猫と風   作:にゃんこぱん

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書けたんで投稿します。
きっと性癖に合った話だから、書きやすかったのでしょう……



グレースロート:10/7 果実酒の作り方

 

 

 

『君がもしも、これから先──僕のことを微かでも信用できないと感じたら、そのボウガンで僕の頭を撃ち抜けばいい』

 

あんたが言ったんだよ、ブラスト。

 

 

 

 

 

 

10/7 果実酒の作り方

 

 

 

 

 

 

「Ace。あの話は、本当なの」

「何の話だ」

 

Aceはいつも通りの厳つい顔で聞き返した。

 

「とぼけないで。私が知らないとでも思っているの? ブラストのことだよ、任務が組まれるんでしょ」

「俺は知らん。そんな話は聞いたこともない」

「私に知らせるのはリスクがあると判断しているの? まだ私のことが認められない? 私は十分に強くなった。たとえあんたたちが私を認めていなくても──」

 

強い調子で詰め寄るグレースロートに、Aceは平然として言い返す。

 

「そこまで自分で分かっているのなら、その理由もわざわざ俺に聞く必要はないだろう。ブラストに拘りすぎるな。もうヤツはロドスから去り、死んだ。ロドスのオペレーターでない人間が、この大地のどこで何をしようとそいつの勝手だ。わざわざ口を挟んでやるな」

「どうして? 仲間じゃなかったの? エクソリアからの依頼の内容は何? 教えてくれもしないの?」

「質問は一つずつにしろ」

「じゃあその通りにする。エクソリアの、確か……LaoNe(レオーネ)。南部領の統一戦線組織、そこからロドスへ連絡があったんでしょう。その内容を教えて」

「そんな話は聞いたこともない」

「……もういい」

 

かぶりを振ってグレースロートは踵を返した。

 

AceもAceで、やれやれという風にグレースロートを見送った。そして作業室からグレースロートが出て行ったのを確認してから、頭に手を当てて疲れたように息を吐いた。サングラスと、あまり変化のない口元のせいで少々コミカルな図であった。

 

「ブラストめ。立つ鳥跡を濁さずという言葉くらい、聞いたことはなかったものか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとぉ〜、フェンちゃん〜! 待ってよぉ〜!」

「急いでクルース! また訓練に遅れたら、ドーベルマン教官にどんな嫌味を言われるか……!」

「う〜!」

 

すれ違って行ったのは誰だったか、予備隊の子たちだっただろうか。まだ少女と表現していい子供たちが必死に走っていった。

 

(……呑気なものだね)

 

どうしてか、そう感じた。グレースロートだって分かっている、今の自分にはそういう日常の些事ですら、許容する余裕が残っていないこと。

 

「──あああっ!? ブラザー、こっちこっち! 何のんびりしてるの、ウィーディーがスパナを投げてきてる! あんなのまともに食らったら、貴重なロドスの財産である僕の顔が額ごと割れちゃうよ!」

「やかましい。割れた方が男前だろう」

「そんな〜! うわ、掠った! ……でも、男前ってのは聞き逃せないな。むしろ一つくらい傷があった方がかっこいいかな?」

「それを心配するよりも先に、足元には気をつけるべきだな。そこの床はよく滑る」

「え? ──うわぁ!?」

 

またバカコンビが何かをやっている。大方ウィーディーをブチギレさせる何かをまたやったのだろう。一週間に一回はやらないと気が済まないのだろうか。

 

冷たい瞳でそっちを一瞥して、またグレースロートは歩いて行った。

 

「ちょ、ちょちょちょ! 待って、待って! 誤解だよ、君が楽しみにしていたプリンの中身を納豆にすり替えたのは僕じゃ──」

「──はあッ!」

 

合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、分かってるよ。大丈夫。次の任務のことは、ちゃんとわかってる。忘れたりしないって」

「本当に大丈夫なの? 私は一ヶ月くらいの長期任務に出るから、寂しくなったらいつでも電話してきていいからね?」

「ブレイズ、お母さんみたい。にゃ」

「ちょっと、私まだママになる気はないんだけど?」

「じゃあ、何になりたいの?」

 

──グレースロートは足を止めた。

 

「……君って、本当に本質を知りたがるよね。そんなの私だってわからないよ」

「わからない?」

「私は何かになりたいんじゃない。やるべきことをやるだけだよ」

「難しい。けど、分かるよ。ブラストを助けに行くんでしょ?」

 

