猫と風   作:にゃんこぱん

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イベントストーリーよかったですね
砥石おいしい(理性0)


もしも夜空から一つ光が消えたとして-3

探し物などする資格などもう無くしてしまった──と、自覚して久しい。

 

例えば、些細な無くし物……そうだね、本当に些細なものでいいんだけど。なんだろう……例えばそう、安っぽい飴玉なんかで例えよう。買ってきて、机の上に放り出しておいたら、いつの間にかどこかへ消えてしまったとか。

 

大抵、気づかないうちに机の下に落としてしまったり、あるいはポケットの中にいつの間にか入っていたり……誰かが勝手に食べちゃったってこともあるかもしれない。

 

どうせもう一度同じものを買ってくればいいだけの話だ。精々10龍門幣もしない代物にわざわざ探すだけの労力は掛けられない。それよりもやることは腐るほどあって、探している時間などありはしない。そういう生き方を選んだ。

 

これは別に、それが飴玉じゃなくて、もっと大切なもの……腕時計とか、財布とかでも、僕はたいして変わらないんじゃないかと思う。

 

この世界に存在するものは全て代替可能だ。

 

無くしてしまったなら新しく買えばいい。買えなければ作っても、あるいは譲ってもらったりしてもいい。そこに”思い入れ”という曖昧な価値を見出さなければ、の話ではあるが。

 

世界にたった一つだけしか存在しないもの、というものがあるらしい。

 

ハイブランドの一点もの──芸術家の描いた高名な絵画だとか、小さな子供が一生懸命作ってくれた手作りの折り紙とか。

 

それを除いて、この世界に存在しないものがあると、誰かが言っていた……ような気がする。もう覚えちゃいない。

 

そんなものは存在しない。この世界に金という尺度が生まれて、あらゆるものの価値を表現することが可能になって以来、あらゆるものは交換可能、代替可能になっていった。

 

そのことに気がついて以来、僕は探し物を探すということをやめた。価値が見出せなかったから。

 

そして、初めて仲間を失い……その交換不可能な価値に初めて気がついて、僕はこの世界を呪った。

 

本当は、思い出なんて曖昧なものは嫌いだった。よく分からなくなってしまう──例えば、ある人物が居たとして、その人の思い出と、僕の思い出の価値の総量を比較出来ない。単純に測り知れるものではないから。

 

同様に、一人の個人が持つ命の価値すら分からなくなった。あるいは、僕自身の命の価値すら。

 

始めは、命の価値は誰でも平等で、本当は人生は尊いものだと思っていた。いや……そう信じていた、というべきか。

 

だが、それは違うんじゃないかと思い始めた。

 

人を助け、人の力になり、人の救いとなる人間の持つ価値は、人を傷つけ、人を騙し、人を殺める人間の持つ価値よりもずっと高いんじゃないかと。

 

命の勘定なんて忌むべき行為だと理解している。だが……そんな思想はゴミクズと何が違うのだろう。役に立たない。捨ててしまえ。

 

命を金で表せるのならば、世の中の利益になることをした人間の価値は高いのだろう。

 

金を命で表せるならば、僕の仲間たちはこの世界の紙幣を全て集めたって足りない(ワンコインで十分すぎる)

 

だってそうだろう?

 

あいつらは、僕の仲間たちは……僕にとってかけがえの(僕みたいなゴミクズを)無い大切な仲間だった(命を差し出してまで守った)んだから。

 

だからこそ、僕は────────。

 

 

 

 

 

 

レオーネでは集中的な訓練が常に行われている。

 

旧南部軍の訓練施設を流用して、武器の訓練、兵站行進、戦術演習がスケジュールに従って進行する。

「はぁっ、はぁっ、くっ……!」

「ケド二等兵、グズグズするなッ! 死にたいのなら別だがな! 走れッ!」

「はっ、はいッ!」

 

槍を構えた青年が大きな背嚢を背負って炎天下の下を走る。汗と疲労に歯を食いしばりながら前へ──。

 

