本当はこの話はもう少し後に投稿する予定だったのですが、我慢できなくなったので投稿します
blaze:Nuclear Blast.
初めて出会った時のこと──どんなんだったっけ?
『……見てんじゃねえよ』
ああ、そうだった。第一声がこれ。チンピラじゃん。
『ちょっと、それはないでしょ。君も
『お前のことなんか知るかよ、うるせぇな』
『……かっちーん。ちょーっと頭に来ちゃったなー。どーしよっかなー』
『……』
『無視してる? いい度胸だね、私の前で──』
ああ、そうだった。
『やるか?』
『やるの?』
のっけからこうだもん。思い出すと笑っちゃうね。
そうだった。私、すっごい痛かったんだからね、君のパンチ。まあ私も、まあまあいいの叩き込んであげたけどね!
『──お前ら、一体何をしているんだ!?』
『誰か知らないけど、邪魔をするなよ』
『誰かは知らないけど、邪魔しないで』
『……一体どうなっているんだ? まさか初対面から殴り合う連中がロドスに入ってくるってのか。これはいよいよ、俺も年貢の納め時だな──とにかく暴れるのを止めろ。仲良くしろとは言わんが、黙って待ってるぐらいのことも出来んのか。というか部屋を荒らすな!』
そう! Aceともこの時会ったんだよね。ほんと、今だから笑えるけど、当時はひどかったなぁ。
『てめぇ……女。ぶっ殺すぞ』
『はっ! 無理無理──だってまるっきりチンピラじゃん、君』
『……ブッ殺す』
『そーれーかーらー、私は女じゃなくてブレイズ。はい、ちゃんと覚えられるかな〜?」
『ハッ! クソ女が──誰がチンピラだと? 僕はブラストだ。もう一度チンピラと言ってみろ、クソ女。泣いて詫びるまで痛めつけてやるよ』
『いやチンピラじゃん。何その三下みたいなセリフ、ドラマの悪役でももう少し気の利いたこと言えるよ。──それと、クソ女だって? 初めてそんな呼び方されちゃった。取り敢えずブチのめして、鼻の形変えてあげる。大丈夫、ちょっと殴るだけだし、それにもう少し良い顔にしてあげるよ』
『やめろお前たち!』
あははっ! もうほんと、思い出すだけで恥ずかしくなっちゃうよ。
ねえブラスト、君はどう? まだ覚えてる?
ーーー
blast:Radioactive.
確かにあの時、僕はちょっとおかしくなっていたかもしれない。……いや、僕たち──か。
『はい私の勝ち〜! ねえ今どんな気分!? ねえ今どんな気持ち!? いっつもバカにしてるクソ女に負けたチンピラくんは今どんな気持ちなの!?』
『いや──ブレイズよ、勝ち誇るのは分かるが、今にも倒れそうな姿で馬鹿にし過ぎだ。ブラストも人を殺しそうな目をやめろ』
……まあ、今更恨んじゃいないさ。僕が勝てば同じことをしていただろうし、結局後になってリベンジして、似たようなこと言ってやったっけな。覚えてるか? お前のあの時の眼、マジでヤバかったよ。
ともかく、僕は結構ショックを受けたんだぜ。これでもスラムじゃ負け知らずだったから、万全の状態の一対一で負けたことなんて、ほとんど無かったんだんだからな。
『ふ、ふふふふふ……あははははは! はい、私の方が強い! 証明完了──』
『……倒れた。そんなに満足だったのか──しかし、この二人をどうする。ドーベルマン……お前の意見を聞こう』
『……検討もつかん』
