「我々は今未知との遭遇を果たした!かのエイリアンとの接触を図り地球に帰還するのが我々の任務である!そこんとこオッケー?隊員830☆」
本棚の森の中で都筑の声が木霊しました。貴方はすぐに彼女の口を塞ぎ周囲を見回します。どうやらあのゾンビは見当たりません。
「フゴー!行き成り何するの!エッチ!スケッチ☆ワンタッチ♪ポットにレンジに洗濯機☆本当に最近は便利な物が増えたよねー☆ボタン一つでポンッと出来ちゃうんだから♪だが便利に溺れるな人類よ!怠惰は種の衰退に繋がっているぞ!ドゥーユーノーアーンダスターン?隊員830?」
貴方は彼女に「少し静かにして!と言うか隊員830って何!」と言い放ちました。それを聞いた彼女は胸を張りながら得意げにこう言います。
「教えてあげよう☆830っていうのは矢沢って意味でえいちゃんファンの間では車のナンバーとかにしてるんだよ♪これで貴方もえいちゃんファン!やったね♪」
何がやったね♪なのか分からない貴方は彼女を無視して移動を開始します。彼女の方もさして気にしていないのかその後を付いてきました。
「隊員830!警戒を怠るな!一瞬の隙が死に繋がるぞ♡常に周囲に気を配るのだ☆前方何もありません!私達の未来の様!暗い人生鬱になる♪左方本棚!本がメッチャある!右方本棚!本だけ☆本だし☆本尽くし☆上方何も見えません!運命の様に見通せません☆下方床さんこんにちは♪後方未知との遭遇!ゾビ男さんお疲れ様です♡」
彼女の最後の台詞に違和感を感じ貴方は後ろを振り返りました。するとそこには先程遭遇したゾンビが息も絶え絶えといった感じで両膝に手を付き肩で息をしています。
それを見た瞬間貴方は走り出しました。すると後ろから都筑とは違う声がしてきました。
「ま、待っておくんなもしー!待っておくんなもしー!話を!話を聞いてもらいたいんなもしー!ボクと契約して魔法ゾンビになってほしいんだなもしー!何でも好きな駄菓子を買ってあげるんだなもしー!」
後ろから聞こえてくる意味の分からない台詞を無視し貴方の逃走劇は続きます。
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日も暮れ夜の戸張が降り暗闇が支配する中、人里の広場は無数の松明によって昼の様な明るさが造られている。
明るいのは光だけではなく軽快な笛の音や力強い太鼓の音、楽しそうな人々の歌声だ。そしてそれ以上に力強い女性の声が木霊する。
「どうしたお前等ー!もっと燃え上がれー!熱くなれよー!もっと熱くなれよー!」
巨大な和太鼓を叩きながらその音に負けないほどの声量でそう叫ぶ金髪の女性。
和太鼓と共に降ってきた女性の名は「夏風(なつかぜ)」、幻想郷の夏の神だそうだ。源時が言っていた“あの方”とは彼女の事だった。
登場の仕方も豪快だったが性格の方もかなり豪快な子だった。ちなみに和太鼓に潰された副メイド妖精?と祭君が呼んでいた子は意外にも生きておりあの後に現れた数人のメイド妖精に引きずられ帰っていった。
僕の隣りでは祭君と源時が酒を飲みながら盛り上がっている。
「見ろよ兄弟!夏風様のあの胸元!サラシって所がたまらんだろう!艶めかしいお尻にあの脚線美!どうだいいものだろう!」
祭君の肩に腕をまわしながら源時はそう声高に力説し、それを聞いていた祭君は逆に落ち着いた様子で、
「おいおい止めてくれよ源時のお兄さん、それじゃぁ只の変態だぜ。いいものか、だってそんなの……最高じゃないか!」
キリッとした笑顔でそう叫ぶ。
「兄弟!!」
「源時のお兄さん!!」
「「 同士よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 」」
二人はそう叫ぶと熱い抱擁をかわす。仲良き事は美しきかな、うんうんこれが絆っていうんだね……多分。
「おう!こんな所に居たのか!探しちまったぜ!」
突然声をかけられて声のした方を向くとそこには今話題にしていた夏風が立っていた。
「慧音に聞いたぜ、お前達外来人なんだってな!私の祭は初めてだろう、楽しんでるか?」
