猫と風   作:にゃんこぱん

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なんかイベント来るので初投稿です
とても楽しみです




「スカベンジャー」
本名不明。
レオーネに在籍しているが、実質的には僕の私兵という部分がほとんどだ。直属の部下としてはかなり優秀。基本的にこちらから裏切る、または裏切らせるような状況でも作らない限り信用はしていい。個人的な心証としては、非常に使いやすい人材。特に金で動く部分が好みだ。

単独戦闘能力は優秀、ただし部隊行動には難あり。彼女をトップに据えた特殊工作部隊の設立計画を練っていたが、彼女がレオーネを去ることになったため一旦中止。

それは仲間達に出会う前の自分を見ているようだった……なんか、最近そういうのばっかだな。

だが彼女が昔の僕に似ているというのなら、いずれ心の底から信頼できる誰かに出会うかもしれない。僕がそうだったように。

その時初めて、彼女は誰かと生きることの意味を知るだろう。

────表題のないノートより抜粋。



1096年7月18日:目(くらま)く -1

上層部の意向というか、作戦の趣旨上仕方のないことではあったのだが、負傷者の数は多かった。

 

その中で、死者の数が少ないことが唯一の幸運だったというべきか。それとも死者が0人でないことを嘆くべきか。

 

いずれにせよバオリア軍病院の忙しさと重要性は、他のどの仕事場と比較しても抜きん出ていた。特に掃討戦が始まってからは。

 

ブリーズも目を回しそうになっていたが、持ち前の気丈な性格ゆえひたすらに処置を行い続けている。

 

「今から破片を摘出するわ──痛いでしょうけど耐えなさい!」

Угу(うぐっ)、Б……──Больно(痛い)!!」

 

足を貫いている木の破片を一息で、しかし慎重に────。

 

実際はもっとやり方がある。しかし患者の数が多すぎるし、医者の数は少なすぎる。

 

「消毒して縫い合わせるわ──って、言葉が分からないのに言っても仕方ないわよね」

Не больно(もっと丁寧にやってくれ)Это слишком больно(死んじまう、痛ぇ)!」

「それだけ叫ぶ元気があれば大丈夫そうね──」

 

ウルサス語は微かに齧ったことがあるが、相変わらず何を言っているのかさっぱり分からない。1日で投げ出した。

 

北部の人々はウルサスの植民地時代の影響を受け、未だにウルサス語を公用語として使っている。南部が使う共通語も通じなくはないが、メジャーではない上に長い年月が言葉を変え、お互いに酷く訛って聞こえる。

 

つまり、まともなコミュニケーションはできなくはないが非常に難しい──。ウルサス語を理解しないのであれば、の話だが。

 

「ブリーズさん、追加──重傷者です、すぐに処置を!」

「こっちの処置が終わるまで待って頂戴、最低限の処置を済ませてから行くわ!」

 

先日の手術の噂が広まり、入って三日目の新人軍医(ブリーズ)は非常に頼られていた。実際処置の手際や技術は高度なもので、ブリーズが持ち込んだ医療品やアーツ雰囲気による医療補助は有効だった。

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

歯を食いしばって耐える兵士に手早く医療を行う。ヒーリングアーツも展開しているが、アーツを連続使用しているために疲労感も強い。

 

だが命には変えられない。ブリーズは日中の勤務時間だけでは治療しきれない患者のため、明らかに働きすぎだが夜勤の予定まで組んでいた。

 

「また後で来るわ。今はそこで大人しくしてなさい」

 

荒い息を繰り返す兵士にそう言い残してブリーズはユーロジーを掴んだ。

 

今日は異常に患者数が多い。

 

聞いた話では、バオリア掃討戦の戦闘が激化しているらしい──。

 

白い青年の顔を連想する。

 

いや、今は目の前のできることをしよう。

 

Гребаный ублюдок южный солдат(クソッタレの南部兵どもめ)!」

 

ベッドが足りないためにそのまま床に寝かされた兵士のうちの誰かが叫んでいた。この喧騒のためにブリーズたちまで大声で喋らなければならなかった。

 

Не должно было(こんな目にあうんなら、) приходить на войну(戦争なんて来なきゃよかった)……」

 