息を殺して柱に隠れた。

 

コツコツと、二人分の足音。

 

「え、知ってたの? 知らせないようにしてたのに……」

「わかるよ。一ヶ月くらい前から、ブレイズ、ちょっと変わったから」

「変わった? どう変わったの?」

「ブラストが居なくなって、しばらく落ち込んでた。でも、また戻った。前よりも何だか、ブレイズはギュッてなってるよ」

「ぎゅ……って。ぎゅって。確かに……ぎゅっ、かなー。でも助けに行くんじゃない。むしろ、ブラストは直接的には関係のない任務だから」

「でも、会いに行くつもりなんでしょ?」

「────。まあね」

 

やっぱりだ。ブレイズなら絶対に参加すると思っていた。

 

「じゃあ、私はこっちだから。それじゃあね、子猫ちゃん」

「うん。頑張って、ブラストと一緒に帰ってきてね」

「……それは、難しいかな──」

 

そう行って、足音はお互いに分かれていった。片方は遠く、片方は近く──

 

「はい、もう出てきていいよ。私に用があるんでしょ?」

「……何? 気づいてたの?」

「子猫ちゃんは多分最初から気がついてたよ。私はもう少し近づかないと分からなかったけど」

「じゃあ、分かってて話してたの?」

「止めたって聞かないじゃん。だったら最初から聞かせた方がいいのに、Aceが譲らなくってさ。まあ、君の方から来てくれたんなら丁度いいか。場所を変えるよ、廊下でする話でもないでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケットからジャラリと鍵束が鳴った。そのうちの一つを──。

 

「……ここ、ブラストの──自室?」

 

扉に鍵を刺して認証、ロックを解除。

 

「……そのままにしてあるの?」

「うん。私がその分の維持費は負担して、無理言ってそのままにしてあるんだ」

 

──時間がそのまま止まっているようだった。

 

この部屋だけが、半年以上前のあの時のまま。

 

ブラストがあの朝出発して、二度と帰っては来なかったあの時のままだ。

 

机の上には、手書きのノートとペンが残されている。ベッドはあまり使われた痕跡はない。

 

ブレイズはそのままデスクに回って、椅子にどさっと座った。そのままグレースロートに向かい合うと──

 

「さて、何が聞きたい? 小鳥ちゃん」

 

『おや。何か用かな? グレースロート』

 

彼の幻覚が、ブレイズに重なっていた。姿も話し方も全く違う二人のはずのなのに、ブレイズをブラストと見紛った。

 

「……任務の概要と、出発日」

「任務は調査団の護衛。出発日は11月の5日」

「調査隊の護衛?」

「もっと直接的な任務を想定してた? でも違うよ、源石地帯の調査、及び防護保障指導、採掘技術のコンサルタント。それがレオーネから依頼された依頼。私たちはそのおまけ。内戦状態にある国に行くんだから、護衛も付けずには行けないでしょ」

「……じゃあ、ブラストは。あのパンダ、現地にいるんでしょ」

「悩みの種だよ。戻ってきたら懲罰をどうしようか、みんなで会議中。でも取り敢えず今は放っておくしかない。戻って来いって言っても、あっちはそうするつもりはないでしょう。実際、現地からの報告は貴重だし。はぁあ、どうしよっかなー……」

 

──そうやってトラブルと戦いながらどうしようか頭を悩ませている姿は、まるでブラストと瓜二つで。

 

「まあ当然、ブラストもただで放っておくわけじゃないよ。エリートオペレーターとしての責務を裏切って、私たちよりも戦争を選んだ。その過程がどうであれ、私は落とし前をつけさせる気でいる」

「……連れ戻すの?」

「まさか。今更そんなことは出来ないよ。エクソリアみたいにちっちゃい国に対してでも、政治的、軍事的な干渉なんかできる訳ないでしょ。あの馬鹿はもうただの個人じゃなくて、偉めの軍人になっちゃったからね」

 

軍事的な干渉。ブラストに接触するということは、そういった意味を持ち始めていた。グレースロートはまだその実感が湧かない。人一人に会うのに、そんな背景が必要になることが理解できないし、したくもない。

 

「でも干渉し過ぎちゃダメ。ロドスのオペレーターとしてのやるべきこと。やっていいこと。そしてやってはいけないこと。()()()()()()()()()()()()()。分かるでしょ?」

 

『責任と責務がある。僕たちはその中で、自らの道を決めて、その上を歩いて行かなければならない。それが自由ということだよ、グレースロート。そして君はその名前を捨てることもできる』

 

「……どの口で、そんなこと」

「ええっ? ちょ、今の怒るところあった?」

 

──どうして、苛立っているのか?

