「お前たちは実に愚かな生徒たちだな」
5月最初のホームルーム、毎月1日に振り込まれるはずのポイントが振り込まれていないと疑問の声を上げるクラスメイトに向かって茶柱先生がそう言った。
雰囲気が変わった茶柱先生がそのまま説明を続けていく。
この学校ではクラスの成績がポイントに反映されること。
この一か月でDクラスの評価は0にまで落ちたこと。
Dクラスは落ちこぼれの集まる不良品のクラスであること。
希望の就職、進学先を叶えるにはAクラスに上がる必要があること。
定期試験で赤点をとれば退学となること。
赤点を取らずに乗り切れる方法があると確信しているということ。
多少順番に違いはあれど全て原作通りの説明だった。
ちなみにクラスポイントは原作通りではなかった。
Aクラス:920ポイント
Bクラス:660ポイント
Cクラス:480ポイント
Dクラス:0ポイント
10ポイント20ポイント程度であれば、私という存在によるバタフライエフェクトで説明がつく範囲のブレだと思う。このブレはおそらくDクラスにも存在していたのだろうが、そういう問題ではないレベルでマイナスが入っていたということだろう。0ポイント以下にはならないという茶柱先生の言葉を証明した形だ。
ああ、後これだけは聞いておかないと。
「質問してもよろしいでしょうか」
手を挙げた私に皆が注目する。
「なんだ」
「先ほど先生はポイントがなくても死にはしないと仰いましたが、ポイントがなくても卒業はできますか?」
「どういう意味だ」
「いえ、例えば『卒業証書』とか『卒業式参加資格』とか、名目はなんでもいいんですが、どこかでポイントを払わないと卒業できない、みたいな罠がないのかなと思いまして。3年間0ポイントで頑張ってそれは嫌だなと」
クラスメイトの表情が変わり、茶柱先生を一斉に見る。
ただでさえ、これからポイントの支給無しで生活しないといけないかもしれないというのに実はそれが徒労に終わる可能性まで出てきたのだ。
「……安心しろ。ポイントがなくても卒業はできる」
皆の緊張が緩む。
「そうですか。ありがとうございます」
「先ほども言ったが疑問を疑問のままにしないようにすることだ。他の者も何か質問があれば聞きに来るように」
そう言って茶柱先生は教室を後にした。
◆
茶柱先生によって、この学校の真実が明かされた日の昼休み。いつも通り食堂に向かおうとする私に平田が声をかけてきた。
「仲保君、ちょっといいかな。放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか皆で話し合いがしたいんだ。君にも参加してほしい」
「別に参加するのは構いませんが、茶柱先生にポイントを増やす方法を聞いた方が早くないですか?」
一部を除きほぼ満席になるはずなので、参加するのは吝かではないが、少しは建設的な話し合いになってほしい。
「うーん、でも普通に聞いて答えてくれるかな」
「ポイントが減った理由は答えてくれましたよ。で、増やす方法は誰も聞いてません」
聞かれなければ答えない。というのがこの学校の方針のはずだ。茶柱先生は特にその傾向が強い。他のクラスでは聞かなくても教えてくれるような情報、部活動でのポイント取得に関する情報等も隠されていた。
「それもそうだね。ありがとう。じゃあ放課後はよろしくね」
平田はそのまま職員室の方に向かっていった。
それを見送り、ふと携帯を確認すると、フリーアドレスの方に対してグループチャットの招待が来ていた。
招待元を確認するとCクラスの龍園からだ。
さすが龍園、対応が早い。
何度かのメッセージのやり取りの後で、無事取引が成立した。
「毎度ありっと」
◆
原作知識をポイントに変えるには大きく分けて二つの方法が考えられる。
一つは原作知識で私自身が活躍してポイントをもらうこと。もう一つは原作知識を高く売りつける方法だ。
ただ、売りつけるにしても問題が一つある。私自身に信用がないということだ。櫛田や平田のように普段から交流があり信用が置ける人間からの情報ならともかく、孤立気味の私の言葉が信用される可能性は低い。信用されなければ売れない。
堀北生徒会長に対しては、入学直後というある種フラット見てもらえるタイミングで、こちらが持ちえない情報を叩きつけ、最終的には値付けの権利ごと向こうに押し付ける形で売り渡した。完全に信用してもらえずとも半信半疑で十分に機能するやり方だ。あと、結果さえ出せば堀北生徒会長なら適正価格を払ってくれるという確信があったからできた方法である。
当然すべての取引でそうすることは不可能なので、別の方法をとる必要があった。
それが狐火商会である。名前はそれっぽいのを適当につけた。
私自身の信用が使えないのであれば、最初から匿名に、それも個人ではなく、集団の振りをしてしまおうというのが、狐火商会の目的である。
最初の手紙で嘘ではないが上級生からと読み取れる文面を使い、情報元の誤認まで狙えるので手間をかける意味はあったと思う。
◆
放課後の話し合いはあっさりと終わった。
まず、マイナスを防ぐために授業は真面目に受けること。
次にポイントの増やし方だが、私が昼休みに提案したように平田は茶柱先生にポイントの増やし方を聞いてくれた。だが、得られた回答は「クラスの成績がポイントに反映される」という朝のホームルームで伝えられた内容の繰り返しだったそうだ。
まあ、嘘は言ってないんだよな。
特別試験によるクラスの成績がポイントに反映されるのは嘘ではない。特別試験の存在を明かしていないだけで。
個人の振る舞いがクラスの成績として扱われるという意味では、部活で優秀な成績をだしてポイントがプラスになるのも、素行不良でポイントがマイナスになるのも同じことだから、この説明で問題なし。
それに茶柱先生の行動基準がよくわからない。堀北を焚き付け、綾小路を脅してAクラスに上がるように画策している割にこういったところが不親切だ。
とりあえず中間テストで高得点を取ることが「クラスの成績」を上げることになるということで、明日から中間試験まで平田主催の勉強会を行うことになった。赤点による退学者を防ぐことにもなるので、成績が不安な人は積極的に参加してほしいとは平田の弁である。
原作では中間試験までの2週間行われた勉強会が3週間行われることになる。成績が上がるのはいいことだが、問題は須藤だ。赤点ラインはクラスの平均点で決まるので、周りだけが勉強をすると彼が赤点ラインを超えるのはどんどん難しくなるし、点数を買っても救済できない可能性が高い。
これは失敗したかもしれない。昼休みのやり取りがここまで影響するとは思わなかった。
運動能力が高く、学力についてもきちんと真面目に勉強すればある程度まで伸びることが原作で確約されている彼はできれば退学になってほしくない。
こちらから積極的に動いて勉強会に放り込んだ方がいいか?
でも、平田の勉強会に参加させると他のクラスメイトへの影響が怖いしな。
少し様子を見て拙そうなら介入しよう。
グループチャットログ
『龍園様ご連絡ありがとうございます! 本日はどのようなご用件でしょうか!』
「中間試験の過去問が買いたい」
『ありがとうございます! こちら1年前・2年前のものがセットで4万ポイントとなっております』
「高い」
『クラスメイト1人当たり1000ポイントとお考え下さい。また、他のクラスへの転売行為は禁止させていただいております』
「破ったらどうなる」
『当商会の利用資格を喪失いたします』
「買う。振込先を教えろ」
『ありがとうございます。それでは下記手順にのっとって振り込みをお願い致します』
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『振り込みを確認いたしましたので、商品を送信いたしました! 今後ともごひいきのほど、よろしくお願いいたします!』