バオリア奪還以来、レオーネには従軍希望者が殺到した。

 

解放宣言が出された頃は、妙な新興組織に期待する人々は皆無だった。しかし──実際にバオリアを奪還し、北部の強い支配から人々を解放したことから諦観は期待へと変化することになる。

 

特にバオリアは食糧生産が盛んで、エクソリアの主食である米や芋の畑が広がる平野がある。奪還以来、アルゴンの貧しかった食卓事情がすぐさま改善されていったのが大きい。北部軍による南部領の占領が進んでいくと、アルゴンへ供給されていく食料がだんだんと減少していった。

 

未開拓の森林が広がるアルゴンのみでは、国民の食料を賄いきれなかったのだ。北部軍による南部国民全体への兵糧攻めは強い効果を発揮していた。

 

だが食料自給が回復してから、レオーネの存在と、その希望を信じない人々は存在しなくなった。

 

手持ち無沙汰のスカベンジャーは目立たない日陰からその光景を眺めている。最初にレオーネに来たときと同様に、ただ鋭い目つきで睨むように眺めている。

 

視線の先にあるのは、一人の訓練生の女性だ。

 

褐色の肌に黒く長い髪を後ろで結んでいる。手に持った剣を振り、教官相手に立ち回っているが──弾かれて尻餅をつく。

 

凛々しい顔つきだった。とても懐かしい────。

 

「彼らが気になるのかい?」

 

もたれて居た壁の向こう、開いたガラス窓ごしにエールが窓枠に肘をついていた。

 

相変わらず気配のない男だ。それに貼り付けたような薄い笑みに真っ白い髪。肩まで伸ばしていると、中性的で柔らかい印象を受ける──普通ならば。

 

ただ、スカベンジャーにはどこか不気味でならなかった。人間味が欠落しているとも表現するべきか。巷では救国の英雄と称えられているのは、背負った罪の裏返しだ。戦争をしていることを、当事者たる人々は知らないのか?

 

所詮戦争など殺し合い、それ以上もそれ以下もない。殺したことに変わりない──。

 

まあ、偉そうに自分が言えることでもないか。

 

「別に。あんたには関係のないことだ」

「まあそうなんだけどさ。会話が嫌いなの?」

「人が嫌いなだけだ」

「そう。じゃあどうしてここへ?」

「生きるためだ。はっ、ただ……あんたは違うみたいだけどな」

 

エールはそのことに返答せず、表情を崩さないまま訓練中の兵士を眺めた。

 

「煙草吸ってもいい?」

「好きにしろ」

「ありがと」

 

慣れた手つきで箱を叩き、一本取り出して火を着けた。紫煙が湿った空気に消えていく。

 

別に気になるほどでもない。煙草の臭いなんて今までしていた経験に比べれば優しいものだ。

 

「人ってすごいよね。一ヶ月前までは武器も持ったことのない女性でも、すぐに兵士へと成長する」

「……」

「意外かい?」

「戦うのに男も女もない。大したことじゃないだろう」

「そうだね」

 

スカベンジャーは休憩していたさっきの女性の方に歩いていく。

 

エールはそれを見届ける前に去っていった。仕事が山積みだ。

 

「おい」

「え? えっと、何……?」

「お前、さっきの剣の構え……もう一度やってみろ」

 

座り込んでいる女に無愛想なまま言い放つが、流石に何がなんだか分からないと言った様子だ。

 

「さっさとしろ」

「えーっと……こう?」

「ちっ……お前、もっと力を抜け。それから前を見すぎる癖がある。多少相手の足元……足運びにも気を配れ」

「え、えーっと……?」

「私が相手になってやる。かかってこい」

 

如何なる時でも背負っている大剣を掴み、正面に向けて構える。

 

広い訓練場は相変わらず息を切る声と教官の号令で騒がしい。風の音が耳を撫でる。

 

女は戸惑っていたが、短く息を切ると表情を切り替えた。

 

