それでは本編
少女は嘆きながら呟いた。
――私では何かを守ることはできない。
少女は泣きながら呟いた。
――私では何かを壊すことしかできない。
少女は悲しみながら呟いた。
――私が、この世界に存在するには壊すしかない。
少女は泣くような、笑うような、そんな顔をして呟いた。
――だから壊し続けるしかない。
*
香霧堂の一角が爆発によって吹き飛んだ。
「……生きてるかい?」
「生きてるな、死ぬかと思ったけど」
「もうやだ、死ぬかと思った、二人とも大丈夫?」
爆発によって発生した煙が晴れて現れたのは、まさに満身創痍と言った具合の三人組。
最初に言葉を発したのは、白い髪のメガネを掛けた青年、今しがた一角が吹き飛んでいった香霧堂の店主、森近 霖之助。
彼に言葉を続けた青髪の青年、彼の名前は近霧 蒼、霖之助と同じく半人半妖である。
怒ったような顔をしながらも二人を心配しながら言葉を重ねた青髪ツインテールの河童少女、彼女の名前は河城 にとり。
なぜ香霖堂の一角が吹き飛んだのか、にとりが怒っているのか、それは5分ばかり遡ることとなる。
*
幻想郷には外の世界で忘れ去られてしまった物や妖怪が流れ込んでくる。
「忘れ去られる」というケースにもさまざまなものがあり、単純に時代が経ち、忘れ去られてしまうだけでなく、使っていた持ち主がどこかに置き忘れた結果、誰の記憶からも消え、流れ込んでくる場合もある。
つまり、外の世界の誰の記憶からも消える、というのが忘れ去られるという事の定義、幻想郷へ流れ込んでくる条件なのだ。
流れ込んできたものは、どこに集まるということもなく、幻想郷のあちこちへと散らばっていく。これらを拾っても使い方がわからないことがほとんどなので、拾うのはせいぜい技術力の高い河童くらいである。とはいっても河童以外の例外もいる。例えば霖之助、彼の能力は「道具の名前と用途が判る程度の能力」この能力のおかげで、彼は外の世界の道具の恩恵を受けることができる。
ただ霖之助のこの能力にはひとつ欠陥がある。肝心な道具の使い方がわからないのだ、よって使い方のみは手探りで探す必要がある。
自分の友人と共に手探りで道具の使い方を探す、これは霖之助の数少ない楽しみの一つだった。
「おーい、霖之助、来たぞー」
「あ、よく来たね、早速始めようか」
この日にも、霖之助は森の近くを歩いている際に拾ったある物の使い方を探るために、友人達を香霖堂へ招いていた。
香霖堂へ着いた蒼はふと疑問を覚える。
「ん?俺とお前以外の姿が見えないんだが……他の奴らは来てないのか?」
「一応呼んだんだけどね……霊夢と魔理沙は今少し忙しいみたいだね、マジックアイテムで連絡してみたけど、声が慌ただしかったし」
「もしかして……異変か?」
「たぶんそうだと思うよ?」
普段から活発的な魔理沙が慌ただしいのはまだしも、マイペースな霊夢が慌ただしくしているという事は異変だろう。今までの経験もあって霖之助と蒼はそう考えた。そのような認識をされる事から、普段の霊夢がどれだけだらけているかが良く分かる。
「二人は異変で忙しいとして……にとりはどうしたんだ?」
「少し遅れてくるって連絡があったよ、いろいろ試してたらそのうち来るんじゃないかな?」
「あいつがいる方が見つかりやすいんだけどな……しょうがないか」
にとりは河童の中でも外の世界の道具について詳しく、使い方を見つけるのがとても上手い。霖之助が現在使っている外の道具の7割は、彼女によって使い方が判明したものである。
「で、今回はいったい何を拾ったんだ?」
「ちょっと待ってて、今持ってくるから……ほら、これだよ」
「ボール……にしては形がごついな」
霖之助が店の奥から持ってきたもの、それは丸っこく、輪がついているボールの用な物だった。
……まどろっこしい言い方をせず、簡潔に言うと、手榴弾である。
「これは一体何に使うんだ?」
「えっと……手榴弾って言うみたいだ、爆発させるために使うらしいよ」
「この前の……えぇっと、バクチク?とかいうやつと似てるな」
「爆竹だね、あれと違って火をつける紐はないみたいだけど……」
「ならどう使うんだろうな……とりあえずいろいろ試してみるか」
投げる、蹴る、踏む、振る。
思い付いたことを次々に試すが手榴弾は反応しない。
「……一体どうやって使うんだろう?」
「やっぱりこのレバー、これが怪しいと思うんだが」
疑問に思ったらとりあえず触ってみる、それがポリシーの蒼は手榴弾のレバーを弄り始める。
握る……何も起きない。
引っ張る……何も起きない。
「……引っ張っても握っても何も起きねぇな、これじゃ無いのか」
「違うみたいだね……もしかしてこの輪っかを抜けば……何も起きないか」
