銃というものがこの世界には存在する。アーツも人を容易く殺すが、銃はもっと簡単に人を殺す。俺が生まれる前、ラテラーノという国で銃は生まれた。初めこそ銃はラテラーノの専売特許だった。だが当然それを良く思わない連中が沢山いた。特にウルサス。あそこは本当に戦争の事しか頭に無い。
スパイか裏切りかは分からないが、とにかく銃の技術はウルサスに渡り、それを通して各国に情報がもたらされた。武器商人なんかが本格的に動き始めたのもその頃だ。
各国は一斉に技術研究のレースをスタートした。より扱いやすく、より効率的に、より長距離を狙えて、より携行しやすく。
表向きには銃はサンクタにしか扱えないことになっているが、それは間違いだ。誰でも簡単に兵士になれる。それが銃の最大の利点だからな。だが同時に問題点でもある。銃が未だに表舞台に立てない理由だ。誰もが銃を持つ世界。そんなものが到来してしまったらどうなるのだろうか?という疑念、それが理由。
アーツは良い。鉱石病というデメリットが人を遠ざける。ボウガンも良い。人を殺せるが、銃よりはずっと煩雑だ。剣も良い。習熟しても大抵はアーツやボウガンに劣るのだから。だが銃はダメだ。1週間もしないうちに誰でも人を簡単に殺せるようになる。デメリットなんて精々金が掛かるくらいだ。
だから銃はこの世界においてタブーになった。ハンドガン程度なら探せば売っている所はあるが、それ以外になると国や都市が管理している事が殆どである。まぁラテラーノは例外だが。
逆に言えば、国や都市が管理しているモノを使えるような立場であるなら、ハンドガン以外の銃を使えるという事だ。
イェラグ大使館の地下、金庫室に併設された武器庫で俺は武装を見繕っていた。まぁ基本的にこの世界は物騒だ。この程度は無いとやっていけない。
「9mmのサブマシンガンはあるか?それとハンドガン。後は曳光弾だ」
「Rk62ではなく?」
「スオミを持ち上げてくれるのは嬉しいが、あれは古い上にデカい」
「かしこまりました……一応お聞きしますがアレ、着ます?」
クーリエの秘書らしき男が指さしたのはサンクタ族を模した光輪と羽が付いた服。馬鹿か?と言おうかと思ったが、万一見られると問題なのは確かだ。
「その光輪と羽は必要ない。代わりに外套は貰おう」
「お目が高い。新型ですよ」
「普通の外套じゃないのか?」
外套に目を通す。確かに意匠は機械的だが、何かを出来るようには思えない。
「光学迷彩機能付きでして、ご覧になります?」
頷きをもって肯定の意を返すと、秘書は内側にあるスイッチらしきものに触れた。
「ほう……凄いもんだな。まるで見えない」
「今は充電しているので問題ないですが、内部電源のみでの使用は1分が限界です。よく考えて使用する事をお勧めします」
「使う事が無ければいいが……クルツか、良い銃だ。これが曳光弾か?」
「はい。赤色ですが問題ありませんか?」
「色は重要じゃない」
ベストを着て肩から差し出されたクルツを掛け、外套を羽織る。ハンドガンの名前は分からないが、9mmなのは確認した。曳光弾に中身を入れ替えホルダーへ。まぁ銃なんてのは最終的に、撃って当たればそれで良いのだ。
「試射なさらないので?」
「時間が無い。もし不良品で俺がボスを捕らえられなくても、貸しは貸しだ」
「かしこまりました」
地上へ上がり、空を仰ぐ。そろそろ夕暮れ時だ、夜になる前には終わらせたいところだが。
「連れを頼んだ。マフィア共の首領を連れてくるのは承知したが、その他のマフィア連中への対処はどうすれば良い?」
「お好きなように。只、渡しておいてなんですが、ソレを使うのであれば余り目立たないようにして頂きたい」
「了解」
用意されてあったバイクに跨り、大使館から北東へ。こういう時、警察の無線を使えるのは楽でいい。
騎馬警察はマフィア連中の抑え込みはほぼ完了しているらしく、アジトに残っている連中が抵抗を続けているが、それもじき抑え込めるだろうという話だ。なんだ、有能じゃないか騎馬警察。もっと普段からこの有能さを発揮してほしいのだが。というか逆になんで今働くのか。まぁ現場じゃ少なくはない同僚を殺されているだろうし、そこら辺も関係しているのだろう。
