猫と風   作:にゃんこぱん

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スカベンジャー:7/21 to 9/25 野良犬に首輪はいらない

「……ほら、見てあの人」

「ああ、たまーに見るよな。出入りの業者さんとか?」

「違うよ、そんな訳ないじゃん。あの人、黒い噂が流れてるの。暗殺者なんだって」

「あ、暗殺者? なんだよそれ、レオーネにはそんなヤツがいるのか?」

「だからほら、見てよあの目。怖くない? ──やばっ、目が合った!」

「やめろって! 嘘でも本当でも、近づかなきゃいいだけの話だろう!」

 

 

 

 

私は犬だ。

 

 

命令に従う猟犬だ。

 

 

 

 

 

 

 

スカベンジャー:7/21 野良犬に首輪は要らない

 

 

 

 

 

 

殺し方にいいも悪いもない。なのでどう殺すかは気分次第というところがなくはない。

 

だがそれは昔の話だ。今はなるべく後片付けが楽な殺し方を選んでいる。首筋は確実だが、床が汚れるし返り血がついて面倒臭い。

 

だから今は、なるべく血が飛び散らないように殺すことにしている。所詮仕事だ、楽な方がいい。

 

「……エールの飼い犬か。私を殺したところで、一体何が変わるものか」

「それを考えるのはあんたの仕事じゃない。お前の飼い犬も全て始末した。あの程度じゃ、飼い主の質も知れるな」

「その通りかもしれない。そして、お前のご主人様の質も知れる。いつまでもイタチごっこを続けているのがお似合いだぞ、フリスビーで遊ぶ犬のようにな。楽しいだろう?」

「あんたはもう用済みだ。安心しろ、今日も変わらずゴミ収集車は走っている。腐らないうちに処理してやる」

「……エールに伝えておけ、まだ何も終わってはいないとな」

「知ったことか、クズが」

 

──しまった。

 

言葉に煽られて、つい首を飛ばしてしまった。片付けが面倒だ──部下にやらせることにする。

 

「……私だ。掃除をしておけ。ああ、あの寺の中だ。腐る前に片付けておけ」

 

文句が返ってきたが構わず通話を切った。

 

──この国に来てから、これで合計で何人目だ?

 

32……いや、3。33人目か? よく律儀に覚えているものだ。

 

まだ血の気が失われ切っていない男の首から上が、死んだ後も恨めしそうにこっちを睨んでいた。下らない──すぐに背を向けて、今日はさっさと寝るとするか。

 

「……後、どれだけだ。あと何人殺せば、私は──」

 

私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8/8

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだと?」

「だから、君には伝えておかなくてはならないと判断した。これから一年も経たないうちに、僕は全ての記憶を失うだろう。その可能性が高い」

 

その態度と言葉の重さが釣り合わず、思わず馬鹿なことを言い始めたとつい思った。

 

「だから、君の任務は君自身で判断して進めていかなければならない場面が増えてくる。イェ・リ・シンの処遇は、まだ決めかねている。僕はそいつすら忘れていくかもしれない。もちろんある程度の対策はするが、即決が求められる場面になった時、僕の判断はもう役に立たないと思え」

「つまり、私に──お前の代わりになれ、と言っているのか?」

「そこまでは言わないが、近いことはやってもらいたい。君も理解している通り、君の仕事は、これ以上身内に足を引っ張られないために行っていることだ。この国じゃ、小さな火種が大爆発の原因になりかねない。……だから、君が代わりにやってくれ。今はまだ影響は薄いが……すぐに僕はだんだんと様々なことを忘れていくだろう」

「お前、それで──、……どうするつもりだ。あんたは──」

「何、時間制限がついただけだ。今更どうということもない」

 

──目的以外の全てを犠牲にすると、そう言った。

 

記憶を無くすということは自分を失っていくことだ。それで構わないのか? 記憶を失えば、何のために目的を達成したかったのかすら忘れてしまうのに。

 

「あんたは……それで、いいのか?」

「これ以外に道はない。もとより破滅は覚悟の上だ。人よりも大きな何かをやり遂げようと思うのなら、人よりもより多くのものを失う。この世の全てはトレードオフだ。小国とはいえ、国の運命を決めようなんて傲慢な考えだよ。手に負えるものじゃない、だがやらないわけにはいかない。もう引っ込みもつかない」

 

そこに悲観も諦観もない。ただ平然といつも通り、日々の仕事をこなすように。

 

エールは慣れた手つきで、片腕だけで煙草を咥えて火をつけた。本部の屋上には、ほぼエール専用になっている喫煙所がある。最も、この国にはそんなものは必要ないのだが。

 

ここからは街が見渡せる。アルゴンの、どこまでも続いていきそうな白い街並み。雑多で汚く、そして活気に溢れた街。

 

曰く、国の経済状況を理解するのは、建物の高さを見るといいと言う。10階建てのビルが平然とある街と、最も高くてせいぜい3階程度しかない街の経済状況は全く違う。龍門の摩天楼と比べれば、こんな街は砂場遊びで作ったようなものだろう。

