猫と風   作:にゃんこぱん

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馬鹿な、連日投稿……だと? ありえん……


ブリーズ:9/6 医者の不摂生

 

 

 

 

──これで何連勤目だろう。

 

いや、ぼやくつもりはない。全て自業自得だし、休め休めと言われながらも無理して働いているのは自分なのだ。

 

アリーヤの状態の悪化がひどい。もともと想定通りに行くだろうとは思ってはいなかったが、また何かに巻き込まれて悪化した。

 

「──それで、どうしても覚えられないの?」

「……口に出しても、馴染みがない。上手く言えない──さっき、一通り名前を確認して頭に入れた。覚えたはずだったが、リストから目を外して唱えようとすると、一つとして覚えていない」

 

──仲間の名前を、忘れてしまったという。

 

それならばもう一度覚えればいいと言う話だ。彼の仲間に関して、ブリーズは一ヶ月ほど前に話を聞いている。それぞれがどんな人で、どんなエピソードがあったのかを。

 

「……聞かせてくれ。君は、覚えているんだろう」

「分かったわ。私は頼まれたもの、大丈夫よ」

「……なんの話だ?」

「────、いいえ、なんでもないわ」

 

ああ、また一つ。

 

傷が増えて、穴が空いて、そこから砂時計のようにぼろぼろと崩れ落ちていく。

 

私のことも、あなたはいつか忘れてしまうのだろうか?

 

「でも、少し長い話になるわ。そうね、今夜──空いているかしら」

「……ああ。空けておく」

 

空虚と絶望の入り混じった、かなり精神をやられているらしいアリーヤが、額を抑えながら呟くように言う。

 

「……君には、苦労をかけるな。ブリーズ」

 

アリゾナとは、呼んでくれないのね。

 

「いいのよ。気にしないで」

「……すまない。今夜、また」

 

アリーヤは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーズは、時々自らが少しずつ砂丘の蟻地獄に落ちていっているような感覚を味わう。

 

あるいは、砂時計のイメージが頭から張り付いて離れない。

 

──頭の中では、今でも砂時計の中で砂が落ち続けている。さらさら、さらさら。さらさら、さらさら。

 

さらさら。さらさら。さらさら。さらさら。前を見ればずっと、砂時計が動き続けている。

 

あとどれくらい砂が残っているかは見えない。分からない。でも下側には随分溜まってしまった。

 

この砂時計はひっくり返すことが出来ない。どう頑張ったって、ブリーズにはそれを逆転させることはできないだろう。

 

ブリーズは日ごとに迷う。彼のことをどっちの名前で呼べばいいのか迷う。

 

ブリーズにとって、彼はアリーヤだ。ずっと変わらない、むしろそれを願っている。でも同時に、彼はエールでもある。あの青年は──もう、変わってしまった。

 

ブリーズは日ごとに恐ろしくなる。もしも彼に"アリーヤ"と呼びかけて、振り返ってくれなかったらどうしよう。

 

ついにその名前すらも忘れてしまったのなら、いったいどうすればいいのだろう。

 

だから怖くて、ブリーズはまるで言い訳をするように、彼をエールと呼ぶようになった。心の中ではアリーヤと呼んで、口ではエールと呼んでいる。それすらも自由に選ぶことのできない蟻地獄の中に、ゆっくりと沈んでいく感覚に抗いながら、確実に沈んでいくのだ。

 

だから、止まってしまうのが怖くて──ブリーズはこの一ヶ月、睡眠時間を除けば一時間だって休んだことはなかった。

 

休んでいる間にも砂時計は落ちているのだ。それで手遅れになったらどうする? ブリーズはずっと考え続け、調べ続け、試行錯誤を続けて──。

 

彼は、ロドスの介入を嫌がるかもしれない。それでも、もはや自分一人でどうにかなる領域ではない。ブリーズはロドスに連絡を取ろうか迷っていた。幸いエフイーターという窓口がある。もしかしたら向こうからやってくる可能性もある。

 