別の誰かがそう呟いている。彼の足は片方無くなっていた。何を喋っているかは分からなかったが、何を言っているのかは大体わかる気がした。

 

「……今度会ったときは引っ叩いて、引き摺り回してあげるわよ、エール」

 

それはもう、思いっきり。

 

 

 

 

 

 

 

 

1096年7月18日;目(くらま)

 

 

 

 

 

 

 

 

────長い眠りから目を覚ました感触は、なんだか窮屈だった。

 

倦怠感だろうか。体が固くて、伸びをしようとすると──強烈な痛みが腹部を襲う。

 

そうだ、思い出した。

 

「……戦闘があって、それで────私……、」

 

戦闘中の記憶がほとんどない。でもそれはいつもそうなのだ。極度に緊張していると、いつも無我夢中になって、終わった時はあんまり覚えていない。

 

珍しいことじゃないそうだ。いずれ戦いに慣れてくるとなくなる、と言われていた。

 

まあ、殺し合いに慣れる頃には……そんなこと、どうでも良くなっているかもしれないと思ったものだが。

 

でも、だんだん思い出してきた。

 

手練れ──と分かるほど戦闘経験は長くないが、とにかく潜んでいた北部兵の中に精鋭が混ざっていた。

 

厳しい訓練を耐え抜いてきたとはいえ、戦闘経験は半年にも満たない。

 

自覚しているが──仕方ないことだ。戦うと決めて、戦った。そしてまだ死んでいない。それで十分だと思う。

 

でも────。

 

「……あの人、あの武器……──。やっぱり……」

 

他のみんなは無事だろうか?

 

独り言は静かな空間に消えていった。

 

小さな部屋だったが、他に誰もいなかった。自分1人だけ──廊下の向こうからでさえ。

 

窓の外は暗い──建物の影がだんだんと強くなる。

 

あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

 

「目が覚めたか?」

 

窓の外を見ていると、後ろの方から突然声がしたので驚いてそっちに振り向いた。

 

「……スカベンジャー? どうして、ここに──」

 

電気のついていない暗い部屋の中に、紛れ込むように佇んでいた。

 

いつもそうなのだろうか──まるで、人目から逃れるようにして。

 

「……さあな。妙な雇い主を持つと……面倒だからかもな」

 

珍しく、自嘲するような声色で──皮肉げな言葉ではなく、どこか優しく。

 

「あ、もしかしてずっと、居てくれたの?」

「……別に、さっき来ただけだ。寝ていたから帰ろうと思ったら、ちょうどよくあんたが目を覚ました」

「そうだったんだ──ね、スカベンジャー。今、何時?」

「午後6時だ」

「そっか、昼間からずっと眠ってたんだね」

「いや……昨日からだ」

 

静かな声。

 

じゃあ一日以上眠り続けていたということになる。そんなこと、本当にあるんだ──それが正直な感想。どこか他人事で、乾いた驚き。

 

「……戦況は、みんなはどうなったの?」

「お前のいうみんながどうかは知らないが、戦況など心配するようなものじゃない。元から、象がアリを踏み潰すような話だ。ただその過程で、少しアリに噛みつかれたみたいだがな」

「……そうだよね。うん」

「ただそのアリ一匹に、この一人部屋は大きすぎる」

 

掃討戦の方策が原因となり、病院には負傷者が溢れかえっていた。

 

敵兵の投降は原則として受け入れ、負傷者は治療する。

 

「戦って、傷付けて。そして投降すれば、傷付けた張本人が傷を治す。おかしな話だが、おかげで病院(ここ)は繁盛しているらしい。……その中で、ただの一兵卒に過ぎないあんたが一人部屋に放り込まれている。そのデカいベッドにな」

「……怪我人が、大勢いるってこと?」

「ほとんどは北部兵らしいがな。元から森林に潜んでいた北部兵は前の防衛戦での逃亡兵だ。戦うことから逃げた連中が、まともな補給もない中で戦えるほどレオーネは甘くはない」

 

ふと、気になって口を挟む。

 

「あなたも、掃討戦に参加していたの?」

「私は私の任務をしていた。それだけだ」

「答えてくれないの?」

「……あんたには、関係のない話だ」

「そればっかりだね、スカベンジャーは」

 

