本を読んでいたあなたの耳に不意に不思議な音、いや音楽が聞こえてきました。
気になったあなたは本を閉じ音を頼りに本棚の森を進んでいきます。
そして本棚を五つほど過ぎた先にあった広場で驚くべき光景を目にします。
「ンババイヤイヤメラッサメラッサ!ンババイヤイヤメラッサメラッサ!ンババイヤイヤメラッサメラッサ……」
あなたが目にしたのは大きなキャンプファイヤーの周りで不思議な踊りをしてグルグル回っているピンクとゾンビでした。
あなたは近くに置いてあった「消化祈願☆」とよく分からない事が書いてある水の入ったバケツを手に取ると躊躇無くキャンプファイヤーにぶっかけました。
バケツ一杯の水でしたが炎は不思議と消え、それを見たピンクとゾンビがあなたに突っかかってきました。
「ちょっと!ちょっとちょっとちょっと!いきなり何するの!え?何サバトなんてやってるのか!って?いやだなーそれは誤解爽快擦れ違いだよ♡私達がやってたのは皆大好き夏休みの友にして永遠の健康法《ラジオ体操》だよだよ☆って何が悲しくて休みに早起きしなきゃいけないってんだコラッーー!来いよアグ〇ス!ラジオを捨ててかかってこいよ!」
何時もながらよく分からない逆ギレを起こす都築。
「そうなんだなもし!健康の為にラジオ体操は大事なんだなもし!え?身体が腐ってるから意味無いだろうって?非道いんだなもし!非道いんだなもし!ゾンビ差別なんだなもし!ゾンビが健康に気を使ったらいけないって言うんだなもし!」
ゾビ男はそう叫ぶと血の涙を流しはじめました。もはやホラー映画です。
「ゾビ男!私達はこんな所でラジオ体操を止めたら駄目駄目なんだよー♪さぁ続けよう!Let's 体操♡」
「そうなんだなもし!我々なら出来るんだなもし!我々の健康を捧げて魔王サタンを降臨させるんだなもし!」
やっぱりサバトじゃないか!とあなたなツッコミが轟きました。
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拝啓 母上様 神奈子様 諏訪子様 ついでに早苗
迎秋の頃 如何お過ごしですか?季節の変わり目で体調等崩されていなければよいのですが。
母上様 周りに迷惑などかけてはおりませんか?気分が高揚すると暴走しやすいので心配です。
神奈子様 お酒の飲み過ぎなどにはくれぐれも御注意くださいませ。
諏訪子様 少しは家事等をしてください。
早苗 お前についてはあえて何も言うまい……
色取り取りの光弾が視界を埋め地面に着弾すると激しく炸裂し光と衝撃を生み出す。その爆発に周囲にいた俺や源時のお兄さんや八百屋の旦那や男達が風に吹かれる木の葉の様に吹飛ばされた。
「「「「「「「 ギャアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!! 」」」」」」
吹飛ばされる俺達を他所に事の元凶である三人、いや三神は、
「季節諸共消し飛びやがれ地味姉妹ッ!!!!!」
『クサレ死ねーーー!!阿婆擦れ西瓜ーーーーッ!!』
互いを激しく罵りあいながらスペルカードを天にかざしている。何故こんな状況になったのか……
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時間は少し遡り――――――
「幻想郷って本当に不思議なとこだよねー」
俺の隣で虚空さんがのんびりした口調でそう呟いた。