ピンの部分を抜く霖之助。しかし何も反応が起こらないことに落胆しながらもピンを元に戻す。
「ひょっとしてその輪っかを外した後にこれを引っ張る……とかなのか?」
「そうか、これがロックなのかもしれないね」
霖之助がピンを抜き、蒼がレバーを握り、引っ張る……その直前に香霖堂のドアが開いた。
「おう、にとり遅かったな」
「よく来たね、にとり」
「やあやあ君たち、今日は一体何の使い方を探すの?」
入ってきたのはにとり、遅れていた彼女である。
「で、今日は何でこんなに遅くなったんだ?」
「いやさ、新聞天狗が朝っぱらから新聞片手にラボに飛び込んできたんだけどさ、なんか霧の湖の所が賑やかになってるらしくて回り道してきたら遅れちゃったんだよね」
「ああ、たぶんそれは異変だよ。霊夢と魔理沙があわてていたからきっとそうだと思う……という事は霧の湖で異変が起こってるのか……」
「……マジかよ、俺の寝座が大丈夫ならいいんだが……」
蒼は霧の湖の岸に家……とは言えない掘っ建て小屋を立てている。
異変が起こっているならただでさえボロボロな掘っ建て小屋がさらにボロボロに、最悪壊れる可能性がある。
「で、君たちは今日は何の使い方を解析してるんだい?この天才河童エンジニア、にとり様が君たちがどうやっても見つけられなかった使い方を見つけて進ぜよう!」
「何で俺たちが見つけてないこと前提なんだよ……まぁ実際今までで見つけたこと少ねぇから反論できねぇけど」
偉そうに胸を張るにとりにイラつくが、事実なので反論することができない蒼と霖之助。そこで二人でアイコンタクト、せめてもの意趣返しに嫌がらせをすることに決めた。
「うんうん、僕たちじゃ見つけられないから超天才にとり様に使い方を見つけてもらおうか」
「だな、俺たちじゃどうやっても見つけられないもんな、見つけられないものはしょうがない、ここは超天才にとり様に見つけてもらおう超天才にとり様に」
「ごめん、私が悪かった、ごめん、許して」
言葉のあちこちに「超天才にとり様」を混ぜながら会話する霖之助と蒼。これにはさすがに超天才にとり様も耐えられなかった。
「まぁ今日のはだいたい見当がついたんだけどな」
「とりあえずレバーを引っ張ってみようよ」
「あ、そうだ、結局今日は何を見つけたの?見せてよ」
蒼は手榴弾のレバーを軽く引っ張る。今までの固い手ごたえとは一変、簡単にレバーが外れたことからこれが正解だと確信しながらにとりに手榴弾を持っている方の腕をだす。
「ん、これだ、使い方もたぶんこれであってるみたいだ」
にとりは蒼が手に持っている手榴弾を見て、一瞬呆けた後、血相を変えて叫ぶ。
「ん?どこかで見たことあったような……――っ!蒼!それ向こうに投げて!早く!今すぐ!」
「いきなりどうしたんだよ……とりあえず投げればいいんだな?」
「急げってバカ野郎!あぁもう!」
にとりは蒼の手にある手榴弾を引っ掴んで香霖堂の端へと投げ、そして叫ぶ。
「どうしたのにとり?そんなに血相を変えて」
「二人とも伏せて!今すぐ!」
事態が全く読み込めない霖之助と蒼、にとりの血相に戸惑いながらも、急いで床に伏せる。
瞬間
香霖堂の一角が爆発によって吹き飛んだ。
*
「はい、今回の反省会はじめるよ」
恐ろしい笑顔をしながらにとりは反省会の開始を宣言する。
「……僕の店が」
「後で直してやるから……先ににとりのお説教だ」
店の一角が吹き飛んだことにショックを受ける霖之助、にとりの説教を恐れる蒼、二人に向かってにとりは疑問を問いかける。
「霖之助、君の能力ならあれが爆発するものだって分かってたよね?なんで気を付けなかったの?」
「この前の爆竹と同じような物かと思ってそこまで危険視してなかったんだ……」
しばらく前に霖之助と蒼は爆竹の使い方を調べていた。爆竹と同じ特徴だと能力で分かったから、大したものではないとつい思ってしまっていた、そう霖之助は述べる。
「にとり、俺の顔に免じて霖之助を許してやってくれ」
「君も怒られる立場だってことひょっとして理解して無いの?」
空気を軽くしようとふざける蒼にあきれながらにとりは突っ込む。
「これからちゃんと気を付けてよ?この前ラボで二人みたいに手榴弾いじくってて怪我した河童がいたんだから……二人は半人半妖でわたし達河童よりも体が弱いんだからね?最悪死んじゃうかもしれないんだよ?」
「悪かった、許せ」
「心配かけてごめん……」
二人が死んじゃったりしたら絶対嫌なんだからね。心の中でそうつぶやきながら、謝る二人を見て満足そうな顔をするにとり。彼女はとりあえず、と
「まず香霖堂を修理しようか、ほらー、みんなも吹き飛んだ部分を集めてー」
香霖堂を修理するために指示を出しはじめた。
分かったよ、へいへい、と言う二人の返事を聞きながら、にとりも作業を開始する。