Wちゃんはよ!!!!!
夏の太陽の下。穀物地帯の広がるバオリア、広大な大地に設置されたキャンプの天幕の中で、レオーネの幹部たち仏頂面で集まっていた。
グエンが真剣な趣で話し始めた。
「では、改めてバオリア掃討戦に関しての最終確認を行いましょう。エールさん」
しわがれた声が響く。
グエンは南部軍人上がりが多くを占めるレオーネの幹部内においては幾らか体格的にも年齢的にも異なっていた。
アルゴン国立病院の院長にして元南部ゲリラのリーダーを務めてはいたが、本業は医者──とはいえ現在はレオーネの活動が主ではあるのだが。
もっとも、そんな老医者がこの場に混じっていることに不満を覚える人間はいなかった。それは一重に、グエンの穏やかな人柄と強い道徳心を持つ、尊敬すべき人物であることが理解されていたからだ。
エールはその声に答えて、真剣な趣で立ち上がった。地図の広がったテーブルを囲う幹部たちはずいぶん厳かな顔をしている。
「はい。では確認ですが──バオリアの未開拓エリアに潜む北部兵たちに関して、投降は必ず受け入れるようにしてください。必ず、です」
幹部の一人、元南部軍将校が口を開く。
「だが投降するフリをして攻撃してくるかもしれん」
「ええ。ですから武装解除を確認してから近づくように」
「……エール。いい加減言わせてもらうがな、甘すぎる。連中は略奪者だ、殺さん理由を説明できるのか?」
「言い分は尤もではありますが、無闇な虐殺は控えなければなりません。余計北部を刺激することの意味もない。理想は全員を生かしたまま捕らえて北部との取引の材料にすることです」
「それほど上手く行くのか?」
「彼らに逃げ道を残せば、あるいは。森の中には食料は少ないでしょう。少なくともジャングルに潜む北部兵たちは疲弊しています。追い詰められた鼠でも、猫を噛む──いえ、追い詰められたからこそ、鼠は猫を噛むほどの力を発揮します。決して、彼らを追い詰めないように。ダン中佐、あなたの部隊は元軍人が多数を占めています。ですから敢えて言います──このバオリア掃討戦は、
「繰り返さんでもわかっている」
別の幹部が口を開いた。彼らのエールへの印象は、バオリア防衛戦を通じて変化していた。
バオリア防衛戦以前は何処か胡散臭い笑みを浮かべていたエールだが、以後はその笑みを引っ込めた。そして、暴風のような圧力を錯覚させるようになった。
何よりも、エールの言った通り、1週間を何とか持ち堪えると本当に銃という特大の兵器を持ち帰って来た。バオリア防衛戦においてエールは流石に戦闘ではなく指揮に徹していたが、死にそうな傷の中で南部軍を勝利に導いた。
ここに至っては、幹部たちは全面的な信頼はしないまでもエールを認めつつあった。
「それで、エール。貴様は今日どこにいるつもりだ?」
「僕は貴族との戦争です。掃討戦は皆さんに任せます」
貴族という単語を聞いて、快く思うものはこの場に誰一人居なかった。
だがエールが自らの計画や本心を外に出さないため、疑惑の目で見られる。何をするつもりなのか、と。
「レオーネの威信を落とすような真似はするな。連中は誰もを下に見ている──分かっているな、このバオリア掃討戦とて連中に押し付けられたものだぞ」
「ええ、理解しています。……さて、では各部隊長に通信を──バオリア掃討戦を始めましょう」
そんな訳で、また戦争が始まった。
1096年7月15日:バオリア掃討戦
この日、まだ正午に差し掛からない夏の下、バオリアの平野に広がる街には活気の中に様々な車両や人々が行き交っていた。
白い漆喰の建物が無数に立ち並び、大通りを少し避ければ所狭しと並んだ建物が大地に無数の影を映し出している。
日差しが強い。エクソリアの白い壁に反射して、外は眩しかった。
これは太陽の光を反射する白い建材を利用することで、太陽の熱気から身を守る古くからの工夫でもあった。バオリアも、アルゴンと同じように古いエクソリアの生活様式を受け継いでいた。
生活色に染まった街にも、貴族の家は存在していた。
それは、外から見れば一目見ただけで理解できる。というのも、エクソリアの一般的な建物はいつでも天災から逃れ、また何処か別の場所で街を立て直せるように、徹底して簡略な作りをしている。
一般的に、複雑な構造は省かれる。例えば、ほとんどの建物は四角形のシルエットで構成されている。