驚いたよ。所詮僕は井の中の蛙だったんだな。僕の小さな世界の中じゃ、自分より強い人間がいるなんて思いもしなかった。そんなわけはないよな、きっとロンディニウムにも居ただろう。だが僕の世界は、あの時はひどく小さいままだったんだ。
『しかし、入隊訓練プログラムの八割は飛ばして良さそうだ。全く、性格に難あり程度ならば、全く問題なく調教してやるものを──こうも強いと、かえって厄介になる。しかもそれが二人だ。他の連中に悪い影響を与えないか、私はそればかりが心配だよ』
『……だが、俺は気に入ったぞ』
『冗談を言っているのか?』
『む、そう見えるか? なかなか跳ねっ返りのじゃじゃ馬共だが、気骨がありそうだ。もしかしたら、良いオペレーターになるかもしれん』
特に、戦いで意識を失うなんて──失血によるものとかじゃなくて、純粋に痛みで気絶したのなんて、マジで初めてだったんだ。ほんと、どうかしているっていうか。
何より最悪だったのは、医療部のベッドが隣だったってことだ! 勘弁して欲しかったよ、気絶から目を覚ましたら、同じようにしてたお前と目があったんだからな。正直もう殴り合いは勘弁して欲しかったが、どうしてお前はあの時煽ってきたんだ? そんなに殴り合いたかったのか? どうして炎を団扇だかで扇ごうとしたんだか。あれのせいで医療部出禁になりかけたんだぞ、僕もお前も。まるっきり考えなしの馬鹿かよ。馬鹿だったわ。
『まさか! 限度があるだろう──Ace、お前のようなエリートオペレーターにでも成れるとでも言うのか。初対面で、同期入社する将来の仲間と……お互いに倒れるまで殴り合うようなバカ共が、少なくともそうはならんことだけは確かだぞ』
『いや。もしかしたら、もしかするかもしれん──どうだ、賭けをしないか』
『すぐに賭けを持ち出すのは、お前の悪い癖だぞ』
『だが、その分面白くなる』
『……内容はどうする?』
『賭けならば大きく張ってこそだ。この二人がエリートオペレーターにまで成長するか、しないか』
ああ、そうそう。あの時僕たちの喧嘩の立会人をしていたドーベルマンとAceさんだけど──
『いつまでにだ?』
『二年以内に』
『……それでは私が有利すぎる。せめて、どちらかがエリートオペレーターになるかどうかにするべきだな』
『いいや、俺はこっちに賭ける。俺はこいつらがロドスに適応し、変わって行き──エリートになるのなら、二人同時に。どうだ、ドラマチックじゃないか?』
『話にならん。筋書きも酷い、三流映画のようだぞ』
『で、どうする。賭けるか? 気長な賭けだから、もしかしたら忘れてしまうかもしれんが』
『……乗った』
──なんて話してたらしいぜ。酷え連中だよ。ドーベルマンもAceさんも、良いように楽しんでたってことさ。僕にとっちゃ笑い事じゃなかったけど。想像も出来ないよな、これが初日だぞ? 二日目からが思いやられるっていうか──。
でも、きっと遅かれ早かれこうなっていたんだろうな。
でも気になったんだが、あの二人は何を賭けていたんだろうな。まさかビールなんて安いものじゃないだろうし、……あ、待てよ。一週間だけドーベルマンが猫耳カチューシャを付けていた時期があったな。どれだけぎょっとされたり、笑われたりしても、その一週間は外さなかった。もしかして、あれか?
だとしたら、ぎゅっと耐え忍んでいたドーベルマンをお前と一緒に大笑い者にしたの、結構悪いことしちゃったかもしれないな。もしかしたら、Aceさんがそれを着けることになってたかもしれないんだし。
お前はどう思う、ブレイズ?
