8/9 羅刹と大木
「うん、構わない。いいよ、僕の責任でもあるだろうし」
──あっさり過ぎるほどの了承に、ハンナムは拍子抜けした。
早朝を狙っての突撃であった。どこにいるかもわからないエールだが、早朝──それこそ太陽が登る直前くらいの時間は、もしかしたら執務室にいるかもしれないとの情報を得ていたのである。
執務室と言う割には、かなり騒然としていたのだろう。ハンナムのオフィスも似たようなものではあった。散乱したファイル、壁に貼り付けた地図と無数のメモ書き。ソファーには上着が掛かっている。
「ただ悪いね、僕は少し忙しい。彼女に会いに行けるのは、もう二日か三日後になりそうだ」
「なっ……いや、ダメに決まってる! 今日中に説得してくれ、そもそもあんたを探し出すのにもう三日も掛かっているんだ! 式まで三週間を切っているんだ、当事者のあんたがそんな意識でどうする気なんだ!」
「む……それは参ったな。どうしても必要なことなのかな?」
「俺はこの一件についてロゥ様から任されているんだ。中途半端な出来だったら、祖先に失礼になる。あんたにわざわざ言うことじゃないんだろうが──知ってるだろ。この結婚は、あんたとメリィ様だけのことに留まらず、強い意味を持ってるって」
奪われてきた土地は取り返しつつある。士気は高い。ただ、物資と金をどこから持ってくるかだけが、目下最大の課題ではあった。ハンナムは知らないことだが、エールはそのことで奔走している。
「お節介かもしれないが、エールさん、結婚するってことは家庭を持つってことだ。子供作って、守っていかなきゃいけない。忙しいのは分かるんだが、せめて最低限必要な、あんたの出身とかどうとかってモンを教えちゃくれないのか」
──と、ハンナムが言うのにも理由がある。
結婚、
この場合で言うと、花嫁であるメリィの祖父──ロゥ家当主、ワン・リ・ロゥである。こっちの意思は問題ない──と言うより、この婚姻はロゥからエールに持ち掛けられたものである。由緒正しいエクソリア貴族の末裔としての、正式な申し込みである。
翻ってエールはというと──出身不明、本名不明、本性不明。よくここまでやってこれたなお前、どうなってんの──と、もし好き勝手に発言できるなら、ハンナムはそう叫んでいたであろう。
本来ならば両家の父親同士が合意し、それぞれの段取りを進めていくのであるが──残念なことに父親は殺しちゃったので、エールには存在しない。そもそも出身がウルサスであることすら、おそらくアンブリエルやその他の数人が知るのみである。
こんな背後が不透明な状態で、エールがなおも求心力を失わない理由に関しては割愛する。そもそもエールも、本気でここまで事が大きくなると思っていなかった。
だが最終的に、背後の不透明な流れ者と由緒正しい血筋の花嫁が結婚するという、とんでもない事態が起こってしまった訳である。当然の帰結として、この公表に関しては賛否両論はあった。議論や批判は吹き荒れた。
一般的な人々にとっては、歓迎すべき事実ではあった。めでたい事ではある──と、概ね好意的に受け入れられた。貴族とは人々にとって支配者以上の存在ではなかったが、絶対的な存在であることは間違いない。そんな存在に、エールという市井の英雄が認められたことは喜ばしい事であった。
「名前はエール。それ以上の情報が必要かな?」
「あんたにとってはそれで十分かもしれないが、こっちだって受け継いできた伝統ってものがある。重要な事なんだ、尊重してはくれないのか?」
「尊重は大切な事だ。ただ、事実は事実──僕はただのエールだ。それ以上のことはないし、これ以上伝えられることはない。それに、そんな大変な行事にしてくれって僕は頼んでないんだが……」
この婚姻は、特にロゥの指示により進められてきた。エールはこういう伝統的な行事など好まない。特にいかにも貴族的な、豪華で喧伝的なものなどなおさら──嫌いと言ってもいいが、今更そんなものはどうでも良くなっていたのである。ロゥがどうしてもと言うので付き合っているだけで、それ以上の意味はない。
