戦争描写とか正直わかんないんで適当に書いてます。許してください
きっと一発の弾丸がこの世界を変える。
僕はその瞬間をずっと待ち描いている。
What you lost,what you got -1
山脈に囲まれた平野の地、バオリア。ウグラ山脈の切れ間、森林地帯を挟んで睨み合っていた両軍だが、ついに武力衝突が始まった。なし崩し的に始まった戦争を止められるものなどどこにもなかった。
その中で、数も質も勝る北部軍に、LAoNEは強い苦戦を強いられる。
総司令部は逆境の中で、ギリギリの策を生み出そうと足掻いていた────。
What you lost,What you got
レオーネ”大将”グエン・バー・ハンら司令部は一部バオリアへの侵入を許した事実を受け、地図を前に頭を抱えていた。
「くッ、援軍は送れんのかッ!」
「無茶だ、いったいどこにそんな兵力がある! やはり今は耐え忍ぶしか方法はないッ」
「だがこのままでは……ッ!」
老人、グエンとてほぼ同感だった。
ゲリラのリーダーをしていたグエンは、北部軍の強さを肌で理解しているはずだった。しかしこの猛攻は度が違う──本気で取り返しに来ている。勢いをつけつつあるレオーネをここで挫いて、再び統一に王手をかけるために。
以前までのような戦術ではない。全力を注いでの兵の投入。それだけ脅威と判断されていると言うことでもある。
「狙撃部隊はなにをしているッ! 高台を取ったはずだろうッ!」
「──で、伝令ッ! 伏せていた狙撃部隊が奇襲に遭い、兵力の三割を失ったとの報告です!」
「バカな、位置がバレていたと言うのかッ!? クソ、どうしてだ──ッ!」
「中央に兵力を集中させ、防ぎ切るしかないッ」
「だが攻撃はどうする、攻めねば勝てんぞ!」
「どう攻める! こちらの手は尽く潰されているのだぞッ!」
紛糾する会議室に一人の男が入室する。
「状況は……あまり良くないみたいですね」
「エール貴様ッ、今までどこに居た!?」
「大事な用があったので」
「大事だと!? この戦いよりも大事なことかッ!」
「ええ、もちろん」
白髪の青年、エール。優しげな顔つきだが、地図を見る目つきは鋭い。
掴み所のない男だ。この場にいる元南部軍幹部たちにとっては目の上のたん瘤にして生命線。レオーネの特別顧問にして、実質的なリーダー。
レオーネの組織構造は少々特殊な形をしており、エールが名目上のトップではない。エクソリア人でもなく、ただの流れ者がリーダーになるというのは収まりがつかない。そのため、市井にも人気のある元ゲリラリーダー、グエンが大将に収まっている。これはエールの意向でもあった。
壊滅状態にあった南部軍を立て直し、国を纏め上げてバオリアを奪還したのは、すべてエールの成果だ。ただ、エクソリアの上層部にとっては……毒にも薬にもなりかねない危険人物。特に軍隊上がりの将校にとっては。
「打開の当てがあります。一週間時間を稼いでください。出来ますか?」
「一週間だと!?」
声を荒げる将校を他所に、老人グエンが初めて口を開いた。
「……ゲリラ戦、というわけですか」
「ええ。北部軍本体は森林地帯の奥です。ならばゲリラ戦に打ってつけだ」
「消耗戦だと? 何をバカな」
「ええ、普通ならばもっと単純に決着をつけます。ですが、こちらに決め手がないことも事実。ですから……長引かせてください。あなたたちの得意分野では?」
南部軍が健在だった頃の話だ。だが……それとて戦いを長引かせ、じわじわと削り取られていっただけだった。ウルサスの支援を受けた北部軍があまりに強力だったのもその一因だ。
「だが当てだと? 何をする気だ」
「そこはもったい付けましょう。今は話すことが出来ない」
「どう言うことだ!」
「どこにスパイが潜んでいるか分からないからです。北部の得意分野は諜報戦、情報戦です。狙撃部隊の伏兵も、事実バレていた。あなたたちを信用していないわけではありません。ですが……」
「くッ……だが……本当に任せられるんだろうな。このバオリアを防衛しきれなかったら、また南部は振り出し──いや、もっと厳しい状況に立たされるのだぞ」