今俺達は長家の玄関前で里の風景を眺めている。燦々と照りつける太陽の日差し、木々に張り付き命懸けの鳴き声を上げている蝉達、里のあちこちに咲く夏の草花。
気温も高くハッキリ言って暑い。俺は半袖なのに何故か隣に立つ虚空さんは長袖だ、しかも黒!見てるだけでこっちが暑くなる。
本人曰わく「永く生きてるからねー、アホのように寒い時代とか馬鹿のように熱い時代とか経験してるから慣れちゃった」との事だ。
暑さにうんざりしながら視線を里の外側に見える山々に向ければ木々は赤茶色や黄色に化粧をし一般的にいう秋色に染まっていた。
そう、さっき虚空さんが言った不思議とはこの状況の事。里の中は夏なのに里の外は秋なのだ。明らかにおかしい……
「……どういう事なんだコレ?」
「なんだろうね~何となく面倒事の匂いがするな~」
現状に頭を捻る俺達。するとそこに全力疾走で近づいてくる源時のお兄さんの姿が見えた。
「兄弟此処にいたのかッ!時間が無い一緒に来てくれッ!」
俺達の元に辿り着いた源時のお兄さんは一方的にそう俺に告げると俺を脇に抱え来た道を全力で走り出す。
「ちょッ!!いきなり何すかッ!!一体何がッ!!」
突然の出来事に素直な疑問を源時のお兄さんにぶつけると、
「今から我等は修羅に入る―――――――戦争じゃァァァッ!!」
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連れてこられたのは里の中にある広場。そこには既に大勢の男達が集まり広場に中心で二つの集団に別れ対峙していた。
片方は夏風様を先頭に里の若い男衆。それと相対しているのは見た事の無い良く似た金髪ボブの二人の少女、その後ろには八百屋の旦那を始め里の年配の男衆が集まっている。
「遅ェーーぞ祭!まぁいいや、ともかくこれで役者は揃ったな!」
「夏風様……これは一体――――――」
「……祭君、君はそちらに付くのかい?嘆かわしい!本当に嘆かわしい!減給だッ!」
「意味も分からず減給!理不尽だッ!」
対峙するグループの先頭に立つ八百屋の旦那がそんな事をほざいた。この状況の説明をプリーズ!
俺の心の叫びなど聞こえるはずも無く源時のお兄さんが一歩踏み出し八百屋の旦那を指差しながら、
「嘆かわしいのはそっちだコノヤロー!今年こそ決着付けようじゃないか八百屋の親父よッ!俺達『夏風様激萌え隊☆』の前に平伏しやがれッ!!」
「名前ダッセェェェェェェェェェェッ!!!!!」
「ふんッ!若造がッ!非モテの敵がッ!モテ男は死ねッ!それに今の儂は八百屋の店主ではないッ!『秋姉妹振興委員会』の名誉会長だッ!」
「前半私怨じゃねぇか!てか役職多いな八百屋の旦那ッ!」
俺のツッコミを他所に火花を散らす夏風様激萌え隊☆と秋姉妹振興委員会の男達。
両者睨みあう中先頭に立っていた夏風様と恐らく秋姉妹という二人が一歩前に出る。
「さーて覚悟はイイか焼き芋姉妹ッ!」
ビシッ!っと秋姉妹を指差しそんな風に挑発する夏風様に対し指を指された二人は逆に挑発するかのように薄く笑いを浮かべ、
「覚悟するのはアンタの方よッ!露出ビッチがッ!」
「穣子、あまり本当の事を言っては可哀想よ。もっとオブラートに包んであげなさい、そうね……この腐れ売女がッ!くらいに♡」
憤る帽子を被った子に紅葉の髪飾りをした子がそんな事を言っているけど……全然包めてないじゃんッ!!
「露出の何が悪いッ!薄着から見える健康的な肌や胸や尻がどれだけ破壊力があるか分からないんですか貴女方はッ!!」
秋姉妹に突っかかる源時のお兄さん……やべぇぇぇぇ!同意しか出来ない!!