 

ブレイズはまるでブラストの真似事をしているようだ。本人に自覚があろうと、なかろうと。それが苛立たしい。それともこれは自分の問題なのだろうか。

 

「あのねぇ、何考えてるか知らないけど……はっきり言うよ。君の出る幕はないの」

「あの約束は果たしてもらう。ケルシー先生に伝えて、私を連れて行けって」

「まあ、確かに君の努力を嘘にする気はないよ。少なくとも私はね。でもそれとこれとは話が別」

「話が違う」

「違わないって。ただでさえエクソリアを取り巻く情勢は複雑なの。この依頼は、ロドスにとって無数にある依頼のうちの一つで、特別なものじゃない。取り敢えず、鏡で自分の顔を見てきたらいいよ、そこにあるから」

 

ブレイズは譲らなかった。子供に言い聞かせるような口調で、こっちを真正面から見ようとせず、暇潰しをするように部屋を眺めているだけだ。

 

──腹が立つ。努力して自分の実力はブレイズに認めさせた。エクソリアへの任務があった場合は、ブレイズがケルシー先生に口を利いてくれる約束だったはずだ。

 

それなのにそれを反故にし、自分はエクソリアへ向かうつもりなのだ。都合の良いことばかり並べておいて、結局ブレイズはエクソリアに向かうつもりでいる。

 

「子供扱いしてるの?」

「違うよ。ただ火のついた爆弾を車に乗せていきたくはない。いい? 君は今、オペレーターとしての責務と責任を放り出して、自分一人のために行動しようとしているの。君がやるべきことは他にある。今じゃないの」

「……そんなの、先にその責務と責任ってヤツを放り投げたのは──オペレーターであることを捨てたのはブラストの方じゃないッ!」

 

グレースロートは叫んだ。思わずブレイズも目を白黒させる。

 

「裏切ったんだよッ!? どうしてそんな平然としていられるの──散々偉そうに私に説教垂れておいて、結局全部嘘だったッ! ブラストが全部嘘にしたッ、ロドスを捨てて、信念も言葉も過去も仲間も責任もあんたも私も捨てたんだよッ!?」

 

『……そうだね。確かに、その言葉を否定することはできない』

 

「ぶざけないでッ! 何が仲間のためよ、何が感染者のためよ! 子供を守るだとか、未来を変えるだとか、耳障りの良いことばっかり残すだけ残して全部捨てた……ッ、私はあんたを許さないッ!!」

 

『それが、君の本音?』

 

同じ顔をするな。あんたがブラストと同じ表情を浮かべるな。そんな風に余裕綽綽な表情で私の言葉を受け止めるな。怖気が走る。

 

グレースロートには、真剣な表情で彼女を見据えるブレイズの姿がブラストに見えていた。言葉までがシンクロしている。

 

「もう一度聞くよ。いい? よく考えて答えて。それが短期的な感情の爆発に過ぎないのか、それとも君が本気で考え抜いて、最後に残った本音なのか」

 

『いいかいグレースロート。物事というものは単純なように見えて、非常に複雑な構造を持っている。それが発生するのには、それが発生するに至った経緯があり、その経緯にも原因があって、原因にも理由がある。そしてそれらが複雑に絡み合っている。だから物事を解決したりすることはとても難しいことだ。そして君には二つの手段が残されている』

 

黙れ。

 

『一つは、暴力的な手段による強制的な解決だ。これがもっとも容易く、短期的な解決が可能だ。即効性があるし分かりやすいから、昔はよく僕もこいつを使ったものだが──禍根を残す。それは物事を解消することは出来ても、解決させることは決して出来ない。ただ一つの例外を除いてね』

 

黙れ。

 

『そしてもう一つは、絡まり合った糸を解すように、慎重に解決することだ。時間がかかったり、そのケースごとに全く異なるプロセスを踏まなければならないし、そもそもそれで本当に物事が解決するのかどうかすら分からない。場合によっては、この方法では解決出来ないことが分かるだけという場合もある。むしろそちらの方が多数だ。ただロドスが目指しているのはこちらの方で、本当の意味で物事を理解することができるし、解決する事ができる』