────少し。

 

仕方なさそうにはにかんだミーファンの髪が、風に揺れる。

 

開けっ放しの窓から、生ぬるい風が吹いてきていた。夜が来る前、暑さは少しだけ鳴りを潜める。

 

スカベンジャーは、どうしようもなく思い出さずにはいられなかった。思い出すのも嫌になる、無力で愚かだった頃の記憶──()()と共に居られるだけの力がなかった、弱い自分を思い出す。

 

その笑顔や雰囲気は、本当に()()にそっくりで。

 

「ちょっとくらい、教えてくれてもいいじゃん」

 

本当に嫌になる。

 

「ただの兵士が知るべきことじゃない」

「──……あのね」

 

意を決したように顔を引き締めて、少しの勇気を出して、ミーファンは口を開いた。

 

「もしも、あなたの任務が私の想像通りだとしたら……きっと、私に関係があるよ」

「……何?」

「あなたの任務は……リン・ギ・ファン──お爺ちゃんに関係している?」

 

ずっと仏頂面を保っていたスカベンジャーも、この時ばかりは驚きを隠すことが出来ない。

 

「お前、まさか……リン家の人間なのか?」

「少なくとも、生まれはそう──確かに、お爺ちゃんの……リン家の血を引いてる」

 

黙って続きを促す。

 

レオーネに入って、誰にも話すつもりのなかったことでも、なぜだか話すことに躊躇はなかった。

 

「お母さんは私を産むときに死んで、お父さんは原因不明の事故に巻き込まれて死んだの。でも問題になったのはお爺ちゃんの後継者──次のリン家当主の座。元々はお父さんが継ぐはずだった。でもお父さんが死んで──って、まあそんなに珍しい話じゃないよね」

 

原因不明の事故というのは、ある工場で起きた倒壊に巻き込まれ、死亡した。死んだのは父一人だけ。原因は構造上の欠陥とも言われているが、設計図が紛失しており、詳細は不明のまま。

 

本当にただの事故だと思うほど、ミーファンは馬鹿ではなかった。だができることもなかった。

 

「……私は、そんな世界が嫌だった。戦況が悪化し続けている中で、ひたすらに権力闘争に明け暮れている貴族の世界……信じられる? 内輪で揉め続けて、それが終わったら今度は他の貴族と争い続けて。攻めてきている北部なんて眼中にないみたいに、ひたすら……」

父のことを誇りに思っていた。

 

他の貴族とは違って、誇りと信条がある人で──力あるものの責務(ノブレス・オブリージュ)を口癖としていた。

 

思えば、祖父と父はいつも喧嘩ばかりしていたように思う。

 

「だんだんと……おかしくなっていったよ。決定的だった──何度もお爺ちゃんに言ったんだ、貴族として本当にやらなきゃいけないことを忘れてるって。でも……いずれお前にも分かる時が来るの一点張りだった」

 

幼い頃から、祖父には可愛がられてきていたと思う。リン家当主といえども、孫は可愛かったのだろうか。

 

「……おかしいことだらけだった。きっかけは多分、お父さんが死んでからだと思う。あの時から内戦は一気に傾き始めた──……ツアグァ、ホークン、シャンバ、クロッカ……そしてバオリア。アルゴンを除く全ての都市が、瞬きをする間に占領されたんだ。一年も掛からなかったよ。それまでの平衡状態が嘘だったみたいに、本当に一瞬で──」

 

それは、全て──。

 

「私は、それら全ての裏に何かが隠されているとしか思えなかった。お父さんは死ぬ直前、お爺ちゃんたちがやろうとしていたことにずっと反対していたよ。詳しいことがなんなのかは、結局誰も教えてくれなかったけど……何かとても重大なことがあったんだと思う」

 

まるで懺悔でもするようだと、自分でも思うのだ。

 

何も知らず、何も出来ず……ただ傍観することしかできなかった自分の罪。

 

「リン家の力は、本当に強いの。バオリアだけにとどまらず、南部全体に働きかけるほどの権力を持っていた──だから想像しちゃう。戦況の悪化には、お父さんの死が関係しているんじゃないかって。全部そこから始まったんじゃないかって……」

 