「そういう家やら何やらの情報が必要なら適当に繕っておいてくれ。邪魔にならないなら、僕は何だっていい。どうしても身分が必要なら、僕のことを適当な家の養子にでもしておいてくれ。グエンさんのところにでも相談しに行くといい」
「……そんなメチャクチャな……。どうすれば……」
生真面目かつ能力のあるハンナムは、その真面目な性質ゆえにさまざまな苦労を背負っている。不思議とこういうことになりやすい。というよりエールが無頓着すぎるだけかもしれないが。
「まあ、君の用事がどうしても必要ならさっさと済ませることにしよう。僕はこれからロゥさんの邸宅へ向かうが、君もついてくるのか?」
「……まあ、あんたが構わないなら、用事もあることだし……」
「なら……そうだな、少し待っていてくれ」
執務室の机の黒い固定電話をカチカチと操作して、エールは受話器を耳に当てた。少しして話し出す。電話は色々と便利なので物理回線を引いて設置した。
「僕だ。……ああ、午後には戻る。それまで、少し任せる。…………うん、そう。分かった……用意しておくよ。悪いね。それじゃ
そんな一分も掛からない短い会話だけをして、黒電話はまた役割を待つのみになった。
「さ、やることはさっさと済ませよう」
9/4 羅刹と大木
「おおっ! すげーなーっ、まるで60年台の龍門じゃねーか!」
驚嘆の声を上げたのはエフイーター。ラストが隣に並んで、同様に無邪気に驚いていた。
「あれ、あっちは──占いだってさ! せっかくならやってくか?」
「占い……? でもエフイーター、お金結構かかるみたいだよ」
「いいって。……今は、ちょっとゲン担ぎがしたいんだ。こういうの、案外馬鹿にならないもんなんだぞ。お前のこと、知ってるヤツが見つかるかもしれないじゃん」
──エフイーターはそう嘯いた。ラストが想像通りの人物なら、きっとレオーネ駐屯地にでも連れていけばいいのだ。それだけで十分である。
これまで声を掛けられなかったのは奇跡に近い。例の有名人に近い風貌──というより瓜二つだが、或いは本物だが──をしているラストは、実際のところ目立っていた。気の抜けた表情のために、どうにも声を掛けさせるのを戸惑わせているのかもしれない。
それとは別に、エフイーターは不満があった。これでも映画スターなのだが、この国ではあまり映画が流行っていないのだろうか。振り向く視線も、せいぜいが美人を眺める瞳であり、サインの一つも求められない。
「……それにしても、なんだかごちゃごちゃしているね」
──大洪水の後、町はにわかに活気付く。飲食店は軒先にメニューをデカデカと張り出し、さまざまな商店もガラクタを自慢げに飾っている。道の上にはゴミが散らかっていた。
「……エフイーター?」
返答がなかったため、周囲を見渡してみると、すでにエフイーターは意気揚々と占い師の前の椅子に座っていた。
「──吉兆、いやぁ……凶兆、ですかなぁ。これは……あっしも、長いこと占いをやってきたもんですがね。こいつは、また……何とも、数奇なもんですわ」
カードを広げたり、星座図を弄ったりして数字を書き出していた占い師が、最後に考え込みながら絞り出した言葉である。
「煮えたぎらねーなー。何だよ、はっきり言えよ〜?」
ぼーっとしているラストの代わりにエフイーターが急かした。占い師は眉を寄せながら険しい表情で、しかし未知のものを目にした小さな興奮を見せながら言う。
「……運命を授かっている、としか言えんのです。まぁ、誰しもが持ってるもんじゃないんですな。素晴らしいもんを生み出す大会社の社長やら、一国の大統領やら、皇帝やら──そういった方々には、普通とは違う何かがあるんですわな。もちろん生まれながらに偉いからといって、皆さまが持ち合わせてるものじゃございません」
口調からして胡散臭かった。詐欺師か何かと疑われても文句は言えない風貌である。何せ薄汚い。