 

黙れ。

 

『だが、本当に難しい。よく考えなければならない。この大地に存在する物事の数はあまりにも多すぎて、それら全てを解決しようと思うのなら、こちらの手段は現実的ではない。結局のところ、外部からの強制力、つまりは暴力による解決になってしまうことばかりだ。つまる所、何も解決することは出来ない』

 

黙れ。

 

『ちなみにだが、さっき言ったただ一つの例外というのは殺してしまうことだ。その物事に関わっている全ての人間を、跡形も残さず、存在していた証拠を全て抹消することだ。次の火種に繋がりそうなものも含めて、完全に破壊して土に埋めてしまうのがいい。やはり死体は山の中に埋めてしまうのがいいだろう。その場合、目撃者も殺して、その目撃者が殺されたこともバレてはいけない。まあ、絡まり合う糸を解すよりかはいくらか簡単ではあるかな』

 

黙れ。

 

『これらが君に残されている手段だ。そして物事にはいくつもの要因が隠されていて、見る角度によって全く違う形を示す。ある人が見れば三角形でも、ある人から見れば四角形だ。ある人から見れば円形かもしれない。もう少し頭を柔らかくして見れば、それは実は紫色をしていることに気がつくだろう。そして、なぜ紫色をしているのか? もともとそうだったのか? それとも赤と青を混ぜたからそうなったのか? 本当にその色を作ろうとしていたのか? 何かの手違いでそうなったのか? だとしたら、それは一体なぜ?』

 

黙れ。

 

『それを解決するにはどうしたらいいのか? 真っ黒のインクで塗り潰して、全てを黒色の中に葬り去って染め上げるか? それとも水で洗い流すか? そうした場合、紙が破れてしまわないか? 破れてしまったらどうなる? では別の色を足すのか? 本来あるべき色を探し出し、その色に染めるべきなのか? だが紫色に何か色を足して白色にすることは出来ない。色に色を足していけば、最終的には黒くなってしまう。そうなってしまえば、絶対に元には戻らない。本来描きたかった絵も、全く別のものに変貌する。だがそれがいい方向に働くこともある。そして最悪の結果をもたらすこともある。だから』

 

「だから君は、()()()()()決めなきゃいけない」

 

──今のは、どっちが話していたのだろうか。今のはブレイズが話していることなのか、ブラストが話していたことなのか。それとも両方?

 

『君の本当の望みが何なのか。君の描きたい絵が何色で、どんな形をしているのかどうか。()()()()()決めるんだ』

 

「そしてそれをするために何が必要なのか。どのようにしてそれをしなければならないのか」

 

『だから、君にとって何か重大なことを決めるときは──()()()()()決めなければならないよ』

 

「君自身が、黒く染まってしまわないために」

 

ブレイズが真っ直ぐにグレースロートに目を合わせて、そう言い放った。

 

「……私は、どうしても許せない。裏切り者に何を言われたって私の意見は変わらない。私はよく考えた。あんたに言われた通りに()()()()()。必要ない考えを捨てて、選んで、私はよく考えた」

 

同じように、人を殺しそうな顔でグレースロートはブラストの亡霊を睨みつけて、執念の滲み出た声で静かに呟いた。

 

「私はあんたを許さない。許すことが出来ない。……あんたが言った通り、私はあんたのことを信用出来ないから、あんたが言った通りに、あんたの頭を撃ち抜いて」

 

濁った瞳が標的を捉えている。

 

「殺してやる」

 

よく考えて、考えて、考えて、グレースロートは──

 

かつてブラストと名乗っていた青年を、殺すことにした。

 

 

 

 

 





※アンケートでもっとも票を集めたロドスでの話です。こんな話になっちゃってごめんね。

・フェンとクルース
うっ(心臓麻痺)
画中人での話を読んでいたら所々で心臓が止まりかけました。

・うに
貴重なコミカル要因

・エリジウム
歩く空気清浄機

・ウィーディー
気がついたら全特化3になっていた
スキル2特化したら攻撃力やばくて草

・グレースロート
よく考えた結果、やっぱりあのクソ狐を殺してやろうと思い立った。
正解です……

・ブレイズ
大人の事情を持ち出してグレースロートを説得しようとした結果、見事に地雷を踏み抜いた。
まるでブラストみたいだぁ……

・ブラスト
この時は多分昼寝とかしてます


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