俺はただ平穏に狩猟でもして生きたかった   作:しおむすび

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森焼塗地 07

「ねぇ、何であの時ボクを殺さなかったの?」

「別に強いて殺す必要も無かったし、元部下に止められたからだな。運が良かったと思っておいてくれ」

 

 行きつけのハンバーガーショップで俺はラップランドと対面していた。俺はチーズ、奴はビッグサイズだ。揚げ物用の鍋やオーブンからはけたたましいビープ音が鳴るし、長い行列は席を圧迫するし、なんならその席である回転イスは最悪な座り心地だが俺はここを気に入っている。ここはうるさくてよっぽど集中しないと他人の話を聞けないから。

 

「俺はクーリエがお前を処分しなかったことに驚いてるよ。どんなアーツを使ったんだ?」

「ハハ、シラクーザの連中が考える事は手に取るように分かるからね。契約の更新って訳さ。多少の不便はあるけどね」

「まぁ俺は態々イェラグやウルサスまで連中を追っかけなくて良い事に安心してるよ」

「なんだ、来ないのかい?ここは随分と退屈そうじゃないか」

「退屈で結構。……なんなら警官だって辞めたい位だ」

「へぇ、じゃあ一体何になろうっていうんだい?」

「辺境の地で猟師でもやりたいもんだよ。追い立てるよりは気長に獲物を待つ方が性に合う」

「その割には随分と楽しそうだったけど?」

「上手く事が運べば誰だってなんだって嬉しいものだよ」

「あぁ……それは違いないね。さぁ、今度はキミの番だ。有意義な質問会にしようじゃないか」

 

 さて、事の顛末はこうだ。シラクーザマフィアのアジトは既にもぬけの殻、ドラ息子のヒッグスは碌な情報を持ってないし、他の派閥のマフィアもとっくにドロン。逆に、たまたま確保したラップランドは少ないながらも有益な情報を持っていた。

 

「じゃあ聞きたいんだが、なんで芋づる式に情報が出る可能性もあるのに、ヒッグスの奴は俺に喧嘩を売ったんだ?」

「あぁ、それなら簡単だよ。マフィアっていうのは基本的に身内に甘いからね」

「それが何で俺共々収容所を襲撃しようっていう考えになるんだよ?」

 

 ラップランドは手についたソースを舐めとると、テーブルに付いた塩の粒を払ってそこに肘を置いた。

 

「そうだね……実はヒッグスやアイツの取り巻きが捕まった時に収容所や病院を襲うのは決まってたんだよね。でここからが問題」

「ヒッグスの鉱石病か」

「ハハッ、その通り。あの時のヤツの顔と言ったら面白かったなぁ」

「……トリップするのは良いが手短に頼むぜ?」

「あぁ……ごめんね?癖みたいなもんでさ。続きだけど、当然鉱石病に罹った奴を次期頭領なんかには出来ない。満場一致でヒッグスは見捨てられたのさ。酷い話だよね?」

 

 相槌を打ちつつストローから薄くなってきたコーラを飲む。

 

「で?何で襲撃が起きたのかを俺は聞いてるんだが?」

「おいおいつれないなぁ。どうせポテトはまだお互いたくさん残ってるんだし、ゆっくり話をしようじゃないか。……あぁ、何で襲撃が続行されたのかだっけ?さっきも言ったけど、マフィアは身内に甘いんだよ。ヤツの置き土産みたいなものだね。だから襲撃関連の計画だけは上等だった。……後は知っての通り、ボクもろともめっためたさ」

「大体は分かったが、じゃああの落し物ってのは何だったんだ?」

「落し物?悪いけどボクも全部は知らないんだ。知ってるのは“ヒッグスはファミリーからは見捨てられたけど、ボスはヒッグスへの情を捨てきれなかった”って事だけ。……今2回質問したよね?ボクもそうさせてもらうよ」

 

 じゃああの落とし物の件は直接的には関係ないって事か?どうにも引っかかるが、ラップランドが嘘をついてないのは匂いで分かるし、取り敢えず納得はしておこう。

 

 冷めてしなったポテトを食みながら、俺はこの騒動についての考察を終えた。分からないことに対して変に考えるのはやめた方が良い。

 

「ファイヤーウォッチとはどういう関係なの?彼女があんなに喋る人間だったとは思わなかったよ」

「昔の話だが……彼女を指揮する立場にあった」

「へぇ?それだけじゃないように感じるけど?」

「それだけ、なんだがなぁ……ファイヤーウォッチは俺を持ち上げすぎだ」

 

 ラップランドは目を細めると、トレイを持ち上げ席を立った。

 

「おい、質問は良いのか?」

「……あぁ、じゃあ最後に一つだけ」

 

 枷を外せば、キミは獣に戻ってくれるのかい?