ただ当の本人はそんな自らのことを忘れた様子で、熱っぽく語る。
「歴史に名を残すっちゅう様なお方は、何かしらが違うんですわいな。もちろんそれは、努力や才能もあるんでしょうが──ごく稀に、多くの人を巻き込む運命を抱えている方が現れることがあるそうですわ。あっしは初めて出会いました……ほんに、光栄にございます」
もはやここまで来ると拝むような調子である。
エフイーターはちょっと不機嫌になった。ラストはぼーっとしている。聞いているのだろうか。
「そうですなぁ、一言で申し上げますと……あなたさまは、偉大なる破壊者、とでも言いましょう──いいえ、そうなる可能性が高いと言ったほうがいいでしょう。ご存知でしょう、歴史の転換点は破壊の歴史であるなら──常に、"そう"なのでございます。多くの場合、伝統や、それまで積み重ねてきた歴史の破壊──それがまた、新たな歴史を作り上げていく……。そうでございましょう」
「そうなのか〜?」
「そうでございますとも。なんというか、人の歴史っちゅうのは──時には、この大地が……人々を新たな時代へ導くために遣わしたとしか思えないお方が時々現れるもんです。それはウルサスの始皇帝であったり、ヴィクトリアの盟約を締結した、彼のアスランの王であったり……他には、そうですな……イェラグにも、そのような気配を感じますが……。時代の風が背中を押して、偉大なことをやり遂げるお方が、なぜだか現れるんですな。どうやらこの大地には、そういった仕組みが備わっているらしいと」
──エフイーターの愛嬌のある顔が、みるみるうちに不機嫌になっていった。この怪しい詐欺師め、と言い出さんばかりである。
「……破壊者は、常に大いなる破壊を伴うもので──苦しみや悲しみ、或いは死を、多くの人にもたらすものです。破壊とは、改革の別名でありますんで──つまり偉大な指導者というものは、暴君や独裁者と見分け上の区別はつきますまい……しかし構いはせんのです。偉大な業績として、困難を乗り越えた先に……あなたさまの求めるものが見つかるでしょうな」
「僕の求めるもの?」
「えぇ、えぇ……。そうでございます。見たところ、今は困難に見舞われておるようですが──そうですなぁ、あなたさまは、本質的には求道者でしょう。それが、たまたま破壊者としての能力も兼ね備えていた、という訳で、まこと数奇と言いますか……」
「破壊者って、何をするの?」
「ほほっ、何をおっしゃいますか。あなたさまは思うがままにやられたらよろしい。この暗く沈んだ国には、それが必要なのです。そしてあなた様にもそれが必要であった。全て必然なのですよ」
しわくちゃな顔をした老占い師は何もかも分かったような顔をしている。ラストと言えば、子供のような疑問心で色々と質問していた。
エフイーターは後悔していた。こんな胸糞悪いことを聞かされるんなら、今からでも料金をほっぽってどっかに行こうか。
「正直に申し上げますが、あなたさまの未来を占い、予測するのは困難。幾重もの強い縁が張り巡らされております。誰しもが持つ、家族や友人、恋人──或いは、予想も付かない運命。
水面に波とは、また聞き慣れない言葉だ。なんとなく意味は分かるような、分からないような。
「そしてもう一つ、偉大な魂としてのあなたさまではなく、ただ個人としてのあなたさまを占いましたところ、これまた興味深く、また数奇で奇妙な──魂を縛り上げる、深い深い……呪いをお見受けします」
「……呪いだって?」
腕組みなんてしているエフイーターは、不思議そうに首を傾げるラストの代わりに怪訝な顔をした。
突拍子のない言葉ではあるが、エフイーターにとってそれは、それほど頓珍漢な言葉ではないと感じられた。意外ではあるが妙ではない。
「
──実際、エフイーターにとって心当たりのない話ではなかった。
ラストの正体がエフイーターの想像通りなら、それは一種の裏切りである。思わずには居られない。
信念を裏切ったのかと。交わした言葉を忘れたのか、と。