もしも連絡を取れば、ロドスは動いてくれるかもしれない。だがその場合、彼の時間は大幅に制限されることになる。ロドスが彼を治してくれればいいが、それは不可能だ。おそらく、などではなく──焦点は、いかにして延命するか。その一点に尽きる。

 

それはブリーズにとっても同じだ。

 

医者はなんのためにあるのだろうか。

 

彼を救えない医者にどれほどの価値が残っているのだろうか。

 

アリーヤが精神をやられているのと同じくらい、ブリーズも心をやられていることに、ブリーズ自身の自覚はなかった。ただ、なんとかしなければ──と、そればかりを考えて、成果を得られない目の前の現実に毎日のように打ちのめされ──。

 

諦観という名前の絶望が、ゆっくりとブリーズを侵食していた。

 

誰がなんと言おうと、他の患者たちにどれだけ感謝されたり、敬意を向けられたってどうしようもないのだ。

 

ブリーズが本当に助けたいのはアリーヤただ一人で。

 

ブリーズが本当に助けられないのは、アリーヤただ一人だ。

 

本当に助けたい人だけを、ブリーズは助けられなかった。厳しい現実の前に、自らの無力さばかりが投影されて、その形がはっきりと見えていた。私は一体何の為にここにいるのだろうか、一体何のためにこれまでの時間を費やしてきたのだろうか。

 

これまでの全ては、無駄だったのだろうか。

 

それともこれまでの全てが無駄だったのだろうか?

 

ブリーズは少しずつ、憔悴し、絶望という沼に足を取られ始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……化学兵器の、開発?」

「大きな声で言わないでね。噂だよ? それもどこから流れてるか分からないくらいの、眉唾ものの噂」

「それでもあまり、気持ちいいものではないわね」

「そうだね、私だって同感。でも、近々それをやらされるんじゃないかって」

「わ、私たちが? どうして?」

「病気を治しているんだから、その逆も出来るだろって感じらしいよ。……それに、もしかしたら完全にあり得ない話じゃない」

「そんな、私たちは軍医でしょう? 少なくとも、私たちがするべきなのはそんなことじゃないわ」

「私だってそう思うよ。……でも、そうする必要があったとしたら? 簡単な化学反応で作成できるものなら、ここの設備でも十分に作成は可能よ。いわゆる毒ガスなら、気体だから少なくない量を短期的に作成できる」

 

同僚の声に冗談の色は混ざっていない。

 

「……ブリーズが何を考えているのか、私には何となくわかるよ。でも、私はこう考える──私たちがそれをしなかったことが原因となって南部が勝てないかもしれない」

「そんな、飛躍しすぎよ」

「かもしれない。……でも、私たちにはもう手段を選んでいる余裕はない」

「……考えすぎね。私たちがやるべきなのは、目の前のことだけ。それは自分で選んだことではないの?」

「もちろんそうだね。ま、こんなのはただの噂だし、だいたいガス兵器なんて役に立たないでしょ」

 

その通りだろう。実際、そんな動きはその後起こらなかったし、何十個とあるくだらない噂の一つとしていつの間にか消滅していた。

 

ただどうしてか、同僚の言葉──"もう手段を選んでいる余裕はない"。

 

その言葉だけは、嫌に頭に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際義援が行われるという。ボランティアに近いもので、ブリーズは以前から個人でこの活動を行なってきた。

 

内戦を抱えた国に金銭、物資的な支援を行ったり、或いは医師団が訪れて治療を行なったり、生活のための浄水技術を提供したり、或いは生活水準を向上させるための技術指導を行なったりなど、その活動は多岐に渡り、また危険を伴う。

 

元はといえばエールが今の立場にまでなったきっかけも、この戦争難民支援の任務によるものであり、ブリーズがこの国を訪れたのも似たようなボランティア活動がきっかけだ。

 

そのため、ブリーズは無関心に聞き流せなかった。

 

