資格証交換に間に合わなかったクソドクターがいるらしいですよ
復活してください……エフイーター欲しい……欲しい……
熊猫と晴れ-1
僕は映画をあまり好まない。
いや──この表現は厳密には誤りだ。好まない、というのは一定の経験から生み出される好悪の感情であり、映画に対しての一定の経験……観賞経験がなければそもそも好きも嫌いもない。
どういうことかと言うと、僕は映画は見ないから、よく分からない。よくわからないものに好感は抱きにくい……というか。
正直興味はあるが、取っ掛かりがないから見る機会がない。僕にはレンタル屋の扉がどこか遠い異次元に感じられた。別に錯覚だ。
そもそも今は、エリートオペレーターとしての仕事が忙しすぎて、まともに見る暇なんかありはしない。
まあ見る機会があれば見たいと思う。映画は良いぞ、と勧めてくる仲間もいることだし、それなりに興味はあったのだ。
そしてとある一日、僕はとある感染者の映画女優を救出する任務に任命された。
猫熊と晴れ
「炎国の映画スター、か」
「そうです。彼女は世界中でも有数の映画女優なんです。いくつものヒット作で主演を務めていて、そのカンフーは演技ではなく、自前のものなんだとか」
「なるほどね。そんな人が感染者になってしまったら大変だ。それでロドスが?」
「ええ。彼女を助け出して下さい」
渡された書類に目を通す。
「了解。でもそれはその女優から頼まれたことなのか?」
「いいえ。ですがおそらくこのままでは、彼女は民衆によって誹謗中傷を受け、もしかしたら危害を加えられるかもしれません。それは感染者全体の立場の低下へと繋がります。さらには、彼女自身をも蝕んでしまう」
「なるほどね。それは、アーミヤが僕に直接命令するほど重要な任務ってことで良いのかな」
「はい」
「意地悪な質問だけどさ。もし彼女が映画女優じゃなかったら、ロドスは助けようとしたかな?」
「……命に優劣はありません。でも……この世界中で苦しむ人々全てを救うことは、ロドスにはできないかもしれない。私たちは、より多くの人々を救うためと謳って、救えたかもしれない人々を見殺しにしてきました。今回だって、そうなるかもしれません」
正直、アーミヤはとても僕より年下の、まだ幼い少女だと信じることができない。
「それでも、私たちは助けようとし続けます。例え助けることができなくても、助けようとし続けます」
「……悪いね。本当に無駄な質問だった、忘れてくれ」
「いえ、良いんです。その質問は、私自身が常に問い掛け続けているものですから」
「それで、僕一人かい?」
「いいえ。できるだけ少数での作戦をお願いしますが、細かい編成はお任せします。お一人は危険かもしれませんが、その方が良いと判断したならば、それでも構いません。でも、ちゃんと無事に帰ってきて下さい」
「何、別に部隊を相手にするんじゃないんだ。任せてくれ」
「ええ、お願いします。ブラストさん」
「はいよ。じゃあねアーミヤ」
アーミヤの執務室を後にする。
ロドスの廊下を歩きながら、今回の任務の概要に目を通す。
救助対象の名前は──エフイーター。有数の映画女優にして、カンフーの達人。だが不慮の事故により感染してしまった。それが一週間前に世間に公表された。
……作為的なものを感じる。今回の任務も、ちょっと面倒なことになりそうだ。
「あ、ブラスト」
「ブレイズ。こんなとこで何を?」
角からブレイズが出てきた。……なんか完全装備なんだが。
「遠方への任務なんだって? 私も連れて行ってよ」
「ええ? なんで?」
「良いじゃん連れてってよ。君だけじゃ頼りないかもしれないじゃん」
「お前ね、僕だって一応、もう行動隊B2を預かる身なんだけどね。大体お前だって任務あるだろ。連れてくんなら僕の隊から選んで連れてくよ」
「お願い。もう書類仕事は嫌なんだって!」
「それが本音か。お前だってもう隊長なんだから多少はしっかりしたらどうだよ。部下に示しが付かねえだろ、脱走して他の任務に行きましたーなんて。またケルシー先生に叱られたいのか?」
「ブラストまでそんなこと言って! 良いじゃない、旅行みたいなものでしょ?」
「ぶっ飛ばすぞ。そもそもこれは救出任務だ、お前みたいなゴリラには向かないよ」
「だーれーがゴリラよ!」
ゴリラが殴りかかってきた。
「あっぶね! 何すんだよお前!」
