東方紅恋記   作:秋鶏

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第三話、魔法少女の不安

「フランドールが逃げ出した?」

「ああ、フランドールの事は……前に一回言ったけど覚えてるか?」

「ああ、君と霊夢が異変を解決するために紅魔館に乗り込んでいった時の事だろう?確か首謀者のレミリア・スカーレットの妹……で合ってるかな?」

 

 少し前、霖之助が魔理沙と食事をしていた時に、魔理沙が霊夢と二人で紅魔館の異変を解決した事を自慢していた。その時の話題にも少しだけ出ていた少女、フランドール・スカーレットの事を思い出しながら霖之助は話を続ける。

 

「ああ、その認識で間違いない。」

「逃げ出したってどういうことだい?」

「フランドールはちょっとばかし能力が危なくてな、レミリアが幽閉していたんだが……」

「逃げ出しちゃったってことか、そんなに危険な能力なのかい?」

「最悪――幻想郷が崩壊する」

 

 魔理沙の返しに、一瞬霖之助は言葉を失う。

 

「もうちょっと具体的に言うと、博麗大結界が破壊される危険性がある」

「あの強力な結界を?そんなことが出来る能力なんて……」

「フランドール自身には別に破壊しようなんて意志はないだろう、あいつ自身には、な」

「確かにあの結界は大抵の攻撃は聞かないほど強い、だけどフランドールの能力は結界の概念自体を壊すんだ、結界がいくら強くても関係ない。そして今回の話の肝なんだが……紅魔館の連中の話によると、フランドールは精神が不安定なんだ」

「精神が不安定……?」

「多重人格と言ってもいいのかもな、周期はランダムらしいがそこらへんの物を手当たり次第に壊しながら暴れだすらしい、とりあえず最近はなってないみたいだが……逃げ出したのなんて初めてらしいし、できるだけ急いで連れ戻したほうがいいだろう」

「結界を壊すほどの能力を持っていて、さらに手当たり次第にあたりを破壊しだす可能性がある、か……蒼が無事だといいんだけど」

「とりあえず今も捜索中だし、たぶん紅魔館の近くの森からは出てないと思う……一応気を付けてくれよ」

「了解、異変が解決したらうちにおいでよ、どうせ食事もとってないんだろう?ご飯作っておくよ」

「ああ、頼んだぜ、探索に戻るしそろそろ切る、じゃあな」

 

 マジックアイテムを置いて、霖之助はため息をつく。

 

「なんで蒼はよく厄介事に巻き込まれるかなぁ……」

 

 とりあえず心配しても仕方がないし、料理でも作ろう、そう考えた霖之助はキッチンへと向かう。

 

 

 

*

 

 

 

 

 なんで今まで外に出ようと思わなかったのだろう、そう自分を責めずにはいられないほど、外の世界は美しかった。この美しい風景へ踏み出そうと――

 

「痛っ!?」

 

 破壊した壁から一歩踏み出した瞬間、全身に焼けつくような痛みを覚えた。

 そういえば、私たち吸血鬼は日光が弱点だとどこかで聞いたか見たような気がする。

 とりあえず日光から逃れよう、痛みを堪えながら、紅魔館を囲っている森の木の陰へと隠れる。

 いくら太陽がきれいだといっても、日光は痛いしあまり浴びたくない。そう考えて私は森の中を進むことにした。

 森を探検することに夢中な私の頭からは、当初の不安は吹き飛んでしまっていた。

 

 

 

*

 

 

 

「紅魔館ってどっちだったっけ……」

 

 森の探検に夢中になる内に迷ってしまったらしい。

 木々の隙間から顔を出すと、紅魔館を囲っている湖を見渡すことができるが、

 もう日は暮れてしまってあたりは真っ暗になっている。

 最近は安定しているし大丈夫だろうが、早めに帰るに越したことはない。

 もちろん帰れば姉の説教は避けられないだろうが。

 そう考えたら憂鬱だな、そう思いながら、目の前に落ちていた木の枝を、まるで自身の心境を反映したかのような、空の色を鏡のように映した湖の水面へと投げ込む。

 

 ぽちゃん、と水が跳ねる音が聞こえた数秒後。

 

「――っ!?」

 

 

 突然物音が聞こえた。

 妖怪だったりしたら厄介だし、とりあえず草むらに隠れよう、そう考えて私は草むらへと体を滑り込ませた。

 

 

 

*

 

 

 

 香霖堂での話が長引いたせいですっかり帰るのが遅くなった蒼。

 自宅へと帰り着いた時にはもう真夜中だった。

 

「疲れた疲れた、やることもないしさっさと寝るか」

 

 そう独り言を言いながら蒼は自宅の掘立小屋のドアを開けようとして――ある違和感を感じた。

 その違和感の元を探そうと、あたりを見回し始める。

 特に変化はない、気のせいか、そう考えた瞬間違和感の原因を発見した。

 静かすぎるのだ、真夜中だからという言葉では説明できないくらいに。

 風の音や草木の音はするのだが、全く虫の声等が聞こえない。

 

 例えるならそう、まるで生き物が一斉に恐ろしいものから逃げ出してしまったかのように。

 

「……ちょっと見回りしてくるか」

 

 

 

 

*

 

 

 

 森の見回りを始めた蒼、やはりどこからも生物の声や音が聞こえないことを確認する。

 もう少し奥まで見てみるか、そう考えた蒼は森の奥へと進んでいく。

 その時、ぽちゃん、という音が響いた。

 誰かいるのだろうか、そう考えて音の聞こえたほうへと足を進めていく。

 

「……気のせい、か?」

 

 音の聞こえたほうへ進んでも見つけられるのは木々と湖のみ。

 崖のようになっている湖の岸を覗き込むも、何も見つけることはできない。

 その時、背後の草むらから突如物音が響いた。

 驚き、反射的に振り返る蒼、その彼の身を突然浮遊感が襲った。

 

 ――足を踏み外した

 

 彼がそう思った瞬間、衝撃と共に冷気が彼の体を襲う。

 突然夜中の湖の冷水を浴びせられた蒼の体は強張り、いくらもがいても湖の中へと沈んで行ってしまう。

 蒼の口から発せられる悲鳴はもはや言葉にもならず、水中に気泡を作るのみ。

 思考が白く染まり、彼の意識がなくなる寸前。

 彼は誰かが水面へと伸ばした自分の手を誰かが握りしめたような感触を覚えた。

 その感触を感じた瞬間、彼の意識は湖へと飲み込まれていった。

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