俺はただ平穏に狩猟でもして生きたかった   作:しおむすび

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まだ病んでない。病んでないよ……多分。


森焼塗地 08

 基地を出てからいったいどれほどの時間が経ったのだろう。ウルサスの攻勢は留まるところを知らない。冬ではなく夏に開戦していたらひとたまりもなかっただろうな。そんな風に思いながら瞳に映る小隊を眺める。スコープは使わない、反射光でバレるから。

 

 戦車1、歩兵6か。よくもまぁこんなところまでそんなデカブツを運んできたもんだと感心する。どっからそんな金が出てきてるんだとは思うが、戦車が出張ってこれる程度にはウルサスの兵站は安定しているのは純粋に脅威だ。気を引き締めていこう。

 

 引き金を引くと同時に少し銃身をずらす。戦車のエンジンの爆発音が聞こえる。ボルトを動かし再度引き金を引く。何回かそれを繰り返すと静かになった。士気があんな調子でも兵を出してくるとは、ウルサスはどうしてもスオミを落としたいらしい。カジミエーシュとの戦争がよほど上手くいっていないようだ。

 

「しかし分からないな。夏までだらだら戦争をしていればいいと思うのだが」

 

 そうすれば雪も、ぬかるんだ大地もなくなる。考えられるとするなら時間がない、か。しかし何の?敵将の考えが読めない。戦争とは究極的には政治だ。今回のウルサスの最終的な目標はスオミからの領土割譲だろう。しかし冬に始めた理由は?分からないな、分からないのは怖い。

 

「コマンドポスト、区分は分からないが恐らく機械化歩兵小隊をやった。BD型が1輌と歩兵6だ。場所は……N5かな。N6に近い」

 

 少しのノイズの後に連絡は繋がった。少し前はもっと時間が掛かっていたものだが、最近の技術進歩というものは著しい。

 

『N6に近いN5……はい、確認できました。しかし戦車まで出てきましたか……厄介ですね。どこにあるかは分かりませんが、補給線を絶たなければ』

「それらしい情報はないのか?」

『なんとも言えません。ドローンを上空に放ってはいますが、試作型ですし、前線付近となると精度は高くないので』

 

 技術進歩というと、ドローンも凄いの一言に尽きる。よほど吹雪いていなければ戦場を俯瞰できるのだから。ウルサスが使ってくれなくて本当に良かった。

 

「その言い方だと精度については微妙だがそれらしいものはある、という認識でいいのか?」

『はい。P12の丘にそれらしい泊地が確認できます。ですが』

「精度云々はしょうがないさ。その為に俺たちが居る。それにキャンプが出来てるなら、いずれは落とさなきゃならん」

『了解しました。しかし一旦帰還してください。未だ戦果を挙げているとはいえ、前回の出撃から3日と6時間経過しています。流石にこれ以上は危険です』

「了解した。……ファイヤーウォッチ隊、帰還だ。撤退しろ」

 

 無線から幾多の了解という声が響く。皆それぞれ多くの戦果を挙げただろう。だがそれを喜んでいる暇はまだない。敵は待ってはくれないのだから。

 

 基地に帰還し、あてがわれた部屋で鍵を掛けようとして、ふと我に返った。何で今鍵を掛けようとした?確かそう、グラニに言われて。

 

「あぁ、夢か」

 

 7年前の夢、戦争の夢だ。最近は滅多にみなかったというのに、彼女の顔を久しぶりに見たからだろうか。もう終わった事なのにまだこんな夢を見ているのだから、俺も彼女の事を責められないな。

 

 久しぶりに見る部屋は、ほこりや隅に張った蜘蛛の巣まできっちり再現されている。記憶っていうのは自分の想像以上に保持されているというのは本当らしい。一通り部屋を見渡して懐かしさなんかを感じていると、ある疑問が湧いてきた。いつまで俺はこの夢を見なきゃいけないんだ?

 

 壁に立てかけてある愛銃を見つめ、あれで自決すれば手早く終わるのだろうかとも思ったが、態々やりたいとも思えないので、それは最後の手段だ。

 

「しっかし、こりゃ最後まで付き合わないといけないのかね……」

 

 記憶が違わなければあと2週間後にファイヤーウォッチは壊滅する。目が覚めるタイミングとしてはそこだろう。いつもはそこで目が覚める。まぁどうせ夢だし、隊をほっぽり出して久しぶりにそこらのケワタガモでも狩るか?

