リリルカ・アーデは裏切らない   作:ザック。

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リリルカ・アーデは決意する
第一話


「ううん、ここは……」

 

 未来の記憶をその身に宿し、気絶したリリは柔らかな寝具の上で目を覚ます。

 

「ここは、ソーマ様のお部屋ですか」

 

 耳を澄ませば、ゴリゴリと規則正しい乳鉢で植物を混和する音が聞こえてくる。

 

「起きたか、リリルカ・アーデ」

 

 不意に、音が止み。起伏のない静かな声がリリに話しかける。

 

「ソーマ様……」

 

 主神であるソーマは、乳鉢の中身をコップの中の液体と混ぜ合わせると匙で掬い、リリの口元に運ぶ。

 

 リリは先ほどの酩酊感を思い出し、嫌々と抵抗を示す。あの光景を神酒に塗りつぶされることを恐れたゆえに。

 

 その抵抗にソーマは、安心させるようにゆっくりとリリの頭を撫でる。

 

「大丈夫だ、これは神酒ではない、熱さましの薬だ」

 

 穏やかな、ともすれば慈愛すら感じる主神の声にやがては、覚悟を決めて薬を嚥下する。

 

「何故、私なんかに薬を……」

 

 リリルカ・アーデが辿ってきた軌跡の中で、いつか出会う慈愛に満ちた主神(ヘスティア)ならともかく、彼はただただ酒造りにしか興味がなかった。故にこそ、ザニスを止めることなどせずに横暴を許したのだ。

 

 彼は己が眷属の声に、何かを噛みしめるようにした後に、口を開いた。

 

「今は眠り、体を休めなさい。リリルカ・アーデ」

 

 そう言葉少なく呟くと、寝かしつけるように再び頭を撫でる。

 

(ああ、あったかい)

 

 段々と眠りに落ちていく、リリの中に()()()()暖かさが広がる。

 

 これは神酒に塗りつぶされるはずだった思い出、幼い彼女が今まで受けてきた唯一の愛だった。

 

 

 

 

■ ■ ■ ■

 

 

 

 

 

 数日後、少女はすっかりと体調を取り戻した後に、死に物狂いでダンジョンに赴く団員(ファミリア)の面々を尻目にオラリオ北西に、ひっそりとたたずむ寂れた教会に訪れていた。

 

「わかっていたことですが、本当に過去なんですね」

 

 扉を開け、埃っぽい中を覗き込む。そこには一切の生活感もなく、ただ静かな空間が広がっていた。

 

 それでも、リリは思い浮かべる。感情豊かに己の髪(ツインテール)を振り回し、騒ぎ立てるあの女神を。そんな女神と張り合うように少年に寄り添う自分を。そして困ったように頬を掻く愛しい少年を。

 

 ここは確かに、短い付き合いであったけど心休まる居場所であったことを噛みしめるように。

 

「これから、どうしましょうか」

 

 記憶の中にしかない情景を今は霧散させ、彼女は考えを巡らせる。

 

「このまま【ソーマ・ファミリア】として所属しながらベル様とヘスティア様を待ちましょうか」

 

 未来の事を知ってるとは言え、リリは非力な小人族(パルゥム)だ。サポーターとして培った知識や経験、【ファミリア】での何よりあの人造迷宮(クノッソス)での指揮経験があるとはいえ、前者は際立った物とは言えないし、後者は弱小ファミリア、それも眷属内で足を引っ張りあうようなところでは無用の長物だ。「改宗」(コンバージョン)を行おうにも何の経歴もない、幼いリリを引き取ってくれるようなファミリアなぞ、この暗黒期で見つかる可能性は極小だ。

 

 なによりも、ベル様の、家族(ファミリア)の未来が変わることが怖い。少年の軌跡は綱渡りの連続、一つ間違えればあっさり命を落としかねない死闘の連鎖だ。少しでも未来が変わり、彼等の運命が変わってしまえばリリは己を激しく苛むだろう。

 

「お優しいベル様なら、あのような事件がなくとも傍で支えることが出来れば信頼関係を結べます」

 

 思い出すは、少年の出会い。冒険者への仕返しと脱退の資金を稼ぐために窃盗を重ね。鴨として傍から見ても危ういぐらいのお人よしの彼に近づいたのだ。

 

 打算で始まった関係、その中でも彼はリリを真っ直ぐに信頼してくれた、それでも、彼から武器(ヘスティア・ナイフ)を盗みだした自分を助け出し、抱きしめてくれた。リリルカ・アーデの灰被り(シンダー・エラ)はそうして拭われたのだ。

 

「アポロンファミリアの戦争遊戯(ウォーゲーム)の時にヘスティアファミリアに加われば齟齬はないでしょうし」

 

 ファミリアの脱退、本来なら難しいだろう、今からお金を貯めて行っても以前のように薄ら暗いことをしなければ脱退の資金には届くかはわからない。だけど、リリはあの暖かな主神の手に一筋の希望を見たのだ。誠心誠意お願いすれば、ソーマは「改宗」(コンバージョン)を受け入れてくれると。

 

 故に、何もしないこと、それが最善だと彼女の現実主義(リアリスト)な面がささやく。

 

 だけど、

 

「本当に、それでいいんでしょうか?」

 

 思い浮かべるは、白い光。試練を、逆境を打ち砕く光。時には、愚かと囀られ、見下されながらも憧憬に向かってひた走り続ける少年を。

 

 ただ現状を甘んじることで、リリはあの人の前に胸を張って出会うことは出来るのか。それは、否だ。

 

 もし、少年が自分のように過去に戻れば、ひた走り続けるだろう。真っ直ぐに炎雷の如く。

 

 ならば、ならば少女はここで未来を夢見るだけではいかない、彼のサポーターとして。

 

――自分自身で立てた誓いを

 

――女神(ヘスティア)の慈心を

 

――少年(ベル・クラネル)の信頼を

 

「そう、リリルカ・アーデは決して裏切りません!裏切りたくないんです!!」

 

 決意は定まった、ここに再度誓いを立てよう。

 

 走り出す、その確かな決意と勇気を古びた女神像だけが見守っていた。




リリルカ・アーデ
LV.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【シンダー・エラ】
・変身魔法
・変身像は詠唱時のイメージ依存。具体性の欠如の際は失敗(ファンブル)
・模倣推奨
・詠唱式【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】
・解呪式【響く十二時のお告げ】
《スキル》
縁下力持(アーテル・アシスト)
・一定以上の装備過重時における能力補正。
・能力補正は重量に比例。
指揮想呼(コマンド・コール)
・一定以上の叫喚(きょうかん)時における伝播(でんぱ)機能拡張。
・乱戦時のみ、拡張補正は戦闘規模に比例。
・同恩恵を持つ者のみ、遠隔感応可能。最大範囲はレベルに比例。
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