ヨルシカ/ノーチラス
歩いていく。
強襲作戦から数日が経っていた。
戦闘があったことなど関係なさそうに、人々はいつも通りだ──いや。荷物を抱えてどこかへいく人々の姿が多く見られる。
これから北部との戦争が始まる──いや、とっくに始まっていたのか。
街中での戦闘は、人々の心に恐怖をもたらすのには十分だった。
どこか他の街へ疎開しようとする人々は、一定数いた。
白色と緑色の街。
その道を歩いていく。
中心部へと。
何があるかというのなら、行政区画だ。
「Blastさん、どちらへ」
振り返ると、ゲリラの老人──グエンさんが立って居た。
顔にはまだ包帯が巻かれている。
「怪我は平気なんですか?」
「それは、私のセリフですよ。Blastさん、かなりの重体でしたが……もう動けるのですか?」
「まあ、なんとか」
まだ倦怠感が残っているし、頭もズキズキと痛むが──歩けないほどじゃない。
それに、やらなければならないことがある。
「ゲリラには、スパイがいましたね」
「……ええ。すでに、始末はつけました。信じられません、まさか……。ゲリラ結成当初からいた若者でした」
「はい。そして、市長が絡んでいましたね」
「どこでそれを……?」
「もう……ほぼ勘みたいなものです。市長、あの強襲作戦を受けて……警察組織の強化に乗り出したって記事を見ました。テロリストの犯行だって。つまり、敵……ですよね」
「ええ。通じていたのでしょう──もはや人々の戦争に対する士気はありません。勝てるはずのない戦いを諦めても、無理はない。もはや、南部は終わりゆくしかないのでしょう」
グエンさんは諦めたような声で空を見上げた。
僕はそれを引き戻すように言い放った。
「いいえ。まだ終わっていません」
「……まさか、Blastさん──あなたは」
「エクソリアが北部の勝利という形で統一されてしまえば、またウルサスが新たな力をつけるでしょう。この国を南下するための足がかりとして、また戦禍が広がる」
「もう……よいのではないですか。また死なせてしまいました。あなたの仲間でさえ──。あなたは生き残った。それで十分なのではありませんか?」
「グエンさん。もう戦う意思はありませんか?」
「……もう私にできることは残っていません」
「もしも、そうじゃないとしたら? グエンさん。あなたがその年まで生き延びたことには意味がある──あなたが言った言葉です。この国を導く存在が必要なんです」
「しかし……どうするつもりですか、たった一人で──」
真っ白に、色が抜け落ちた髪を弄りながら僕は話す。まだこの色には慣れない。
「初めは、市長を暗殺してしまえばいいと考えていました。でも──それじゃ事態は改善しない。殺してしまえばそこまででしょうけど、使い道があるとするならばその限りじゃないかもしれない。戦うために必要なものは、兵と資金です。まだ活路はあるかもしれない」
「確かに、言っている意味は分かります──ですが、あまりに現実的ではない! 人々の戦う意志を呼び起こすのは容易ではありません、今のような状況なら尚更です。一体どうするつもりなんですかッ」
「メディアを使います」
「メディア──? この国にある広報機関は、せいぜいが新聞やラジオですが──」
「それだけあれば十分です。本当はテレビでも欲しかったんですが、まあエクソリアの生活様式では難しいですよね」
「Blastさん、一体──」
「グエンさん、お願いがあります。集められるだけの新聞社、およびラジオ局、ついでに市長も招集……なるべく高い地位にある……あるいは、要職にある人たちを集められるだけ集められませんか?」
「た、確かに……私は国立病院の院長です。顔は効きます──。不可能ではありませんが……」
「お願いします」
頭を下げた。
「そうか……。Blastさん、あなたは──……。もう、何も言いません。老い先短いこの命、あなたに託してみようと思います」
返答を聞いて、僕は思わす微笑んだ。
「ありがとうございます。なるべく早く、お願いします」
「分かりました。すぐに連絡をします。私の携帯端末を渡しておきます、国内なら繋がるはずです。そちらに電話します」
「ありがとうございます。では」
行動隊のみんなが設置した簡易宿舎に、一つの袋が保管されている。
グエンさんから受け取った、LogosさんとWhitesmithさんの隊員たちのドッグタグが入った袋。
それに、あいつらの分を入れる。
金属同士がぶつかる、ジャラジャラした音がした。
少し考えて、僕は首から下げていた僕のドッグタグを外した。
寝るときでさえつけていたその重みが、初めて外れた。
Blast。
誰一人として救えないまま、死なせて殺して、失って。
何人殺したんだろう。
分からないな。
殺した人たちの顔を覚えているか?