ーーー
あ、そういえば──ドーベルマンが猫耳カチューシャと語尾ににゃんって付けてた時もあったね! もうお腹が割れるかと思ったよ、最後の方なんてドーベルマンも慣れてきて、にゃんにゃん言いながら鞭振るってたんだから。
一生分くらい笑ったよ。ほら、重要な会議の時でもそうだったから、ケルシー先生もずっと咳払いしてたし──あれ、今思えば笑うのを堪えていたのかな? みんな笑いを堪えることに必死で、何話したかなんて全然覚えてないんだし。
『……はあ? このバカ女と一緒の部隊に仮配属だと!? *Fワード*!』
『*炎国語の聞くに耐えない罵詈雑言*!』
『……想像よりも一段ほど酷い反応だ。お前たちが常に予想を上回ってくれて、私も鼻が高いよ』
いつだっけ、一ヶ月保たなかったよね。周りの訓練生、ずっと引いてたもん。近寄り難いっていうか、話しかけることはもちろん、顔を見られるのも避けてた感じあったよね。
ひっどいなぁ〜、あの頃の君はともかく、私は周りとは仲良くやっていこうとしていたんだから。
君のお陰で話し相手もできないから、すぐ君に絡みに行って──明らかに悪循環だったよね、あれ。あの頃、一日として生傷が絶えなかった日はなかったよ。君もそうだったよね、顔面とか酷かった。乙女の顔を容赦なく殴るんだもん。まあ私も君の股間蹴っ飛ばしたこともあるからおあいこだね。
あの時の君の表情は見ものだったよ、いや本当……ちょっとだけ、いや──かなりスカッとした。君のことがどうしようもなく許せなくなったらどうすればいいか、君のあの恐ろしいものを見る目から教わったよ。まあ幸いにも、その機会は訪れなかったんだけどね。
『……Ace? あの髭もじゃ……そんな偉い立場なのか?』
『疑っているな。まあ一度……そうだな、戦ってみればいい。お前たちには、その方がよく分かるだろう。やれやれ、だ。本当は私も、お前たちのようなバカどもにはもっとお灸を据えてやりたかったが……毎日毎日、私が指示した訓練量の二倍をこなしてくるとは……。そんなところでも競い合っているのか。全く頭が上がらんよ。……いや、皮肉だ。言っておくが、今のは全く褒めていないぞ』
なんだっけ。喧嘩の罰として甲板を二百周走ってこいって言われたから走ったんだよね。死ぬかと思ったけど──君が二百一周目を走り出すから、私はついに数も数えられなくなったかこのチンピラ崩れはって思って着いていって……結局四百周も走っちゃった。あの日ほど辛かった日はないよ。
君は負けず嫌いだったから、きっと私に勝ちたかったんだよね? 安心して、私も同じ気持ちだったよ。
だから、君との訓練するのは本当に嫌だったよ。絶対に私よりも一回でも多く回数をこなそうとするから、無限ループみたいに訓練の量が増えていったんだし。腕立てもスクワットも全部──まあ、私も君のこと言えないよね。
私、君に先を越されるのだけは死んでも嫌だったんだから。
『……しつッ、こい……ッ、なあァ! ついてくんじゃねえ、よ……ッ! はっ、はぁっ……!」
『君ッ、こそ……諦めっ、たら……どうなの……ッ!? もう、足腰も……っ、限界……でしょ……ッ!』
『死にそうな……っ、顔、で……強がる、なよ……ッ!』
『君……っ、こそ……ッ!』
強がってたの、明らかにそっちだったよ。うん……今でも譲らないけど、絶対そっちの方が強がってた。
言うけど、なんなら私の方が身長高いし、多分私の方が年上だし──明らかに、体の出来は私の方が良かったよね、入ってきた当時は。
懐かしいなぁ。訓練終わりなんて、もう自分の部屋にすら帰る体力もなくて……。私、お風呂から上がる体力なくて一回死にかけたんだよ。いやあ、本当にあの時はもうダメだと思った。栓を抜くって発想が出てこなかったら、きっとあの時溺れ死んでたね。
ねえ、君もそうだったんでしょ?
