吹き荒ぶ暴風の音を聞きながら大太刀を抱えて同じようにこの洞穴に逃げ込んだ相手から距離を取って座り込む。
「ねぇ、露骨にそうやって敵意むき出しにされると困るんだけど?」
「悪いな。とにかく襲って来る奴らくらいしか相手にした事無いからもう習性みたいなもんなんだ」
そう答えてため息を吐いて体の緊張を解いて抱えた大太刀も一旦目の前の地面に置いて、落ち着いて相手を見る。
頭の上に輪っかが浮いていて背中には小さい翼がある白金色の髪に赤い目をした女で、俺が大太刀を持っているように銃身の長いライフルを持っている。
「あんたも感染者か」
「一応は賞金稼ぎ兼傭兵だよ。そっちは大分ヤバい事になってるみたいだね。その腕」
「うん?ああ、もうどうしようもないだろうし死ぬまで付き合うさ」
「ふーん。レユニオンの連中とは随分と違うね」
「レユニオン・ムーブメントだったか」
「そ。たまったもんじゃないよ。確かに私も感染者への扱いには思うとこはあるよ?つい昨日までお得意さんだった人らから感染者になった途端に袖にされるようになったし。けど、だからってあいつらのやってる事ってアレじゃあより一層私達への弾圧とか排斥強めるだけじゃん」
言いながら自分のバックパックを漁り始める。ちなみに俺のバックパックには最低限のミネラルウォーターしか入っていない。そろそろ食い物の強奪をしないといけないと思っていたところに運悪く天災に遭遇して今に至る。ちなみに洞穴の入り口を塞いでるシートも目の前の女の持ち物だ。
「それでも八つ当たりしたくなるのが人ってもんだろ」
「君はしないの?」
「してどうなるってんだ。それで腕のコレが治るわけでもあるまいに」
しかも、下手に力使おうもんならより一層死に近づくだけだ。最近はあんまり炎を使うと痛み出すようになって来た。それだけ源石病が進行しているんだろうが、どちらにせよいずれは死ぬ。単にそれが早いか遅いかくらいしか変わりはない。
「はいコレ」
「良いのか?」
投げて渡されたカロリーバーの箱を受け取りながら聞き返す。
「どうせ何も無いんでしょ?」
「俺から出せるのは何も無いぞ」
「良いの良いの感染者同士助け合わなきゃね」
「そう言う事なら貰うが………」
とりあえず腹が減ってるのは確かなのでありがたくいただく事にする。モソモソと味気ないカロリーバーを齧りながら女が取り出したランタンの灯りをじっと見る。
「文明の光なんて移動都市のを見る以外じゃ初めてだな」
「感染者の難民キャンプとか行ってないの?」
「賞金稼ぎなら俺の事も知ってるんじゃないか?大太刀を振るう左腕が源石結晶に覆われたフェリーンの賞金首」
盗賊生活の末、気が付けば賞金首になっていた。仕方ないと言えば仕方ないが世知辛いもんである。そのせいで賞金稼ぎには狙われるわ、難民キャンプからは追い払われるわで散々である。
「あ、やっぱり君だったんだ」
「マジで気付いて無かったのかよ。そんな嗅覚でよく賞金稼ぎなんて言えるな」
「一応はコレでもメインは傭兵なんですー」
「そうかよ。言っとくが、なんかしようってんなら殺す」
「だから、何もしないって。殺気出すのやめて」
「どうだか………」
地面に置いた大太刀に目を向けるが、この距離ならあんな長物のライフルを構えるよりも飛び付いて首を捻った方が早いので、女が何がしようとしたらすぐ動けるように最低限の警戒に留めて体を休める事を優先する。
互いにそれ以上、口を開く事も無く天災が通り過ぎるのを待つ。洞穴の入り口を塞いでいるシートが大丈夫か多少は心配だがここは装備の持ち主である女の言葉を信じるしかない。
「ね、ねぇ、ちょっとあっち向いててくれないかな?」
「用を足したいなら勝手にすればいい。俺の事は置物とでも思っておけば良いだろ」
何かを入れる袋のような物を持っている事からそう判断してそう言い返して目を閉じる。
「ちょっとは女の子に対する気遣いとかしようよ⁉︎」
「うるさいな………わかったよ」
仕方ないので座る姿勢を変えて女の方から視線を外す。
「あ、ありがとう。もういいよ」
「そうか」
楽なように姿勢をまた洞穴な壁に背中を預ける形に戻して目を閉じる。眠りこそしないがこれだけでも少しは休める。放浪生活の中で身に付いた無駄じゃないが悲しくなる休息方法だ。
そのまましばらくしていると寝息が聞こえ始めた。どうやら女の方はしっかりと寝入ったらしい。目を開けて横になってちゃんと寝ているのを確認してから俺も横になってしっかりと眠る。
目を覚ますとまだ女は寝ていて、外からはシートを打ち付ける風と何かの音は変わらず聞こえていたが、弱まって来ているのでもうしばらく大人しくしていれば大丈夫だろう。
起き上がり軽く体を動かして凝り固まった体を女が起きる前に解して座り直す。そうしているともそもそと女が起き出して来た。
「朝早いんだね。まさか寝てなかったりする?」
「どうだろうな」
どうやらこの女本気で爆睡していたらしい。ちょっと無警戒すぎないか。寝てるとこを殺されるとか思わなかったんだろうか?