「グエンさん、これ──」

「はい、見ての通りです。クルビアを中心として、大規模な医療団が訪れるそうですね。詳細は、今渡した資料にあります。周知をお願いできますか?」

「ええ、きちんと知らせておくわ。……でもこれ、この中の協力企業の中に──ライン生命って」

「ええ。これが吉と出るか凶と出るかは分かりません。私はあの企業には懐疑的ですが……」

「……難しい問題ね。もう決定しているの?」

「はい。その辺りは、エールさんがまた何か考えているようですので」

 

前からひとつ気になっていたことを聞いてみた。

 

「ねえ、どうしてグエンさんはアリーヤを放っておくのかしら?」

 

グエンは少し考えて答える。

 

「彼にそれだけの力があるためですね」

「……力?」

「はい。私は、人にはそれぞれ身の丈にあった物事があると考えています。得意とするもの、適応している状況、それらは……例えば、目の前の仕事をコツコツとやっていくことが得意な人がいますし、様々な全く異なる仕事を並行して進めていける人もいます。これは適性であり、後天的には獲得し得ません。これは良い悪いではなく、それぞれに長所と短所が存在します」

「ええ、そうね。理解できるわ」

「その中で、国を率いて戦うことに適性がある。それがどれだけ貴重な資質なのか──これは、口で言っても伝わらないものです。軍隊の中で、司令官の才能とは稀有です。戦術や戦略を学ぶことで後天的にはある程度は獲得出来るものですが、所詮は程度が知れます。そして、その程度のものが上に立ってはならないのです。動機と能力のあるものでなければなりません」

 

グエンは珍しく厳しい意見を口にした。

 

「あなたもそうなの?」

「私はその器ではありませんよ。私は運良く長く生き延びることが出来ただけの凡才に過ぎません。強いていうのなら、彼のような才能を見出して、バトンを渡すこと──私の役目は、精々その程度と言ったところですか」

 

謙遜が過ぎていた。かつては一大政治闘争を引き起こし、通貨危機ですら乗り越えてさせてみせた剛腕である。しかしそれらは付属品に過ぎず、グエンの真の長所はその人徳にある。

 

「彼は、目的のために誰かを犠牲にすることが出来ます。なおかつ争いというものの本質を心得ており、戦いに躊躇がなく、自らも強い。心に下卑たところがなく、そして強い心を持ち、誰かを思いやることが出来る。私は、彼以外にこの大事業をやり遂げられる人間はいないと考えています」

 

過大評価な部分も多いが、多くの点では事実だったし、何よりもその実績が証明している。

 

兵の心をグエンが集め、エールが司令塔として命令を出す。軍隊としてのレオーネはそういった構造を持っている。ちょうど軍師と大将の関係であるように。ただしこの場合、軍師までもが求心力を得ているというのは少々珍しいことである。

 

「……それでも、時々迷うことがあります。エフイーターさんに詰られたように、私のしていることは本当に正しいのだろうか、と」

「けど、もう止まれないでしょう。あの人も、私たちも」

「行くところまで行くしかない、と言うわけですね。話が逸れました、国際医療団に関してです。受け入れの段取りは任せます。彼らへの仕事の割り振りなども、私はほとんど関与する余裕はないでしょうから、とりあえずの責任者をブリーズさんにしようと考えています」

「……ええぇっ!? わ、私が!?」

「私の見立てでは、ブリーズさんには徳があります。周囲の人間に相談すれば、喜んで助けてくれるでしょう。人は、何もかもを一人では出来ないものです。そして誰かに頼ったり、互いに協力することは弱さではなく強さですよ。お任せしてよろしいですかな?」

「う、うう……っ、私以外にも、適任はいると思うわ。来て浅い私じゃなくて、副院長さんに頼むべきじゃないかしら?」

「その副院長さんからの推薦ですよ。ぜひ任せてみたいと」

「……うううっ!」

 

断る口実が失われていった。

 

頼まれれば断れないブリーズ、仕方がないではないか。ここは一つ──

 