ーーー
いや、冗談みたいな話だけどさ。
ふらふらしながら歯磨きしてたらそのまま寝ちゃってさ、鏡に頭ぶつけて割っちゃったんだよ。僕はそのまま鏡の破片の散らばった床で寝てたんだが、もしかしたら僕はあの時死んでいたかもしれない。
あの時は破片を散らかしてから床にぶっ倒れたんだが、倒れ方によっては鏡の破片に喉元ぶっ刺してたかもしれないんだから。朝になって起きたら、体の所々に破片刺さってて血が出てた。完全に殺人現場で笑っちゃったよ。誰かがあの現場を目撃してたら、危うくサスペンスドラマが始まるところだった。手がかりは床に転がったままの歯ブラシと、出しっ放しの水道だな。
思い返してもゾッとする、本当に冗談じゃないんだぜ。あれ以来、寝るのはベッドかソファにしようと固く心に誓ったもんさ。
『まあ、こんなところだろう』
『クソ……髭もじゃの、化け物め……』
『サングラスの、魔人……』
『言いたい放題言ってくれるが、お前たちは今、第一訓練室の床にぶっ倒れて、起き上がれもしないって事実を思い出すべきだな。まあ筋は悪くない。その歳でここまでやれるのは大したものだと褒めてやろう』
そうそう、Aceさんだ。
いやあ、強かった。なんつーか、僕の戦い方はどこまでいっても喧嘩殺法に過ぎなかったんだなあって。
盾なんて役に立たないと思ってたんだよ。だって実際、僕の前でそれが役に立ったことなんてなかったんだからね。
『ブラストはあれだな、正直ケルシー先生から聞いていたほどのものではないな。期待外れだ』
──とかなんとか言い出しちゃってさ。もうキレちまったね。
『ブレイズも、よくその程度の腕前でブラストに自分の力を誇れるものだ。見ていて恥ずかしくなるぞ』
っていうかお前、その程度の煽りであっさり立ち上がるなよ。メリケンサックとか取り出しちゃってさ、お前の方がよっぽどチンピラだよ。
『ふむ、立ち上がったな二人とも。やる気になったなら、伝えるべきことは一言だけだ。殺す気で来い、どうせ殺せんから安心しろ。ああ、こっちも盾は捨てよう。こいつを構えるのは、少々大人げなかったな』
『……じゃあ、遠慮なく』
『お言葉に甘えて──』
そうそう、こんな感じだっけ。
『『──ぶっ殺す』』
で、あっさりボコされるまでがワンセット、この流れ、このあと何回やったんだっけ? 終いにはAceさんの方が疲れてきて終わったんだ。僕は勝ったと思ったよ。何に対してかは分からないけど。
『……いい加減終わらせてくれ。俺はあと何回お前たちを投げ飛ばしたり、叩きのめしたり、床に転がせばいいんだ? とにかく、俺が言うべきなのは、お前らはこの行動隊E2に仮配属になり、そして一人前のオペレーターに育つまで俺がきっちりと面倒を見てやる、ってことだ。……最初に言えば良かったな。この一言のためにいったい何時間を掛けなければならんかったんだ?』
でも結局Aceさんはそれを無駄な時間だとは言わなかったよな。まああそこまでコテンパンにされちゃ敵わないよ、流石の僕だって認めざるを得なかった。この世界に自分が強いヤツがいて、そいつに従わないといけないんだって。
僕だって、流石に今のままじゃ不味いと思っていた。お前に言っても信じないだろうが、僕は自分を変える為にロドスに行ったんだぜ。冗談だと思ったろ? でも本当の話だよ。
『と言うことで、ブラスト。お前の腐った根性を叩き直すための第一歩は、まずは他人に対して敬意を示すことだな。他人を尊重しろ、出来なければここを出ていけ。自分と違う誰かがいるということを認められんヤツは、俺の部下には必要ないからな。手始めに、俺を呼ぶときはAceさんと言うようにしろ』
『……絶対に、断る』
『そろそろお前のことを、多少は理解出来るようになった。ではこうしよう、俺に一撃でも叩き込むことが出来れば、さん付けする必要はない。だがそれすら出来ないうちはお前は半人前だ。そうだな、ここは敢えてお前さんの流儀に合わせて言うが……弱い人間にはそいつを選ぶ権利はない。俺の言葉に従え、ブラスト。お前さんが、これからもオペレーターブラストを名乗るつもりならな』
そうだ、ブレイズ。お前、このとき笑ってやがったな? なーに笑ってんだか、お前だって他人事じゃないんだぜ。
『そしてブレイズ。お前はブラストのことをきちんと認めろ。この大地には、こういうタイプのバカが山ほどいる。まあこいつ程度の強さに苦戦しているようではどうにもならん。確かにブラストに比べれば、お前は多少はマシな性根をしているようではあるが、所詮は五十歩百歩に過ぎん。俺から金言をくれてやるが、この男を認めることが出来ないようであれば、お前もブラストとそう変わらん。他人を許すことが出来れば、その人物よりも一歩先を行っているということだ。ということは、その逆もある。お前たち二人はそれよりもひどい』
……で、結局……最終的に、僕はお前と何回勝負をしたんだっけ?