「もちろんです!いやーこんな美人に逢えて俺は幸せ者です!」
酔っているからか何時も以上に正直な祭君の発言に夏風は気分を良くしたのかカラカラと笑い祭君の肩に腕をまわす。
「あーはははははは!いいねー!あんたみたいなのは私は結構好きだぜ!おーし飲むぞー!源時ーー酒持ってこい!」
夏風にそう言われた源時は「すぐに準備します!待っていてください!」と意気込み走り去った。
「おぉそういえばまだ名前を聞いてなかったな、私は夏風だ!」
「俺は飛ノ田祭と言います!よろしくお願いします夏風様!」
「僕は七枷虚空だよ、正確に言うと外来人じゃないんだけどね、まぁそこはどうでもいいか」
そしてその後源時が持ってきた酒で飲み合いが始まった。
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「なぁ秋って死ねばいいと思わないか?いや死ね!」
あれから時間が経ち顔を朱色に染めた夏風が唐突にそんな事を言い出した。ちなみに源時は既につぶれ大の字になっていびきを搔いており、祭君も半分意識が無いのか船を漕いでいる。夏風にガッチリ肩を組まれているので倒れる事はなさそうだが。
僕はというと変な体質の為酒に酔えない、こういう場合は回りに取り残されてしまうので少々困る。
「とりあえず聞くけど秋って殺せるのかい?」
「あ~~秋にも神が居てな~~そいつ等は秋姉妹っていうんだが~~~そいつ等がいなければ私の季節が長くなるだろう!というかそもそも秋の存在価値がわからん!必要無い!必要無い!消えちまえばいいんだよ!あの地味姉妹なんて!」
隣りの祭君を激しく揺らしながら声高にそう叫ぶ夏風。その秋姉妹という子達と一体どんな確執があったんだろう。それぞれの季節に良い所はあるんだけど、季節を司る神だから自分の季節が長い方がいいに決まってるか。
「こら~~~祭~~~~聞いてるか~~~~!!よ~~~し!これから私が夏が如何に素晴らしいか説法してやる~~~!今夜は寝かせね~~~ぞ~~~!!あーはははははは!」
普段の祭君なら美人に密着されて有頂天になりそうだが、深酔いした挙句激しく揺さぶられたせいで死に掛けている。明日の朝に引きずらない様に薬でも飲ませようかな。
そして夏風の説法は空が白むまで続くのだった。
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おはようございます外の世界にいるお母様、貴方の息子であるわたくし祭は只今不可解な事に遭遇しております。
状況を整理させて頂きます。天井を見るに此処は俺の家で間違いありません、この寝心地は俺の布団で間違いありません。昨日の夜の事は上手く思い出せませんがどうやら家には帰って来ているようです。
ゆっくりと視線を横に動かすと俺を抱き枕代わりに寝ている夏風様がいらっしゃるじゃあーーーりませんか!ふくよかな胸の感触が実にイイ!かなりイイ!正直に言おう!はははは!最高だッ!
って言ってる場合じゃない!どういうことだこれは!何でこんな事に!説明を!説明をプリーーーーーズ!!
「あ、おはよう祭君。気分は悪くないかい?」
「あ、おはようございますって違う!虚空さんこの状況は何!説明を求む!」
何時もの様に暢気な雰囲気を纏った虚空さんが現れたので説明を求めた。
「っん?えーと昨日の夜っていうか今日の朝方になるんだけど祭君も夏風も酔いつぶれちゃってね、あのまま放置できないから纏めて連れ帰ったんだよ。で、面倒臭いから一緒の布団に寝かせた訳。それでさっきまで広場で寝ていた他の皆も家まで運んでいたんだよ」
「…面倒だから一緒に寝かせたってあんたは………ありがとうございます!!」
「祭君のそういう正直な所は大好きだよ」
俺達がそんなやり取りをしていると夏風様が「ん~~~~」と声を出しながら目を覚ました。まだ頭が回りきっていないのか抱きしめている俺と至近距離で見つめ合う。
「……おはようございます夏風様」
「………………何してんだテメーーーーーーーーーー!!!!!!!」
太陽が燦燦と輝く夏が訪れた人里に俺の悲鳴が蝉の鳴き声に混じり響き渡った。