洒落にならない冗談とも言います
「うぅ──……」
重たい……。暑い、狭い……。
苦しさで目を覚ました。
薄暗いテントに、まだ明るい外からの光が差し込んで眩しい。
視界には二人がいた。
胸部を押し付けて苦しそうな顔をしているエフイーターと、普段からは想像できないほどの笑顔を浮かべながらひっついてくるグレースロート。
どっちも死んでる。
何があった……?
……この体勢は、まずい。
よくない。
非常に、よくない。
僕は手を出すつもりはない。二人とも僕に対してはやたら無防備な一面があるが、僕はそういうことをする気はない。責任取れないし。
そう。
責任が取れない。
──イーナの表情がこびりついて、
やめろ。もう考えても仕方ないだろ。
……僕を好きだとイーナは言ってくれてたっけな。
それから、恋愛やらそういうものに僕は一種の怖さに似た感情を覚えるようになった。
──離れない。忘れられない。
僕にそんな資格があるのか?
……テントを出よう。何事も逃げるに如かず。
引き剥がして体を起こした。そのまま立ち上がろうとすると、強い力で引き戻される。
「う──っ。……起きてたの」
「どこ行こうとしてるんだよ〜……。もーちょい寝よ……」
「グレースロート。君まで……」
「……ちょっとだけ」
視線を逸らしながら、グレースロートは呟いた。
体は向こうを向いているが、僕の服はちょっと掴んでいる──。
……珍しく、甘えているのか……?
「分かったって。でも少し離れよう。ね?」
「やだ」
「……まだ酔ってるみたいだね。エフイーター、どんだけ飲ませたの」
「え〜、分かんない……忘れた」
「こいつ……」
明らかにグレースロートは正気じゃない。
目の奥がボヤーっとしてるし……普段だったら絶対ここまで酷くない。
「ん……」
グレースロートが緩慢な動きで両手を僕の体に回した。やんわりと抵抗すると力が強まった。なんでだ?
「ちょっとだけ──」
「ダーメーだー! あたしのだもん……」
「こいつら……」
なんとか脱出したい。手荒な真似もしたくない。
無理だな。どっちかを諦めないといけない。
どうしよう……。
「あのさ。一応聞くけど……僕なんかのどこがいいの?」
「知らなーい。なんでもいーじゃん」
「別に……」
「……。じゃあ離れよっか」
「やだ……!」
「ぬ、う……。力が強い……」
「なんですぐ逃げようとするんだよ〜。あたしのこと嫌いか〜……?」
「嫌いじゃないけどさ……」
「じゃ、なんだよ」
「なんていうか……後が怖い」
「ちょっと! どういう意味だよ!」
「言葉通りだよ……」
エフイーターの方を向いていると、ぐいっと引っ張られた。
まだアルコールが頭の中に残っていて、抵抗する気力がなかった。
「こっち見て。そいつ見てないで、私を見て……」
「君もか……。厳しいこと言うようだけど、君のそれは依存感情だ。その全責任は僕にあるけど、君は自分の感情を勘違いしてるんじゃないかな」
「責任がブラストにあるんなら、とればいい。責任とって」
「……。何言ってもダメか────」
どうしようもなかった。
「ブラスト。あんたが私の横にいてくれたら、それだけで十分だから。居て」
「うぅ、人生の危機だ……」
「どうなの」
背後で唸っているエフイーターが気になって集中できない。うわ飛びついて来た。
猛獣のように襲いかかってくるエフイーターを後ろ手にいなしながら回答を考える。
「……保証は、できないよ。僕も死ぬかもしれない。そんな無責任な言葉、僕には言えないしさ」
「じゃあ死なないで」
「それも難しいかもしれない。僕も……
「やだ」
「やだ、ってね……──ちょっとエフイーター、大人しくしてろ。いい子だから、いい子だから……」
猫か犬を撫で回すように頭をわしゃわしゃと撫でるとエフイーターは大人しくなった。なんだこいつ……。シリアスに挟まらないでくれる? 集中できない……。