「──承知しましたわ。このブリーズ、ご期待に応えて差し上げます」

「ええ、お任せします」

 

もしかして──いいように言いくるめられて、面倒ごとを投げられただけなのではないか、と気が付いたのは、院長室を出てからの話である。ちくしょー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、そこらへんの調整のために研究や診療は全く進まなかった。

 

気がつけば夜になろうとしている。帰らねばならないが、正直動くのも億劫だった。シャワーでも浴びて、もう泊まり込みで寝てやろうかしら。幸いベッドも余っている。連勤の疲れは、確実に体に溜まっているのをひしひしと感じながら。

 

コンコン。ノックの音──珍しい、そんなことをする人はあんまり居ないのに。

 

「どうぞ、どなたかしら?」

 

患者だろう。症状が悪化したのか?

 

「こんばんは、ブリーズ。女性が約束をすっぽかした時は、知らないフリでもするのが筋なんだろうけど……済まないね。僕には、どうしても必要なことなんだ」

「ア──、エール……。そうだったわね、ごめんなさい。あなたとの約束まで忘れちゃうなんて、 私はもうあなたのことを叱れないわね」

 

今夜の約束を忘れていたブリーズは、それを思い出して謝った。

 

「……それにしても、こんな時間まで仕事をしているのか? 他の病室は全て電気も消えている──」

「き、今日だけよ。いつもは私も帰っているわよ」

 

嘘だ。

 

「……そこの出勤表の君の欄、酷いな。最後に休みを取ったの、一ヶ月以上前? なんだこれ」

 

が、通じなかった。

 

じろりとエールがブリーズを見た。

 

「な……何よ! あなただって人のこと言えないでしょう!? そもそも私、あなたが休みを取っているところ、見たこともないし聞いたこともないわ!」

「……確かに、みんなに苦労をかけている自覚はあったが──これほどブラックになっていたのか。こいつは僕の反省点だぞエール、すぐに手を打つべき──」

「聞きなさいよ……」

 

あなたがそんなだから、私も休めないのよ──と、言えるなら言ってやりたかった。なんだか腹が立ってくる。

 

「あなたこそ休みなさい。いつ倒れたって不思議じゃないのよ」

「僕だって、ずっと働き通しなわけじゃない。適度に休んじゃいるさ」

 

エールはため息をつきながら言う。

 

「嘘ね」

「……何か根拠は?」

「あなた、嘘をつくとき、ある仕草をするのよ」

「鎌をかけているのかな? どの仕草か教えてほしいところだけど」

「内緒。教えちゃったら、もうしなくなるでしょ?」

 

しばらく睨み合った(ブリーズが一方的に睨んでいただけ)後、エールはもう一度短く息を吐いた。

 

「同じことを、昔言われたよ」

「誰に?」

「……多分……仲間に」

 

もう思い出せないのだろう。

 

「あれは鎌掛けだったのかな。でも不思議なことに、確かに僕が嘘をつくと絶対に見破られた。緊張していたつもりもないし、すぐバレるようなことじゃなくても、一回だって嘘を突き通せたことがなかった。どうして分かったのか理由を聞いても、誰一人として答えようとしなかった。君と同じ理由でね。……そんなに分かりやすいものなのかな。自信が無くなるよ」

 

そういう出来事は思い出せても、誰とそれがあったのかは分からない。奇妙な状態だった。

 

「……話を元に戻すけど──約束はちゃんと果たすわよ、あなたの聞きたいことは全部話すわ。ここで大丈夫かしら?」

「……いいや。そうだな──ねえ、一杯付き合いなよ。僕が奢ろう」

「…………えっ?」

 

嘘のような言葉が飛び出してきて、思わず間抜けな顔を晒してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あら、お洒落な場所ね?」

 

連れて来られたのは、裏手の沿いにある小さな酒場だ。夜からの営業だと言うのにまるでガラガラで、エールが来ると店長はさっさと奥にひっさがってしまった。

 

