもいいかな」

 

 いきなり10万円という大金を渡された生徒たちの浮足立った会話が飛び交う中、立ち上がりながら平田がクラスメイトに向かってそう言った。

 

 うーん、確かに好青年といったふうだ。これで中学時代は恐怖で学校を支配したというのだから人間は分からない。

 

「僕らは今日からクラスメイトとして同じ教室で過ごすことになる。だから、今のうちに自己紹介をして、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあることだし、どうかな?」

 

 平田の言葉に次々と賛同を示す生徒たち。

 といっても、賛意を表しているのは、軽井沢たちのようなクラスカースト上位になりそうな人たちや、池のようなお調子者タイプの人たちだ。堀北は理解できないものを見るような目で平田を見ているし、須藤はイラついた目で平田をにらんでいる。

 

「じゃあ、まずは僕から。僕の名前は平田洋介。中学では洋介って呼ばれることが多かったから、気軽に下の名前で呼んでほしい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、サッカー部に入ろうと思っているんだ。よろしくね」 

 

 すらすらと自己紹介を終えると、そのまま次を促して平田は席についた。

 端から順番に自己紹介を始めるクラスメイト達。

 

「私は仲保義明です。趣味は絵を描くこと。どうぞよろしくお願いします」

 

 第一心象を悪くする必要は感じなかったので、普通に。いや少し笑顔を意識しながら、明るい声色で私も自己紹介を終えた。

 特に目立つこともなく自己紹介が進んでいくが、順番が須藤に回ると、予定通りキレて教室を出ていき、それに合わせて堀北含む数名の生徒が出ていった。

 ところでこれから入学式なのに彼らはどこに行くのだろう。

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