「ええ。僕に任せておいてください。特上の策を持ち帰り……この戦いに勝つつもりです。それにはあなたたちの協力が欠かせない。よろしくお願いします」
エールのことが信用しきれていなくとも、選択の余地はなかった。
絶望的な状況の中で足掻き、希望が見えるまで戦い続ける。それは、誰だって一緒だ。
「おーけーお待たせ。すぐ出発しよう、乗って」
「うえ、マジ? ねえ、マジであたしも行かなきゃダメ?」
「君がこの作戦の鍵だ。まあ正直……もう少し早く喋ってくれていたら、僕らはこんな急がなくてよかったんだけどね」
「いや、それは悪いと思ってるけど……でもあたしの立場も考えてほしいっていうかー……」
「僕も君には悪いとは思ってる。けどこっちも命が懸かってる。お互い様ってことにしておいてくれ」
エンジンを掛けてアクセルを踏む。緑の軍用車が荒っぽい運転で走り出した。
「エールってばさぁ。マジでやるつもりなのー? やばいってー……」
「他に選択肢はないんだろう? 正直この線だけが頼りなんだ。僕らには人も金も時間もないからね」
「……あのさー、あたしスナイパーなんだけど。取引の内容、忘れないでね」
「当たり前だよ。ここで君に死なれるわけには行かない」
「ならいいけどさー」
車の向かう方面は西側。つまり──隣国だ。市街地を抜けるとすぐ舗装されていないゴツゴツした道に変わる。
「それで、詳しい場所は分かるんだっけ」
「まー、大雑把にはね」
「そう。なら幸運だね。先を急ごう」
先日ラテラーノ部隊と交戦した時から、エールは一貫して一つの目的に向かっている。
それは銃の確保。既存のボウガンにとってかわる、強力な武器だ。
銃撃部隊を編成する。それがエールの今の目的。詰まるところ、北部軍に現状では勝ちきれないことの裏返しだった。
「それにしても……君らも大変だよね。NBI……いや、NHIだっけ?」
「そー。あんたよく知ってんねー……」
「ラテラーノ部隊の服から色々見つけてね。まさかあんな組織があったなんて、世の中は分からないことが多い。つくづく思う」
「てか、あたしは別にNHIじゃないし」
「そうなの?」
「あったりまえでしょー? NHIはラテラーノに関わる国際事件を調査する組織。そんなとこなんて、ダルくてやってらんないっしょ。あたしはラテラーノでぬくぬく過ごしていたかっただけなのにさー……」
Nationalibus Hendrerit Investigatione。共通語で表すと
ラテラーノ自体が一般に知られにくい国であることを差し引いても、実態が掴めない組織だ。少なくともエールは聞いたことがなかった。
「じゃあどうして君はNHIに同行を?」
「知らなーい。まー、あたしのアーツ……生物を感知するアーツはそこそこ便利だかんねー、その辺じゃない?」
「嫌なら断れば良かったのに」
「それができるんなら苦労はしないっしょー。公務員はノーって言えないから公務員なの。税金から給料が出る代わりに、首に鎖を繋がれた国家の犬なんだからさー」
「……なるほど、大変そうだ」
「あんたには負けるっての」
「そうかもね。──それじゃ、大体の道案内は頼むよ」
あーい、と間延びする返事をして、アンブリエルは地図を広げた。
仕事くらいは真面目にやろう、とは一応思ったのだ。三食とベッドを用意してもらっている身分でもあるし、何より今の自分が生かされている理由を理解していたためだ。
「てかさー、もしかしてこの仕事終わったらあたしって帰れる?」
「うん」
「……殺さない?」
「殺さない殺さない。大丈夫大丈夫。取引は成立してるよ」
「ちょ、マジやめてよ。ほんとお願い、死ぬのだけは嫌、マジ勘弁」
「本当だって。ラテラーノに帰りたいんでしょ? 別に君は、レオーネに志願してきたわけじゃない。言わば捕虜だ。ラテラーノと事を構えるつもりもないし……。あのラテラーノの狙撃部隊の死に関しても、ラテラーノに説明してくれると助かるかなぁ」
「そのくらいは……まあやるって。別にあんたが殺したわけじゃないんだし」
「そう。ありがとね」
*
覚えている中で最も古い記憶は何だ?
