猫と風   作:にゃんこぱん

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春先の思い出

「じゃあ、本日付でお前らをエリートオペレーターに昇進する。これからもきっちり働けよ」

 

正直現実を受け止めきれなかった。信じられないというか……。

 

間抜けな顔をしながら聞き返した。

 

「……冗談ですよね?」

「なに? ブラスト、お前──ここの印鑑が見えないのか。あのケルシー先生が冗談で印を押すと思っているのか?」

「ってことは……ついに私も認めてもらえたってことだよね! やった!」

「ブレイズ落ち着いて、これは何かの罠に決まってる。そうやって油断させて背後からバッサリやるつもりなんでしょう。僕はわかってますよ」

「訓練ならあり得たな。だが今は訓練じゃない。何、優秀な若者をより活躍させてやりたいと思うのは不自然なことじゃないだろ? ブレイズ、そしてブラスト。おめでとう、これからはもうお前らは俺の部下じゃない。並び立つ仲間だ。よろしくな」

「──……」

 

こみ上げる感情に心が追いつき始めて、喜びとも嬉しさともつかない感情を噛みしめた。

 

拳を握り締めて感慨に浸っていると横から猫女が突撃してきた。不意打ちに対応できず僕は訓練室の床に倒れた。

 

「やった、ついにここまで来たよブラスト! ついに私たちもエリートオペレーターの仲間入りってことだよね、これ現実かな(夢じゃないよね)!?」

「やめろひっつくな離れろ25歳! 良い歳してはしゃぎすぎだよ!」

「え? じゃあ君は嬉しくないの?」

「ないわけないだろ!? あーもう──とりあえず上から退け、重いんだよ!」

「ちょ、女に向かってその口はダメでしょう!? こんの──」

 

あーだこーだともみくちゃになりながら模擬戦に移行する僕たちを、Aceさんが呆れながら見守っていた。

 

武器なし素手のみのスパーリングを展開した結果見事に顔面を撃ち抜かれ、脳震盪により僕はダウン。クソが、このゴリラ女強すぎる。

 

ゴリラが目を回す僕を抱え上げて上機嫌に笑った。

 

「えっへへへ。よーっし、じゃあこれから飲むよ! 良いでしょAce!」

「安心しろ、店の予約はとっくに取ってある、団体席でな。今日の訓練はこれで終わりにしよう──そのぐらいは構わないだろう。俺も、お前らが一人前になってくれて鼻が高い」

「お、降ろせ……、また僕を潰す気だろう、止めろ……うぅ」

「わ、私だって悪気があってやった訳じゃないよ! でも……まさかブラストがあんなにお酒に弱いなんて思ってなかったからさ。大丈夫、お酒は飲み続ければ強くなるから!」

「ケルシー先生に、怒られろ……、Aceさん、こいつを止めてくれ……」

「まあ頑張れや。たまには付き合ってやれ、ブレイズはいっつもお前と飲むのを楽しみにしているんだからな」

「ちょ、言わないでよAce! いい、違うからねブラスト、そんな事実全然ないから!」

「揺さぶるな……というか──居酒屋より先に医務室に連れて行ってくれよ……うっ」

「あ、気絶した」

「脳震盪のヤツを揺さぶる奴があるかバカ者。すぐ医務室へ運んでってやれ。……まあ、お前もほどほどにな」

「わ、分かってるよ……。もう、ブラストったら」

 

運ばれて行った。朦朧とした意識の中で、今後僕はゴリラを見るたびに拒絶反応を出すことになると理解する。

 

だけどまあ、今日ぐらいは──良いのかな。

 

 

 

 

 

 

「では、ブレイズとブラストのエリートオペレーター昇進を祝って──乾杯」

『乾杯!』

 

ジョッキを打ち交わす音がそこら中に響き渡って、僕は苦手な酒を呷った。苦いが……嫌いじゃない。でも苦手だ。

 