「……店長さん、行っちゃったけど」

「僕のことが苦手らしくてさ。ここはいつも内緒話をするときに使っていてね、貸し切らせてもらってる」

「隠れた名店ってことなのかしら?」

「そういうことになるかな。……何か呑む? 僕が作ろう」

「あなたと同じものをお願い。……っていうか、作れるの? そもそもあなた、お酒にすっごく弱いでしょう?」

「昔、よくバーテンの真似事をしていた。そうすれば飲まなくて済んだから」

 

主にブレイズへの対処法だった。

 

エールはカウンターに回ると何本かの瓶を掴んで、グラスの中にかき混ぜた。

 

「はい、出来たよ」

「これは?」

「果実酒のジュース割り。名前はない」

「……ふふ、なによそれ、へんなの」

 

変じゃない。一般的だよ。

 

でも変よ。

 

……何だっていいさ。ほら、──

 

乾杯。

 

 

 

 

 

 

 

ブリーズが酔っ払って出来上がるまで、そう大した時間は掛からなかった。

 

実際、柄にもなく緊張していたのだろう。男の人と二人だけで飲む──しかもそれがあのエールである。これでもブリーズはエールに普通ではない想いを抱いているのだ。最近ではもはや、来ていた当初抱いていたロマンティックな思いは消え、ただただ現実の前に押し潰されて消えていた──それが、アルコールによって解放された。

 

「ねえアリーヤ、聞きなさいよ! どうしてあなたは私の方を見てくれないの? 質問の答え方も忘れちゃったの!?」

「……。話は?」

「そんなのいつだって出来るわ! いつでも私のところに来たらいいじゃない、でも今は──いいから私の話を聞きなさい!」

「はいはい、分かってるよ。落ち着きなよ、ほら。水」

「いらないわよ! さっきの、もう一杯出しなさい!」

 

はいはい──。

 

と言いながら、エールはノンアルのジュースを出した。速攻でバレて怒られた。何で分かったんだ?

 

「はっきり言うけど! アリーヤは私のことを舐めているわ!」

「……そんなことはない」

「嘘を吐かないで! 正直どうにでもなるって思ってるでしょう!? チョロい箱入り娘って思ってるんでしょう!?」

「……そんなことはない」

「嘘よ!」

 

嘘だった。正直ちょっと思ってた。

 

「でも別にそれはいいのよ、だって事実だし──問題なのは、どうせ私が何も言わないと思って無茶ばっかりして! 医者の意義を奪わないでほしいわね! どうせあなた、お医者さんなんてごっこ遊びだとかこっそり思ってるんでしょう!?」

「……そんなことはない」

「うーそーよー! 嘘ばっかり! 私には分かっているのよ!? どうしてそんな意味のない嘘をつく必要があるの!? 本当のことを言ったって怒らないわよ! だから正直に言いなさい!」

「本当だよ、君は大切な仲間だ。嘘はつかない」

「嘘はつかない!? 嘘ばっかり! あなたが本当のことを話してくれたことの方が少ないわよ! そんな人なかなかいないわよ!? 誤魔化して、はぐらかして、話を逸らして、それで嘘、嘘、嘘の連続よ! なんで嘘が下手なのにそんなのばかりなの!? あなた、もしかしてすっごいお馬鹿さんなの!?」

「……心外だ。いや、本心だよ」

 

やはり余計な気は遣うものではない。散々な言われようだ。

 

どうにかして止められないものか──。

 

「……残される方の気持ちも、少しは考えて欲しいところね。どうして死ぬつもりの人にあれこれ世話を焼かなきゃいけないの? 自分の体を自分で大切に出来ないなら、医者なんて必要ないじゃない。どれだけ私たちを馬鹿にすれば気が済むの?」

 

『どんだけ俺らを馬鹿にしたら気が済むんすか?』

 

「……すまないとは、思っている」

「だったら反省してちょうだい。いつだって現実を変えるのは言葉じゃなくて行動よ。行動で示せばいいのではないかしら?」

「君は僕に残された貴重な友人の一人だよ。いつも苦労をかけているし、そのことに感謝している」

 