バカな質問。それすら覚えているわけないのに。
別に過去も未来も重要じゃない。だって生きているのは今だ。楽しまなきゃ。
──そう言ってたの、誰だっけ? 忘れた。
でもその耳障りのいい言葉を妙に気に入って、何度も思い出しているうちに、いつしかそういう生き方になっていた。
真っ当に生まれ育った覚えはない。育ててもらった記憶はない。子供という身分を許されなかったので、勝手に大人になったのだ。
最初に触ったのはハンドガン。
ラテラーノでは、これら銃器を使った犯罪が後を絶たなかった。きっとこれから先も絶たないだろう。どころかその規模はラテラーノに収まらず、今なお拡大し続けようと──。
マシンガンも触ってみたけど、性に合わなかった。
ライフルは嫌いじゃなかった。でも……形が気に入らなかった。もっと単純に、もっとシンプルな構造はないのだろうか? 今の現代風にアレンジされた銃はゴテゴテしてて嫌いだ。
どうにかこうにか苦労しながら学校を卒業。巡回隊の一員になる。
巡回隊が市内で行われた犯罪に直面し、なんやかんやあって活躍。スナイピングの技術を買われて高給料で移籍。
とある任務のさながら、ある国で捕らえられ、現在はその人物に協力している。
現在までの経歴……だと思う。
友達もいた。お洒落が好きだ。
この軌跡に名前をつけて、これを人生と呼ぶのなら、きっとその先には地獄が存在している。
そうでなきゃ、こんなにクソったれなはずがない。
*
『……工場?』
『そ。なんかここらへんでさー、ラテラーノ銃を密製造してるっつー工場がある、みたいな噂があってさー。しょーじき、あたしが出せる情報ってこれくらいしかないっつーか』
『密製造……ね。なるほど、ラテラーノ部隊が来る訳だ。ってことはエクソリア国内のどこかってこと?』
『いや、違うっぽい。あんたに捕まる前、あたしらは国内を調査してたんだけどそれらしい痕跡はなし』
『うん? とすると──そもそも、どうして密製造工場があるって分かったんだ?』
『ラテラーノ銃には製造番号が振られてんだけどさー、なんかどっかで存在しない製造番号の銃が見つかったんだって。そんで調査を続けてったら国外で製造されてる可能性が浮上したの。怪しい場所を虱潰しに探してって、多分ここらへんにあるかもしれないっていう』
数日前、アンブリエルが話した内容は、エールにとっては十分に魅力的な情報だった。
ラテラーノから仕入れる手も探していたが、国外輸出が制限されているため大きな量を確保できない。その上金もない。さらには売ってくれるかどうかも微妙だ。
秘密工場というのは、とても都合が良かった。
『いくつか教えて欲しいんだけどさ。銃の製造ってのはそう簡単に出来るもんなの?』
『出来る訳ないっしょ。あたしらでさえ解析できてない未知の技術を使ってんだから』
『サンクタでさえ理解できてないのかい? じゃあどうやって銃作ってんだ……』
『理解できなくとも、真似は出来るの。発掘された銃の構造を何とか模倣して作ってんのよ、ラテラーノでは。昔からの伝統的な工芸の一つってこと』
『随分物騒な伝統だ。……それで、つまりはその技術、ないしは技術者が流出したってことになるの?』
『まーそんな感じじゃねー?』
『適当だね……。だとしたら国内から流れ出た痕跡が残ったりしてるもんじゃないの?』
『それがないからローラー作戦でやってんの。いや、今はどうか知らないけどさー』
気怠げに話す様子は、嘘を言っている気配は見られない。
もっともそれが本当かどうかを確かめる術がない以上、信用するかしないかはエールに委ねられていた。
アンブリエルの立場は微妙だ。そもそも暗殺されかけたのだし、報復として殺してしまっても特に違和感はない話だ。現状、唯一ある銃への手掛かりとしてエールが面倒を見ているのであって、レオーネに所属しているわけでもない。
ただ、アルゴンをぶらついたり、買い食いしているところを見るとそれなりに楽しんでいる、らしい。