 

だが、人々が生きている。

 

「僕はね、やはりこの国が嫌いだよ」

 

スカベンジャーも、なんとなく風景を眺めている。

 

「エクソリアは奴隷の国だ。ウルサスに支配され、内乱を引き起こされ、紛争を百年間も飽きずに続けていた。そのせいで経済的な発展が出来ず、この国は時代に取り残され、今では世界有数の弱国だ。ウルサスの前は古代王国アガモンへの朝貢を続けざるを得ず、その際も都合の良い防波堤として削られ続けていた」

 

時々、どこからそんな知識を得ているのか気になる時がある。スカベンジャーはそんなことに興味を持ったことはなかった。

 

「だがその奴隷の国に、とんでもない爆弾が見つかった。運命ってのはつくづく皮肉だが、どうしてこんな辺境の小国に良質で大量の源石が見つかるんだろうな。酷い話だとは思わないか? この戦争の縮図ってのは、結局はいじめっ子といじめられっ子が一人ずついるだけだ。エクソリアという国はどこまで行っても、哀れで悲しい奴隷の国──」

 

先日起きたリン家との抗争は、ある一つのテーマに基づいていた。そのいじめられっ子であるエクソリアが、今まで通りにいじめっ子のいう通りにするか、それともいじめっ子に逆らうのか。こう表現すると、所詮は戦争などと単純なところに帰結するように思う。

 

「……いいや、愚痴だな。こんなものは」

 

珍しく疲れたように、エールは紫煙を吐き出した。

 

「君には、いくつか謝ろうと思っていることがある」

 

手すりにもたれかかって、エールは街を見下ろしたまま言う。

 

「しばらくすると、僕は彼女──ミーファンのことを忘れてしまうだろう。もう名前程度しか思い出せないんだ。彼女の名前もその存在も、すでに無数に生み出された犠牲者たちの山に埋もれていく」

 

スカベンジャーはエールの背と、街の風景をぼんやりと捉えて立ったまま。

 

「だから、彼女のことを本当に覚えていられるのは、きっと君だけになってしまうな」

 

ミーファンの血縁者は皆命を落とした。彼女が末裔であり、そして命を落とした。彼女を殺した人間は、まだ生きている。

 

「……それがどうした?」

「君の戦いと、痛みと……そして孤独は、いつまでも君自身が一人で抱えることになる。すまなかったな、君の孤独を、僕では分かってやれない」

 

まるで冗談の気がない言葉──そうだった。この男はこんなことを真剣に言うような人間だった。

 

「余計なお世話だ。そんなもの、あんたが謝るようなことじゃない。私の抱える全ては私のものだ。……口を挟むな」

「……ふ、そうだったね」

 

疲れたように口元を緩めた姿に、スカベンジャーが何を思ったのかは定かではない。別に理由などないのかもしれない。

 

「一つ、寄越せ」

「……、ああ。ほら」

 

エールが少し嬉しそうに笑って、煙草の箱を向けた。そこから一本取ると、慣れない手つきで口に挟む。

 

使い古されたライターに火を灯して、火を着けてやった。

 

「──ごほっ、げほっ……」

「ふふ……初めは咽せる。口の中に、煙を溜めて冷やすんだ。それから肺に入れると良い」

「……うるさい」

 

だが言われた通りにそうした。

 

二人分の煙が空気の中へ溶けていく。

 

「それにしても、初めて吸うの? 意外だな」

「……前から思っていたが、お前はお喋りが過ぎる」

「そうかな? 君の方こそ、結構お喋りなところはあると思うけどね」

「誰が。もしそうだとしても、お前ほどじゃない────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9/24

 

 

 

 

 

 

 

 

「エール。何をしている、ホークンへ向かうんじゃなかったのか?」

「……そうだったっけ?」

「……チッ! お前、昨日自分が言っていたことも忘れたのか。完全にボケ老人だぞ」

「む。この若々しい姿を見て酷い言い草だ。……目的は?」

「リ・チェ市長に会う。最後の交渉だ。ヤツは未だに揺れている。あるいは無血開城の可能性もある。会合はホークンの高級料亭で行われるはずだ、すぐに出るぞ──お前自身が書き残していたメモがあったはずだ。それを読め、ポケットに入っているはずだ」

 

どうにも呆然としているというか、何も考えていないような──エールはそんな不思議な表情のまま左腕でカーゴパンツのポケットを探った。

 

びっしりと隙間なく文字が連なるメモ帳を、ちょうど三十秒ほど眺めていたエールだが、少し目を閉じると──。

 

「うん。思い出したよ、そうだったね」

 

本当にこんなので大丈夫なのか? この国はもう終わりなんじゃないか──と、毎回思う。スカベンジャーはいつも頭痛がしそうだ、が。

 

「──行こう。ついて来いスカベンジャー」

 

開いた瞳の色を確認して、ようやく一安心といったところだ。毎度驚かされる、まるでメモの中から継承しているようだ。

 

