猫と風   作:にゃんこぱん

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原神やってたら遅れました
キャラが可愛すぎる
あと新イベント楽しみですね
お待たせして申し訳ないです。本心です


もしも夜空から一つ光が消えたとして-2

結論から言って、ラテラーノとウルサスの間になんらかの取引があったと推測される。

 

アンブリエルはそれ以上のことを知り得ず、ただ派遣されて命令に従っただけ──全て本当のことを話しているならば、の話だが。

 

「だいたいさー、なんでウルサスがこんな蒸し暑い国に出張って来てんのー? 別に国境接してるわけでもないのにさー」

「悪いけど、あんまりおしゃべりしてる暇はないんだ。君が話してくれるようなことはもう無さそうだし、一応解放するよ。ただ、こっちの監視はつけさせてもらうけどね」

「……あたし、ラテラーノに帰れるの?」

「今後の状況次第だね。下手に返してこっちの情報を与えたくない。少なくとも、ラテラーノの部隊がこの国に来た理由が判明するまでは無理だね」

「そんなの絶対分かんないやつじゃん……」

「そして君には、一つの選択肢が与えられている」

 

エールはずっと張り付いたままの微笑みのまま言い放った。

 

「ラテラーノを裏切り、僕たちレオーネにつくか、否か」

「……冗談でしょ?」

「まさか。本気だよ」

「い、今すぐ決めろって……?」

「うん」

「お……鬼! 悪魔! まさか、協力しなかったら……あたしをここで始末するつもりじゃッ!」

「君にはまだ利用価値がある。殺さないさ。ただ……未来のために、協力してほしい」

「未来って……。誰の未来のこと?」

「この国の未来のことだよ、当然」

「……あのさ、あたしたったさっき部隊のみんなを失ったばっかりなんだけどさー。ちょっと気遣いとかない訳ー?」

「ふん。気遣って欲しそうな顔には見えないがな。命令だか忠誠だか知らないが……連中、そんなものに命を捨てるなんて、随分ご立派な往生だ」

「スカベンジャー。やめろ、敵とは言え……」

「はっ、笑わせるな。死人は死人だ。それ以上の意味はない。それとも──お前、何か求めてるのか? NLFのトップがそんなタイプだとはな、驚きだ」

 

──嘲笑するスカベンジャーの言う通りだ、とエールは思った。

 

死んだ人間は何も言わない。それ以上の事実はない。ただ……何か求めているのか、という言葉に対しても──。

 

その通りだ、とエールは心の中で呟いた。

 

「君のいう通り、死者は死者だ。ならそれ以上褒め称えることもないし……侮辱することも許されない。死者がただの事実だというのならね」

「許されないだと? 誰が許さないというつもりだ? 神か? それともお前か? そっちの天使サマか?」

「あるいは君自身(この世界)が、さ」

 

その瞬間だけ、エールの貼り付けた笑みが消えていた。

 

アンブリエルは仲間同士だと思っていた者たちが口論を始めて混乱した。こいつらもしかして仲悪いの?

 

睨むスカベンジャーと、それを見つめるだけのエール。アンブリエルは妙な居心地の悪さを感じて口を挟んだ。

 

「い、いやー。別にあの人たちなんて昨日会ったばっかりだし、別にそんなでもないって言うかー。っていうかあたしの扱いどうなるわけ?」

「……保留かな。ただ、武器は預からせてもらう。監視もつける。でもまあ、基本的には自由にしてもらっていて構わない……かな。スカベンジャー、君は下がれ」

「チッ、分かった」

 

ドアを開けて出て行ったスカベンジャーの表情は、微かな苛立ちが混ざっていた。

 

「さて。今のところ、君に聞くべきことはだいたい聞き終わった。最後に一つだけ質問。君、ラテラーノに帰りたい?」

「え、帰りたいって言ったら帰してくれんのー?」

「いや別に」

「だと思った。てか帰りたいに決まってるじゃん。新しい服も今ごろ家に届いてる頃だろうしさー、この国にポッキーは売ってなさそうじゃん」

「チョコ菓子は多いよ。カカオの原産地の一つでもあるからね。ただ、甘いチョコは少ないけど」

「余計帰りたくなって来た……。甘いものも食べられないんじゃねー。おまけに……捕虜じゃん、あたし。ふつーに命の危機なんだけど、分かってる?」

「だから殺さないって……。まあ小さな部屋くらいは用意するよ。ウチのヤツに案内させる」

 

部下にアンブリエルを任せてエールは去っていく。行き先は自身の執務室だ。

 

コルクボードに貼り付けた無数の情報を眺めながら考える。

 

考え続ける。

 