いや、覚えてないな。それを気にかけれるほど余裕があったわけじゃないし、何より頭が痛かったから。
お前に罪悪感はあるか?
「……わかんないな」
ちゃりん、という音を立てて、Blastと刻まれたプレートが袋へと落ちていった。
お前はまだBlastか?
いくつも積み重なったプレートの一番上にBlastの文字。
イミン、イーナ、ジフ、レイ、アイビス、ハンス、カルゴ、ルイン、Blast。
なら、そこで一緒に死ねばいいのか。
『こういうの、悪くないね! ブラスト、また来ようよ!』
──いつだか、Aceさんたちと一緒に釣りに行った時の、ブレイズの言葉を思い出した。
僕はいつだか、それを思い出して……そうだね、って呟いた。
「ごめんね。もう行けない」
Blastはここで死ねば良かった。だから死ぬ。Blastっていうエリートオペレーターは、こいつらと一緒に死んだんだ。
「もうロドスには帰れない」
ごめんね。もう二度と会えない。
Blastはあのとき死んだ。だから、死人がブレイズみたいな生者に会うことはない。
「さよなら、ブレイズ。……Blast」
袋を持って立ち上がる。
外に出て道を歩いていると、小さな小川が流れていて、その上に道が続いている。
「お待たせしました。トランスポーターの方ですよね」
そこには旅人風の格好をした人物が立っていた。
「あんたが依頼人か?」
「はい。この袋を、ロドスアイランドという場所に届けてください」
「了解した。依頼料を頂こう」
「これを」
持っていた僕の全財産と、あと行動隊B2みんなの金。
ジフたちには申し訳ないけど……金がどうにもなかった。ごめんね、みんな。拝借した。許してね。
「……十分だ。差出人の名前は? それから他に何か伝言があれば承る」
「そうだな──。差出人の名前か……。うーん、どうしよう……」
差出人がBlastじゃダメだろ。Blastは死んだんだから、それじゃ辻褄が合わない。
「じゃあ、エール……エールと。僕のことについて何か聞かれても、現地ゲリラの若者だったとしか答えないでください」
「了解した。伝言はあるか?」
「ありがとう、ごめん……先に行くって行動隊B2のみんなが言っていたと伝えてください。ああ、それと……Blastが謝っていた、と」
トランスポーターはメモ書きにそれを書き記し、懐にしまった。
「依頼を承った。ではな」
「よろしくお願いします」
トランスポーターを見送った。
これで、ロドスには伝わるはずだ。
これでいい。
行こう。
僕はグエンさんから連絡を受けた場所へ歩き出した。
その会議室は、じっとりと暑いエクソリアの気候の影響を強く受けていた。
ガヤガヤという会話の声が空間を支配していたが、その声の主たちはただの一般人ではなかった。
南部最大手の新聞社の重役やラジオ局の局長、ほぼ壊滅状態にあるとはいえ、南部軍の中将や少将。
南部を支配する人々が集まっていた。さらには市長の姿まであった。
「それで、グエンさん。こんなところに、こんだけの人集めて一体何の用なんですか。私だって忙しいんですがね」
「もう少しお待ちください。来るはずです」
「来るってね、いったい誰が──」
扉が開いた。
入ってきたのは、真っ白な長い髪をもつ青年だった。
端正な顔つきをしていて、白い髪が何かぞっとさせる雰囲気を放つ青年だ。
微笑みを浮かべている。一見して柔和な、優しげな顔だ。
大物たちを前にして、一切の緊張するそぶりを見せず、青年は向き直った。
喧騒がやみ、静けさが支配する。
「こんにちは。お集まりいただいてありがとうございます。僕の名前はエール、本日は皆様に一つ大切な話をさせていただきます」
だが、すぐに疑惑へと変わる。
こんな若造が、いったい我々に何の用だ?