『……ラテラーノから銃の輸出ってのはしてないんだよね』
『まーね。今んとこ国内だけ。でも利害の対立っつーの? 兵器としての銃を他国に与えたくない政府と、ブルーオーシャン同然な海外市場に進出したい武器商人との間で摩擦が発生してんの。密輸ってのは少なくないよー。ただ、やりすぎたらあたしらみたいな警察がしょっ引いて国家転覆罪容疑で裁判所行きなんだけどさー』
『……どこに密輸されているか、っていうのは分かる?』
『え、なにあんた。まさか調べようってんじゃないだろうね』
『困るかい?』
『あたしは困んないけどさー……。ラテラーノに戻ったとき、あたしの立場めんどいことになんない?』
『なら取引だ。君を無事に生きて帰す代わりに、情報が欲しい』
『……信用できんの、あんた。用済みになったらあたしのことさっさと消すつもりじゃない?』
エールは苦笑いしながら答える。
『約束は守る主義さ』
『破るヤツはみんなそう言うの。てかそんな細かい情報まで知らないって。そもそもあたし、その件とは直接関係ないし────』
首を横に振りながらアンブリエルは言うが、エールはじっと見つめている。
『──って言ったらどうする?』
冗談めかした。無言の圧力は苦手だ。シリアスなのもそんな好きじゃない。人生もっと楽しそうに出来ないのかこの男は。
『別になにも。その場合は君の持っていた狙撃銃を分解して、設立したばかりの兵器開発部門に回すよ。そうなれば自力で作るしかない』
『……あんた今、なんて言った?』
『狙撃銃を分解する』
『違う、そうじゃなくて──ああ、そういうことねー。そっか、それは見落としてたわ。あたしとしたことが、そんな当たり前の発想をなんで思いつかなかったんだろ』
『何か分かった? 君の考えを聞かせて欲しい』
『技術者は流出してなかった。でも……銃は出回ってないわけじゃない。どっかで銃を手に入れて、それを元に技術を再現した可能性が、たった今生まれたってこと』
『アタリ……かな。アンブリエル、さっきの取引の続きをしよう。特に銃が出回る拠点か何か、知らない?』
『……エクソリアには入ってきてない。あるとしたら……テスカ連邦ね。ちょうどここの隣国に何年か前、大きな取引があったかもしれないって情報がある』
テスカ──小さな国々の連邦国。拡大化する周辺諸国に対抗するために合併し、一つの国になった歴史を持つ。エクソリアと同じ発展途上国である。
『僕と君の運も捨てたものじゃないみたいだね』
『だといいけどさ────って、あんた、何考えてんの?』
『これはただの雑談で済ますには惜しい内容だ。今すぐにでも──』
そこで北部軍がバオリアに侵攻を始めたとの情報が入り、そして今に至る。
「テスカに入るまでは暫くかかる。音楽でも聴く?」
「あんのー?」
「まあ、ちょっとね」
実はエールたちが乗っている車両は、エールがブラストだった時にロドスから乗ってきた車両だ。そのため音楽プレーヤーとCDがいくつかある。
「……退屈しのぎには悪くないっしょ。これにしよーっと。えーっと、何これ……One more light? 聞いたことないんだけど」
「僕の趣味さ」
CDが挿入され、静かな音楽が流れ出す。暑いエクソリアで聴くには似合わない、しんみりした曲だった。
エールは口ずさみながら運転していく。
「Should stayed──were there sign I ignored────」
そんなわけで、バオリア防衛のための銃確保に向けて動き出したのである。
*
同時刻、バオリア前線。
バオリアの街と広がる農業地帯を見下ろせる高原の森林が戦場となり、叫んで突撃する兵士たちが命を削り合う。
『おおおおおおおおおおお──────ッ!』
手榴弾の爆発する音がさっきから途切れていない。
そして開戦と同時に、訓練兵は急遽正式な兵士として登用され出陣することになった。元南部軍の軍人を骨格に指揮系統が構成され、数を揃える。
だが──初陣というのはそう甘いものではない。