彼女たちの使()()()を──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エールは地図の上に広げた駒を眺めて、疲れたように伸びをした。戦術考案はエクソリア南部軍に任せても良かったのだが……信用しきれない。南部がここまで北部に押されて来たのは、彼らが負け続けて来たから。

 

いくらウルサスの支援があると言えど、南部もそこまで弱いわけではなかった。ただ……対応しきれなかった。ウルサス仕込みの戦術に対応できず、見誤り、慢心していた。残ったのは死体の山だけだ。

 

「……何か、もう一手欲しいな」

 

決め手となる何か。まだ分からないが……。

 

ウグラ山脈での衝突に勝算はある。特殊部隊による後方からの暗殺は一つのプランだ。正面からの衝突は分が悪い。ただ山脈の切れ間には森林が広がっている──消耗戦を展開するか?

 

どうするか──……。

 

「君なら、どうする?」

 

エールにとってそれは、彼にだけ見える幻覚に向けた呟きだったが──。

 

がた、と小さな音が静かな執務室に響き渡った。静寂の中、エールは反射的にそちらを見る──。

 

本棚に隠れて見えない影の向こうに誰がいるのか?

 

「驚いたな。君か? アンブリエル」

 

ばつが悪そうに姿を現したのは桃色のサイドテールが特徴的な、天使の輪っかを持つ少女のサンクタ。

 

「い、いやー。集中してたし、邪魔するのも悪いかなーって思ってたんだけど……」

「そう──」

 

気がつかなかった──見れば、ドアが開いている。

 

本当に、気がつかないほど集中していたらしい。あるいは、鉱石病(オリパシー)の症状によるなんらかの影響か。もしくは、アンブリエルという少女に気配がなかったか、消していたか、その全部か。

 

「狙撃手、って言うんだっけ。君の持っていた様な銃を扱う人って」

「うん、まー……。よく知ってんね」

「まあ、ね。実はちょっと興味があって」

「……あんた、ラテラーノなんて調べたっていいことないよー? いやほんとに、本心から忠告するんだけどさー」

「そうかい? 理由を聞いてもいいかな」

「それも聞かない方がいい。別に、どうしても聞きたいんならいいけどさー。本当にロクなことになんないって」

「ロクなこと──か。どうだろ、なら試してみようかな。これ以上があるのなら、一体何があるのか」

「何の話?」

「いや、こっちの話。それで? ラテラーノに関わりすぎない方がいい理由って?」

 

エールは張り付いて剥がれない微笑みのままアンブリエルに問いかけた。ため息を吐いてアンブリエルは話し出す。

 

「”銃”のこと。まー、それ以外にもいっぱいあるんだろうけどさー。あたしが知ってて予想できるのはこの辺しかないっしょ。あんさ、あんた銃に目ぇ付けてない?」

「よく分かったね」

「はー……。あのさ、言っとくけどさ。別に銃っつったって……殺傷力はボウガンとかと変わんないよ? それに手入れもめんどいしさー。入手性とか、価格とか……ボウガンの方がコスパいいよ、絶対」

「だが、射程がある。こないだの一件では一キロ以上先から射って来ていた。ボウガンでそんなことは到底不可能だ。そして嵩まないし……連射性が段違いだって言う話もある。弾数もボウガンとは比べ物にならないんだってね」

「大体、あれってあたしらサンクタにしか使えないってこと知ってる? そもそもあたしらもたいして理解できてないってのに」

 

双方の言うことは全て事実。

 

“銃”には、ボウガンにはない可能性が秘められている。同時に一般的ではない。サンクタすら知らない人々も多いのだ。

 

エールは微笑んだまま問う。その目の奥はちっとも笑っていない。

 

「本当に?」

「……んなわけないっしょ。まー銃の種類にもよるけどさー。もちろん反動に耐えれない銃なんて使えないし、素人がちゃんと目標に当てられるわけない。でも──」

「訓練することで扱える。サンクタ族だけが扱えるだって? そんなわけがない。物理的な機構を有している限り、別にそれは聖なる武器でも魔法の道具でもなんでもない。ただの物体のはずだ」

「……。あのさー、もし銃を手に入れたとして、どうするつもり?」

「君も遠回しだね。分からないわけがないだろう? 戦争に使う。兵器としてね」

「そりゃ、多少は使える武器かも知んないよ? あんたらレオーネの置かれてる現状も、結構理解してるつもり。戦況も変わるかもねー。──で、何人死ぬと思うわけ?」

「バオリア奪還では2000人が負傷、そのうち1300人が死亡した。これでも、予想よりずっと少ない数だ。3000人は死んでいてもおかしくなかったと思うよ」

「……あんたさ。なんでこんなことしてんの?」

「なんで、ね」

 