だが、それは非常に大きな建物だった。木材や白くないレンガを使用して建設された、エクソリアには似合わないような、豪華な建物で、全体的に何処か外国風だとエールには感じられた。
貴族はその権威や財力を示すため、天災から逃れるたびに大枚を叩き、こうして豪華な家を建設させている。
ふざけた話だ、とエールは思った。
「────見事なものです、この家は」
「ぉお、英雄どのに褒められるとは栄光ですな。見事なものでしょう。ヴィクトリアの大工たちを呼び寄せて作り上げたものでしてな」
「ヴィクトリアから? それはまた」
「なかなか苦労したもんです。さすがはヴィクトリア人でしたな。彼らは芸術というものを理解している。ここの国民どもには分からん素晴らしさです」
影の差す広いホールは、確かに彼が自慢げに見せびらかすほどではあった。
見るからにビンテージもののグランドピアノがさも誇らしげに設置されていたり、木造の緻密なデザインの螺旋階段があったり。
吹き抜けを見上げて、エールは涼しい空間の中で笑みを浮かべる。薄っぺらい笑みを。
「芸術ですか?」
「おぉ、芸術です。儂は特に美しいものに目がありませんでのぉ──コレクションがあるんですが、ご覧になられては如何ですかな?」
「そうしたいのは山々ですが、この後もやることがあるんです。またの機会に」
「それは残念ですなぁ。それでは長話もなんですし、お伺いしましょうかな」
「はい。レオーネの師団がバオリアに入り、掃討作戦を開始したことはご存知でしょう。そのことに関して、一つお願いしたいことがあります。幾らかの食料を援助して頂けませんか?」
「食料とは、これまた。不足していらっしゃるということですかな?」
「作戦の如何によっては。投降兵の数によっては、彼らの分の食料が不足するかも知れません」
「ふむ? それでは市議の方に話を通せばよろしい。それが儂個人に向けられた要請であるのなら、儂が受ける理由がありませんでのぉ」
当然、この要請はかわされる。
この老人──リン家当主は狡猾だ。歳を重ねた貴族がそれであるのと同様、幾つもの謀略を重ねるようにしている。
例えば、今市議会という盾を通してこの話をかわした。議会に資金的な面から強い影響力を持っているにも関わらず、自分はさも無関係であるような面をしている。白々しい──。
「どうしてもお願いできませんか。北部兵に関しては、彼らの一切が考慮されていません。彼らのその後の扱いに関しての計画書はそもそも作成されてすらいない。そうですね」
「おや、エール殿……それは甘過ぎるのではないですかな?」
リン老人はしわがれた表情で少し笑みを深めた。そこに混じる感情は、まだ若い英雄に対する賛美などではなく、甘いだけの若造に対する嘲笑だ。
「まだ、現状を正しく認識しておらんようですのぉ────バオリアの民間人に、死者まで出しておるんです。これを報復しなければ、民衆の不安や怒りも収まらんというものではないですかのぅ?」
権力者が政治を動かす際、それは常に人々の望んでいることをする──という体を取る。為政者は自らの欲望を曝け出し、実行してはならないからだ。
その結果、人々の感情を利用するようになる。これはどれだけ行っても世の常だ。
「虐殺は必要ありません。それは北部兵の感情を逆撫でするのみです。百にも満たないような逃亡兵たちです。捕虜としての維持費はそう嵩むことはありません──それに、北部との戦争を終わらせるきっかけになるかも知れません」
「ほぅ? それは、どういうことですかな?」
「そのままの意味です。捕虜交換に使うもよし、或いは他の取引に使うもよし、です。彼らから得られるかも知れない情報には価値があります。北部の異常な情報力を解き明かす鍵になるかも知れない」
北部の異常な情報取集力は、エールが現れる以前よりの問題だった。南部が負け続けてきたのは北部兵の武装もさておき、情報が筒抜けになっているとしか思えないような情報力が最も厄介な力だとエールは考えている。
そのためか、先のバオリア防衛戦では敵にとって全く未知の武器、銃がかなり有効だった。
「少々希望的な観測が過ぎるのではないですかな? 戦争の終結は儂らにとっても悲願、ですがのぉ──今は早急な対処というもんをするべきでしょうな」
──バオリア防衛戦で敗北した北部兵だが、戦場が森林地帯、ひいてはジャングルに繋がっている場所であったことも重なり……バオリアを広く囲う山脈や森林に兵士たちが逃げ込んだ。