「最初に申し上げさせて頂きますね。ここにいる皆様は大なり小なり、この国に影響を与えられる方々です。以後、僕の命令に従ってもらいます」
──?
耳を疑う言葉が飛び出して、経済系に強いパイプをもつ議員が怒鳴った。
「いったいどう言うことだ貴様ッ! 私の時間は有限なんだ、警備! その男を取り押さえて牢にブチ込めッ!」
その怒鳴り声が皮切りになって、正体のわからない青年に反発の声が鳴り止まなかった。
「どういうことですか? そもそも得体のしれない若造に──」「くだらん話か? 革命家気取りにも飽き飽きだ。すぐに北部への対応を考えねばならんというのに──」「グエン、これはいったいどういうことだ? その男を連れてきたのは貴様だぞ?」「生き延びたと聞いたときはほっとしたが、こんな男を連れてくるとはな。死んでいた方がマシだったということか」
反対多数。
エールは微笑みながらそれを受け止めていた。
口を開く。
「困りましたね。皆様にも、相応のメリットを提供できるお話なのですが……話すら聞いてもらえないというのは、少々想定外です」
「黙れ、この薄汚いドブネズミがッ! 話すことすら馬鹿馬鹿しいわッ!」
「ふむ……。では──そうですね。市長、こちらへ来ていただけませんか?」
名指しで市長が呼ばれ、少し驚く。
北部との取引で強い力を得、さらに南北統一後の自分の輝かしい未来を市長は思い描いていた。
高いスーツだ。この国では買えない、ウルサスの有名ブランドのスーツ。それを手に入れられるのが、何よりの力の誇示。
自らが手に入れた力だ。国など、全て踏み台に過ぎない。奪える場所から奪うのは、当然の権利ですらある。なぜなら、それは自らが力を持っている証だからだ。
市長はその下らないガキをいかにして叩き潰して遊ぼうかと思い描いていた。
「ええ、こちらへ」
エールが軽く掌を振り、市長の体が宙に浮き上がった。
罵声も野次も、一瞬で止む。
指一本に至るまで、市長は自らの意思で動かせない。息ができない。
会議室にいる全員が見えるように、天井近くまで浮き上がり──。
首が、見えない何かにねじ切られるようにして市長は絶命した。
血が吹き出して、天井や床を汚す。血を浴びた者もいた。
そのまま体全体が、まるでミキサーにでもかけられた食材のように細切れになって回転する。
砕かれた骨、血、臓物、高級仕立てのスーツの破片。
死んだ人間の臭い。
人の死に方として、あまりに異常で、恐怖だった。
べちゃり、という音を立ててミンチになった肉の塊が会議室のテーブルに落下した。
10秒ほど前まで人だった何かから目が離れない。分からない。理解できない。
それを、呆然と眺めることしかできない。
何が起きているのか理解できない。
誰がそれをしているのか、わからない者はそこにいなかった。
グエンは、一人の若者が選んだ選択を理解して悔やんだ。ともすれば、死ぬよりも残酷な結末。だが、それを選んだのは──。
『君がこれから選択するんだ』
ケルシー先生、ごめんなさい。僕はもうあなたの目指す理想へたどり着くことはできません。
これが僕の選んだ選択。
僕の偽りない本音だ。
「では、改めて」
これが僕の選んだ戦争。
朝が嫌いだ。夜が嫌いだ。晴れも曇りも霞も嵐も風も炎も嫌いだ。
故郷が嫌いだ。両親が嫌いだ。ウルサスの街並みが嫌いだ。何も知らずに暮らしている人々が嫌いだ。
鉱石病が嫌いだ。苦しみも痛みも嫌いだ。傷つけるのも傷つけられるのも嫌いだ、感染者が嫌いだ。非感染者が嫌いだ。貧しい人々が嫌いだ。豊かな人々が嫌いだ。何も知らない人々が嫌いだ。
遠くから見える龍門のビルが嫌いだ。ヴィクトリアの裏路地が嫌いだ。家族が嫌いだ。ウルサスが嫌いだ。サルカズが嫌いだ。
酒が嫌いだ。ドラッグが嫌いだ。煙の味が嫌いだ。その熱が嫌いだ。