「そう言えば君名前はなんて言うの?」
「知らん。気が付いたらコイツだけ持った状態でその辺に転がってたからな。道連れも居ないし困った事も無いから気にした事無い」
「ご、ごめん。悪い事聞いちゃったかな」
「どうでも良い」
実際、どうでもいい。名前どころか自分がどこから来たのかすら分からないんだから大した事じゃない。名前覚えてたところでどうせ盗賊生活からは逃れられないんだしな。
「さて、そろそろ出ても大丈夫そうか」
多少まだ強い風は吹いてはいるようだが、シートを打ち付ける音は聞こえない。それに俺も女も感染者だ。多少天災の名残があったとしてもそこまで問題は無いだろう。
シートを留めている杭を抜いて剥がすと打ち付けられた源石の粒子が固まって幕のようになっているが、鞘から抜かずに大太刀で叩いて割る。既に源石病を発症している以上は大してかわらないが、それでもなるべく触らないに越した事も無い。十分に通れるように穴を広げて外に出るとあちこちに原石の結晶がこびりついてはいるが、風も凪いでいて雲ひとつ無い。
「君はこれからどうするの?」
「どうするも何も行き場は無いんだから、盗賊生活しつつ源石病でくたばるか賞金稼ぎか感染者狩りに殺されるまでその辺彷徨ってんじゃないか」
「じゃないかって、君自身の事なんだけど」
「明日は明日の風が吹くって言葉があるだろ?まあ、精々俺みたいにはならない様に気を付ける事だな」
「そうだね。まぁ、一応坑源石病薬なんかも今は比較的安いのも出て来てるしね」
「へー」
「生憎と私も今は手持ち無いんだけど、ロドス製薬だったっけ?確かそんな名前の新興の製薬会社から出てるの」
ロドス製薬。どことなく覚えのある名前だが、これまで食い物やらを奪って来た中にそんな名前は無い。まあ、どうでもいい事か。
「それが新しい病人食い物にする金の亡者の名前か」
「そう思う?まぁ、普通はそうだよね。でも、あそこは率先して源石病の罹患者を受け入れて治療してるらしいんだよね。私も薬しか見た事ないから実態は知らないけど」
「治療と言う名の体のいい人体実験の材料だろどうせ」
「かもね。でも、そんな所だとしても迫害を受けながらいつ追い出されるかってビビりながら暮らすよりはマシって考える人達も居るんじゃないかな」
「それもそうか。そうでもなきゃ難民キャンプで天災や感染者狩りに怯えて生きるか、俺みたいに盗賊生活するかくらいしか無いだろうしな」
「どこもかしこもが感染者追い出してる訳じゃないよ?この辺がむしろ異常なくらい排斥しすぎなんだよ。源石は今の時代欠かせないエネルギー資源なのに」
「人なんてそんなもんだろ………それじゃあな。精々敵として出会わない事を祈っておく」
「そうだね。見知った相手はやっぱり撃ちたくないし」
そこで女と別れて軽いバックパックにどうするかを考えながら歩き出す。この辺りは粗方襲撃しかけまくったせいで、どこもかしこも傭兵を雇ったりで守りを固めていてかなり厳しい事になって来た。て言うか、物資カツカツの理由は大体が強奪出来なかったからだしな。
まぁ、なるようにしかならないか。
源石病の進行でもはや自分が転生者だった事すら忘れた模様。
物資カツカツでも奪いに行かないあたり、色々忘れてもそれなりには善性が残ってるようです。