「僕の希望は、君が一人でも生きていけるようになることだよ。そうなってくれたら、僕も安心だし……」
「……一人は、寂しい。そばに居てほしい」
「おぅ……。あのさ、大丈夫だよ。僕が居なくなっても、君の隣にいてくれる誰かが現れる。きっとね」
「ブラストじゃないとやだっ」
「おーまいごっと……。グレースロート。この世界に永遠はないんだよ」
「……どうして、隣に居てくれないの」
「
ついには手元にじゃれついてくる
「出来る限りのことはするよ。グレースロート、君が大人になるまでは……せめて、僕が」
「……それなら、いい」
赤らんだ顔のままグレースロートも気絶するように眠った。こっち側に倒れて来た──。
ゴロゴロ言い始めた熊猫と僕の膝で眠る小鳥。
──逃げられないよな……。
逃げたい。
起きた時一体何が起こるか、想像したくもない。
……。今でこそ、酔っ払っているからか正気が無いが──起きた時は違うだろう。
テント入り口、手を伸ばせば届く距離に缶があった。手を伸ばして取ると、まだ中身があった。酒だ。
……まあ、嫌なことやら、都合の悪いことがあった時は……飲むに限るね。
僕は9%をイッキして死んだ。逃げたとも言う。
薄れゆく意識の中で、ブレイズが怒っているのが見えた。ははは、あいつの幻覚を見るなんて……僕も相当参っているらしい。
水をぶっ掛けられて突然目を覚まさせられる。
冷たい──。
身動ぎ一つ出来ない。
見回す──まだ、キャンプ場だ。夕方か……? 湖に太陽が沈んでいる。眩しくて目を細めた。逆光──。
目を細めて、僕に水をぶっ掛けた犯人を探す。すぐに見つかった。
ネコ耳だった。
太陽を背にして、表情がうまく見えない。
──何か、背筋が凍るような。
「目が覚めた?」
「その声、ブレイズ……?」
「せーかい。アッハハ、耳がいいね。──で」
「……これ、縄……。おいおい、まるで捕虜だ……」
僕は、キャンプ場の木々の一つに縄で縛り付けられていた。なんだこれ……。
「お前がやったのか?」
「他に誰がいると思う?」
「……驚いた。お前、殴る蹴る切る以外に、こんなことまで出来たんだな。成長した?」
ばっしゃーん!
またバケツいっぱいに入った水がぶっかけられた。
「ゲホッ、ゴホッ……っ。何すんだよ」
「自分の立場、理解してないの? そこまで頭は悪くなかったと思うんだけど」
「いくつか質問がしたい。いい?」
「ふぅん? そう来るんだ……。いいよ、でも一つ条件」
「なんだよ?」
「一つ質問するごとに、君には一つずつペナルティを与えていくことにしよう」
「具体的には」
「秘密。そっちの方が楽しいでしょ?」
「……怖いね。だが……仕方ない、か。まず一つ、なんでお前がここにいる?」
「んー? ブラスト、君さ──、それ聞く?」
「……え? な、なんだよ……」
「それ、本気で聞く? 本当にそれ、質問でいいの? いっそ私が聞きたいけどね。なんで私がこんなことしなくちゃいけないのか」
「な、なんでなんだよ……?」
ブレイズの表情が暗くてよく見えないけど──笑っているような。
だが──怖い。
「あのさ。私──今日、君と訓練する約束してたんだけど。忘れたの?」
「え、あ──ああああああああ! し、しまった、完全に忘れていた──ッ! ごめんブレイズ! マジでごめん!」
「一番に謝ったのは評価してあげる。そして、忘れていた。これもまあ、許してあげなくも無い。忘れることもあるよね、ブラストだって人だもん。ミスもあるよ。で──」
ブレイズはかがみ込んで、僕の顔を覗き込んだ。
目が──合う。
冷たいような、燃えるような──どちらともつかぬ、激情を感じていた。
「君が、そっちの方で伸びてるパンダと小鳥と一緒に車で外へ出てったって管理部の人から聞いてさ。ついでにおすすめのキャンプ場まで聞いてたらしいじゃない。で、慌てて追いかけて来たらこれ……って」
「? なんで慌てて追いかけて来るんだ? そりゃ、訓練の約束を忘れてたのは謝るけど……」
ばっしゃーん!