 

「そうと決まれば準備でもするか」

 

 愛銃を手に取りいざ征かんというところで、眼前の彼女に気が付いた。流石夢だななんでもありだ。いや……別に現実でも何回かこういう事はあったな。

 

「ファイ……いや、エイラか、どうした?呼んだ覚えは無いが」

「呼ばれないと来てはいけないのですか?」

「いや、別にそんなことは無いんだけどね」

「ならば隊長は私を傍に置いておくべきです。いつ誰が貴方を狙っているのか分からないのですから」

「いやぁ、流石にここには誰もいないと思うんだが?」

 

 というか夢だから死んでも問題ないだろうし。

 

「とにかく、私が傍におりますので!」

「あー、分かったよ。息抜きに狩でも行こうかと思っているんだ、来るか?」

「はい!」

 

 いつもなら彼女を気遣って断るところだが、ここは夢の中だ。疲れという概念とは無縁だろう。さて、となるとケワタガモではなく手ごろな熊当たりを狩りに行くか?

 

 部屋を出ようとしたところで、背中に銃口を突き付けられた。あぁ……悪夢の類だったか。

 

「隊長、貴方が裏切り者だったのですか?」

「あー、まぁ半分くらいはそうかもな」

 

 撃たれる。痛い。が夢の中だからか、傷もなく、また音もない。気が付けば俺は薄暗い独房で椅子に縛られていた。

 

「なら何故私の前で平然としていられるのです!」

「あれは誰にも止められなかった。俺にも、お前にも」

 

 また撃たれる。分かっている、これは俺の呵責だ。7年前の出来事に対する自己防衛。

 

「そうやって余裕ぶっていられるのはいつまでですかね?」

 

 何度も、何度も撃たれる。あぁそうか、俺はこうやって死にたいのかもしれない。

 

「隊長は誰が裏切り者なのかを、本当は分かっていたはずです」

「あぁ、こんなんでも一応隊長だからな。だが分かったところでどうすればよかったんだ……俺は政治家でも、将軍でもねぇ」

「だから隊を見捨てたのですか!」

 

 殴られる。あぁそうだ。どんな理由があったとて俺はあいつらを見捨てた屑には変わりない。

 

「どうした?早く殺せよ……出来ないのか?そうだろうな。これは夢だ」

「……」

「だんまりかよ……参ったな。俺ってそんなに想像力に乏しいのか?」

 

 気が付けば辺りは白い靄のような、何かよく分からない場所になっていた。

 

「あー成程、制限時間って訳ね。マジで最悪な夢だったぜ」

 

 だが彼女との関係を見つめなおす機会を得たのは確かだ。

 

「起きたらアイツの所に行って全部話すよ……それで良いだろ?」

 

 徐々に身体から脳へと情報が伝達されていく。感覚が戻ってくる。あぁ、目覚めだ。目が覚めれば俺はロンディニウムの自室でソファに横たわってる。いや、何かおかしいな……妙に生暖かい……これは一体……

 

「良かった、起きましたか。随分とうなされていたようですが、大丈夫ですか?」

「ヒェッ……」

 

 目を開けるとファイヤーウォッチがそこに居た。

 

「え、鍵?鍵を掛けてたと思うんだけど?」

「グラニさんが貸してくださいました」

「えっ何で?」

 

 何でアイツが俺の家の鍵を持ってるの?

 

「何故と言われましても。とにかく、お元気そうでなによりです」

「あ、あぁ。そうだな……起き上がるが構わないか?」

 

 膝枕からなんとか脱出し昨日の晩に淹れたコーヒーを胃に流し込む。関係を見直すとは言ったが、こんなに早く会うなんて想定してない。

 

「その、出所できたんだな?よかった」

「はい、おかげさまで。まぁ罪を他人に被せたような気がして余りいい気分ではありませんが」

「この際あのエロジジイの所為にしときゃ良いんだよ。気にするな。で、なんでここに?」

「呼ばれないと来てはいけないのですか?……って、なんだか懐かしいですね」

「あ、あぁ。そうだな」

 

 朝食は喉を通らなかった。だってここが夢じゃない根拠なんてどこにも無かったからな。

 




戦車とか出してるけどほんへで出てくるかはんにゃぴ……。でも都市を移動させられる技術力があって迫撃砲や銃火器があるなら開発するやろ……。
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