どんだけやったんだっけ。二千? 三千? 分からない、思い出せないな。どうだったっけ? なあ、ブレイズ。
ーーー
4000回中、1000回勝ち、1000負け、2000回引き分けだよ。4000回!? 自分で言ってておかしくなっちゃった、頭おかしいんじゃない?
PRTSが数えてくれたんだよね。じゃなきゃ私がこんなこと思い出せるはずがないでしょ?
『……初任務?』
『そうだ。まあお前たちは黙って見ていろ、これも勉強だ』
そうそう、私たちは最初何にもさせてくれなかったよね。特にオペレーター以外の民間人と関わったり、交渉したり、仲裁したりする時なんて口にガムテープ貼られてたんだから。チャックまで縫われてつけられそうになったし、よっぽど警戒されてたんだね。
『……』
『……!』
『……、!』
『! ……! ! ッ!』
『やめんか馬鹿ども! どういうわけだ、お前たちは目で会話が出来るのか!? なんのためにお前たちの口を特注のガムテープをぐるぐる巻きにしたと思っている! なぜ会話もなしに喧嘩を始める!? 今度からは縄で縛っていた方がいいのか!? それとも近くにいられないように、超強力な磁石の同極同士でも貼っておくか!?』
『! ! ! !』
『……! っ! っ! !』
『……。もう十分だ、お前たちは一週間メシ抜きにした方がいいようだな。それとも部屋をロックして、出ることも入ることも出来ないようにしたほうがいいか。この恥晒しどもめ、お前たちはよほど俺のことが嫌いなようだ。そこまではっきりとした意思表示をされては俺も応えなければならん。そのガムテープが一週間やそこらで外れると思うなよ』
ねえ、今ぐらいになって気が付いたんだけど……あの特注の超強力なガムテープ、誰も外してくれなかったけど、私たち二人で協力すればなんとかなったんじゃない? 両手も縛られたから自力じゃどうしようもなかったけどさ、お互いがお互いのガムテープを外そうとすれば、案外簡単に取れたりしたんじゃない? きっとAceもそれを期待してたんじゃないかな。
……いや、やっぱりそんなこともなかったのかな? 少なくとも、私は君のガムテープを外す気なんて一ミリもなかった訳だし。
ねえ、君もそうだったでしょ?
ーーー
あのガムテープは悪質だったな。剥がしたときは痛くて、しばらくヒリヒリしてたよ。
まさか本当に一週間もあれをつけっぱなしにされるとはね。おかげで両手を縛られたまま生活するのにも慣れたし、その状態で戦う方法もちょっとは理解したよ。あれは実は、体の使い方をより広げるための訓練だったんじゃないかと、今でも僕は疑ってる。だってお前、あの回し蹴りはあの状態での完成形だったろ? いや、かなり感服したんだぜ。こいつ、この状態でここまでやるか、って。
『……懲りたか』
『はっ。お陰で両手の重要性に気がつけたよ、鼻が詰まった時の絶望もね。流石に冷や汗を掻いた』
『そうそう! 寝る時なんて大変なんだよ!? 着替えだって大変だし』
『……逆に、なぜその状態で一週間も保ったんだ? 俺には分からん。本当に分からん。その状態で、着替えられるものなのか? 物理的に無理だろう。どうやってそれを外した? やはり協力し合ったのか?』
『誰がこいつなんぞと協力するかよ、死んだ方がマシだぜ』
『そうそう、アーツを使ってなんとかしたんだよ。……でも、こいつも外していたなんて。今ならやりたい放題だと思ったのに』
『……ここまで来ると、俺もお前たちのことを尊敬しなければならないらしいな。お前たちのことを認めていないのは、他でもない俺だったという訳か。恐れ入るぞ、お前たちはじゃじゃ馬などという言葉では表し切れん──90年代を代表する最も偉大なクソガキ共だ、お前たちは』
あの時のAceさんの戦慄した顔と言ったら、今思い出しても笑えてくる。いや、本当に申し訳ないと思ってる。本当だよ、きっと信じてもらえないだろうが……反省はしているんだ。同時に感心もしている。Aceさん、よく僕たちを投げ出さなかったよね。