「君ね、いっつもいっつも……。いい加減私のことゴリラって呼ぶのやめて。大体私フェリーンだし、この猫耳が見えないの?」
「見えないな──」
「ほんと、君って憎まれ口が好きなんだね。いいよ、だったら今日と言う今日は、嫌と言うほど教えてあげる。そのゴリラの力でね」
「お前、僕がこれから任務だってこと分かってんのか? やめろやめろ、少しはお淑やかになったらどうだ」
「私に大人しくしろって言うの?」
「うん。ケルシー先生みたいな大人になったら、僕の対応も変わるかもしれないね」
「ブラストはいつもケルシー先生のことばっか。そりゃ、すごい人だとは思うけど……」
「あの人はすごいんだよ。僕が出会ってきた中で一番尊敬できる人なんだからな」
「私は?」
「一番強い女」
「ぶっ飛ばす!」
「やーめーろー!」
争っていると、ブレイズの後ろからAceさんが来た。腰に手を当ててため息ついてる。
「こんなとこにいやがった……。おいブレイズ」
「げ、Ace。なんでここに?」
「お前の部下から頼まれたんだよ。多分またブラストのところに行ってるから、連れ戻して書類仕事させてくれってな」
「ブレイズ、お前……部下からの信頼……ないんだな……」
ガックリと肩を落とすブレイズと、呆れているAceさん。
ロドスはいっつもこんな感じだ。
「……お土産、買ってきてね」
「任務だっつってんだろ。Aceさん、後頼みます」
「任せておけ。だがブラスト、お前もたまにはブレイズの相手をしてやれ。隊長になってから普段全然会わないらしいな」
「そりゃ、忙しいんですし……」
恨めしげなブレイズの目がなんだか後ろめたくて目を背けた。
「……分かったよ。この任務終わったら一杯くらいは付き合ってやる。それでいいだろ?」
「あ、本当!? 聞いたからね。取り消せないよ」
「いや一杯だけな。マジで。本当に。酒が苦手な僕がかなり譲歩してるって分かってるよな?」
「分かってるって! よーし、じゃあ私は仕事に戻ろっかな。じゃあねブラスト!」
「おう……って。行っちまった……」
Aceさんさえ残してブレイズは走り去って行った。一体なんだったんだ……?
「……なんであいつ、あんな急にやる気出したんですかね」
「ブラスト、それ本気で言ってんのか?」
「? 本気ですけど」
「マジか……」
急に額を抑え出したAceさん。頭痛か?
「いやまあ、俺が口出すことでもないか……。ブラストよ、出来るだけ早く気づいてやれよ」
「? だから何の話を」
「なんでもない。それじゃあな。任務、頑張れよ」
「はい、ありがとうございますAceさん。それじゃ」
「行動隊B2各位、通達。あー、一週間か二週間か、しばらく隊を開けることになった。後のことはAceさんに任せてある。Aceさんの指示に従うように。後レイとジフ、アイビスは装備B2で1時間後に出撃。僕と一緒に任務だ、喜べ。何か質問は」
「任務詳細を希望。隊長、どういうことっすか?」
「ジフ。まあ詳しいことは車の中で話すよ。とりあえず一週間はロドスに帰ってこられないから、その辺の準備しといて」
「急な話すぎません? もうちょい準備期間欲しいんですけど」
「悪いね。でもちょっと厄介な要件になりそうで、時間がない。アイビス、ペットの世話は誰かに頼んどいた方がいいね。他には」
「ブレイズさんとの進展は?」
「……あのね、別に僕はあいつとはそんなんじゃないから」
「またまた隊長ったら──で、本当は?」
「いや本当に。あいつとはただの同期だよ」
「……本気だ。隊長、本気で本気だ。ウチの隊長、鈍感すぎ……?」
呟くイーナを放っておいて、隊員を見回す。ある程度育ってきて、だんだんと頼もしさが身についてきた。これまで頑張って育ててきた甲斐があるってものだ。
「それとイミン、君を隊長代理に任命する。基本的にはAceさんの言うこと聞いてればいいけど、なんかあったら君がこの部隊の指揮を執れ。いいね」
「りょ、了解! 自分、隊長の期待に応えて見せます!」
「はは、そんな張り切らなくていいよ。どうせそこまで大したことは起きないだろうし。それじゃ解散」
行動隊B2は僕がエリートオペレーターになってから編成された部隊だ。ドーベルマン教官から上がってきた新人たちを、僕がさらに鍛え上げている最中。可能性を感じる奴らばかりで、向上心も強い。
きっと行動隊B2はいい部隊になる。それこそ、僕とブレイズが昔いた、Aceさん率いる行動隊E3に負けないような──。
