二ヶ月前のエフイーター救出作戦での任務結果を改めて記述する。
当作戦は想定外の敵が多く、無関係の民間人に死傷者が出る事態にはならなかったものの、炎国のマスメディアに露出する事態が発生してしまった。
幸い記者会見会場での強襲は短時間であったため、テレビカメラ及び関係者がロドスアイランドのロゴを捉えてはいなかったが、行動隊B2の隊員及び隊長の顔が知れ渡ることになった。このことによるロドスへの直接的な被害はないが、念のため警戒しておく必要がある。
炎国で発生したかなり大きな事件の一つとなったが、この事件の協力者であったマネージャーと名乗る男の協力により、事後処理は非常にスムーズに終わった。改めて彼に感謝を。
この事件の発端となったのは、エフイーターの活躍を妬んだリューエンという炎国のカンフー俳優だった。撮影中の事故を装ってエフイーターを鉱石病に感染させ、その後の暗殺部隊の手引きをした。
暗殺部隊に関して、この組織の裏側にいたものが誰なのかは現在調査中だ。何らかの理由によりエフイーターを狙う何者かがリューエンに話を持ち掛けたのが最初の原因と見られる。リューエン本人の口述からも、この事件を手引きした何者かの存在が確認されるが、それが一体何者かまではリューエンも理解はしていなかった。
暗殺部隊の隊長は感染者に強い恨みを抱いていたが、それだけでリューエンに協力していたわけではなく、やはりその何者かによって派遣されたものだと考えるのが妥当だ。早急な調査が望まれる。
総じて、エフイーターを含む全ての人間が利用されていた可能性が非常に高い。
さらに調査を続けていく予定だ。
エフイーターのその後に関してはロドス中の皆が知っているように、非常に活発だ。手甲を纏ったエフイーターのカンフーは対人戦において強力であり、突き飛ばしに関しては目を見張る威力を発揮する。適切な任務では猛威を振るうだろう。
ロドスにも馴染んできたようで、現在は行動隊B2で預かっているが、正直ウチの隊員が良くない影響を受けている気がするので別の部隊へ転属させてほしい。エフイーターの戦闘スタイルは簡単に真似できるようなものでもないし、何かにつけて映画のパロディをするのもやめてほしい。カンフー映画に影響を受けすぎている。
彼女が行動隊B2を希望しているのは理解しているし、行動隊B2の隊長としては誇らしいが、休日の朝から撮影に付き合わされる身にもなってみていただきたい。楽しそうで何よりだが……正直任務より危うい。休日に死にたくない。
話が逸れた。
依然、事件はひとまずの決着を得たが、解決とは言い難い。今後とも捜査を続け、もしも裏側にいた誰かがロドスの敵となり得るようであれば──────
「あれ、ブラスト。何してるの?」
僕はキーボードを打つ手を止めた。
「ブレイズ。ノックぐらいしたらどうだ……」
「いいじゃん、私たちの間にそんなの必要?」
「お前はケルシー先生の部屋に入る時もノックはしなさそうだな……」
「流石にするって!」
「そうか。で、何か用か?」
「何? 用が無かったら来ちゃいけないの?」
「僕は忙しい」
「本当にこいつは……。うそうそ、ちょっとこの装備について感想を貰いたくてさ」
ブレイズは腰にぶら下げていたチェーンソーを引っ張り出した。
「……拡張モジュール。完成したのか」
「まあ一先ずプロトタイプかな。まだまだ改良の余地がありそうだから、君の意見が欲しかったんだよ」
「オーケー。そういうことなら構わないよ。訓練室に行くか」
「お、一戦やっとく? いいよ、久しぶりに激ってきた!」
「……ま、書類仕事ばっかでも退屈だしね。こういうことも偶にはいいだろ」
「偶には、ね……? なんか最近、ずっとあの熊猫と一緒にいるみたいだけど」
「熊猫……エフイーターのことか?」
「そうだよ? おかげで全然構ってくれないしさー?」
「構って、って……お前ね。何? 構ってほしいのか?」
「はあ? そんな訳ないじゃん。君の好きにすれば?」
「何なんだよ……」
デスクから立ち上がった。
ブレイズとやるのは久しぶりだ。それぞれが隊長を任されて以来、お互いに忙しかった。
「……なんかその顔見てたら腹が経ってきた。私、本気出すから」
「へぇ。猫も怒るんだね」
「その余裕がどこまで持つか、試してあげる。負けたら今夜奢りだからね」
「外食かよ……。うへ、僕今夜も仕事なんだが……」
「同僚より仕事が大事とでも言うつもり?」
「いー……。分かった分かった。だがそりゃ負けたらの話だ。勝ったらこの話はナシだよ」
「──ボッコボコにしてあげる」
報告書追記:最近同僚が冷たくて怖い。ケルシー先生、どうしたらいいかな。
報告書評価:自業自得だ、バカ者が。
──空が曇っていた。
青空はもうしばらく見ていない。
「私には、あなたたち感染者の苦しみは分からない」
空が、曇っていた。