断続的な連続性──エールは、常に昨日からの自分のメッセージを受け取って、日々生まれ変わり続けている。

 

そしてその度に、少しずつ研ぎ澄まされているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホークンに部下を潜入させているんだろう。報告を」

「……そのことは、お前には伝えていなかったはずだがな」

「うん? ああ……今の君なら、当然やっているはずだと思っただけだよ。君も随分らしくなってきたじゃないか」

 

軍事用の無骨な車両に乗り込みながら、軽口を叩くように。運転席に座るのも慣れてしまった。まるっきり介護だ。

 

「大きな変化はない。北部は沈黙を保っている、越境警備隊にも動きはない。ヤツが未だに揺れ惑っているのは、どうやら信用していい情報だ」

「どうかな。僕はあまり期待しちゃいないよ」

「なら、なぜわざわざ敵地へと行く必要がある」

「場合によってはその場で殺すためかな」

「……お前、一体何を考えている?」

「あ、今のは冗談だよ。うそうそ」

「……もういい」

 

──付き合い切れない。

 

だがこうやって木偶の棒よろしくスカベンジャーは介護職員になっている。記憶喪失への対策のためにメモを残そうとも、そのメモの存在すら忘れてしまうような馬鹿だ。大体どうして私なんだ? 使える部下など、他にいくらでもいるだろうに──。

 

「あ、そうだ。途中アルゴンへ寄るだろう? 用事を思い出したんだ、止まってくれ」

「……待っていれば良いんだな」

「うん。……あ、そうだ。せっかくだし君も付き合わない?」

「飯なら一人で食ってろ」

「ご飯じゃないよ。実はアルゴンには腕のいい彫り師がいるって聞いてさ」

「彫り師? 刺青か」

「そう。前からやってみたかったんだよね、タトゥー。いいデザインを思い付いた」

「……勝手にやっていろ。私は興味などない」

「そう? 似合うと思うけどなぁ」

 

誰がだ。

 

──自分という存在が、日毎に失われているにも関わらず、エールの軽口は日に日に増していくばかりだ。口調も段々と軽くなったり、あるいはその存在感すら──。

 

「……お前は、怖くないのか?」

「何が?」

「自分では気づくはずもないが、お前は……まるで、一日ごとに死んで、そして蘇っているようだ。一週間前のお前と、今のお前は性格が違う。それすらも覚えていないのか」

「だって覚えてないもんね。でもそれは普通のことさ。そりゃあ、一週間前の自分の存在くらいは覚えているかもしれないけど、一週間前の朝ごはんとか何食べたかなんて覚えてないでしょ? でも何も問題ない。日常的なところでは、自覚的に思い出せるのはせいぜい一時間前のことぐらいだよ。記憶に連続性がなくとも、体には存在する。心臓はずっと動いているのさ」

「イカれてる」

 

異常だが、そう言われてみると妙に納得してしまうような自分もいて、やりくるめられた気がして腹が立つ。

 

「忘れたいことと忘れたくないことがある。だが……古い小説の一つがこんな始まり方をする。曰く──」

 

"なぜそんなに飲むのだ"

 

"忘れるためさ"

 

"何を忘れたいのだ"

 

"……。忘れたよ、そんなことは"*1

 

「思わず唸ったものさ。シニカルで破滅的だが、どうにも僕はこの一節が気に入った。何を忘れたいかすら忘れてしまった。忘れたいことを忘れられたんだ、だがその忘れられた事実すらも忘れたい。酔っ払いの考えにしては、どうにも哲学的過ぎるとは思わない?」

「……ただの酔っ払いの戯言に過ぎないな」

「どうかな? 君だって他人事じゃないと思うよ」

 

車の窓に流れる風景にも見飽きていたが、横でぺちゃくちゃとうるさい酔っ払いの戯言にもうんざりである。

 

緑と荒地、時々見える巨大な結晶垂。天災に汚染された自然がこの国の自然であり、どうしてか妙に緑深くて抒情的──と、見る人が見ればそう見えるが、スカベンジャーにとってはただの色の配色でしかなく、それ以下ではあってもそれ以上ではなかった。

 

「だってそうだろう? 忘れたことも忘れたなら、何一つとして覚えていないってことだ。悪魔の証明が言うように、君はもしかしたら何かを忘れて、それすらも忘れてしまった可能性を決して否定することはできないんだぜ。だって忘れてしまったのだから」

「お前に言われるようじゃ、私も末期だ」

 

大体そっちの方こそ──。

 

「自分の心配でもしていろ。例えば聞くが、お前は自分の名前を言えるか?」

「エール。この名前はなかなか忘れないし、そう周りがそう呼んでくれるからね」

「じゃあその前の名前は」

「前? 前って?」

「もういい、分かった」

「え。……じゃあなんだ、僕は忘れたことも忘れられたんだな」

「はっ、良かったな。忘れたかったんだろう?」

「どうかな。"忘れたよ、そんなことは"」

 

一節に擬えた、少し遊んだ言葉でエールは軽々しく笑った。

 