「……私は”お前”じゃなくて”ミーファン”よ」

「そうか」

 

ミーファンが黒い髪を波打たせて飛びかかる。覚悟が決まれば一直線なのが彼女の特徴だった。訓練用に刃は落としてあるが、その重量は剣だからと言って馬鹿にできるものでは無い。

 

正面からの上段振り落とし。ただ、呆気なくスカベンジャーの大剣に横から弾かれてしまう。微かな隙に、ミーファンの首元に大剣の切っ先が向けられていた。決着──。

 

「女は男に比べて腕力で劣る傾向がある。だが柔軟性は女の方が高い。もっと相手を観察しろ。勢いがあるのは結構だが、お前には向かないだろうな」

「むっ……。バカにしてるの?」

「事実だ。自分に適した戦い方を選べ。じゃなきゃ死ぬだけだ」

 

睨むミーファンに、スカベンジャーは内面だけでたじろいだ。少し言いすぎたか? いや──そもそもなぜ私はこんなお節介を?

 

少し冷静になってスカベンジャーは踵を返す──呼び止める声。

 

「待って!」

 

振り返って見える顔や雰囲気が──やはり、そっくりだと思う。本当に似ている──もしも、”あの子”が生きて成長していれば、こんな風になっていたのだろうか。

 

「なんだ」

「あなたの……名前、教えてくれない?」

「……スカベンジャーだ。そう名乗ってる」

「変な名前ね」

「放っておけ……。私のコードネームだ」

 

調子が狂わされる。

 

「それと……もしよかったら、もう少し付き合ってくれない?」

「……なに?」

「お願い! スカベンジャー、あなたすっごく強いじゃない! ね? ちょっと、ちょっとだけでいいから!」

「……」

「あ、訓練の方は大丈夫! うまく言っておくから!」

 

そんなことを心配してる訳ではない──。

 

だが、不思議と面倒な気持ちは起こらなかった。

 

「……30分だけ相手してやる」

「やった、ありがとうスカベンジャー!」

 

そうやってすぐ人の手を握って喜ぶところまで──生き写しか、生まれ変わりか。バカな想像だと分かっていても……。

 

その後、なんだかんだと理由を付けられて二時間以上付き合わされた。

 

 

 

 

 

「どうしたの? 疲れた顔してるけど」

「気にするな……」

「そう? まあいいけど……」

 

エールはいくつかの顔写真がクリップされた書類を手渡した。

 

「こいつらシメてきてくれる?」

「……殺さないのか?」

「やだな、そんな物騒じゃないよ。アルゴンの裏家業を仕切ってる連中なんだけど……僕らと協力する気がないみたいだから」

「お前……そんなことに手を出すつもりか?」

「んー……。積極的にはやらないけどね。光があるなら闇もある。ならそれはコントロールしなければ」

 

本当になんでもないかのように話すエールに、スカベンジャーは相変わらず無愛想にじっと見つめるだけだ。

 

「まるで王様気分か。さぞ気持ちのいいものなんだろうな、その椅子は」

 

現在──エクソリア南部は事実上の独裁体制にある。

 

表向きには国立病院の院長だったグエン・バー・ハンが市政を治めているが──結局、エールの意向通りの政策を実施している。このことを知る人間はそうはいないが……。

 

エールの最も強い力は、つまるところエールという個人の持つ暴力、ひいてはその恐怖だ。そして国や人々、部下に与える利益の両立。利害の一致。その飴と鞭の使い分けが絶妙だった。

 

個人の暴力が小さいとは言え一つの国を支配する。奇妙だったが──逆らう人間はすぐにいなくなるか、行動方針を変更した。

 

これはあまり知られていることではないが──エールが享受する利益……金などは極端に少ない。それこそ一兵卒が受け取る僅かな給金に等しい。住処さえ不明、その目的は北エクソリアの開放、ひいてはエクソリア全土の統一にある、と本人が公言する通り、もはや誰もが知る南部の英雄だ。