「他者との関係は、大地が与える祝福の糸と呼ばずには何と言いましょうか? それは間違いのないことです、しかし──呪いにも転じうるのですな。保つことは難しく、守り続けることは困難を極め──特に、あなたさまのような強い運命に晒される魂にとっては……そうですな。暗闇の中を、行き先も知らぬまま歩くようなものでしょう。踏み外すことこそ、もっとも容易なこと」
それでもラストは聞いている。真剣とは言わず、かといって馬鹿にしているわけでもない。ただ聞いている、そういう顔で。
「じゃあ、僕はどうすればいいの?」
「焦りは禁物ですな、そう急かさずとも……話をするのに十分な時間はありましょうて。お聞きなされ。気を付けなければならないことは、一つ。この大地に点在する不幸と同等の数の種類だけ存在する呪いの中で、もっとも強い呪いは──死者の残した言葉でありますれば」
──反射的に、エフイーターは目を見開いた。
何かに気がついて、口を開きかける。心当たったのである。そうだ、行動隊B2は全滅したとロドスには伝えられた。だが──。
残りの隊員たちは──エフイーターも知っていたし、そもそも炎国の一件でエフイーターを助けに来ていたオペレーターたちとは、その後も交友があった。
死者の残した言葉。ロドスに帰ってきた7つのドックタグ。言葉と事実と想像が繋がって、ぼんやりとした一つのシルエットを結んだ。
「縛られてはなりません、それはあなたさま自身の、真の願いを奪い去ってしまいましょうて。その呪いは、あなたさま自身の望みではなく──死者の残した爪痕で、傷以上のものではなく……ええ、ええ。見失えば、求道の道に果てることになりましょう」
老占い師は真剣な、しかしどこか胡散臭い口調でそう言った。
どこかしら超越したような雰囲気は纏っていたが、まあ詐欺師も同じようなことは口にする。ただエフイーターはそれら全てを戯言と流すことは出来なかった。少なくとも、もういい、と口にして、ラストを連れてその場を立ち去ることはしなかった。
「ただ、そうですなぁ──あなたさまは、いくつもの鎖で縛られ、本来の願いを見失うことでしょう。今は何も分からなくとも……あなたさま自身は、それを理解しておられるはず。人は誰しも他者に縛られるものですが──ふむ、まこと……感服しますな」
「どういうこと?」
「我々は皆、運命の奴隷だ──とは、はて、誰の言葉でしたか。歳を取ると忘れっぽくなっていけませんな。ほほ、全く……若さとは、何もいいことばかりではないでしょうが、ほ……何とも羨ましいことでしょう。何と甘美で、なんと苦難に満ちた……道のない夜を往く、偉大な道筋でしょうか。もしも神がいるとするなら、どれほど好かれればこうも……強く、気高い魂へと至るのでしょうな? 何と苦難に満ちた生でしょう、御伽噺のような──」
冗談じゃない。エフイーターの我慢の限界が近かった。
「そうですな、お代は頂きましたので……一つ、忠告をば。呪いには注意なされ、特に鏡には。腐った大木の中には、怨嗟の呪いが詰まっております。それは怒りであり、得られなかったことへの恨みであり、生きとし生ける、全ての命を呪わんとする醜い怪物。鏡を割ることです──呪いとは、魂を縛る複雑に絡まり合った紐のようなもの。丁寧に
実はラストとしては、何を言っているのかさっぱり分からなかった。エフイーターだけが警戒心マックスで身構えている。
「他者から向けられる呪いは、やはり焼き尽くすほかにないでしょう。救済など考えてはなりませんぞ? さすれば道連れ、人を呪わば穴二つと言うならば、死者の呪いほど恐ろしいものはありますまい。今──アルゴンの街を覆う、この呪いは無差別に自壊しようとする哀れで醜い泥人形でございますれば、あなたの抱えている呪いほど美しいものではありません故」
「……さっきから何言ってんだ、お前」
すでにエフイーターは臨戦態勢である。殺気すら放っている──。