ロドスが嫌いだ。アーミヤが目指す理想が嫌いだ。感染者を取り巻く状況が嫌いだ。苦しみも憎しみも嫌いだ。悪人が嫌いだ。善人が嫌いだ。子供が嫌いだ。大人が嫌いだ。人が嫌いだ。何も知らずに笑っている人々が嫌いだ。そんな人々のために戦わなければならないのが何よりも嫌いだ。
裏切りが嫌いだ。謀略が嫌いだ。他人を利用するのも、されるのも嫌いだ。それに慣れていくのが嫌いだ。
戦いが嫌いだ。戦争が嫌いだ。
ケルシー先生が嫌いだ。あの何もかもを見透かすような、あの表情が嫌いだ。
ブレイズが嫌いだ。あの炎が嫌いだ。何もかもを照らすような、あの輝きが嫌いだ。彼女が振りまく血が嫌いだ。彼女の笑顔が嫌いだ。彼女と過ごした日々が嫌いだ。彼女の苦しむ表情が嫌いだ。彼女を苦しめる全てが嫌いだ。
僕は、僕が嫌いだ。
この世界が嫌いだ。
それが僕の選んだ本音。
「僕に従え、クソったれ共」
*
Blastが死んでから一週間後、ロドスに一人のトランスポーターが訪れていた。
ブレイズは書類仕事の休憩中で、廊下を歩いて──たまたま、ケルシー先生の研究所の隣を通りかかる。ドアが開いていた。
話し声が聞こえてくる。
「──では、確かに渡した」
「待て。差出人の名前は……本当に、エールというのか?」
「ああ」
「……。分かった。感謝する」
ケルシーと、男の声がする。気になったブレイズは、それを盗み聞きしていた。
男が応接室から出てきて、ブレイズは少し焦った。
チラッとブレイズの顔を見て──。
開いたドア越しに、ケルシーにトランスポーターが言う。
「一つ、言い忘れていたことがあった。伝言を頼まれている」
伝言?
これ私が聞いてもいいやつかなー、とか思いながら、ブレイズは明らかに自分の存在に気がついているケルシーから目を逸らした。
「ありがとう、ごめん……先に行く、と行動隊のみんなが言っていた、と」
「え──?」
声が漏れる。
聞き間違いだと思った。
ケルシーはそれを聞いて、無表情のまま微かに手を握った。
「それと、Blastが謝っていた──と」
全てが崩れ落ちていくような、そんな錯覚。
「確かに伝えたぞ。依頼は完了だ、ではな」
「ま、待ってッ!」
突然叫んだブレイズに、トランスポーターは顔を向けた。
「どう言うことなの!? Blastが、謝ってたって、なんで──」
「俺の仕事はそこの袋と、伝言を伝えることだけだ」
「誰が、誰からの依頼で!」
「エールと言う男だ。ゲリラの若者だ」
「──」
さっぱり心当たりがない名前に、嫌な想像がより具体的になって──。
顔を伏せるケルシーの姿に、どうか冗談であってほしいと願いながら、ブレイズは応接室の机の上に置いてある袋に走った。
丈夫な皮の袋を開いて、その想像が──。
丸みを帯びたプレートにこびりついた赤い血。刻まれた名前。
Blast。
ドッグタグだけが返されるということの、その意味は。
死んだということ。
「嘘、だよ……」
トランスポーターはその光景を見て、去っていった。依頼はそれだけだ。
「ケルシー先生、これ……っ」
ケルシーは何も言わない。
ただ、強く拳を握りしめて──。
「嘘、だって……。ブラストが、死ぬはずない……ッ」
ケルシーは黙って首を横に振った。
ブレイズは堪えきれずに走り出した。行き先はブラストの部屋だ。
残されたケルシーは、本当に珍しく感情的に壁を殴った。
エールと言う名前は、Blastがロドスに来る前に名乗っていた名前だ。それはケルシーしか知らない名前。
ケルシーは、かつてBlastだった青年の選んだ選択を理解して……言葉で表しきれない気持ちを拳に込めて、もう一度だけ壁を殴った。
「馬鹿者が……ッ!」
そのことも知らず、ブレイズは走った。途中誰かとぶつかったような気がするが、もう気にならない。
鍵を──取り出して、乱暴に開く。
嘘だ。
嘘だ。
嘘だ──ッ!
