まさに『それ』は災害が生物の形をしていると言うべき怪物の中の怪物、数千年前より語り継がれている
相対する軍団の本陣には、三つの旗が立っている。
杖と女神のエンブレムが飾られた【ヘラ・ファミリア】
雷のエンブレムが飾られた【ゼウス・ファミリア】
そして槍と猪のエンブレムで飾られた【アレス・ファミリア】
神時代において最も名を知られている三つのファミリアが一同に会しているこの状況では、まさしく最終決戦とでも言うに相応しい戦力が集められている。
主戦力となる軍団は、全員が最低でも第一級冒険者と呼ばれる実力を持っており、その後ろに控えているのは下界の叡智を結集したと言っても過言ではない最高位の
そんな集団から三人の人間が黒竜に向けて抜け出した。
三人とも間違いなく優れた英傑であることが一目で理解出来るだけの迫力を放っていた。
【ヘラ・ファミリア】の旗下から出てきた女は覇者と呼ぶに相応しい圧倒的自負が見てとれるような、破滅的で見るものに恐怖と不安を抱かせるほどの覇気を放っている。
【ゼウス・ファミリア】男の迫力は女には負けるがしかし、先の女の迫力が周囲を威圧するものとすると、男は戦闘者として完成した者だけが放つ武威を纏っていた。
【アレス・ファミリア】の旗下より出てきた男
その男を表すに相応しい言葉は一つしかない。
『大英雄』
そう呼ばれる男は威風堂々とした姿を見せながらも笑顔だった。緊張という言葉から程遠いような溌剌としながらもヘラヘラと笑顔のまま歩き出す。
そして大英雄が黄金と黒鉄の意匠が凝らされた美麗な大剣の切っ先を『隻眼の黒竜』に向けて語りかけるように話す。その声は大きくはないが、不思議と遠く離れた黒竜に届いているだろうと思わされた。
「
瞬間、夜闇を切り裂く流星のような黄金の斬撃が遠く離れた黒竜へと飛翔した。斬撃が激突した箇所には薄いながらも黒い鱗に傷が付いていた。
それはほんの僅か、生命に影響を与える事は叶わないがしかし、確かに現実に起こった偉業だった。するととぐろを巻いていた黒竜が確かに大英雄を見据えていた。黒竜が敵と見なしたのだ。この者の一撃は命に届き得ると、脅威と認めたのだ。
黒竜に敵と見なされたという死が確定したような危機的な状況下においても大英雄は笑顔だった。ヘラヘラと友人と談笑しているような気楽さで後ろにいる味方達に語りかける。
「さぁ行こうぜ。俺は別にみんなが言うほどたいした奴じゃないんだ。だから頼むよ、俺を助けてくれ。そうすれば俺はきっと、みんなと勝利ってやつを分かち合えるはずだ」
みんなが死を覚悟した強張った顔から馬鹿な友人を見るような視線を伴った呆れた表情に変わっていく。きっとコイツは気を紛らわすためでなく本気で言っているのだろう。
あぁそうだった。この馬鹿はこれまでの死線もこんな風に笑って切り抜けて来たんだった。
笑顔が浮かぶ。勇気が湧き出る。力が溢れる!必ずしも生きて帰れる訳ではない、死ぬ可能性の方が高いだろう。
しかし、確かに、黒竜へと武器を向けて走り出す集団の中に恐怖に染まった者は一人としていなかった。
これは最終章であり、序章でもある。
ただ一つ本当に確かな事はみんなは壊滅し、この戦場から生きて帰ってきたのはたった二人だけだったということだった。