「それ、質問だよね。ペナルティ二つね」
「ゲホッ、ゲホッ……。うぅ、冷たい……なんか顔赤いか?」
「そ、そんなわけないじゃん! 夕陽のせいだよ!」
「夕陽のせいか……じゃあ仕方ないな」
ばっしゃーん!
「……いくつバケツあんの?」
「だいじょーぶ、また汲んでくるから」
「うーん……。大丈夫じゃないね。それで、あの二人は?」
「それも質問?」
「んー……。いや、やめとくよ」
「そう? ま、安心してよ。そっちに縛り上げてあるから」
「……。なんで?」
「なんでも。またあんなことさせるわけにはいかないし……。本当に、ずいぶん気持ちよさそうに眠ってたよね、君。女の子二人に囲まれてたのがそんなに良かったんだ?」
「バカ言え、アレが良さそうに見える訳ないだろ。一種の拷問だよ。特に、僕みたいなヤツにとってはね」
「拷問? それにしてはちょっと、肌色が多かったようにも思うけど?」
「……気のせいだろ。そこら中に散らばった空き缶が見えない? あんな量飲んで、僕が正気でいられるはずないし──寝てただけだよ。少なくとも、僕からは何もしてない」
「ま、ブラストがお酒に弱いのは知ってるけどさ。ちょっと無防備じゃない?」
今朝も同じこと言われたな──。
ブレイズの機嫌が少しずつ改善されていっているのが分かる。ちょっとずつ──。
「おまえみたいに無理くり飲ませようとして来る奴がいなければ、僕だって飲まないさ」
「わ、私はいいじゃん! 仲間なんだしさ?」
「えー……。お前ほんと、僕が弱いって理解してる? 何十回僕を潰せば気が済むんだ?」
「ぶ……ブラストが弱いのがいけないんだよ!」
「めちゃくちゃ言い始めたな……」
「すぐ潰れちゃうんだもん。何回君を部屋まで運んでったか分からないよ?」
「そりゃどうも……。原因もお前だけどね」
「もう!」
「そもそもね。お前だって大概だ。いい加減そのまま僕のベッドで寝るのはやめて欲しいもんだよ。そのせいで僕は毎回床で寝る羽目になってるんだ」
「う、別に……その、いいじゃん」
「何がいいって? 硬いんだけど、床」
「だから! 一緒に寝ればいいじゃん!」
「……」
「……」
大声が辺りに響いた。
……。え?
言い切ったブレイズは急に正気に帰ったかのように手をぶんぶんと振った。
「い、いや冗談、冗談だからね!? その、今後はもうしないから、だから……」
「……お、おう」
なんか恥ずかしいんだが……。
僕まで恥ずかしくなって来る。視線を逸らした。
話題を変えることにした。
「……この縄、解いてくんない?」
「え、それは嫌」
「……言い方を変えることにしよう。どうしたら解いてくれる? 動けないんだけど」
「ペナルティは二つあったよね。一つは私がいいと思うまで縄を解かない。もう一つは……とっておこうかな。あ、それと私との約束を忘れた分で、ペナルティもう一個ね」
「ぐ……。約束忘れたのは、悪かったよ……。仕方ない。でも一体なんの理由で僕はここから動けないんだ?」
「そりゃあ、解いたらブラストがあの女の子たちとまた一緒に寝ることになるからじゃない?」
「誤解……と言うか。どうしようもない。酒を飲まされたらどうしようもない。知ってるだろ」
「よーく知ってるよ。私もよくそれを利用して──……。ごめんやっぱり今のなし。忘れて」
「おいてめえ今なんつった!」
ブレイズは躍起になって否定した。こいつ……!