そして、自然という過酷な環境に逃げ込んだ北部兵たちは、生存のためにバオリアからの略奪を行うようになる。アルゴンとバオリアを結ぶ道は山の中を通っているため、待ち伏せでの輸送トラック等の襲撃が行われるようになっていた。
それによる被害が顕著に現れてきたため、レオーネに依頼という形で──ほぼ実質的な命令だったが──彼らの
それは大袈裟なお題目をつけられ、バオリア掃討戦と呼ばれることになる。
そしてこれはもう一つ、大きな意味を持つことになる──。
「来る大統領選挙のためにも、ですか?」
「ははは、何を仰るか。関係などありませんでしょうに」
「直接的には、ですね」
状況を複雑にしたのは今エールが口に出した事柄──大統領選挙だ。
前大統領がバオリアにて戦乱に巻き込まれて死亡してから半年、国家のトップは未だ空白だった。
事態が幾らか落ち着いてきたのを受けて、正式に大統領を選び出すことになったのは、ごく当たり前の流れだ。
エクソリアは民主国家を謳ってはいるものの、多くの選挙制を採用している国がそうであるように、権力者同士のパワーゲームが展開されている。
そして、バオリア掃討戦が展開されている訳だが……問題となるのは、それが誰の指示によるもので、誰の功績となるかだ。
エクソリアは百年間戦争を続けてきていた。戦争の手柄に関わった人物がのし上がり易い傾向がある。だが重要なのは、例えばある場所の戦闘でエクソリア側が勝利した時に、その部隊のバックに誰が居るかということ。
貴族と軍隊は、切っても切れない関係にあった。というのは、旧南部軍の資金のほとんどは貴族から出資されていたからだ。
その性質上、軍隊は細かく分割され、貴族の私兵化が少なからず進んでいた面がある。どの貴族が、どれだけ多くの軍隊に影響を及ぼせるか。これは貴族の一種のステータスでもあり、そのまま力の大きさを示していた。
同じように、選挙でも立候補者の裏には必ずと言っていいほど貴族が付いており、主に資金面での援助を行なっている。大抵の場合、もっとも強い援助を受けた者が当選し、大統領の地位に付いていた。
「リンさん。確かあなたは
「突然なんですかな?」
「ノースからレオーネに来たオファーについて、一つ伝えておかなければならないことがあります」
「ふむ? 了承して頂ける、という口振りではなさそうですな」
「ロゥ家から、レオーネに対して一つ、直接的な提案がありました」
窓の外から街を見下ろしていたリン老人は、ピタリと動きを止めた。
その反応を見て、エールは話を続ける。
「ノースから頂いた提案とほとんど内容は変わりません。ですが、一つ異なるのは援助額総計がノースよりも大きいことです」
ロゥ家もエクソリアの貴族であり、有数の富豪だ。ノースを支援する貴族達の中で、リン家はもっとも大きい家ではあるが……ロゥ家も引けを取らない。
淡々とエールは話す。
その内容が、幾らかの衝撃を伴うことを理解しながら。
「僕はロゥ家の提案を受けようと考えています」
しばらくの間、リン老人はエールに背を向けたまま景色の方向に顔を向けていた。
「それは、本当の話かの?」
表面上は、さして驚いているのか驚いていないのか判別の付かない声だった。だが沈黙の長さが物語っているものは──その発言が、明らかに想定外であったこと。
ノース……つまり、貴族がレオーネに出資し、レオーネをコントロール下に置こうとするのは、歴史の流れから見てそう不自然なことではなく、むしろ自然なことと呼べた。
これまで、南部軍は全て貴族のコントロール下にあった。その中でも勢力争いは起こっていたが、それはあくまで貴族同士のパワーゲームに過ぎなかった。
南部軍の敗北が続いていく中でもそれは変わらず、負け続ける中で大半の軍人が死亡し、南部軍が実質的な消滅を迎えるまでそれは変わっていなかった。
だが、レオーネという異色で、不明な組織が出来上がってしまった。
エールが手段を問わずに結成させ、旧南部軍勢力を丸々吸収し、どういう訳か貴族の援助を受けることなく巨大に成長していった。
というのも、結成時の混乱を突いてエールは税金や企業から無理矢理金を引っ張ってきていた。貴族の影響を排除し、企業同士を結びつかせることで相互に独立させ、そこから膨大な資金を得てきていた。
これは異常なことだった。