マイ・チ・ファン──ミーファンは浮き上がりそうな意識の高揚と狂騒の中で直走った。
「走れ、奴らの後ろに回り込むんだッ! 急げ!」
訓練ではない。
高所特有の短い草の大地を踏み締め、剣と盾をぎゅっと掴んで構えて走る。
次々と小隊が出撃していく中、ミーファンも同様に初めての実戦──命の奪い合いに身を投じていく。
小隊長の命令通り、敵隊の後ろから回り込んで挟撃する作戦。背後からのボウガンの支援を受けて走る、走る。疲れなど感じない。アドレナリンによる脳内麻薬。
木々の隙間に仲間たちと並んで突撃する。
ミーファンはこれが現実かどうかいまいち確信が持てなかった。まるでスクリーン越しの景色のようで現実味がなかった。だが装備の重さも高揚感も恐怖心も全て自分のもので、紛れもなく現実。
会敵────心臓の鼓動が早まる。
「ッ、ああああああああああッ!」
挟撃は成功していた。事実敵はこちらに背を向けて、ボウガンから身を隠している。
まだ気付かれていなかった。だというのにわざわざ叫んでこちらの存在を知らせてしまった──のは、責められることではない。新兵にそれを要求するのは酷だ。
「ッ、なに!? 後ろから──ッ!」
ミーファンの叫びにつられて仲間の新兵たちも叫んだ。限界ギリギリの緊張が切れ、むしろ爆発するように。
『ぉおおおおおおおおお────ッ!』
振り上げた剣を振り下ろす。その脳天に向けて、熱に浮かされるまま。
相手の顔がはっきりと見える。
大体三十代程度だろうか。北部らしい、南部の人間に比べて肌の色が少々薄く、特に鼻の造形が多少深い。
北部軍の戦闘服は迷彩柄で、急ごしらえで作った南部軍の新緑色一色よりかはずっとそれらしい色だ。服の上からでも軍人特有の筋肉が透けて見えるような錯覚がした。ミーファンは驚きの目でこっちを見上げる北部兵と目が合う。北部兵も当然武器を持っている、剣だ、鈍い赤色がこびりついていて、よく見れば服にも所々負傷した跡が見える。ボウガンからの盾にしていた原木の色の中で敵のシルエットはとてもよく分かる。すでに剣は振り上げた。敵の反応も早いかもしれない。反撃を警戒、いや一撃で倒さないと、いや倒すんじゃない。殺すんだ。殺さないと、殺さないとこっちが殺される、やらないと、
「ああああああああああああああああッ!」
金属の音が共鳴する。北部兵は振り下ろしをとっさに剣で防ぐ。だが体勢はよくない。そもそも半ばしゃがんでいた。
ミーファンは無我夢中のまま剣を振るった。
肉を切る感触を、初めて知る。
人を殺す感覚を知る。
「はあっ、はあっ、はあっ……ッ」
運動量に対してずっと多い呼吸。極度の緊張によるものだ。
正気に返って周りを見る。まだこれで終わりじゃない、そもそも一人殺しただけ──ミーファンの冷静な部分がそう判断する。
強い足音がして、ミーファンはそちらを振り向く。
北部兵が槍をまさにミーファンに向けて突き出さんと──。
思わず放心する。そうだ、攻撃されることだって当然あるのに、散々教わったのに──。
ぼんやりとした時間感覚で死を想う。
だが結末は異なったものだ。
槍が大剣に吹き飛ばされ、持ち主の首が宙を舞った。
少し遅れて銀色の髪が目に入る。一般兵の服装とは異なる戦闘服。後ろ姿。最近見た姿。
「何を呆けてる。死にたいのか!」
スカベンジャーが冷徹な瞳でミーファンを見ていた。
「す、スカベンジャー。なんでここに」
「後回しだ! クソ、面倒な任務回しやがって……! おいお前、私の任務は別にお前を守ることじゃない! 守ってもらえるなんて甘い考えは捨てて、せいぜい生き残れ! 死にたくなければな!」
「わ、分かってる! ごめんねスカベンジャー、助かったよ」
「生き残ってから言え! 行くぞッ!」
自分らしくもないことをした、と後悔しながらスカベンジャーは走る。撹乱──背負ったバッグの中の大量の爆弾を用いて、戦場を撹乱する。
長い戦いになる。いや、長い戦いにしなければならない。
戦いはまだ始まったばかりだ。