一時間後。出撃ドッグ。
「それじゃ、出発しようか。運転はアイビス、頼むよ」
「了解。えーっと、行き先は……?」
「炎国さ。長旅になる、ドライバーは四時間ごとに交代するよ。ま、とりあえず北かな」
エフイーター救出作戦。
全ての感染者の希望のために、行動を開始する。
*
──炎国。
炎の国と言われるだけはあり、暖かな気候が一年を通して確認される。この国では独特の武術──
エフイーターは特に、カンフー映画を得意としていた。もちろんごく普通の映画にも出演したこともあり、ゆるくて気が抜ける声と、一瞬見せる鋭い演技に定評があった。
そしてエフイーターが撮影中の不慮の事故で感染してから九日が経過していた。
自宅の外には、どこから情報が漏れ出したのか分からないが──マスコミや野次馬が声を張り上げていた。内容なんて特に聞きたいものではない。
「う〜ん、暇だなぁ──」
エフイーターは自宅の寝室、ベッドに寝転がりながら天井を見上げてボヤいた。
「でもな〜、今外出たらやばいよな〜。はぁ──、これからどうしよ。もう映画はダメだよな、やっぱりー……」
マネージャーから自宅待機を命令され、すでにお気に入りの映画鑑賞も何週したか分からない。とにかく暇──状況に対して楽観的な感想だったが、本音で事実だった。
「ちっくしょ〜、マスコミも事務所も、あたしが感染した途端手のひらグルグルさせやがって〜。もう二度と番組なんて出てやんねーぞ……」
次にテレビにでも出るとしたら、映画女優としてではなく、ただの感染者としての出演になるだろう。世の中の無情を嘆いた。
「はあ──」
ベッドの上に転がっていた携帯が着信音を撒き散らした。エフイーターは緩慢な動きで携帯を乱暴に掴む。
「はいもしもし。──ああ、マネージャーじゃん。うん。え? 事務所に行くの? ……まあいいけど。はいはい。あ、もう来てるの? うん。分かった」
自宅のドアを開けると、一斉にフラッシュが目を焼いた。それなりに慣れているが、眩しい。
「エフイーターさん、今の心境は!」「なぜ感染したとお考えでしょうか!?」「これからの予定をお聞かせ願えますか!」「体調の変化などは!」「ファンへのメッセージなどはありますか!?」「感染は、かねてより仲が悪かった俳優の仕業との情報がありますが、本当ですか!?」「答えてください!」
──あー、もう。うるっさいな。
黒服の男たちがマスコミとせめぎ合って、それで出来た道をマネージャーが急ぎ足で歩いてくる。
「エフイーターさん、車を用意してあります。すぐに」
「はいはい」
サングラスを下ろして、エフイーターは面倒くさそうに歩いた。それをさらにフラッシュが照らした。暇な連中だ。明日の朝、いや──今日の夕方のニュースはこれで決まりらしい。
道を開けてください、と怒鳴る黒服たちの努力により、車に乗り込んだエフイーターは発進した車の窓から流れる景色を目で追った。
「それで、あたしはどうなるって?」
「正直、私にも……。ですが、もう映画人生は……」
「分かってるよ。問題は、事務所がどうやってこれに収集つけるかだろ」
「……解雇処分は、正直事務所側としてはしたくありません。なりふり構わず言いますが、そんなあからさまな感染者差別は、事務所とて出来ません。妥当なところで言えば、自主的な退所が最も都合の良い結末です。こんなこと、言いたくありませんが……」
「まあそうだよね。あたしも、今更事務所に残ろうなんて思わないよ」
結局その辺りが結論だった。
心残りは、まだ撮影を終えてない映画が一本あること。良い映画になると思っていただけに残念だ。
「……ん? ここ?」
「いや、そんなはず……ドライバーさん、ここじゃないです。もっと先──」
運転手が突きつけたラテラーノ銃が、返答だった。
「二人とも降りろ」
「おやおや……。まるで映画だ、面白くなって来たかな?」
「はん、だとしたらクランクアップは存在しないな。お前の終わりにスタッフロールは流れない」
「寂しいねえ。あたしはスタッフロールが好きなんだけどな」
車を降りる。
男たちの一人が武器を構えながら言った。
「そっちの車に乗り換えろ」
「はいはい分りました。もう、なんだっていうのかな!」
「──させませんよッ」
マネージャーが動いた。一通りの護身術と、有事に備えてマネージャーは戦闘訓練を積んでいる。マネージャーってなんだ……?