「だが、君だって忘れているかもしれない」

「何の話だ?」

「今の話だよ。君にだって、前の名前──本当の名前があるはず。スカベンジャーが本名じゃないだろ?」

「名前などなんでもいい。親から付けられた名前と、自分で決めた名前に差などない、他人と自分の区別がつけば良い。名前など──"忘れたよ、そんなことは"」

「お。案外ノリがいい」

「……黙ってろ。飛ばすぞ」

 

ちょっと恥ずかしくなったのは内緒である。

 

どこまでも果てのない草原の道を、源石エンジンを回しながら車両は走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉱石都市『ホークン』。その名に相応しい鉱石──源石産業の街。

 

ここの街は特に酷い。粉塵が常に大気に舞い、空気が霞みがかっている。地質が硬く、乾いたような地面の色と、高低差のある建物。山の麓に建築された街は数十年前までは単純な鉄鉱系の街に過ぎなかった。だが二年ほど前からこの街は変わった。元からひどく汚い都市だったが、最悪に変わった。

 

「……これは、酷いな」

「窓を閉めるよ。この街の粉塵──何が混ざっているのか分かったものじゃない。空気系にフィルターを入れてくれ」

 

その言葉を裏付けるように、この街の鉱石病感染率は飛び抜けて高い。自覚症状のあるなしに関わらず、鉱石病の痛みに苦しみながら、十分な医療設備もないままに労働を強いられていた。

 

発展途上の街では、安全など度外視されている。そもそもそういった概念があることを知らないが如く、命の安全と引き換えにして作業効率だけを追い求めている死人の街。それがホークン。

 

あるいは、この大気に舞う粉塵には、本当に未精製源石が混ざっているのかも──。

 

「……最悪だな。よくここの連中は、文句の一つも言わないのか?」

「工業において、生産性と安全は引き換えだよ。……だが、酷いな。想像以上だ、現実は想定を容易に飛び越えてくるが、それにしたってこれは酷過ぎる。そこの人、腕に結晶が出てる──あっちは……末期症状? あれは──」

 

──この世の終わりと言われても、そう疑問は抱かない。道端に倒れているのは鉱石病の痛みに耐えかねてそうしているのだろう。

 

「……すぐに目的地に向かおう。報告は当てにならなかったな。君の部下もすぐに引き上げさせた方がいい」

「勝手に上がっているだろう。……というか、知らなかったのか? お前が?」

「……」

 

ホークンが変化したのはこの1、2年程度だ。それは数年前に北部にホークンを奪われてからの変化だった。

 

当然、レオーネもスパイは送り込んでいた。だがその尽くが戻ってこなかったことから、それ以上の調査は辞めにした。国境の封鎖は厳重であり、見つからずに潜入するにはジャングルを越えていくしかないが、それもまた非常に危険を伴ったためだ。

 

「……この都市を、落とす──か」

 

病人の街、工業の街、最悪の地。呪われた労働者たちの、呪われた街。

 

「こんな場所を奪い取ったところで、わざわざ毒物を食うのと何が変わるわけではないだろう。下らない……」

 

あのスカベンジャーですら、多少の嫌悪感を滲ませている。

 

「とにかく行くよ。まずはここのトップの面を拝んでやらないと──」

 

そしてこの街のために戦争をするか、しなくていいのかをはっきりさせなくてはならない。スカベンジャーだって、その程度の意識は持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

いわゆる高級料亭というのは、どうにもベクトルが違うというか──。

 

「ようこそ来られた。ホークンへようこそ」

 

──ただ、粉塵の影響はない。全面張りのガラスから霧がかって汚れた街と労働者たちを見下ろす立場に立つことを高級と呼ぶのであれば、まさしくここは高級店と言って差し支えない。

 

ぶかぶかと太って、弱々しい表情でこっちを値踏みしている男が、この街の市長──リ・イェ・ハン。通称リ・イェ。何ともらしいというべきか──。

 

「お招き感謝します──と、言うつもりはありません。初めに伝えておきます。僕と彼女は一切の飲食をするつもりはありません。理由は分かっていますね」

「もちろんですとも……。ですが、そちらの方は──ああ、猟犬の。噂は聞いていますよ、レオーネの番犬殿ですな。ほっほっほ──」

 

見下したような侮蔑の視線が遠慮なくスカベンジャーに注がれる。思わず殺してしまいそうだ──エールがそれを手で制す。

 

「はい。彼女が僕の右腕です」

「ほっほっ──文字通りの?」

「ええ。失った右腕が惜しくはないのは、代わりがあるからです」

「ほほっ! ご冗談がお好きですな──そのような下賤の者が右腕とは。()()()()()関係なのですかな?」

 

──スカベンジャーは、殺意が漏れ出さないようにするのが手一杯だった。今すぐに殺さないのは、リ・チェの利用価値がまだ優っているからだ。これはエールの仕事で、自分は付き添いに過ぎない。出しゃ張るべきではない、どれだけ殺したいと思っていても──。