企業には大抵出資者がいる。出資者とはつまり、資本家であったり銀行であったりするのだが、それのルーツを辿れば必ず貴族に行き着く。
その中で、なぜレオーネはその資金的な独立を得たのか。その過程にはエールによる様々な無茶苦茶な脅しや飴があったのだが、貴族達がそれを知ることはなかったし、問題はそこではなかった。
つまりは、レオーネが貴族のコントロール出来ない武力組織である。これがもっとも大きな問題だった。
理由はシンプル。貴族には、レオーネに対抗出来るほどの武力手段が存在しないからだ。
それが強い脅威となったのは、語るまでもない。
「その質問は、ロゥ家がこの提案を持ちかけたことに対してのものか……それとも、僕がその話を受け入れようとしていることに対してなのか。どちらに対してですか?」
今この場で真偽を明らかにする手段はない。
だが、リン老人がこの話に対して強い衝撃を受けたのは……少なからず、その可能性があり得ると判断する程度には、ロゥ家とリン家は仲が悪かったからだ。
だが、それはあり得ないと判断されていた。ロゥ家がそれほどの身銭を切ってまでレオーネを押さえに掛かると想定していなかった。
援助額は、決して安いものではないのだ。
「……いやいや、失礼。ふむ、とすると……なぜ、その話を儂に伝えに来たんですかな」
それに対し、エールはただ一言。
「筋は通すものでしょう」
たった、それだけ。
「──なるほど、英雄殿は義を重んじるようですな」
「義と呼べるほどのことでもないと思いますが……。ともかく、僕の用は済みました。これで失礼します」
「お早いですな。もう少しゆっくりしていったらどうですかのぅ」
「お気遣いなく。それでは」
席を立ったエールの背中に、一言リン老人は言った。
「そうだ、ロゥのヤツによろしく言っておいてくれますかな?」
「……ええ。伝えておきます」
そして、後にはしばらくの静寂が残されていた。
*
バオリアとアルゴンは山脈を一つ挟んで隔てられている。車両を用いて一時間ほどの距離。だが歩くには遠い。
エールはリン家を後にした後、バオリアを歩いていた。
レオーネの英雄エールは有名だ。風貌が特徴的であるのも大きい。エクソリアにヴァルポは珍しいからだ。
だが新聞で報じられるような風貌は割と飾り付けていたりすることもあり、簡素なシャツと髪を下ろせば案外バレたりしないものだ。もっとも、当然隻腕は目立つ。それに何より隻腕になって厄介なことは、車両が運転できないことだった。
そんな訳で、車を使えないのでエールは一人バオリアを歩くことになっていた。
バオリアの街はアルゴンと同様、強い活気に満ちていた。
商業の街だ。周辺諸国との貿易も順次再開し始め、それによって強い利益が発生し始める。それにエクソリアの人々はなんと言ってもその若さと数が特徴だ。エネルギーが強い。
それに、無数に行き違う人々は日々の生活で忙しそうだった。
────そんな道を行き交う。
アルゴンの地面は踏みなさられ、太陽の下で乾いていた。
無数の人混みとすれ違いながら、エールは歩いていった。
今、すれ違った。
エールは気がつかないまま歩いていく。
その人物はふと足を止め、後ろを振り返る。
だが行き交う人々に姿を失い、しかしにやりと悪戯げな笑みを浮かべてまた歩き出していった。
エールはそのことに気がつかず、歩みを進める。入ったのは出店が広がる食料雑貨エリア。肉や果物を売っている場所で、それと一緒に調理済みの料理を提供している場所。昼下がりの広場は人気があって、備え付けられたテーブルはほとんどが埋まっていた。
「やあ、フォン」
エールはとあるテーブルの向かい側に座った。
「……来たか。久しぶりだな、エール」
「防衛戦以来だね。生活の調子はどうだい」
黒髪のフェリーン。鋭い目つきが特徴的な、大体エールと同じ歳の青年。
ギャング組織スーロンのトップを張っていたが、今は人々の中に溶け込んで暮らしていた、とエールは記憶している。
「……スーロンが解散したからな。少し……慣れん」
「そう。感染者としてはどう?」
「悪くはない、のだろう」
「それは……よかったな。感染者の流入はこれからも増えていくだろう」
「……エール。感染者の受け入れ政策は、本当に正しかったといえるか」
防衛戦の後、エールは議会の反発を跳ね除けながらも感染者受け入れ政策を実施した。名目は労働力の解消だ。これまでの戦争による徴兵の負の効果を打ち消すため。