『もういい、分かった。俺の負けだ。今日からお前たちを部隊の訓練に混ぜて行うことにする。基礎体力訓練はもう必要ないらしい、お前たちの無尽蔵の元気と体力には、おじさんはもはや敵わんようだ。ただし覚悟しろ。厳しい訓練になるぞ』
『強くなれるならなんだっていい』
『気に食わないけど、右に同じかな』
『……お前たちほど分かりやすく、そして扱いにくい連中はそう居ないだろう。ついて来い、俺の仲間達を紹介しよう』
で、今思い出しても不思議なんだけどさ。僕ら、あの人たちとは普通に上手くやれてたよね。
なんつーのかな、僕は僕で連携を取れる程度のコミュニケーションは取れたし、お前の方はすぐに打ち解けた。まあ対人能力に関しちゃお前の方が一歩先を言ってたって言うか、これに関しては生来のものだろうね。僕は未だに分からないよ。他人に対していったい何を伝えて、何を伝えないべきなのか。
『ははっ、生きのいい新人が入って来たな! まさかこれほど出来るとは、十分な即戦力になるじゃないか。ブラストだっけ? 今のどうやったんだ、まさか視線誘導か!?』
『単純なテクニックだよ。相手の意識を散らせば、その分だけ隙ができる。一定の実力者ほど引っかかる──やり方を知りたいなら教えてやるよ。まあ、あんたらの隊長さんにはさっぱり通じなかったけどな』
『あの人は例外だよ。勝てなかったからって落ち込むな! 歴戦の戦士なんだ、それもこのロドスでも一二を争う硬さの持ち主なんだからな。あ、髭の硬さの話じゃないぞ?』
『……はっ、ヒゲもそうだろ』
『はははっ! こいつー!』
……ローグのヤツ、今何してっかな。今頃は任務中だっけ。グレースロートをE2に預けているから、もしかしたら手を焼いているかもしれない。
悪いことをしたな。別れの一言でも伝えておきたかった。
『ねえブレイズ、あなたのアーツってどういうものなの? さっきの使い方なんだけど──』
『えっとー、実は感覚で使ってて、あんまり自分でも理解してないんだ。……やっぱり不味いかな?』
『ええ、不味いわね。いい? アーツは感覚じゃないわ。そうでないのならアーツ学なんてものは存在しないし、研究者だっていない。あなたのアーツは、それを数学的に理解することで初めて本領を発揮できるようになる。それと新しい武器も必要ね、後で一緒にエンジニア部に行きましょう』
『え、いいの? ありがとうコールスロー! 武器、武器かあ。なんだろう? 私的にはグローブとかがいいと思うんだけど、どんなものがあるの?』
『そうね、チェーンソーとかどうかしら?』
『え、ジョーク?』
『あら、本気よ。何事も試して見なくては分からない。そうでしょう?』
後で聞いたんだが、Aceさんはあの時、僕たちが隊員たちと喧嘩騒ぎを起こすんじゃないかって心配していたんだそうだ。失礼な話だよ、野生動物だって無闇矢鱈に戦おうとはしないってのにさ。
『……馬鹿な。まともなコミュニケーションを取っている……だと? おかしい、変だ。奴らは言葉を話せるだけの野生動物ではなかったというのか?』
『聞いていたほどじゃない。Ace、さっきの話は本当だったのか? 別に何の問題もないじゃないか。向上心も強いようだし、期待できるかもしれないぞ』
『いや待て、気を緩めるにはまだ早い。もう少し様子を見ておけ』
……疑っているんだが、毎回Aceさんがフラグを立てるせいでいつも僕たちはそれを回収しなきゃいけなかったんじゃないか?
『さあこっち、ロドスを案内してやるよ。ブラスト、まだここに来て浅いだろ? ついてこい』
『じゃあいきましょうか、ブレイズ。エンジニア部にはこれからもたくさん行くことになるから、迷わないようにね』
言うけど、僕はお前とは意識的に距離を取ってた。近づけば喧嘩になることは分かりきってたからね。僕だって問題を起こしたいわけじゃない。だがあの時、僕はお前を目にするとどうにも歯止めが効かなかった。
なあ、ブレイズ。なんでだろうな? お前はどう考える?