そこでふと、ただ黙って聞いているスカベンジャーに気がついて、慌てて言う。

 

「ご、ごめんね? 突然こんなこと言われても、困るよね」

「……別にいい。続けてくれ」

「……うん」

 

ずっと話を聞きながら思考しているスカベンジャーを見て、ミーファンは少しだけ安心した。

 

同情や怒りや悲しみを見せず、ただありのまま話を聞いてくれるから。

 

それは、とてもありがたいことだった。

 

「少し話は変わるけど、次の当主になるはずだったお父さんが死んじゃったから、誰が次の当主になるのかを決めなきゃいけなかったの。お爺ちゃんはかなり歳を取ってたから、代替わりしなきゃいけなかったし。お爺ちゃんの意向としては、私を当主にしたかったみたい。女性が貴族の当主になるなんて前代未聞なんだけど……本家の血筋を引くのは、もう私しか残っていなかったから」

「……リン家ほどの大貴族に、そんなことがあり得るのか?」

 

貴族の血筋は大切に保護される。さまざまな婚姻、分家制度──血を絶やしてはならない。血筋は争いの元となる。特に血筋に関わる騒動で、どれだけの家が滅びたことか。

 

そうさせてはならないため、一夫多妻制度を取る家は少なくない。だが────。

 

「……内乱が激化し始めてから、テロや戦乱に巻き込まれたり、原因不明の事故に遭って、本家の血を引く人がどんどんと死んでいった。私はその最後の一人ってだけだよ」

 

──次々と死んでいく親戚たちを見て、怯えがないわけがなかった。次に殺されるのは自分かもしれない。

 

「結局身内争いか?」

「……多分。今のリン家はお爺ちゃんの腹心でノースの代表をしてる……ハノルっていう人が大体を仕切ってるの。それまでいろんな利権とか、権力を握っていた人たちが死んじゃって、いろんな地位が空白になったんだけど……そのほとんど全てに関わるようにして、ハノルは急激に力を手に入れていった」

 

その手腕と能力故に、ハノルはリンに気に入られている。

 

そもそも、ハノルは孤児で、リンの気まぐれによって拾われてきた子供だった。

 

「……お前に、いくつか聞くべきことがある」

「うん……なんでも話すよ」

「一つ目、ハノルとか言う奴の目的はなんだ」

 

その言葉を聞いて、ミーファンは思い出す。

 

ハノルとミーファンはほとんど年が変わらない。幼いころ、祖父に拾われてきたハノルの、子供ながらに餓えた瞳。

 

幼い頃はよく一緒に遊んだものだが、レオーネに来てからは話したことはない。

 

「……本当はどうなのか、分からないけど──ハノルはずっと力に拘っていたの。元々戦争孤児──両親を戦争で失ってる。だから力や権力を求めているんだと思う。南部軍が崩壊して、貴族の元にある軍隊が消滅して……そして、レオーネが現れた。だから……きっと、レオーネの軍事力が欲しいんだと思う。それはきっと、貴族としてとかじゃなくて……個人的な支配欲とか、名声とか──そういう欲望に基づいているの」

 

父が死んだ、とハノルに話をしたことがあった。

 

その時のハノルの口元は笑っていた──幼馴染は変わってしまっていた。

 

父を殺したのはハノルかもしれないと疑った。それから、ミーファンはハノルに対し距離を取るようにした。

 

もしも本当に父を殺したのがハノルだったとしたら、きっとどうしようもない憎悪に駆られてしまうから。

 

それでも、仲がよかった時もあった。だがその記憶も嘘になるかもしれない──いや、もう嘘になってしまっているのかもしれない。

 

「レオーネの軍事力を手に入れてどうする気かは分からない。でも……この戦争はどこかおかしいの。ハノルがレオーネを手に入れても、この戦況が改善されていくとはどうしても思えない」

「……だったら、どうしてあんたはレオーネに来た」

 

貴族としての地位を捨てて、ただの一兵卒として戦うことを選んだのは。

 

「私は、貴族としてのいろんな謀略とか、そういうのは何も分からない。ハノルみたいに優秀じゃなかった……けど、この国のことが、私は好きなんだ。もう何かに利用されたくなかったし、この国のために何かがしたかったの。そんな時──エールさんの言葉を聞いた。バオリア解放宣言……ラジオとかで、大々的に流れたでしょ? あの言葉」