「よぅ、おめでとさん」

「Scoutさん。──いや、あなたたちのおかげですよ。この二年間、色々世話になりましたからね、本当に」

「はは、相変わらず硬いな。あの猫ちゃんとは本当に対照的だ」

「あいつがおしゃべり好きなだけですよ。僕は出会ってすぐの人をすぐさま飲みに誘うなんてことはしませんから」

「まあ確かに、あいつが敬語使ってるところを見たことがないのは確かだな。今更畏まられても困るが」

「はは、確かに。でも来てくれてたんですね、Scoutさん」

「何、可愛い後輩のお祝いさ。暇な連中はみんな来てるぜ、ほら──」

「うげ、Logosさんも来てる」

「嫌そうだな?」

「あの人酔うと面倒くさいんじゃなかったでしたっけ。僕覚えてますよ、前みんなで飲んだ時絡まれて──」

「ああ、ありゃあ面白かったな。人にも自分にも酒を飲ませて自滅してくタイプだからな、Logosは。あ、そういやスツール滑走大会の借りを返すのを忘れてたな」

 

突発的に開催された第一回スツール滑走大会を思い出していると、隣にジョッキを持ったブレイズが座った。

 

「ほーら、何話してるの?」

「ブレイズ。やめろ、僕に近づくんじゃない」

「えー、なんでよ! いいじゃん、ブラストは普段全然飲みに付き合ってくれないしさー?」

「僕が弱いの知ってるだろ。お前のペースに付き合わされたらたまったもんじゃない」

「今日くらいは良いじゃん。今日の主役なんだしさ」

「そりゃあそうだ。いやー、正直よくここまで頑張ってきたもんだよ。俺は正直、お前たちは早々に音を上げて後方支援部の方に回ってくと思ってたがな」

「うそ、Scoutってそんなこと思ってたの?」

「俺だけじゃねえさ。ブレイズはともかく、ブラストみてえな……言っちゃなんだが皮肉屋の頭でっかちは、すぐへばると思ってた。多分Aceも同じこと思ってたんじゃないか?」

「……Scoutさん」

「悪かったよ、機嫌直せって。今じゃお前らのことを認めてないヤツなんて、このロドスにゃ一人だっていやしねえよ」

「それはどうもありがとうございます。けっ……」

「ほーら、腐らないの。良いじゃない、今はもう君だってエリートオペレーターなんだから。もちろん、この私もね!」

 

ロドスに加入してからの二年間が、僕たちを強くしたのは実感があった。

 

ブレイズと同時入社──入社というのは奇妙な表現だが、ロドスは一応会社だ──してからの日々に耐え、ようやくここまで来た。

 

これで僕も、感染者のために戦える。

 

鬱陶しく肩まで組んでくるブレイズから離れながら、でも僕も笑った。

 

「確かに。ま、これからもよろしくね、ブレイズ」

「……どーしたのいきなり。やっぱりさっきの脳震盪が効いてるのかな……」

「お前な、お前な! 人が珍しく感謝の気持ちを伝えてやってるってのにな!」

「アッハハハ、ごめんごめん! 分かってるって。もう、普段からそのぐらい素直なら、私だってやりやすいのになー」

「嘘つけ、お前が僕相手に遠慮したことなんて一度だってあったか?」

「それもそっか。それじゃあこれからもよろしく!」

「痛い、痛い叩くな、叩くな、やめないか」

 

バシバシとジョッキ片手に僕の背中を叩くブレイズを、Scoutさんが珍しく皮肉っぽくない笑いを浮かべながら眺めていた。

 