エールは机の先でこちらを見極めようとしているアンブリエルを眺めた。

 

この部屋にいるのは2人だ。エールとアンブリエルだけ。少なくとも、アンブリエルにはそう見える。

 

だが、エールにとっては違った。

 

「エクソリア北部が実質的なウルサスの支配下にあることは知ってるよね。当然、北部に広がっている経済格差──貧富の差も。不当な低賃金で働かされつつける人々と、一部の超富裕層が乖離して行っているんだ。学校にすら通えない子供たちが何万人もいる」

 

全て事実。

 

「経済を支配されているんだ。移動都市の建設も始まっているって話もある。けど知ってる? 完成した移動都市に住むことが出来るのは一部の人々だけだ。残された人たちは天災から逃れられない。工場が彼らを縛り付けて動かさないんだ。そして逃げたとしても、何も残らない。エクソリアの伝統的な建築技術も、十年ごとに移動する町の文化も、ウルサスの資本主義、帝国主義が破壊して行ったんだ。エクソリアの人々に合わせて工場まで一々作り直していたら損失が発生するからね。事実、北部と南部が断絶していた百年間のおかげで、もう南部にしかその文化は残されていない」

 

合理的な経済政策は、近代化し始める世界に受け入れられた。特に若者を中心に賛成が集まる。若者たちは、伝統的な非効率的な生活様式を嫌ってウルサス式を受け入れたのだ。だが彼らが反対しようと、選択肢はなかったのだろう。

 

「そしてそれは、このアルゴンの街を、南部をも飲み込もうとしている。そうなればこの自由で陽気な国が失われてしまう。緑が開発されてだんだんと消滅していく。この国の魂とも呼ぶべき、エクソリアという国の尊厳が奪われていくんだ。そうさせてはならないと、僕自身が思った。そして決めたんだよ。彼らのために戦おうって」

「────あんた、胡散臭いねー。それ嘘っしょ?」

「まさか。全て真実さ」

「確かに本当のことだけどさ──最後の一言以外は。しょーじき、あんたのこと良く知らないけどさー。一つだけ分かった。あんた、嘘が下手だよねー」

 

エールはその言葉に苦笑いした。これだけは自然な感情だった。

 

「よく言われる──いや。昔、仲間たちによく言われたよ。分かりやすいって」

「……その顔だけは、嘘じゃないっぽいねー。あのさ、もっとそういう……分かりやすい顔出来ないの? さっきから思ってたけど……あんたのその優しそうな微笑み、すっごい嫌な感じすんのよねー。作り物って感じで」

「参ったな……。()()、結構ウケはいいんだけど。君と……あとスカベンジャーくらいだ、嫌な顔するのは。僕もあんまり好きじゃないんだけど、うまく剥がれてくれなくてね、苦労しているよ(都合がいいや)

「……ま。あたしが口出すようなことじゃないか。てかさ、どっから銃調達するつもり? 入手ルートなんて無いよー?」

「僕もそう思っていた。けど……」

 

エールはじっとアンブリエルを見つめる──正確には、その天使の輪っかを。

 

「え……いや。ちょ、ちょい待ち……。まさか、あたし……?」

「アンブリエル。僕は君がラテラーノの何を知っていて、何をして来たかなんて知るつもりはない。でも……悪いね。運が無かったかもね」

「う、うそぉ……。いっとくけどあたしそんな大そうな人物じゃ無いからね!? せいぜい使い捨てられるサンクタのただの守備隊の一兵卒にできることなんてなんも無いって、マジで、マジだから!」

「うーん……。だとすればもう君に利用価値はないね。厄介ごとの種になるかもしれないし、さっさと始末しようかな。ラテラーノに送った抗議文の返答もないことだし」

「う、嘘……だよね……?」

「スカベンジャー」

 

アンブリエルの後ろから現れた刃が喉元を撫でる──流石に叫んだ。

 

「やる! やるって! やるから殺すのだけは勘弁して!」

 

作戦準備は無事、順調に進んでいた。

 

 

 

 

 

 




・エール
やべーやつ。
クズへの道を一歩一歩辿っている
あとずっと幻覚見えてます。三人称視点なのでわかんないですけども
実際なんのために戦ってんだお前

・スカベンジャー
ギスギスしている。これからもギスギスする

・アンブリエル
今回の被害者。
正体は……ナオキです

・エクソリアを取り巻く状況
つまり……ウルサスが全部悪いんだよ!
生きるために必死なのはみんなおんなじだからね、仕方ないね

・銃
これについての云々は前作でも取り上げました
ヴァルカンのボイスを聞けば不穏さがわかるはず……

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