 

「……そう見える?」

「ああ。あんたが座ってる”そこ”に座ってるヤツが事実上、この国を動かしている」

「はは……そんないいものじゃないよ。本当さ」

「じゃあどうしてそんなところに座ってる?」

「さあ。君がさっきの訓練兵を妙に気にしていたのと、同じ理由なんじゃないかな」

「ふん。お前は無駄に口ばかり上手いな」

「皮肉かい?」

「はっ! いや、本心だ」

 

それこそ皮肉だった。

 

エールとスカベンジャーが揃うと何かにつけて雰囲気がピリつく。本心と呼ばれるそれを、お互いに見せたことがないのが要因だろうか、それとも生来の気質が食い違うのか、誰にも分からないが──。

 

「……まあ、仲良くしようよ。君と僕の利害が一致している限りはね」

「それだけは同感だな。いつまでに片付ければいい?」

「のんびりやってくれればいい。いや、しかし参ったね……。ウグラ山脈での作戦が君の初任務になると思ってたんだけど、色々任せっきりだ」

「気に入ってもらえて何よりだな。だが覚えておくといい。私の経験上、あんたみたいな連中は長生き出来ない」

「それって例えば、悪巧みをするような人ってこと?」

「いいや、無駄におしゃべりなところだ」

 

エールは肩を竦めた。無駄なお喋りとバッサリ言われてしまったらどうにもならない。

 

──別に、無駄でもお喋りでもないんだけどな。

 

仲良くしたいという気持ちは、一応本当だった。本当に、一応だが。

 

「ああ、一つだけ。スカベンジャー。君、ドラッグについてどう思う?」

「……別に、何も。やりたければ勝手にやってればいい」

「そう。じゃ、任せたよ。あ、何か必要なものあったら言ってね」

「そうか? じゃあ一つ頼みなんだが……戦争のない世界が必要だ。用意できるか?」

「意外だね。君がそんなものを必要としているなんて……」

「私には大剣(これ)しかない。だが……面倒ごとは嫌いだ」

「そうだね。用意しよう──……向こう三年以内に、必ずやり遂げてみせる。約束さ」

「約束は私が最も信用してないものの一つだ。契約書でも書いてくれれば、多少は信じられるんだがな」

「散々書いたさ。今アルゴンの議会に通してる」

 

──大真面目にエールは答える。

 

スカベンジャーはエールを見下しながら口を閉ざしている。

 

やがて堪えきれなくなったのか、スカベンジャーが吹き出した。

 

「ぷっ、くくく……ははッ! 多少興味が湧いたな。あんたの約束がどんな風に破られるか、私が見届けてやる」

「僕はちっとも笑えないけどね。我ながら酷い冗談だ」

「はははッ……。そこでふんぞり返ってろ。すぐ成果を持って帰ってくる」

 

スカベンジャーが笑いを堪えながら退室していった。残されたエールはぽつりと一言。

 

「……ひどいな。そんなに笑うこともないじゃないか」

 

珍しく不満げに天井を見上げて──。

 

ああ、本当に……笑えない冗談だ。




スズランガチャ死にました
ブレイズさん1凸しました
本当、笑えない(エール並感)

・エール
だんだん胡散臭くなってきてへんかお前
こんなんでも兵士の前ではめっちゃしっかりしてると思います
面の皮が厚いんでしょうね

・スカベンジャー
以下スカベンさん
昇進2イラストかっこかわいいですね

・ミーファン
オリキャラ。エクソリア人の女性。種族は……なんか適当に想像しててください
本名マイ・チ・ファンという設定があるが、今後出てくるかは未定。愛称がミーファン
スカベンさんと仲良くなる(?)
スカベンさんの昔の知り合いによく似ているようだ(特大フラグ)

上級エリートめっちゃ来ます(隙あらば自分語り)
このタグで来るキャラ全員揃いました
とっとと書けってことなんでしょうか……?
恐怖です
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