東方紅恋記   作:秋鶏

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第四話、月と水面と吸血少女

 草むらへと体を滑り込ませる私。

 そんな私の視界へと飛び込んできたのは、蒼い髪の青年だった。

 彼は周りを見渡しながら湖へと近づいていく。

 今のうちにどこかへと行ってしまおうか。

 そう考えゆっくりとした動きで草むらを抜けようとする……が、少し体を捻ったはずみに、草が擦れ合う音が響いてしまう。

 案の定その音に気付いたのか振り向こうとする青髪の青年。

 危機感を覚えた私は急いで体を地面へと倒し、見つからないように祈り続ける。

 

 ……?

 

 いくら待っても青年がこちらに来るような音は聞こえない。

 聞こえるのはバシャバシャという水の音……って、もしかして!?

 

 急いで湖の岸に駆け寄ると、1mほど下に見える水面で先ほどの青年がおぼれていた。

 

 

 

*

 

 

 

「どうしたらいいんだろう……」

 

 木の枝を支えにして青髪の青年を湖から引っ張り上げたのはいいが、気を失っているみたいだ。

 放っておく訳にもいかないしなぁ……

 起きるまで待つしかないな、そう考えて私は彼を地面へと寝かせて、地面へと座る。

 

 ちょっとはしゃぎすぎちゃったかなぁ……

 今日一日の自分の行動を振り返ってそう思う。

 はしゃぎすぎた挙句に道に迷ってしまうなんて、あまりの恥ずかしさで顔から火が出てしまいそうだ。

 とりあえず、この人が起きたら道を聞いてみよう。早く帰らないと自分が抑えられなくなったら大変だしなぁ……今までの自分の体感からするとまだ大丈夫だと思うけど……

 

 そんなことを考えていると、青髪の青年が目を開けた。

 

 

 

*

 

 

 

 意識が覚醒する。

 目を開けた蒼の視界に入ってきたのは、黄色い髪のサイドテールをした、一人の少女だった。

 顔立ちは整っていて、空に浮かぶ月の光の影響もあってか、神秘的で美しい印象を受ける。

 背筋がぞくり、とする。

 

 ただの美しく、幼い少女のはずなのに、蒼、はまるで蛙が蛇ににらまれた時のような、天敵の脅威に晒された際かのような、ある種の恐怖を覚えた。

 

「よかった、気がついたみたいね」

「あ……君が……助けてくれたんだよな?」

「水音がするから近寄ってみたら溺れてて……もう大丈夫?」

「おう、大丈夫だ」

 

 少女の表情に心配そうな色が浮かんでいるのを見て、恐怖を振り払うように顔を振り、蒼は少女に心配をかけまいと答える。

 

「ああ、そうだ、えっと……名前、教えてもらってもいいか?」

「名前?えっと、私の名前はフランドール・スカーレットって言うんだけど……」

「スカーレット?……どっかで聞いてことがあるような気がするな」

 

 どこかで聞いたことがあるような名前、しかしいつ耳にしたかを思い出せず、すっきりしない気持ちを抱えながらも、蒼は話を進めようと、口を開く。

 

「えっと、フランドール?助けてくれたのはありがたいけど、何か今日は森の様子がおかしいんだ、早く森から出たほうがいいかもしれない」

「恥ずかしいんだけど……私、道に迷っちゃったみたい、個人的にも少し事情があって早めに家に帰りたいんだけどね」

「迷っちゃったのか、一応ここらへんの地理には詳しいから、家が近いなら送れるが……フランは何処から来たんだ?」

「フラン?」

 

 突然目をぱちくりさせるフラン、一瞬何を言われたのか分からないような顔をして、少し考えるように固まって、そして、彼女はふふ、と鈴が鳴るような笑い声を上げる。

 そして蒼に向かって

 

「あ、ごめんなさい、私フランドールとしか呼ばれたことがなかったの。愛称で呼ばれるのなんて初めてだから……」

「ああ、ごめんな、ちょっと長かったから勝手に短くさせてもらった、みんなから堅苦しい呼び方されてんのな、フラン」

「私……友達いないから、そういう呼び方してくれたのはあなただけなの」

 

 山の中に引きこもっている妖怪などは他人と関わりを持たないことも少なくない、この子もそういう生活をしていたのだろうか、そんなことを考える。

 

「それで、どこから来たんだ?」

「湖の畔にある赤色の館、紅魔館っていうんだけど知ってる?」

「ああ、あそこか」

 

 蒼自身も湖の近くに住んでいるので紅魔館の事はよく知っている。

 あそこの館にはレミリア・スカーレットという名前の吸血鬼が住んでいる。

 そう考えたところで、蒼はふとあることに気付く。

 

「あれ……もしかして、フランってレミリア・スカーレットの姉妹なのか?」

「そうよ、私が妹なの」

「ってことは、吸血鬼なのか、吸血鬼には蝙蝠のような羽があるって聞いたことがあるんだけど、フランには羽はないのか?それとも出したり仕舞ったりできるのか?」

「生まれつき、無いの」

 

 フランは一瞬顔を強張らせ、その後に笑いながらそう言う。

 彼女が一瞬浮かべた悲しそうな表情を考えるに、触れてはいけない話題だったようだ。彼女のコンプレックスでもあったのかもしれない、そう思った蒼は話題を変えるべきだと考え、次の言葉を口に出す。

 

「そうか、吸血鬼ならやっぱりいつもこういう時間に外を歩き回ってるのか?」

「……久しぶり、かな、外に出ようとすると、お姉さまに止められちゃうの」

「吸血鬼はプライドとかを大事にするって聞くし、迂闊に出歩くのはよくなかったりするのか?」

「あー、うん、そんな感じ、かな?」

「とりあえず、紅魔館まで送るよ、急ぎの用があるんだっけか」

「急いで帰らないとお姉さま達も探してるだろうから、お願いします」

「フランには溺れかけてたのを助けられたしな、これくらいはお安いもんだよ」

 

 会話を交わしながら、蒼とフランは紅魔館を目指すべく、ゆっくりと歩を進め始めた。

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