「い、いや違うよ、違うって! 別に君を悪どいことに利用した訳じゃないし、ほら……。可愛い同僚の頼みじゃない? 忘れてくれると嬉しいなー」
「何した? 僕がベロベロで毎回記憶なくしてるからって、なんでもしていい訳じゃないんだけど。金か? 金なのか?」
「お金なわけないじゃん! いや本当に、君に危害とかは加えてないんだって、本当に! 信じて!」
「……これまでのよしみで、今回だけ見逃してやる。でも一個だけ聞かせろ──僕を利用して何かしているのか? それとも僕に何かしているのか?」
「……いやー、あはははは……。あ、晩ご飯の用意しよっか。バーベキューの用意するね」
「うぉい! くっそ縄が解けねえ……。風で──」
「あ、だーめ! そのアーツ、君にもだいぶ負担かかってるでしょ。特にアーツユニットなしなんて絶対ダメだからね」
「お前ね、だったら解けよ」
「やーだ。大丈夫、ちゃんとご飯は食べさせてあげるからさ」
「なんも大丈夫じゃねえ……。あー……ブレイズ。煙草とってくんない? 車の中にあるからさ」
「だーーーめ! 絶対とってあげない」
「頼む……。そろそろ限界なんだよ……ついでにこの状況に対する精神的負担がだな……」
拝み倒すとブレイズはため息を吐いて折れた。
「一本だけだよ。それ以上は絶対ダメだから」
「──っし!」
ブレイズが箱を取ってきてくれた。一本取り出して──あ。両手使えない。
「……咥えさせてくれない?」
「ペナルティ増えるよ?」
「……。…………。………………う〜ん──」
「そんな悩む?」
「……仕方ない。頼む」
「えー、そんな吸いたいの? ほんと、やめてほしいな……」
「お前には関係ないだろ?」
「あるの。嗅覚は敏感な方なんだから、臭いがはっきり分かるの」
「うえ、そうか? えー……じゃあ離れてろよ」
「それもやだ。何するかわかんないし」
「八方塞がりか……」
ブレイズが煙草をポイって放った。ああ……。
「やっぱりだめ」
「あああ……」
無情すぎる……。
「……どうしてもダメか?」
「どうしてもダメ」
あああああ……。
太陽が沈んでいく。
うう、吸いたい……。
バーベキューの準備をしている。
誰かしているのか、それが問題だ。
僕ではない。
まだ縛りつけられてる。トイレに行きたいって言ったら一回外してもらえた。それで終わったらまた縛られた。なんだこれシュール……。
誰がバーベキューの準備をしているのか?
僕以外の全員だ。
いやいやいや──……。
「なんで?」
ガヤガヤしながら女3人が手際よく野菜を切ったり火を起こしたりしている。
ブレイズが炭に火を起こした。アーツ使ってる……なんて無駄遣い。
「んー……。ブラスト、風ちょーだい」
「……ほらよ」
炭に酸素が送られて燃え上がった。なんでこんな事しなきゃいけないんだ? せっかくのバーベキュー縛られたままって。なんで?