エールはほぼ素面だ。

 

「……何よ。そんなこと言えば私が黙るとでも思ってるんでしょう」

「君に無理をして欲しくはない。本当だよ」

「……何、本当……調子のいいことばっかりじゃない。そういうことを口に出せば、大概上手くいくって思ってるんでしょう、どうせ」

 

『何ですか。どーせ、そうやって甘い言葉を吐いておけば、私なんてチョロいと思ってるんですよね。はいはい、そーですその通りでーすよーだ』

 

「……それは違う。僕は──」

「いいわよ。どうせ私なんてチョロい女なんだから、口先三寸で好きに転がせばいいじゃないの」

「そんな風に言うな。ブリーズ、君は……僕の大切な仲間だよ」

 

かつてのブラストも、似たようなことを言っていた。

 

「…………。騙されないわよ。もう……」

 

ブリーズは酒気か、それとも別の要因による赤顔を伏せてポツリと呟いた。自分に言い聞かせるように。

 

「嫌になるわ。あなたにも、こんな言葉に踊らなきゃいけない私にも」

 

『本当、私たちは単純ですね。そんな風に言われるだけで──』

 

「あーあ、何だか悩んでたのが馬鹿らしくなっちゃったじゃない。ねえアリーヤ、もしかして気を遣ってくれたの?」

「……いいや。ただの感傷だよ」

 

──嘘が下手ね。

 

どうして優しさを捨て切れない、ちぐはぐな顔でそんな風に言うアリーヤのことを──

 

私は、心底愛してしまっているのだ。

 

「……惚れた弱みね。嫌になるわ」

 

ぼそっと、小声で呟けば──

 

「ん、何か言った?」

 

ほら、聞こえてないじゃない。どうしようもないのね、まだ黙っていたことがあったなんて。

 

「お酒をちょうだいって言ったの。いっぱい付き合えって言ったの、あなたなんだから!」

 

『"いっぱい"って言ったよ、私。"いっぱい"なら構わないって言ったの、君だからね』

 

「一杯だよ。いっぱい、なんて──ああ、ひどい間違いだ。どうやら酔っ払いには──」

「何を言っても無駄よ。ほら、隣に座って? レディーがお誘いしているんだから」

「やれやれ、だな。仕方がない、可愛らしいお嬢さんのお誘いには乾杯(完敗)するしかないって訳か」

 

全く笑えもしない言葉遊びばかり、何に役に立つでもないだろうに。

 

……いや、本当に寒いなこれは。二度と言わない。かなり寒気が来た。

 

「……か、可愛らしい……ですって……? ちょっと、いきなりそんなこと、心の準備ってものがあるでしょう!?」

 

え、そっち?

 

エールは軽く笑った。今だけは──本心から出た、本当の笑みだった。

 

ああ、全く──酷い世界だな、ここは。

 

『ほら、グラスを持ってください隊長。今日くらいはいいじゃないですか。俺たちの未来に──』

 

思い出ばかりが反響して、目の前のブリーズが共鳴して。

 

『──未来に」

 

乾杯。

 





※途中から私も酔っ払いながら書いたんで雑になってます。お前まで酔っ払ってどうする

・ブリーズ
かわいい。誰が何と言おうとかわいい。
ダークサイドに落ちかけていましたが無事生還。酒にはそれほど強くない。翌日にこのことを思い出して絶叫するまでがワンセット。
チョロイン←New!

・エール
クソデカ感情狐
やれやれ系ハーレム主人公
曇らせ
アルコールクソ雑魚
難聴系主人公←New!

・スカベンジャー
実はこの後深夜に呼び出されて潰れたブリーズを家まで運んでいた。スカベンジャーはそろそろブチギレていい。

・ライン生命←New!
ク ソ デ カ 不 穏 。
そのうちエクソリア周辺の国地図とかアップします。設定上ではエクソリアはクルビア、サルゴン、ミノス、テスカ連邦に囲まれています。

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