 

「……初めに、伝えておくべきことを間違ってしまいましたね。一つには、まず──」

 

微笑を浮かべたままの顔でエールは、あるいはそのまま殺してしまいそうな殺気を──

 

()()()()()()()()()()()()()。あなたは、まだ何かを選べる立場だと思っているのか?」

 

真正面から、針のような殺気を叩きつけた。

 

修羅場を潜ってきた戦士の殺気は、時に首元にナイフを突きつけられているような錯覚を起こす。エールのそれともなれば尚更で──。

 

「いいか? よく観察して、よく調べて、()()()()()。果たしてどちらにつくべきが最善であるか。どうすれば生き残れるのか。勝ち馬に乗りたいのなら、まずはそれが誰なのかを知らなくては」

 

息が出来ない。瞬きが出来ない。目を逸らせない。体が動かせない。

 

生命としての恐怖が縄になって、全身を縛り付けているかのように──リ・チェの体を締め上げる。

 

「そのためにまず、()()()()()()()()()()()。理性と品性に従って、一言一言()()()()()()()。もしも、あなたがそれも出来ないような肉達磨に過ぎなかったとしたならば」

 

ガラスの下、いくらか切り立った地にある料亭から見下ろすことの出来る汚れた都市、ホークンの労働者たちが忙しなく動いている。働かなければ彼らに待つのは当然──だが、身を粉にして働いたとして、彼らに未来があるかどうかは怪しい。

 

最も、彼らよりも死に近い場所はここかもしれない。

 

「その首の上側は、必要ないかもしれないな?」

──殺される。

 

一つの生命としての警報が鳴り続けていた。その警報は心臓の鼓動となって現れ、無意味に躍動している。

 

「さあ、話し合いましょう。我々は良き友人になれる。そうでしょう?」

 

──この悪魔と言葉を交わさなくてはならないというのか。

 

「あなたの運命は、あなた自身が決める──この街の運命と同様に。くれぐれも、口を滑らせないようにしなくては」

 

カラカラに乾いた口で、地雷原を歩く時のような無意味な慎重さで、リ・チェは答え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りの道すがら、しばらくの間スカベンジャーは口を開かなかったし、エールも同様だった。

 

ホークンを抜けて、越境し──口を開いたのは、それからしばらくしてだった。

 

「良かったのか?」

「……さあね。ヤツは小物だ。そういう手合いがどっちに転ぶかは最後の最後まで読めない。だが出来る限りのことはした。あとは賭けだ」

「……本当に勝算はあるのか?」

「ある。十分なベッドはした。あとはカードが裏返されるのを待つだけかな」

 

ほとんど脅しているようにしか思えなかった。だがそれが効果的だったのか? まだ結果は出ていない──ヤツが寝返るかどうかの回答が来るまでは、時間を待たなくてはならない。

 

──ただ、こんな話題など本当はどうでも良かった。

 

「……何のつもりだった」

「何のこと?」

「あんなものは完全に脅しだ。震え上がったネズミこそ、どこに逃げていくか分からない」

「だが、ヤツは()()()()()()()()()()()。どちらがより都合のいい逃げ道か、多少頭が回るネズミなら気がつくはず──彼が()()()なのか。賭けてみない?」

「……私が相手にならなくても、お前はもう賭けてる」

「ありゃ。確かにそうだ」

 

リ・チェは悪知恵が働いた。そのために自らはホークン陥落後も市長の座に留まり続け、源石鉱脈が生み出す莫大な富の一部を掻っ攫うことが出来た。

 

だがどこかのタイミングで、リ・チェはやり過ぎてしまった。北部へ流さなければならない源石の一部をピンハネして、さらに高額にして南部にすら密輸し始めた。

 

リ・チェは元南部領のホークン領主でありながらそれを裏切り北部につき、今度は北部にすら追われることになる。この男がどちらに転ぶのか──その結果次第で、エクソリア全土の運命は変わる。

 

「……あんなクズばかり、どうしてか上に居座っている。あの男が無事に寝返れば、またヤツを生かしておくのか?」

「少なくとも終戦までは生かしておいた方がいい。あんな男でも、居なくなればホークンに大きな混乱が起こる。悪政もまた秩序の一つなんだ。それでも混沌よりは、いくらかマシなものだと思うよ──ああ、それとも殺したかった?」

 

揶揄うような調子で、結構恐ろしいことを平然と口にするあたりこの男は狂っている。ここで肯定すれば、あっさりと"じゃあやっぱり殺そう"とか言い出しそうだ。

 

「……お前はどうなんだ」

「別にどっちでもいい。利用価値があるうちは殺そうとは思わないし、僕の個人的な感情でも同じだ」

 

掴みどころのない返答を返すエールに、いい加減我慢ならなくなって問いただすように言う。

 

「じゃあ、なぜ私を庇った?」

「庇った──最初の時のこと? まあ確かに、そうとも言うのかな」

 

あからさまな侮蔑の視線をぶつけられても、スカベンジャーは何もする気はなかった。殺してやりたかったが、理性はそれを許可しなかった。

 