「愚か者がぁぁぁぁぁ!!いいか若造共ッ!隠され見えないからこそ想像力が膨らむんだろうがッ!!そして気付け!ロングスカートから生み出される清楚な魅力にッ!!」
八百屋の旦那も負けじと熱弁する。あれかな年取れば八百屋の旦那達みたいになるんだろうか……単に趣味の違いか……
「ウダウダ言ってても始まらねぇ!いくぜぇぇぇぇ!!」
夏風様はそう叫ぶと頭上にスペルカードを翳した。そしてそれを迎え撃つかのように秋姉妹もスペルカードを翳し声高に叫ぶ。
「その着てる服も吹っ飛ばして赤っ恥かかせてやるわッ!秋符『オータムスカイ』ッ!!」
「その頭カチ割って腐った汁を吐き出させてあげるッ!葉符『狂いの落葉』ッ!!」
二人がスペルカードを宣言すると赤、青、黄の弾幕が波状に襲い掛かる。それを見た夏風様は、
「しゃらくせぇぇぇぇぇぇぇッ!!夏符『熱風一直線』ッ!!」
そう叫ぶと夏風様から秋姉妹目掛けて一本の青色のレーザーが奔る。二人は左右に分かれそれを回避するがレーザーが走り抜けた青い軌跡から今度は小さい青色の弾幕が周囲に巻き散らかされた。
夏風様は秋姉妹の弾幕を慣れた動きで躱し、秋姉妹も同様に慣れた動きで全ての弾幕を躱し切った。……だが一番の問題は周囲に俺達だった。
「「「「「「 ギャァァァァァァァァァァッ!!! 」」」」」
流れ弾の爆撃で吹飛ばされる俺達。それに構わずあの三神は次のスペカを翳していた。
「今のは挨拶代わりだぜッ!!次はこいつだッ!夏日『天空大文字焼き』ッ!!」
「そのはこっちの台詞よッ!受けなさいッ!実符『ウォームカラーハーヴェスト』ッ!!」
「ノウキンが何をしたって結果は一緒よッ!枯道『ロストウィンドロウ』ッ!!」
夏風様の声と共に空に炎で出来た巨大な大文字が浮かび上がりそこから無数の火の玉が降り注ぐ。
秋姉妹の声と共に赤と黄のレーザーや赤色の弾幕が津波の様に襲ってくる。
そしてその流れ弾が再び俺達を襲うのだった―――――――――
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「いや~大変だな」
広場から少し離れた位置で広場で行われている大騒動を見ながら僕はそんな事を呟いていた。源時に連れて行かれた祭君を追ってきてみればこんな騒ぎになっていたのだから困ったものだ。
広場の外を見てみれば里の女性達が
広場の方からは叫び声や悲鳴そして時折「ありがとうございますッ!ありがとうございますッ!」と感謝の声も聞こえてくる。
「あの三神も毎年毎年飽きないよね~~~どうしてあんなに仲悪いんだろ?ねぇ光咲ちゃん?」
「単純に相手の事が気に入らないんじゃないかしら?師匠は何故だか知っていますか?」
お茶菓子を頬張っている音芽と光咲の視線が二人と少し距離を取っていた先代に注がれ、先代は小さく溜息を吐きながら、
「…………知らん」
珍しく不機嫌そうな表情をしながら手に持っていた酒が入っていた杯をあおる。それを見た二人は何かを察したらしくそれ以上質問する事はなかった。
「……虚空、頼みがあるんだが」
「何?先代?」
「何時もなら私があの馬鹿共……ん!あの神々を叩き伏せ……ん!鎮めるんだが――――――丁度いいからお前が止めてくれ」
「ごめんね、何が丁度いいのか分かんないや」
「深く考えなくていい」
僕にそんな頼み事を半ば押し付けようとしているのか先代は僕の反論に聞く耳をもとうとしない。
「さっさと行って来い!」
もはや強制的に僕を送り出すように広場を指差す先代。しょうがないな行くしかないよね。そして僕は未だに弾幕による爆撃が続いている広場に向かう事になった。
それがあんな面倒事になるとはこの時微塵も予想していなかった。
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「師匠……どうして虚空さんに頼んだんですか?」
「不思議とアイツには面倒事を押し付けたくなる」
「……本音は面倒だったからなんだ」