ーーー
『はっ、はぁっ……、ブレイズ……お前、どうしても僕の邪魔をしたいらしいな……!』
『こっちのセリフだよ……! 私、これからアーツを教えてもらいにいくんだけど、どうして邪魔をするのかな……っ!』
今思い出しても不思議だよね。私から手を出すつもりは無かったよ、ホントだって。あの時はどっちがちょっかいを出したんだっけ?
君もさ、目が合ったくらいで喧嘩しないでよ。ロドスに来て一ヶ月以上経っていたっていうのに、まだ飽きなかったのかな? ポケモンバトルでもないんだし、そっと横を通り抜けてくってことが出来なかったの?
『邪魔なんかするかよ、僕はお前に構ってる時間なんてこれっぽっちもない……!』
『私だってそうなんだけど!?』
……いや、この時は……どっちからだっけ?
あれ、私からだった? そんな訳ないよね、絶対君の方が先に因縁つけてきたんだから。
『見ろ、Scout。あれが俺の部下になるんだぞ。……賭けは俺の負けか?』
『……ご愁傷。止めなくていいのか?』
『いい。俺の部下たちには伝えてある。どうにでもするだろう』
コールスローも素早い動きだったよね。ぐいぐい引き剥がされて、エンジニア部までの道のりで一ヶ月分くらいの説教を食らったんだよ、私。気まずかったなぁ、もう絶対喧嘩なんてしないって心に決めてたのにまたやっちゃったんだもん。
だから、君とは一応の不可侵条約っていうか、取り決めっていうか……決めたんだったよね。いや、決めさせられたの間違いか。
『確認するぞ。一つ、僕とお前は訓練時間外での私闘は絶対にしない。僕から因縁をふっかけたりしないし、もしもそうなったとしてもお前は睨み返してはいけない。大人の対応でスルーすること』
『スルーする? ダジャレ?』
『黙れ。二つ、信じがたいが、僕とお前は同じ行動隊に所属する仲間であり、お互いに思いやりと尊重を持って、信頼関係を築き上げること』
『無理でしょ』
『黙れ。三つ、僕とお前はロドスの信念に同調し、あらゆる任務行動中においてはこれまでの一切を水に流し、お互いに協力し合って目的を遂げること』
『そもそも君と協力する必要ってある?』
『黙れ。四つ、戦闘訓練においては、お互いに切磋琢磨し、よきライバル関係を築き上げていく。この時の
『つまり、君をブチのめしていいってことだよね』
『黙れ。五つ、以上の文章は、行動隊E2隊長エリートオペレーターAce、及び行動隊E2の全隊員によって保証されるものである。その中には、当然僕とお前も含まれる。証明として、本書類にはそれぞれのサイン、及びブレイズ、ブラスト両名の血判を押し、Aceの元でこれを保管する。いいな』
あそこまでやる必要あった? あんな厳重な書類、私見たことなかったよ。血判なんて押す機会、一生ないと思ってたんだから。
横で腕を組んでたAce、私たちが親指を書類に押し付けて、やっと安心したように溜息ついてたよね。懐かしいなあ、まだ私たちがAceの部下だった頃の話。
君と私が、まだお互いにいがみ合っていた頃の話だね。
そんなこともあったよね、アハハ。
ねえ、ブラスト。
私ね、あの頃は楽しかったって思うんだ。変かな?
でもきっと、君も同じことを思ってるよね。私には分かるんだ。
この頃はまだ、間違えて無かった。私はね、本当に間違えたのは、あの時だったと思うんだ。
君はどうかな。君は間違いじゃ無かったって思う?
……でも、私だって確信があるわけじゃない。
だって、あの賭けがどっちの勝ちなのか、まだ結果が出てないんだから。
あれ以来、君とあの賭けについて話したことはなかったよね。だからもう、君の方は忘れちゃったのかな? でも私は覚えてるよ。忘れたりしたこともあったけど、君が居なくなって、私は突然思い出したんだ。
ねえ、君は今でもそう思っているの?