現場に大分近づいたし、そろそろ大通りから路地に入ろうかと曲がった時、違和感を感じた。闘争の匂いというよりは、これはどちらかというと……虐殺の匂いだ。
バイクを路肩に止めアーツをより一層強く発動させる。虐殺の匂いというのは間違っていなかったようでかなりの警官が死んでいるようだ。
「……チャンスか、それともピンチか」
思い浮かぶのは銀髪のループス。血の匂いでハッキリとは認識できないが、恐らくはヤツだ。移動するわけでもなく、同じ場所に立っているようだった。
「番犬のつもりか?そんな風には見えなかったが」
迂回して侵入しても良いが、中でやりあってる最中に乱入されると面倒極まりない。逆にマフィア共はよっぽどあのループスの腕っぷしを信頼しているようで、アジトの中から出てくる様子は無い。外でヤツとやりあう分には増援はなさそうだ。
迂回する方が賢明な判断かもしれないが、マフィアの首領があのヒッグス以外にどんな術師を周囲に侍らせてるかは不明。各個撃破できるならそうすべきか。
こんな事なら狙撃銃を持ってくるんだったなと思いながら歩き出したところで、ヤツの匂いが動き出した事に気づいた。
「嘘だろ?まだ200メートルはあるぞ……」
150メートルを切ったところでヤツが此方に気が付いているのを確信する。アーツか、それともカメラの類かは不明だが、気づかれた以上対処するしかない。
クルツを構え裏路地から大通りへ。射線が通ると同時に一発撃つ。銃弾は狙い通りに眉間へと向かっていったが、当たる前に斬撃で無力化された。
あまり使いたくは無かったが単発からバーストへ、足止めには成功したがあまり効果的ではない。だが完璧に処理されているという訳でもなく、徐々にダメージは蓄積しているようだ。こんな事ならクルツじゃなくてPDWを頼むべきだったなと後悔していると弾薬が尽きた。凄い勢いで接近される。残り75メートル。
ベストからマガジンを取り出しリロードを行う。再度バースト。構わず突っ込んでくるのは流石としか言いようがない。ここまでくるとチキンレースだな。だが俺は楽して勝てるなら迷わずそうする。
撃ちながら片手でハンドガンを取り出し路肩の車へ撃つ。誰のかは知らんが運がなかったな。赤い軌跡が車体に吸い込まれると同時に車は爆発した。
意識外からの爆発は流石に堪えたのか、ループスが倒れる。
「意識はまだあるな?聞きたいことがある」
「……殺せよ。ボクは負けた。そうだろ?」
「じゃ遠慮なく」
トリガーに指を掛けると同時に、彼女の制止の声が聞こえた。
「クーリエ、お前は何をしてたんだ……」
「いやぁ、すいません。抑えはしたんですが、無理でした。それと彼女、重要参考人なんで我々が確保しても?」
「好きにしろ。だが気を付けろよ?そいつの取り扱いを間違えて大使館が火の海とかになっても俺は知らねぇからな」
「自分の身くらい自分で守れますよ」
「そうだと良いが……で、ファイヤーウォッチ、ここまで来ちまったならもう何も言わん。だが指示には従ってもらうぞ」
「了解です!」
心なしか嬉しそうに答えた彼女を見る。まぁ、曲がりなりにも俺が鍛えて、ここ数年で場数を踏んできたヤツだ。俺ももう少しキチンと接してやるべきだったのかね。
「言っとくが俺は怒ってるんだぞ?」
「それでも……やはり捨てられるのは、嫌です」
参ったな。これじゃまるで俺が悪いみたいじゃないか。
「悪かったよ。だが無理するなよ?ヤバいと思ったら逃げろ……そういえばグラニはどうした?」
「彼女は一応正式に騎馬警察所属ですので……その」
「なるほどね。まぁ俺たちがやろうとしている事、普通に犯罪だからな」
「ですが私は付いていきます!」
「犯罪に加担する事にもっと罪悪感を感じてくれよ……」
我ながら現金なもので、慕われている事それ自体は嬉しく思えている自分が居た。
なんか一気に評価やお気に入りが増えて慌てています……我ながらメンタルが薄すぎるッピ!