「あ、そうだブラスト。今度の休み、私と重なってたよね。せっかくだしどっか遊びに行かない?」

「……何をする気だ?」

「ちょっと、そんなに警戒しないでよ。同僚からの遊びのお誘いなんだよ?」

「どうだか。前みたいに紐なしバンジーをやらせなかったら、僕だって喜んで承諾していたさ」

「あ、あれはまあ……その、ね。思いの外楽しかったからさ。それでその、どう……かな?」

「……まあ良いけどさ。どうせ休みの日にやることなんて多くないし」

「お? お二人さんデートですか。良いねえ若者ってのは、おいみんな! 主役二人はそういう仲らしいぜ!」

「ちょ、Scoutさん!?」

 

とっくに知ってるよ、だとか。怒らせんじゃねえぞブラスト、だとか。数え切れないほどの野次馬が突き刺さって僕はぎょっとした。

 

これには流石のブレイズも動揺した。

 

「ち、違うからね!? みんな、違うから、ブラストとはその、そうじゃないっていうか、なんていうか! とにかく違うから!」

「そうですよマジ、違います、違いますからッ!」

「ちょっと、そんなに躍起になって否定しなくたって良いじゃんブラスト!」

「お前なんなんだよマジで! どっちなんだよ!」

 

大騒ぎになる居酒屋の中で大声を張り上げる僕とブレイズだが、その会話を肴にされていることには気がつけず、さらにヒートアップした。

 

「あのね、この際言わせてもらうけど! 君は私の扱いが雑じゃない!? お酒飲ませておけばどうにかなると思ってるんでしょ!?」

「え? 違うの?」

「あったま来た……。そんなに私に飲ませたいんなら、君にも付き合ってもらうよ。ちょっと、このお店にあるだけのお酒持ってきてー!」

 

良いぞブレイズ! そのままブラスト潰しちまえー!

 

野次馬が騒いだ。クソが、良い大人たちが雁首揃えて……。信じらんねえ、Aceさんまで……。

 

「お前、僕を急性アルコール中毒で殺す気だな? 僕が弱いの知ってて……」

「大丈夫、私たちはロドスだよ。なんとかなるって──ほら。言っておくけど、逃げられないよ」

「目が据わってやがる……。でも良い機会だ。ブレイズ、お前ことあるごとに僕を巻き添えにしてくるよね。いい加減僕を見くびるのもやめてもらおう。ほら、乾杯」

「乾杯」

 

ブレイズとの飲み比べが始まり、僕は二杯目で死んだ。それからの記憶はない。

 

僕とブレイズは相変わらずの関係だったが、楽しかったことを否定する気はないし、何よりAceさんやScoutさんに並べたことが本当に嬉しかったから。

 

朝方起きて、ゲロの匂いがする部屋を見るのだけは、もう二度とごめんだが。

 

僕とブレイズは、この日からロドスの誇るエリートオペレーターになったのだ。

 

Blaze、Blast。ずいぶん似ている響きだと思う。ドッグタグに刻まれたアルファベッドをなぞると、心地よい感触がした。

 

 




・ブラスト
主人公。エリートオペレーターとして表記される場合はblastになる。
25歳男。別にS級1位ではない。ワンパンマン面白いよね……。

・ブレイズ
ロドスの誇るエリートオペレーターの一人になった。猫耳のゴリラ女。
かわいい。

・Ace
重装オペレーターにしてエリートオペレーター。ブレイズとブラストの上官にして訓練官だった。行動隊E2の隊長。

・Scout
サルカズの狙撃オペレーターにして、Ace同様のエリートオペレーター。そーっと歩く癖がある。

・ロドス
正式には、ロドス・アイランド。製薬会社。
社内に多数の部隊を抱える。製薬会社……?

・なんでAceとかはエースって表記しないんですか?
アークナイツ本編に倣っています。
ブレイズを除くエリートオペレーターはなぜかアルファベット表記になっています。なんでだろうね……。
ここでは、正式なエリートオペレーターにはアルファベットで表記されるってことにしてます。テラにはアルファベットなんてありませんけど、それっぽい言語があるってことで一つ。
ブレイズとブラストは読みやすさの都合上カタカナ表記です。

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