そして、それが国際的になると感染者の流入は次第に増えていっていた。防衛戦一ヶ月が経過して、人々の中に源石結晶を持つ感染者が目立ち始めるようになっていた。
目立った差別などはない。目下の悩みとしては、この移民達と地元住民との摩擦だろう。感染者達はこれまでの差別の経験から、暴力に訴えかけやすくなっていた。犯罪者のうち、感染者の割合は決して少なくない。
「……僕はこれが、必要なことだと判断した。人が必要なんだ、この国には」
「バオリアの裏側にも、感染者が流入し始めていることを認識しているか」
「人が増えるなら、その部分も拡大されて当然だ。アルゴンの方は大体掌握してあるけど、バオリアには手が回っていない」
昼下がりの喧騒の中で、こんな会話が存在していることを誰も気にしない。木を隠すなら森の中、という訳だ。
ペットボトルの水を飲み込む。暑い喉に生ぬるい水が流し込まれた。
「セイが死んだ」
唐突に──。
呟いたフォンの瞳に映っていたのは過去か未来か。
少なからずエールは驚いた。
「セイ──彼が。なんで」
「分からん」
セイ。フォンの側近で、エールも共にNHIを相手にして共闘したことがある。
テスカ連邦から生き延びたごく数十名の元スーロン構成員は現在はレオーネに所属している。
セイとフォンも例外ではなく、防衛戦後はバオリアの駐屯兵として生活をしていた。今回のバオリア掃討戦ではバックアップ要員だったはずだ。
「確かなのは、セイは何者かに襲われて死んだということだけだ。おそらく、裏の連中が関わっている」
「……バオリアの勢力が存在したとしても……少なくとも組織としては、それほど大きいとは思えない。少なくとも、僕はあまりバオリアに関して把握していないから断言は出来ないが……僕はそんな組織は知らない」
「かもしれん。だが、表立って活動していないだけで……いる。必ず、居る。それも大きな勢力が」
「あるいは、君がそう思いたいだけかもしれない」
「いや。必ずそういう人種は生まれる。そういうふうに出来ている……必ず、一定数の悪は出現するように。オレのような元スーロンもそうやって生まれた。ましてバオリアのような大きい街にいない筈がない。社会の安定のために必要な存在であり、逆説的には必ず生まれる」
フォンは、そういう明確な復讐相手がいて欲しいと願っている、と最初エールは思っていた。だが、それにしては少々確信的だった。
「お前には伝えておく。セイからの最後の電話でヤツが言っていた言葉の中に妙な単語が混じっていた」
「妙な単語?」
「”プルトン”」
「……それは、また。妙だね──何かの暗号か、隠喩か……」
「この言葉が何を意味するのか、心当たりはないか」
「さあ、久しぶりに聞いたような気がするよ」
記憶の片隅に引っかかっていた言葉。忘れかけていたようなものだったが、エールはその単語を覚えていた。
「それは確か、神話に登場するある神の別名だったかな」
「……神の、名前ということか?」
「確かね。いつだかそんな本を読んだ記憶がある」
「その神は、何の神だ」
「
「……出来過ぎだな」
「だね」
フォンは深く目を閉じ、また目を開けた。
エールはその目の種類に見覚えがあった。
「感謝する、エール。その情報は何かの手がかりになるかもしれん」
「どこに行くのかな、いや……。何をするつもりかな」
「セイを殺した何者かが存在する。オレは……そいつに復讐しなければならない」
振り返ったフォンの表情は凍りつきそうなほど冷たく、触れると刺しそうな雰囲気を纏っていた。
数ヶ月前の僕みたいだ、とエールが思う通りだった。
「……また連絡するよ、フォン。僕もしばらくはバオリアに留まるつもりでいる」
「ああ。ではな」
フォンは人混みの中に消えていった。
他人事だと思えないところが、どうにも不思議な感覚だった。
・バオリア掃討戦
このあたりの設定はごちゃごちゃしてます。
あんまり気にしなくても大丈夫だと思います
・リン家
(喧騒の掟の鼠王リンとは何の関係も)ないです。
名前被っていることに書いてから気づきましたが、面倒なのでこのままでいきます。
・フォン
黒髪のフェリーン。(外見設定は特に)ないです
・すれ違った人
だーれだ!
誰だ……?
すれ違ったエールは、この人物に気が付かなかったというところがミソ。