扉の向こうに、誰もいるはずはない。
積み上がった本と、あまり生活感のない、面白みのない部屋があるだけだ。
だが、いつも整頓されている机の上に、何かがある。
駆け寄って見た。
──綺麗にラッピングされた箱と、一つの手紙。
ブレイズへ、と小さな張り紙がしてあった。
すぐに手紙を開く。
『この手紙を読んでいるということは、どうやらお前は僕に無断で部屋に侵入しているってことだね。そりゃ、鍵渡したのは僕だけど、勝手に押し入るってのもどうかと思うよ、マジで』
「この男……ほんと」
読み進める。
『でもまあ、何かがあったのかもしれない。もしかしたら単に、任務が長引きすぎているだけかもしれない。僕がこの手紙を書いた理由だけど、お前にプレゼントがあるからなんだよね。ほら、机の上に置いてあるだろ? それだよそれ』
プレゼント──似合わないな。
想像もつかない。一度だってもらったことはない。
『似合わないなんて言うなよ。珍しく、そういう気分なんだ。お前、そのヘアバンドかなり古くなってきてるじゃん。多分まだ買い替えてないだろ? お前もとっくに隊長なんだから、多少はいいもん使えよってずっと思ってたんだけどね。そういうこと言うと怒るし面倒だから言わなかったんだけどさ。威厳とかもっとつけたほうがいいよ』
「余計なお世話だって。君だって、威厳なんてないじゃない……」
全部その通りだった。
このヘアバンドは少し思い出のもので、あまり新しいものに買い換えようと言う気がなかった。ちょっと色褪せてきている。
『まあ、これからも頑張りなよ。でももうヘリからパラシュート無しで飛び降りるのは勘弁だけどね』
「……もう、出来ないよ。君がいないんじゃ、もう出来ないじゃん……っ!」
涙がこぼれ落ちていく。
『そして、もしもの自体に備えてこれを遺書代わりに残すよ。危険な任務だしね。まあお前がこれを読んだ後に僕がひょっこり生きて帰ってきたら気まずいけどね。まあそれはいいとして』
「……帰ってきてよ、生きて、帰ってきたら、それだけで……」
『ブレイズ。前も言った通り、その部屋にあるもの、後大して多くもないけど……僕の遺産はお前に全部やる。まああんまり大した金にはならないと思うけど……好きにしてくれればいい。あ、これは僕が死んでいたらの話ね。生きてるかもしれないってなったら売るなよ。僕が困る』
「困ればいいじゃん……。いい気味だよ……っ!」
『ブレイズ。お前に一つだけ伝えておきたいことがある。僕は、お前の中にいつも希望を見ていた。お前なら、感染者を取り巻く問題を解決できるんじゃないかっていっつも思っていた。LogosさんやWhitesmithさんの死も乗り越えて、前へ進んでいける』
「……進めないよ。君を置いて、私だけ前に進めって言うの……。無責任だよ」
『後のことは全部お前に託すよ。グレースロートの面倒はお前が見てやってくれ。あの子は今大人へと変わりかけている。お前が支えてやってくれ。あ、後エフイーターの相手もね。あのパンダは時々構ってやらないと何しでかすかわからないし』
「……もう、こんな時に、他の女のこと書かないでよ」
『アーミヤのことも頼む。あの子だって、支えてやる人間が必要なんだ。お前に任せるよ。僕はそういうの、ちょっと苦手なんだ。実はね。そうだ、もしも僕が死んでたら、AceさんとかScoutさんに僕が謝ってたって伝えといてね』
涙を拭う。
自分で伝えたらいい。でも──叶わない。
『そして、お前にも。置いて行ってごめんな。僕は、お前の幸せと、幸運を願ってる。親愛なるブレイズへ、Blastより』
箱を開くと、赤い、上等な生地を使ったヘアバンドが入っていた。
あの男にしては珍しく、センスのいい。
──その拍子に、ブラストの顔を思い出してしまった。
もう会えない。
もう話せない。
もう一緒に戦えない。
もう一緒に生きられない。
もう──この思いを伝えられない。
涙が止まらなかった。
「うああ──、あ、ああ、あああ……っ」