「──でさ、そのシーンがすっごいかっこいいんだよ! いやあの映画おすすめだな〜」
「うそ、私もちょっと気になってたんだよね! 一緒に見ない?」
「お、いいね! もう一回見返したかったところなんだよ〜。あ、キャベツ切るよ」
「ありがと」
「ブレイズ。火はもう着いてる?」
「コンロの火が見えないの?」
「見えてるけど、バーベキューなんて初めてだから、もういいのか分からない」
「ふーん。ま、お子ちゃまだし仕方ないか。もうちょっと待ってて」
「よく知りもしないのに見下さないで。私、あんたが思ってるほど弱くないから」
「ふーん? いつまでその態度が保つか楽しみだな〜?」
──蚊帳の外……と言うより。
なんだろう、この気持ちは──。
そんな調子で肉を焼き始めた。
僕は虚しい眼差しでそれを見ていた。
エフイーターがニヤニヤしながら缶ビールを持ってこっちに歩いてくる。
……。
「なんだよ。僕を笑いに来たのか?」
「そろそろ乾杯じゃん? 飲めないのも可哀想だと思ってさ〜。ブレイズ! 乾杯しよ〜!」
「うん! あ……そういうこと。あはは、それはいいかな」
グレースロートまで缶を持っている。フルーツ系のヤツだ。いつの間にか酒なんて覚えちゃって……。
「グレースロート。これ解いてくれない?」
「……貴重な機会だから、遠慮しておく。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない」
エフイーターが思いっきり叫んだ。
「かんぱ〜い!」
「……何これ」
夜。ライトに照らされたバーベキュー会場を目前にして呟いた。
ニヤニヤしながらブレイズが缶を一口飲んで僕にしゃがみ込む。
「飲みたい?」
「……飲みたくない」
「じゃあ飲ませてあげる!」
「や、やめろお前、むぐ、ぐっ」
顔以外自由に動かせるスペースがない──。
逃げ場のない僕に飲み口を当ててビールを流し込んできやがった。人間のクズが……。
てか息が出来ない──仕方なく飲み干した。
「げほっ……。うぉう……」
酩酊──熱。
「お、お前……悪魔が、覚えてろ……」
「やだなぁ。私なりの仕返しなんだから、恨みっこなしだよ。まあ私からはこのくらいで勘弁しておいてあげる」
「お前からは……?」
ゾッとした。
ブレイズの後ろに──二人並んでる。
や、やめろ、エフイーター、来るな……。
もがもがもが──。
「ほらほらどうした〜? あたしの酒が飲めないのか〜?」
やっべえなんか怒ってる? なんかこのパンダ怒ってるのか?
……心当たりがない。大体こいつが悪いだろ。
「ブラストさ〜、あたしだけじゃ満足できないってことか〜?」
「な、なんの話だもがっ」
「ま、飲みなよ。あのさ〜」
「やめろ、やめろ死ぬ……」
やばい。マジやばい。
視界がぼやけてきた……。
思考能力もぼやぼやしてる。口が回らない──。
「あのさ。あたしが言いたいことは一つ。とっととあたしを選べってことだけなんだよ。飲め、このやろう」
僕の状態を鑑みて、流石に縄から解放された。
が、アルコールからは解放されなかった。
逃げ出そうとした僕は歩けもしない。
ぶっ倒れた。
……やばい。もう自力で歩けない。平衡感覚が──。
「あ、お肉食べなよ。ほらあーん」
肉、うまい。あじ、分からんけど。
倒れながら食う飯は初めてだ。
ボヤッとした光の中で、僕はグレースロートのキマった表情を見たが、それが何を意味するのかは分からなかった。
エフイーターがにししと笑ってコンロの方に戻っていく。
代わりにグレースロートがぶっ倒れた僕をちょんちょんと小突いた。生きているか確認しているらしい。うめいた。
体を起こしてくれる──優しい。
朦朧とする──。寝たい。
グレースロートはチューハイを一口含み、僕の頬に手を当て──。
ゆっくりと顔が近づいてくる。
……やば、体動かない。もうなんか……思考が出来ない。別にいいかなーとさえ思い始めた。末期だ。
唇が接触した。唾液とチューハイの混ざった液体が口の中に流れ込んでくる──。
──強ッ、きっつこの酒……明らかにただのチューハイじゃない。
でも飲み込んだ。理由なんて知らない。酔ってるから仕方ないだろ。
視界の隅に見えた9%の文字と、劈くブレイズの絶叫、飛び蹴りの疾走動作のまま高く飛ぶエフイーターとへにゃりとしたグレースロートの目の奥の色。
むり、もう限界だ、
意識が
*
フラフラしながら歩いている。
──。
目が覚めると、部屋で寝ていた。
なぜか、他に人がいないことに強烈な安心を覚えた。なんでかは分からない。
何も考えたくないし──何より、気分が最悪だ。
まだアルコールが残っているのだろうか?