ーーー
僕は変わった。僕が変わりたいと望んでいたように変わることが出来たのかは分からないが、とにかく僕は変わった。お前のせいだよ。
お前も変わった。だがお前は変わりたいとは望んではいなかっただろう。お前はお前の信じるもののために、正しいことをやるためにロドスに来たんだからな。変わるためじゃない。変えるためだったから。僕とは真逆だ。
僕はね、何かやりたいことがあったわけじゃなかった。
僕はただこの大地が許せなかった。僕から思い出を奪い、約束を奪い、幸福と過去と未来を奪っていったこの大地が本当に許せなかったんだ。
そして、全てを憎み続けたままでは何も救うことが出来ないってケルシー先生に諭されて、僕はロドスに来た。
なあ、お前には何か許せないものはあるか? 誰かを殺したいほど憎いと思ったことは? 誰を犠牲にしてでも助けたい誰かと出会ったことは? 誰かを殺したことは? 誰かの全てを奪ったことは?
僕はあるよ。全部ある。
僕は、この大地において何が正しいことなのかを判別することが出来ない。何が正しいことなのかが分からなかったからだ。
他人を助けることは、必ずしも正しいことじゃない。裏切られることだってある。
他人を守ることは、必ずしも正しいことじゃない。むしろより事態を悪化させてしまうことだってある。
それどころか、手を出さない方がうまくいくこともある。いや、その方がずっと多いと思うよ。
誰かが誰かを救おうなんて、傲慢で不相応な考えなんだ。だってそうだろ? 別に誰かを助けたって、その誰かが僕を助けてくれるとは限らないんだ。
そういう考えが間違っているんだって、お前は言ったよな。
だから、僕に何が正しいのかってのを教えたのはお前なんだぜ、ブレイズ。
お前は気が付いていないだろうけど。
なあ、気がつかなかったろ?
ーーー
私は変わったのかな? ロドスに来て、三年前とは違った考えを持つようになったのかな? あの時出せなかった答えを、今なら出せるとするなら、きっとそれは君のおかげだね。
君も変わった。君はきっと、自分を変えたかったんだね。君は君が正しいと思うことが出来るようになるために、君自身がこれ以上間違ってしまわないためにロドスに来たんだ。変えるためじゃない。変わるためだったから。私とは真逆だね。
私は、運命っていうものから逃れたかっただけなのかも。
私は逃げていただけ。私の過去を、信念を、家族を、奪ってその姿形も見せないままに消えていったあの影から逃げていただけなんだ。
いつか必ず戻ってくると誓ったのを言い訳にして、私はロドスに逃げ込んだつもりになっていただけなんだ。
ねえ、君には何か大切なものはある? 帰るべき場所は? 守りたい人は? どれほどの代価を払ってでも変えたい何かは? 大切な人の笑顔を守れなかったことは? 信じていた理想が、音を立てて崩れていったことは?
私はあるよ。全部ある。
私はね、この大地に本当に正義なんてものが存在するのか分からない。本当の正しさも、本当の悪も、それが本当は何なのか分からなかったから。
他人を裁くことは、必ずしも公正じゃない。人が人を裁くなら、偏りが生まれる。
他人を傷つけることは、必ずしも悪いことじゃない。そうすることでしか変えられない何かが、この大地には存在する。
けど何も変えようとしないのなら、ずっと変わらないままだよ。
この大地が誰かを傷つけ、傷つけられた誰かがまた誰かを傷つけていくなら、本当に悪いのは誰なの? 一番悪いのは誰なの? 一番の被害者が、一番の加害者なら、私たちは一体どうすればその連鎖を止められるの?
そういう考えは本当に正しいのかって、君は言ったよね。
だから、私に何が正しいのかっていうのを教えたのは君なんだよ、ブラスト。
君はきっと気が付いてないだろうけど。
ねえ、気がつかなかったでしょ?
「……ああ、気がつかなかったさ」
「お前もそうだろ?」
「……うん。知らなかった」
「僕は──今でも、お前が間違っていると思う」
「うん。私も同じことを思ってる。ブラスト。君はやっぱり、間違ってる」
*今回の解説的なものはありません。
間話はまだ終わりではないです。もう数人分は書きます。
なけなしのストックを全部吐いたんでしばらく投稿頻度は死にます。ごめんね。