ヘアバンドを握りしめて、ブレイズは精一杯叫んだ。
「うわあああああああああああああああああああ──────────────ッ!」
馬鹿だ。
残していかないでよ。
「あああああああああああああああああああああ──────────────ッ!」
寂しい。会いたい。
もう一度、話したい。
一緒に生きたかった。
好きだよって言えないまま──。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ───────────────────────────────────ッ!!」
あの底抜けの馬鹿男に二度と会えないって理解したら、胸が張り裂けそうなほど苦しくなって、悲しくなって、辛くなった。
それからしばらく、ブレイズの叫び声と泣き声の混ざった絶叫がブラストの部屋には響いていた。
涙を流しながら、ブレイズはヘアバンドを外し、ブラストの残したプレゼントをゆっくりと着ける。
「私が──」
それでも、私が覚えているから。
ブラストのことを覚えているから。忘れないから。忘れたって覚えているから。
君と過ごした日々を絶対に忘れたりなんかしないから。
戦い続ける。
君の分まで生き抜くから。君の分まで戦うから。
「戦うよ、私──」
そしてブレイズは顔を上げた。
「君がいないこの世界で、戦い続けるから。守り続けるから。君のことを覚えているから、忘れないからっ、絶対、絶対……約束するからッ!」
心に、後生消えない炎が灯り、
「君が辿り着きたかった場所に、いつか絶対──絶対、私は、私たちは……辿り着いて見せるからッ! 絶対にッ!」
そして、ブレイズは立ち上がった。
ブラストと、この世界のために。
やっとこさここまで書けました
ようやく折り返しです
・Blast
死亡。お前のせいでシリアス。
・エール
かつてBlastだった青年。真っ白な髪をしている。嘘が苦手。かつてBlastが名乗っていた名前。ケルシー先生しかその名前は知らないし、これから知ることもないだろう。
最近、この世界のことが嫌いになった。
・嫌いだ
ゲシュタルト崩壊しました
・トランスポーターの人
無事に依頼を果たした
・エクソリアの人たち
今回の被害者。散々です
・ブレイズ
メインヒロインとしての復権を果たした
落ちていくエールと立ち上がるブラストの対比がしたかっただけです
Blastはあまりにも眩しくて強いブレイズの姿が好きだったし、嫌いでした。
・ケルシー先生
ロドスでただ一人、エールの選んだ選択を理解した人。多分このことは誰にも言いません
珍しく後悔しているかもしれない
・ロドスの皆さん
Blastの死を知ってどうなったかは想像にお任せします
次から新ヒロインが出る……はずです! ヨシ!(極限現場猫)
ストックが早くも終了しました。また充電期間とります。なるべく早く書き上げたいです
いつも評価、感想ありがとうございます。
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ここまでの作者感想をnoteにて公開中。興味がある方はどうぞ。
https://note.com/nyancopan/n/n192fd332d42d
コメディ要素必要ですかね……?
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いる(鋼の意思)
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いる
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いらない
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絶対にいらない
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もっとエールの理性削れ