 

その時点ではスカベンジャーはそもそもエクソリアにいなかったため、せいぜい噂でしか聞いたことはない。

 

なんだったか。

 

「生きている限り、そのための代価を払わなければならない。だから戦えって──あの人は、この国のために戦うとは口にしなかった。ただ代価のために戦っている──だから、私はレオーネに入ったんだ。貴族としてじゃなくて、ただの人間として戦おうと、決めた……んだけど、でも」

 

一人部屋の病室を見回して、苦笑いした。

 

「医者の中に、私が貴族だって分かる人が居たのかな。こんな部屋──他の人たちに申し訳ないよ」

「……二つ目の質問だ。源石(オリジニウム)鉱脈に関して、知っていることを話せ」

「え? えーっと……確か、少しだけ聞いたことがあったかな……。3、4年くらい前、バオリア西部の山間部……だったっけ、そこに源石鉱脈がー、とか聞いたようなことがあるけど……その後のことは分からない。お父さんが死んだのがその時期と重なってて、それどころじゃなかったんだ」

「……3、4年前、だと?」

「? うん、確かそのくらいだったと思う。あ、これってもしかして重要な情報?」

「……それは私が決めることじゃない。だが……」

 

珍しく、スカベンジャーは歯切れ悪く言う。

 

「……なぜ、私にそれを話した」

 

その言葉を聞いて、ミーファンはなぜだか──怯えているようだと思った。

 

「──私ね、ずっと貴族として生きてきたから……あんまり友達とか、本当に信じられる人とか……居なかったんだ。普通の子たちと同じように遊んだりとか、学校に通うことが出来なかったし、信用は出来る人はいても、信頼できる人は居なかった」

 

本音や本性は隠すものだ。

 

飾って嘘を纏う。そうでなければ、馬鹿を見るだけ──誰しもそうなのだろう。この世界で生きている限りは。

 

特に、貴族の中で生きているとそういうふうに染まっていく。好む好まざるに関わらず、貴族としての自分をいくら嫌おうと、貴族みたいになっていく。

 

自分を守るために、だんだんと──何より嫌っていたものに染まっていった。

 

「レオーネに来て……仲間達と一緒に戦うようになって……不謹慎かもしれないけど、私は意外と充実していたんだ。でも……みんなの暮らしてきた厳しい生活とか、環境とかの話を聞いて……ずっと後ろめたかった。申し訳なくなったんだ……私はどれだけ恵まれていて、もしかしたら何かを変えられる立場にいたかもしれないって」

 

お金が無くて、狭い一部屋に家族ごと暮らしていた人や、一日に十二時間以上働いて体を壊しかけた人の話を聞いた。

 

「……でも、私はきっと利用されるだけなんだと思う。掃討戦で私の部隊が戦った敵──あれは、きっと北部兵じゃなかったかもしれない」

「なに……?」

「格好とか、雰囲気は誤魔化してたけど……他の人たちと違ったんだ。他の兵士はずっと森の中にいたから疲弊していて動きも鈍かったし、戦うのも積極的じゃなくて、投降する兵士もたくさんいたの。でも、全然そうじゃなかった。明らかに気力があって……強かったんだ。それに私の気にし過ぎじゃなかったら、多分……私を知っていたと思う」

 

そして、自らを狙っていた──それは警告だったのだろうか、或いは始末が目的だったのだろうか。

 

「戦ったのか?」

「うん。でも……激しい戦闘になって、傷を負って……それから、気が遠くなって、今目が覚めたんだ」

「……仮に、あんたが戦ったというその兵士が、森林に逃げ込んでいた北部兵でなかったとするなら……その目的は、確かにあんたに関係している可能性は高いだろう。だが、殺害が目的じゃないだろうな」

「分かるの?」

「あんたが今生きているのが何よりの証拠だ。殺すつもりなら、やりようは幾らでもある。だがそうはしなかった。だが私の印象的には……もしかしたら、殺しても構わなかったのかもしれない」

 

特に、首から上に傷がないのが怪しい。

 

そういうことに覚えがあった。

 