男たちの反応は迅速だった。
すぐさま銃声が響き、マネージャーが崩れ落ちる。
「えちょっと!」
「動くな。こいつみたいになりたくないんならな」
「う、ぐ──」
反射的に周囲を見回す。
街を歩いていた人々が現状を理解して悲鳴を上げる人や、逃げる人々に別れた。
「乗れ。抵抗しても構わんぞ──ここで死にたいんならな」
「……やめとく。マネージャー、すぐ迎えにくるよ。それまで死なないでね」
バンに黙って乗り込んだ。
強い怒りがエフイーターを支配していたが、ギリギリ冷静な理性が体を押さえた。ここで襲い掛かったらマネージャーの痛みに意味がない。
今は耐えて、機会を伺え。
バンが発進した。
「君たち誰? なんの目的があるの?」
「これから死ぬヤツに教えることは何もない。黙っていろ」
「いやいや、そんなこと言わずにさ〜。良いじゃん、あたしの映画見たことない? ファンだったりしない〜?」
危機的状況にしてはあまりにも太々しい。だがそれは、マネージャーを撃たれたことへの怒りを誤魔化すための口調に過ぎなかった。
「まあ良い。今からお前の事務所で記者会見が開かれる。そこにお前を連れて行く」
「あたしを連れてってどうすんの? 引退しますって言えって?」
「いいや、殺す。お前には、感染者代表として、行く末を示してもらう。あと数十分の命だ。せいぜい満喫しておけ」
「……なんでそんなことを?」
「お前が知る必要はない」
バンが数十分走ると、事務所に到着する。
男たちの先導に従い、エフイーターは歩く。機会をずっと伺いながら。
記者会見用の部屋へ、男たちは歩いて行く。こちらを発見した事務所の人間を、すぐさま気絶させて行くのを、エフイーターは拳を握り締めながら見ていた。
そして、誰にも気づかれないまま関係者の記者会見入り口に入った。
フラッシュが、エフイーターに突きつけられた拳銃を照らし上げた。記者の癖で、入ってきた瞬間を取った記者たちは、その異常な光景を理解するのに一瞬手間取り、騒然とした。
「この国に感染者はいらん。よってここで殺すことにする」
男はテレビの録音にもはっきり記録されるようにそう言い放ち、引き金を引き──。
記者、テレビ関係者用の入口から飛び込んできた突風がラテラーノ銃を弾き飛ばした。
「──間に合ったッ」
一、ニ、三……四人の武装した男たちが部屋に飛び込んできて、エフイーターへと駆けていく。事態に追いつけないマスコミを潜り抜けて、フードの男たちへ。
男たちの対応も早い。ラテラーノ銃やアーツユニットを翳して攻撃するが、乱入者の方が速かった。
いくつも響く戦闘音は、十秒も続かない。エフイーターはその機会を逃すほど甘くはなかった。乱入者に気を取られたフードの男を渾身の力で撃ち抜く。
「が、は──ッ」
「機を逃さず、変化すべし──思い知ったか、このやろう!」
大勢の足音が関係者入口から聞こえた。増援──。
乱入者の一人がエフイーターに叫んだ。
「逃げますよ、こちらへ!」
男は長い髪を、乱雑に後ろで縛っていた。理知的な顔つきだが、それにしては服の上から分かるほどに体を鍛え上げている。
エフイーターは状況に興奮を覚えながら、マスコミに紛れていた敵を打ちのめした。掌を伝う衝撃。太極を伝えるが如く、冴え渡った一撃。
そのまま騒然とするマスコミを乗り越えてエフイーターは乱入者──ブラスト小隊と走り去った。テレビの向こう側では、民衆が目を剥いているだろう。生中継のものも混ざっていた。
──これじゃ、まんま映画のワンシーンじゃないか!
訳のわからない状況に、突然現れた助けの手。導入としてはまあまあかな。でも面白い。
「君たちは何者!?」
「話は後です、早く! アイビス、すぐに車を出せ! 連中を撒くぞ!」
「了解っ!」
飛び込むように車両に乗り込んで、車は急発進した。すぐに後ろから何十人もの男たちが飛び出して車に乗り込むが──。
男たちの車はまともに進むことが出来ず、衝突音を生むばかりだった。
「……あれは?」
「僕のアーツです。駐車場の車は全てパンクさせておきました。無関係の人には悪いですが……あなたの命には替えられない」
「うへー、やるねえ君。それで、君たちは……ロドス・アイランド……?」
外套のロゴマークを読み上げた。
「ええ。僕たちはロドスより派遣されました。まずは自己紹介を……僕はブラスト。こいつらの隊長です」
「レイです」
「ジフっす」
「アイビスと申します」
「お前らは一応周囲の警戒しとけ。アイビス、車を安全な場所まで流して」
『了解』
「それで、君たちは一体……?」
「まあ見ての通り──エフイーターさん、あなたを助けに来ました」
・アーミヤ
「まだ休んじゃダメですよ、ドクター」
・ブレイズさん
書類仕事に潰されてる……潰されてない?
S2特化にてゴリラ神となった。攻撃力1500で三体同時に殴り続けるマシーン
暴力の化身か何かか?
・ブラスト
主人公。
行動隊B2の隊長にしてエリートオペレーターの一人。長い髪を後ろで括った青年。外見イメージが適当すぎる……。
・ゴリラ
ブレイズさんほど凶暴ではない。
・エフイーター
おっぱい強制移動熊猫減速かわいい。
かわいい。
感染者になった。おっぱいの化身。
・マネージャー
今回の被害者。
忘れられてる……。多分これからも忘れられます。