 

 耳元で囁かれたそれを、俺はポテトをつまみながら聞いていた。

 

「……沈黙もまた答えだね。また逢った時はよろしく頼むよ」

「あぁ、じゃあな辺境の狼(ラップランド)。ロンディニウムを出る前に、アイツらの墓に寄って行くのを忘れるなよ」

 

 手を振って背中を見送る。ラップランドが行くなら、イェラグのマフィア問題も収まるだろう。上手くいかなくても情報があれば最終的にはシルバーアッシュが出張るだろうし。クーリエのお願いの半分くらいは達成できてるんじゃないだろうか。

 

ポテトも大方食べ終わったし、いい加減席を立とうとしたところで呼び止められる。

 

「グラニか……悪いが今食べ終わったばかりでな……一緒に食うのはまた今度な?」

「えー。せっかく一人飯が回避できると思ったのに」

「あぁ……外なら良いぜ?混んでるだろ?列を見てみろよ」

「分かった!」

 

 マジかよ。前にテイクアウト嫌いとか言ってなかったか?……まぁどうせ暇だし、たまには公園のベンチに座るのも悪くないか。

 

 グラニが昼飯を取ってくるのを外で待ちながら、すっかり平和になったロンディニウムの街を眺める。あの騒ぎがたった2日前の事など嘘のようだ。まぁ被害があったのは都市の表層だけで、天災とかが起きた時よりは遥かにマシか。

 

「お待たせ!早く移動しよう。サボってるなんて思われたら嫌だからね!」

「別にサボったって怒られはしないだろ」

「あたしの意識の問題なの!」

 

 公園の曲がりくねった歩道を進み、手ごろなベンチへと腰掛ける。普段はリスなんかの小動物が見れるが、今の季節は皆巣に籠っているのだろう。葉のなくなった木々を見てそんなことを思った。

 

「いやぁ、雪はもう残ってないけど、やっぱり外は寒いねぇ」

「天気は良いんだ。贅沢は言わない事だな……その制服には同情するが」

「なんかこの話前もしなかったっけ?」

「そうだったかな。で?何か報告があるから俺に会いに来たんじゃないのか?」

「そうそう!やっと落とし物が見つかったんだよ!」

「まだそれ続いてたのか?大した根性だなおい」

「あたしはやると言ったらやる女だからね!」

 

 そう言うと、グラニはハンバーガーに口を付けた。俺としてもその件は気がかりだったが、やはり襲撃との直接的な関係はなさそうだな。

 

「で?結局誰が落とし物の捜索を頼んできたんだよ。マフィアの連中じゃなかったのか?」

「違うよ。中央病院の看護師さん。まぁ話を聞くに実は落とし物じゃなかったらしいけどね。あたしは気にしないけど」

「は?どういう事だ」

「この間の襲撃、あたしはまだ詳しい事は聞いてないけど、前署長や中央病院の医院長が関わってたのは知ってるでしょ?」

「それ以外にもいろいろ裏はありそうだが、概ねあの二人に責任が集中してるな」

「医院長が秘密裏に主犯のヒッグスを病院から逃がしたのを知ったおばさんはカルテだけでも取り戻さないとって思ったみたい」

「あぁ、確かに鉱石病患者のカルテは都市国家間で共有される特別製だったな」

 

 医院長が関わってる以上、あまり大それた捜索を頼むわけにもいかなかったと。まぁ署長もグルだったんだが。

 

「とにかく一連の事件は解決したって事だな?」

「そうだね。まだ色々、事後処理とかは残ってるけど」

 

 隣でごみを纏め始めたグラニの顔からは疲れが感じられた。

 

「あまり気にするな。人間ってのは死ぬときは死ぬ」

「だから納得しろって言うの?あたしには無理」

「まぁ、そうかもな……決して少なくはない人が死んだ」

 

 ライターを付けタバコに火をつける。忘れがちだが、殺人なんてのは滅多に起こらない事だ。例えそれが見知らぬ他人であったとしても。ましてや同僚や知人ならショックを受けるのが普通だろう。

 

「……これが終わったら、あたし騎馬警察だけじゃなくて、もっと他に色々出来ないか、探してみたい」

「好きにすると良い。お前がやるなら、きっと悪い事にはならないさ。だが体には気を付けろよ?」

「分かってるって!」

 

 タバコを携帯灰皿に押し込み腰を上げる。休憩は終わりだ。

 

「話はそれだけか?グラニ」

「あー、実はまたお願いがあって……また頼んでもいい?」

 

 頷いて早くするよう促す。こうやってコイツの面倒を見ていればいい期間は長くはない。きっとまたこの間みたいなことが起きる。だが許されるならば、もう少しだけこの日常に浸っていたかった。

 




とりあえず一区切り付きましたかね……あと数話で森焼塗地は終わると思います。
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