「偶にあるんだがな。殺しても、ちゃんと顔が分かるようにしろとかいう面倒なオーダーが……。あんたのそれも、そうかもしれない」

 

死んだことを確実にするためや、その死体を後に利用したい場合、偶にある。

 

特に貴族の死体は使()()()()がある。

 

「心当たりはあるか?」

「……たくさんあるよ。お爺ちゃんは私をレオーネから取り戻して、家を継がせようとしているから。そうなったら面白くない人は、まだたくさん生きているの」

 

そんな人こそ死ねばいいのに──と、暗い感情が浮き上がる。

 

でも、生き残るのはいつもそういう人間なのだ。

 

「だからかもしれない。私ね、あなたに憧れているんだと思う」

 

冷たいようで、どこか決定的には冷たくない。

 

「私──スカベンジャーみたいに、強くて……誰かを守れる人になりたかったんだ」

「……。買い被るな。私は誰かのために戦わない。私は私自身のために生きている。誰かを守れるような人間じゃない」

「違うよ。あの時……私を守ってくれた。本当にかっこよかったんだ。強くて……迷わなくて」

 

──何度も記憶の中に現れる。

 

そんな言葉を、かつても言われた。思い出す。

 

「……思い違いだ。いつ死ぬかも分からない中、殺して、逃げ回っているだけだ」

「──私ね、ずっと思っていたことがあるんだ」

 

段々と暗くなる病室に蛍光灯は灯らない。スカベンジャーはわざわざ電気のスイッチを押す様なタイプではない。

 

「あなたは、ずっと……──寂しそうだね」

 

暗くなる中で、ミーファンの口元が寂しそうに笑っていた。

 

「──私が……寂しそう、だと?」

 

ふざけるな、と。そう思った。

 

何度他人に裏切られてきたのだろうか。

 

他人に期待しようと思った時もあった。だが──何より大切だった()()を殺したのは、誰だったのか。

 

──まさか、忘れたわけじゃないだろう。

 

「……ちょうど、あんたみたいだった。お人好しでな──。私がまだ、群れの中で暮らしていた頃の話だ。族長の娘で、私と違って頭もよかったし、優しいヤツだった」

「え、何の話?」

「昔の話だ──もう死んだ、私が守れなかった人間の話だ。私が鉱石病(オリパシー)に感染して、当時の群れにゴタゴタがあったことも重なって、私は群れを追い出され、()()は死んだ」

 

どうしようもない無力感、怒り、悲しみ──絶望と、復讐。

 

かつて属していた群れの族長に敵対していた人物に自らを売り込み、掃除屋として最初の仕事を得る。

 

──それは、群れから弾き出された自らが生きるための手段ではあったが、同時にどうしようもなく復讐だった。

 

そして、復讐は果たされる。今でも思い出す。

 

「それが私の最初の殺人だ。そしていつの間にか、私の復讐は目的ではなく、手段にすり替わっていった。生きるためのな。その過程で孤独になったことを否定はしない。だが……あんただって過去から逃げ続けているだけだろう」

 

ミーファンは咄嗟に口を開くが、何も言い返せなかった。

 

逃げ続けている──そうだ。貴族としての権利を放棄する代償として、責務を投げ出して逃げた。

 

「そんなあんたが、私の孤独を哀れむな……!」

「ちがっ、哀れんでなんてない! 私はただ──」

 

最初から、その姿を見た時から──ただ。

 

「あなたの友達になりたいだけだよ……」

「……私には必要ない。そんなもの──」

 

もう一度、失うだけだ──と、その言葉を最後まで言い切ることはしなかった。

 

スカベンジャーは言葉を押さえつけて、そのまま病室を後にした。

 

──もし。

 

もしも、最後まで言い切れるほどスカベンジャーが弱かった(強かった)のなら、何か変わっていたのだろうか。

 




・スカベンジャー
主人公のつもりで描いてるまであります。
レズ属性はあるかもしれないしないかもしれない。プロファイルを読むと大体分かります。過去に関しては多少独自解釈も混ざりますが……。
昇進二でのビジュアル変化が激しい。かわいい。

・ミーファン
死亡フラグが立った。
この章の敵キャラであるハノル(オリキャラ)の幼馴染。多分思い出はあるでしょうが……。
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