この占いの当事者ではないエフイーターこそが、もっともこの場の奇妙さを感じ取っていた。老占い師も占い師なら、ラストもラストだ。分かって居るような分かっていないような、だがずっとその言葉を聞き続けている。
そして、そこでエフイーターを指して、人の良さそうな、老いた笑みで忠告した。
「忘れてはなりませぬ、鏡を割ることです。──鍵を握るのは、そちらのウルサスのお方でしょうから」
そう言うと、老占い師はふぅ、と息を吐いて静かに口元に微笑を作った。
「言葉一つ、たったそれだけで運命は変わるでしょう。……幸運をお祈りしております。あなたさまの帰るべき魂の場所に、どうかたどり着けますよう」
「──魂の、帰るべき場所?」
「ええ、ええ……そうでございます。魂は大地より出でて、また大地へと還り……帰るべき場所を見つけると言われております。約束の地、安らぎの中で……その魂は、永遠の眠りに着く。我々、この地に根付くものたちの信仰でございます。あなたさまも、いずれその通りに」
我慢ならずに、エフイーターは口を開いた。
「おい、好き勝手言ってくれてるけどな! お前は──人間は最初っから、死ぬために生まれてきたとでも言いたいのかよ!」
「我々は苦難の中に生まれ、苦難の中に死に行き──その意味も知らずに朽ち果て、その結末の先も知らぬまま大地に帰るのです。ならば、その信仰に救いを見出して、何の不都合がございましょう? この地は……喜びと共に生きるには、救いなき事柄が多すぎる」
──老占い師の言葉には、疲れ切った諦観が現れていた。
この諦観は、老占い師特有のものではない。ある程度歳をとったエクソリア人なら誰もがほぼ共通して抱えているある種の共通意識である。
国力に乏しく、力に貧しく、地理に恵まれず、時勢に運悪く──エクソリアは小国であり、ウルサスの支配に抗い切れるだけの力など、どこにもあるはずもなく、ただ覚悟を決める他ないのだ。ゆっくりとすり潰されて、運命の奴隷に成り下がる覚悟を──。
支配と暴力は、ゆっくりと人々の心を磨耗させていく。いつだって貧しく、荒れ果てた大地に、それでも種を撒かねばならない。例えそれが、明日には洪水で押し流され、徒労に終わるとしても。
「魂の帰る場所では、あなたさまが待ち望んでいた人々があなたさまを待っております。ゆえ、安堵されるとよろしいでしょう」
──エフイーターはそろそろ限界だった。
椅子に座って、黙って話を聞いていたラストの首根っこを掴んで立たせる。
「え、エフイーター?」
戸惑うラストの声に耳を貸さず、エフイーターはラストの手を掴んでずんずんと歩いていき──まるで捨て台詞のような、怒りの言葉を残す。
「おい、あたしもこいつも──お前みたいな負け犬の思っているほど、弱くなんてない。死んでからのことばっか考えてないで、ちょっとは生きてるうちにできることでも考えとけ!」
──死後に救いを求めるのは、生きてるうちに救いがないから。
それは弱者の信仰である、とエフイーターは両断した。事実その通りだった。エクソリアの人々、これに限っては南部も北部も変わりはしないが、彼らはどこか根本的な部分で諦めているのだ。支配に争い、独立を勝ち取ることはもう無理なのだと──どれだけエールに期待しようと、心のどこかでは諦めている。
「ほほ、気張りなされ。この大地に蔓延る、血と臓物の臭いが染み付いた呪いを──運命の奴隷たる我々を軽蔑なさるなら結構。呪いを紐解き、解放することが出来るのなら──その時は、その偉大な魂を讃え、永遠のものとして語り継ぎましょうて」
──ふざけた話だ。そこで永遠につまらないことでも考えていろ。
今に見てろ、すぐに──。
「胸糞悪いこと聞かせやがって! 絶対黙らせてやるからなー!」
──ヒーローは、あんな諦観には屈しない。
それは、エフイーターがこの世界で唯一信じている信念で信仰。
それはかつて、誰かが信じていた理想。
もしもブラストがここにいたのなら、似たようなことを言うと──そう信じて。
・運命の奴隷
もしかして:ジョジョ第5部