それをすると、横のバカの妨げになってしまうから。

 

「ま、あれぐらいで許してやってくれ。どうしても殺したいってのなら、最後の始末は君に任せるけど」

「……あれぐらいで殺すの何のやっていればキリがない。侮蔑にも慣れた」

「前から思っていたんだが、君は実は卑屈なんだな?」

「下らない連中に何を思われようがどうでもいい。私のことでどうこう言われてもいちいち気にするな。前から思っていたが、お前は余計なお世話を焼き過ぎる」

「さあね。だが仲間を侮辱されて、黙ってはいられないものさ」

 

──そういうところだ。

 

「あんたはただの雇用主で、私はただの掃除屋だ。仲間ヅラをするな」

「釣れないねぇ……。今更ただの掃除屋なんて立場じゃないだろうに」

 

そうエールが言うように、スカベンジャーへの報酬の額は月毎に跳ね上がっていった。その苦労と仕事に見合うだけの、一国の存亡に関わるのに相応しいだけのそれが龍門幣で支払われている。

 

以前であれば、もうとっくにこの国を去っていたはずだ。十分稼いだと判断して、この危険な情勢にある国から脱出するように、また別の寝ぐらを求めて彷徨う──そうしようと思っていた。もはやロドスを裏切った自分は帰る場所もない。

 

そのはずだった。

 

「頼りにしているのさ。僕はマジな方で、君を右腕だと思っているんだよ。文字通りね」

「……最悪だ。最悪に不吉だ。二度と口にするな……」

 

一回右腕を物理的に失った男の右腕になど誰がなりたいものだろうか。前科がある──もう一度失われるかもしれない。そんな結末は御免である。

 

「ははは。出来るだけ言わないように努力するけど、多分明日になったら忘れてるよ」

「……後で手帳を貸せ。忘れても思い出せるように、きっちり書いておいてやる」

「何、君が望もうと望まずともそうなるよ。君のいる場所は特等席なんだ、いっそ羨ましいね?」

「何の話だ!」

「劇を理解するのには、見るだけではなく実際に演じてみるのがいい。この国が迎える結末を、役者の一人として見届けられる。そしてその中に、君が追い求める答えがある」

 

茶化すような口ぶりだが、妙に核心的で分かったようなことばかりだ。こんなのをずっと横で聞かされる身にもなってみろ、いい加減うんざりする。

 

「……お前の軽口に付き合うのも疲れた。少しくらいは黙れ。一ヶ月前のお前はいくらかマシだった」

「記憶にございません。それ実は僕じゃないんだよね」

「はぁぁぁ──」

 

ここまで来ると、舌打ちするのもエネルギーの無駄だ。

 

そして別に嘘を言っているわけでも、ふざけているわけでもないと言うのが一番の問題だ。

 

「記憶がないことの問題点は過去の失敗から学べないことだ。自分の右腕を失った原因くらい覚えてろ……」

「記録は付けているはずだよ。まあその紙はここにはないから思い出せないんだが、想像くらいは付く。原因は……そうだな、君が横に居なかった。それぐらいだな」

「私は一体、何回"冗談じゃない"と言えばいい。お前は誰かと肩を並べて戦えない人種だ」

「その理由は?」

「お前は……誰かと共に戦うには、凶暴過ぎる。お前は獣だ。人間の真似をしている猛獣──仲間を持たず、番もいない。一人で戦うのが、最も強く、そして厄介な……化け物だ、お前は」

 

あの時、スカベンジャーは本当に天災が突如現れたと勘違いした。

 

そしてその後、それがたった一人によって引き起こされたアーツによるものだと知った時、スカベンジャーは諦めたのだ。こんな化け物がいるのなら、多少この大地がクソでも仕方ないと。

 

「そうかなあ……。そもそも僕って強いの? 主観じゃあ戦ったこともないんだし」

「はっ……体が覚えているだろう。さっきの殺気を自分で理解してないのか? ヤツの顔は見ものだった」

「さっきの殺気? ギャグ?」

「黙れ!」

 

もう台無しだ。シリアスが続かない。

 

「嘘だって。揶揄っただけだよ、叫ばないで」

 

もう黙ることにした。何も反応しなければ、このバカも喋りようがないだろう。いちいち律儀に反応してやるから図に乗る。

 

だからもう軽口には付き合わないことにして、多少は運転の方にも集中しよう──と言っても、どうせ代わり映えのしない景色が続くだけなのだが。

 

「まあまあ。君があくまで自分のことを野良犬だと思っているのなら、当然それも君の勝手だ。忠犬も猟犬も君の性ではないだろう? やはり野良犬だ。今は餌を与えられているだけだが、君はやはり本質的には野良犬と表現するべきなのだろう」

 

……我慢だ。いちいち叫んだって仕方ないし、青筋が浮かんでも耐えろ。この男の場合、バカにしようとしているのではなく本気でそう言っているのだ。だから問題なのだが。

 

