リリルカ・アーデは裏切らない   作:ザック。

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プロローグ

微かな酒の匂いが薫る部屋の中で幼い小人族(パルゥム)の少女は杯を覗き込む。

 

(これが「神酒」(しんしゅ)・・・)

 

【ファミリア】の団員達が追い求め、そして少女の両親が亡くなった原因だ。

 

本来なら少女――リリルカ・アーデ――では決して触れようがない物だったが、新しくこの【ソーマ・ファミリア】団長となったザニスによって、彼女と同じ下級の団員にも振舞われることとなった。彼らを神酒の奴隷に落とすために・・・

 

彼女は、振舞われた「神酒」(しんしゅ)に魅了されながらも小さな恐怖心を抱き、すぐさまに口を付けないでいた。やがては、他の団員達は杯を呷り狂乱の宴が始まった。

 

故に、彼女は自分が唯一安心できる場所。【ソーマ・ファミリア】の主神であるソーマの神室に逃げ出したのだ。

 

しかし、持ち出した杯を満たす輝きは恐怖心を上回るほどに魅力的で、やがては恐る恐る口を付けてしまう。

 

その様をじっと見つめる、静かな神の目に気づかずに・・・

 

一口、舌に付けた瞬間に広がる、圧倒的な多幸感、捻じ曲がる、捻じ曲がる。――幼きリリルカ・アーデには抗いきれぬ、天上がごとき悦楽が彼女をただ「神酒」(しんしゅ)を欲する獣に変えていく・・・

 

しかし、その瞬間に垣間見る、この先の少女が辿る未来を。

 

―――ダンジョンの低層でモンスターを屠り、魔石にむさぼりつく餓鬼

 

―――才無きゆえに、サポーターに転向し、冒険者に搾取される日々

 

―――逃げ出した先で、逃れられぬファミリアの追跡と優しかったあの人たちの拒絶

 

―――得た(まほう)で冒険者たちを嘲笑う、惨めな自分

 

 

―――その先にある、大切な少年との出会いと家族(ファミリア)の絆を

 

心が、酔いがさめる。

 

(あれ、リリの手はこんなにちっちゃかったですっけ?)

 

不思議そうに、小さな手を見つめる。小人族(パルゥム)の身体が小さいとはいえ、自分の身体はもっと成長していたはずだ。今の自分は6歳の誕生日を迎えた直後、あの悪夢の日々の始まりの頃の姿だった。

 

そして辺りを見渡すと、暗い思い出しかないはずのかつてのホームであることを理解する。

 

(今のは夢?リリの寂しさが見せた幻覚?)

 

ありえざる光景を見て悲観的な彼女はそう想った。あれは神酒が見せた幸福な夢であると。しかし・・・

 

「・・・いいえ、いいえ!あれは決して夢なんかじゃありません!!」

 

心が叫んでいる、あの暖かさは偽りなんかじゃないと!

 

「もしかして、過去に戻ってしまったんですか?」

 

そう思考すると、同時に彼女の身体は不調を訴える。

 

胃の中に入り込もうとする、かつての絶望に拒絶反応を示したのだ。

 

「おぇぇえ・・・」

 

恥もなく、外聞もなく胃の中身を吐き出す。そして彼女の幼い体は叩き込まれた記憶と酩酊感のなかで倒れ込む。

 

消え行く意識の中で、慌てて自分を抱え込む誰かの姿を見た。

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