──……。
辛い。
今日の任務は──書類仕事だけだ。助かった。こんな状態で体動かしたら吐きそうだ。
どうも最近意識がたるんでる気がする。こんなんじゃダメだ、エリートオペレーターの名が廃る。
ちゃんとしろ、Blast。
背後から声をかけられた。
「……ブラスト。どうした、酷い顔だ。何があった」
「Aceさん……。僕はもうダメかもしれないです」
「ブレイズも今朝から機嫌が悪い。また何かやったのか?」
「僕は……何も、してないと思うんですけど……。もう、頭痛くて、気持ち悪くて……」
「また飲んだのか。弱いんだから気を付けろと散々言っているだろう」
「違うんです……。もう、午前中の記憶ぐらいしかないんです……何があったか、どうして僕がこんなになるまで飲んだのかさえ……」
「……強く生きろ」
ポン、と肩に手をおくAceさんと死に体の僕。
「それより、明日からLogosとWhitesmithがしばらく空ける。聞いてるか?」
「ええ、確か……遠方の難民支援、でしたか……?」
「そうだ。一ヶ月は会えんし、挨拶でもしておいたらどうだ?」
「はい、後で……。うぇ」
廊下を歩いていく。
その後またエフイーターに絡まれたことや、この二日酔いの酷さも相待って、結局僕は二人に挨拶しにいくことを忘れてしまった。
気づいた時にはもう二人とその部隊は出発していた。
まあいっかと思っていた。一ヶ月程度会えないだけだから。
そして僕が、LogosさんとWhitesmithさんに会うことは二度となかった。
閑話の副題:嵐の前の静けさ
・Blast(ブラスト)
いろんな意味で逃げ場がなくなっている。
苦手なものは酒と嘘をつくこと。
悩みは尽きない。
歌詞の一節はアメリカのロックバンドLinkin Parkの一曲『One More Light』より引用。
・ブレイズ
かわいい
・グレースロート
目が覚めた時一人で悶絶していた。
・エフイーター
大体平常運転
・Ace
Ace的にはブレイズを応援しているが、Blastの気持ちが一番大事だと考えている。めっちゃいい人。
・Logos、Whitesmith
エリートオペレーターの人たち。
『最終版の武器を入れておく収納庫。武器は較正待ち、Logosはパーツ待ち、Whitesmithは素材待ち。全てが待機中で収納庫が意味を失くしてしまった。
宿舎に飾れば、雰囲気を良くする。』
──インテリア:ロドス作業室、武器収納庫フレーバーテキストより
──間違っていたのだろうか?
──この道は、本当に正しいのだろうか?
──どうして彼らが死ななければならなかったのだろうか。いや、そもそも彼らは死ななければならなかったのだろうか?
──この世界のために、僕らが命を懸けて戦う価値は本当にあるのだろうか。
『感染者のために戦うべきだという君と、感染者に失望している君。どちらもただの可能性だ。そのどちらを本音にするのかは』
『これから君が選択するんだ』
残された時間はそう多くなかった。
僕が──
*ストック尽きたんで充電期間とります。一週間くらいで書き上げる予定なんで、それまで毎日投稿はお休みです。ごめんね。
これから先の展開が複雑になりそうなので苦戦中です。楽しみにしている方には申し訳ないです。
いつも評価、感想等ありがとうございます。いつも感想、楽しんで読ませてもらってます。