「おっと、誤解するなよ? 僕は愛玩動物全般が嫌いだが──野良はいい」

 

聞く人間が聞けばキレる一言を混ぜながらエールは続けて言った。

 

「都市に生きる野良も、野生に生きる動物も──飼われれば確かに安全だ。生存のためには合理的だし、ペットとして生きる道もあるんだろう。市場も存在するし、これに関しては人間側が飼いたい場合の方が圧倒的に多いから、こういうのを極論って言うんだろうが……」

 

気がつけばその言葉に意識を取られているのが気に食わない。おそらく喉にでも悪魔を飼っているのだろう。

 

「ビル街の裏路地で寝ている汚い野良犬は、誇り高い生き方をしている。明日死ぬとも分からない暮らしと引き換えであるかのように、彼らは誇りある姿で生きているのさ。人によっては惨めな姿でもね」

「……じゃあ、ペットはどうなんだ?」

 

結局反応してしまった。お喋りなのはどっちか分からない。

 

「あんなものは奴隷だな。生きてる価値ないんじゃない?」

 

一般的な価値観に照らし合わせて、おそらく最悪の答えを軽々しく口にする。エールはそんな人間性を持ち合わせている。

 

「だが、あんたもかつては飼われていた」

「そうみたいだね。けどこうやって野良犬をやってるんだし、やっぱり合わなかったんじゃないかなぁ。まあ何はともあれ──誇り。誇りだよ」

 

エールは楽しそうに語り続けた。

 

「自らに恥じない生き方をすること。後悔しない生き方をすること──特に、僕たちのような野良にとって、それだけが全てだ。このクソ溜めばかりの大地で、誇りを持って生き、誇りを持って死ぬこと」

「……そんな下らないものに、私まで一緒にするな。お前だけでやってろ。何が誇りだ、そんなものは何の役にも立たない。それこそ犬にでも食わせておけ」

「いいや。スカベンジャー……その名前と、その野良犬としての生き方にに誇りを持ちなよ。誰がそれを見下し、侮辱しても関係などない。僕が保証しよう、君は誇り高い。まあ犬っつっても君はザラック(ネズミ)なんだけどね、ははは」

 

最後の一言が致命的に余計だった。

 

もうこいつは何も喋らない方がいい。特にこのバカを信じ切っている南部の連中の前では、一言だって喋らせない方がいい。最悪この戦争が終わる可能性もある。

 

「もうお前は黙れ。一ヶ月ほど前の、お前の情けない姿をビデオを撮っておけばこんな時にお前を黙らせることが出来た……チッ!」

「だからそれ僕じゃないし。別人だって」

「うるさい。バカが感染る。もう私に話しかけるな。黙れ」

「どうせ暇なんだ、もう一時間ばかり付き合いなよ」

「……この国に来たのは間違いだった」

 

本当に鬱陶しそうに──まるで、撫でられるのを嫌がる野良犬のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9/25

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。何だと?」

 

──その報が飛び込んできたのは、リ・チェからホークンを南部領に対して解放することを確約する連絡が来た次の日のことだった。

 

「言った通りだ。ヤツは殺された。……見込みが外れた。彼がその辺りのことでヘマをするようには思えなかった──少なくともその時の僕は、そう判断していたようだね」

「諜報に情報を掴まれたのか。間抜けが……」

 

流石にがっくり来た、と言うのは誇張しすぎだろうが、結局無駄骨になってしまった。

 

「どうかな。裏切る以上は、彼は絶対にそれがバレてはならなかったんだ。万全を期したはずだし、そもそも都市としてのホークンはその動きは見せなかった。……彼の裏切りは、南部ですらまだ極秘も極秘──ましてや北部には、以前のような情報網は残っていない」

「運が悪かった可能性もある」

「否定しない。その場合、本当に運が悪かったのは彼じゃなくて僕の方だな」

 

軽くため息を吐いてエールはぼやいた。

 

「賭けは僕の負け、かぁ……。勝てると思ってたのになー……」

「はっ……舐めていたのはお前の方だったな」

「どうかな、それを決めるにはもう少し考えないと。……舐めていた、違う。きっと舐めていたわけじゃない。何かを見落としている。何か……」

 

ぶつぶつと呟きながら思案している。

 

「……何かを、見落としている? 可能性は──あるな。ある。スカベンジャー、何か気になることを言え。ずっと前のことでもいい。何でもいいから言え」

「私をAIか何かだと勘違いしているらしいな」

「いいから言え。どんな些細なことでも、下らないことでもいい。むしろそれだ、直接的に関わることじゃない方がそれらしいかもしれない」

「チッ……」

 

結構真面目な雰囲気だったので、仕方なくスカベンジャーはいう通りに過去を漁ってみた。

 

しばらく考えて、いくつか言う。

 

「……ここ最近、街の経済発展が妙に進んでいる気がする。気のせいかもしれないが、新しい建築が妙に多い。気のせいかもしれないが」

「悪くない。次」

「……メシの値段が上がっている。来たとき、食堂の一食は確か……20ギル。だが今は30ギルにまで値上がりした……確か、そうだった」

「インフレ。だが戦争状況下だぞ? ……これに関して、後で確認を取れ。それと重要な質問だ、その感覚──さっきの経済発展の感覚は、いつぐらいから始まっていた?」

「……8月、いや……9月。分からん、思い出せない」

「これも後で確認しておくか。だがこれだけじゃピースが合わない、もう一つ……何か、何でもいい。人、出来事、物。8月よりも前のことでもいい」

「7月半ばから……お前は、リン家と戦争をしていた。もう覚えちゃいないだろうが……だが、そんな前にまで遡ったところで何がある」

 

口ではそう言いながら、スカベンジャーは妙な寒気がした。嫌な予感の兆候がした。

 

エールはぶつぶつと呟いている。

 

「そこか? いや、別の可能性──全部潰していくしかないか。初めはそこから、──その騒動に関わった人物、出来事、それらが今も続いていると仮定して、そこに誰かいる可能性。レオーネへのスパイになりかねない人物? いや、それはこの一件とは連続していない、そっちじゃない。どこだ。どこに居る? 誰かがいる、誰だ」

 

ぶつぶつ。

 

誰がいる。誰かがいる──。

 

「一つ……思い出した。だが……」

「言ったはずだ。どんな些細なことでもいい」

「……リン家壊滅の後、一人だけ……行方不明になったヤツがいる。名前は……確か、(フォン)

「続けて」

「お前が、6月頃にあったバオリア防衛戦の最中に拾ってきた、四龍(スーロン)とか言うチンピラ共のリーダーをしていた男のはずだ。私も詳しいことは知らんが、リン家の騒動で四龍(スーロン)はフォンを残して壊滅した。その過程に関しても私はほとんど知らない」

「行方不明はどういう意味? 瓦礫に埋もれたかもしれないってこと?」

「違う。瓦礫の山から這い出て、そのままどこかへ消えていった」

「僕もその場所に居た?」

「居たも何も、あの屋敷の全てを瓦礫に変えたのはお前だ。敵も味方も容赦なくな」

 

エールの表情が変わる。デスクから紙束を引き出して、次々と放り投げながら何かを探して、まるで自問自答するように聞く。

 

「何かその時、言い残していった」

「なぜ分かった? 思い出したのか?」

「内容は……何だ? 何を言った?」

「うろ覚えだが……この世界を変えてやる、いや……破壊してみせる。そうだ、思い出した、"世話になったな、エール。オレはお前とは違うやり方で──"」

 

この世界を破壊して見せる。

 

「……すぐに彼の記録を調べよう」

「まさか、ヤツがやったと考えているのか? そんなバカなことはありえない。所詮はクズ共のリーダーで、多少は頭が回る程度だろう。レオーネを離れて、何か人脈を持っていたわけでもないただの感染者が──」

 

以前のエールが残したメモの中、それはずっと以前、三ヶ月ほど前の、まだエールが記憶を失っていなかった時期に残していた貴重なメモ。

 

"得難い才能。彼を本当の意味で仲間に出来たのならば道は大幅に広がる。貴重な友人。思想、能力。指導者としての能力、行動力"。

"敵対すると厄介なことになる。可能性は低い"。

 

「僕と同じだ」

 

言い切った。もはや確信となっている。

 

「……そいつは可能性の一つに過ぎない。別の可能性を当たっていく」

「必要ない。彼に集中して探れ。銀行にも探りを入れろ。全体的な金と人の流れを探らせろ」

「そこまでするのか?」

「彼がハズレだとしても、このインフレは気になる。……フォン。君か?」

 

事態が動き出した。

 

それは運命。その終わり──始まったのならば、それを終わらせなくては。

 

どこかで猫が鳴いている。

 

猫が鳴いている────────。

*1
中島らも「今夜、全てのバーで」序文より抜粋。




※今回のエールの発言はキャラの発言です。断っておきますが、私には動物愛護団体に権利を売るつもりは一切ないです。私は猫画像をひたすらいいねするAiです。

・エール
記憶がやばい。
月毎の精神状況と記憶状態まとめ
7月:リン家壊した時の源石が引き金になって記憶喪失が始まる。軽症。シリアス度が高い。
8月:軽症。シリアス度が多少薄まったりしなかったりした。
9月:ステインの呪いにより一度完全に記憶を失い、その後仲間達の名前を忘れた。その後は加速度的にボケてバカになった。精神ヤバかったけど忘れていったので今回の話みたいな感じになった。
ペットのアンチ。ぐう畜←New!

・スカベンジャー
野良犬。
かわいい。個人的にはずっと野良犬のままでいて欲しいが、正直ちょっとぐらいデレてもいいんじゃないかと思う。コーデまだ?

・リ・チェ
暗殺された。
かわいそう……

・フォン
久しぶりに名前だけ登場した。
(フォン)になったのはマジで偶然です。おそらくは炎国出身。

次で最後の間話の予定です。
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