猫と風   作:にゃんこぱん

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ブレイズさんの出番が回想シーンしかない……
こんなはずじゃ……(震え声)


雲と灰色-2

コンコン、とドアをノックする。

 

「失礼します、ケルシー先生」

「……ブラストか。どうした?」

「借りていた本を返しに来ました」

「……ああ。あれか」

 

僕は一冊の文庫本を差し出した。

 

「いい本でした。先生も小説なんて読むんですね」

「ただの趣味さ。Catcher in the rye(ライ麦畑でつかまえて)……。子供たちのために買った本だが、まさか君が読むとはな」

「久しぶりに少年にでもなった気分でしたよ」

「しかし、それにしては突然だな。君が私のところに本を借りにくるのは久しぶりだ」

「はい、実は……ちょっと子供の気持ちが分からなくなっちゃって。参考にでもしようかと」

「子供? ……ああ、そういえば──」

「はい。グレースロートです」

 

ウチで預かる前からそれなりに交流はあった。と言うより、よく部屋を訪ねてきてくれたものだから、それなりに話をしたりしていた。

 

まあ端的に表現すれば──懐かれていたのだ。

 

当時の彼女からしてみれば、周りが誰も信用できなかったんだろう。感染者に囲まれた生活というものは……酷だったとしてもなんら不思議じゃない。

 

『いッ……。おい君、無事だね──良かった』

『なんで……』

『手を……いや。感染者との接触が怖いんだったね。立って、後ろへ走るんだ。君にはやはりまだ早かったみたいだね──何、気にすることはない。これから成長していけば──』

『どうして、感染者のあんたが……私を庇ったの』

『君が子供で、僕が大人だからだ。感染者か、そうじゃないかなんて……些細な問題のはずだよ。多分ね』

 

あれからだっけな……。

 

震えながら、感染者への恐怖を少しずつ払拭していこうとし始めたのは──。

 

アーミヤとも交流があったみたいで、少しずつ、本当に少しずつグレースロートは前へ進み始めた。

 

今もその途中だ。まだ感染者に触れるのは怖いし、鉱石病へのトラウマも消え去ってはいないが……少しずつ、前へ歩けている。

……なんで僕だけが例外なのかは分からんけども。

 

「すっかりと一人前のエリートオペレーターだな、君は」

「承認のハンコ押したのは先生ですよ。本当、あなたには感謝している」

「そう思っているのだったら、もう少し周りの機嫌でも取ってやるといい。こんな小説など読んでないでな」

「手厳しいですね。僕はあなたの機嫌の取り方なんて分かりませんよ?」

「違う。君は今の言葉が、私の機嫌をとれとでも言う風に聞こえたのか?」

「……ブレイズとかですか?」

「自分で考えることだ」

「うえ。先生は本当に厳しい人ですね」

「だったらこんな場所に来るのはやめておくことだな」

「それもやめておきます。……また来ますよ。僕に人助けを教えたのは、他ならないあなたですから。それじゃ」

「やれやれ」

 

ケルシー先生の部屋を後にした。

 

廊下を歩く──。

 

「お、ブラストじゃん。何してんの?」

「エフイーター。いや、ちょっと用事が済んだところ。あ、これから飯だけど、一緒に行くか?」

「うん。あたしもちょうどご飯食べに行くところだったし」

 

現在、エフイーターは別の部隊への配属になっている。主に作戦記録指導……だっけな。まあよく分からんけど、相変わらず元気にやっているらしい。

 

「そうだブラスト、あたしたちで作ったあの映画、雑誌で特集されてるよ! 迫力ある戦闘シーンだってさ!」

「ああ……。あの僕とお前の給料全部吸い上げて行ったアレね。上映まで漕ぎ着けたのか、すごいな……」

「そりゃあ、あたしが交渉してきたんだから当然さ。もちろんブラストの手柄もあるけどね」

「お前ね……。なんだって僕がスポンサー集めなんかやらなきゃいけなかったんだ。めちゃくちゃ苦労したんだからな。二度とやらない」

「そんなこと言うなよー! ロドスのみんなには、結構評判良かったじゃんか」

「まあ、そりゃそうだったけどさ……」

 

ブレイズも面白かったって言ってくれたが、なんか不満そうだったんだよな……。なんでだろ、あいつも映画に出たかったのか?

 

「けど悪いね、ちょっと忙しくなるからしばらくは付き合ってやれない」

「お、ってことは終わったらいいの?」

「暇でもやだ」

「なんでだよ! あ、もしかしてあのネコミミか! お前ら付き合ってるって噂だもんな!」

「なんでブレイズが出てくるんだよ……。揃いも揃って……一体なんなんだ? そもそも付き合ってないし」

「およ? そうなの?」

「もしあいつと付き合ってたら、お前と一緒に映画なんか作るかよ……」

「……ふーん。そうなんだ〜」

「なんだよ?」

「いーや? なんでもないよ〜」

「なんなんだよ……」

 

機嫌のいいエフイーターと一緒に食堂に入る。

 

何百もある席の八割ほどは埋まっていて、かなりの喧騒が入り口にまで伝わってくる。

 

──僕がロドスに来た当初は、こんなに人数はいなかったことを思い出した。

 

活気付いてきている。力もつけているし──新しいオペレーターも増えている。

 

世界を変えるための力が──。

 

「……? ブラスト? どうかしたの?」

「いや、なんでもないよ。……行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……Aceさん。僕は戦闘オペレーターなんであって、別に土木作業員じゃないんですけどー!』

『黙って手を動かせ。今は猫の手でも借りたいんだ』

『猫だってよ! ブレイズ、Aceさんが呼んでるよ!』

『うるさい! 私だって頑張ってるんだから、ブラストもちゃんとやってよ!』

『やってるって。ほら見ろよこの基礎工事! ちゃんとしてるだろ』

『そうだね。それを後いくつ作ればいいのか分かってる?』

『……。この話、やめるか』

『何、メカニックの連中も頑張ってくれてるし──明日からこの村の入居者たちも来てくれる。それほど時間はかからんさ』

 

かつて荒れ果てた村を、行き場をなくした感染者たちの居場所にする計画があった。

 

その村は十年ほど前に野盗の襲撃でボロボロになってしまい、住人たちが皆去ってしまった。だが大まかな畑や家のレイアウトは残っていて、再利用の可能性が見出された。

 

何より、地質調査の結果でこの近くに天然資源が埋蔵されていることが分かったのだ。

 

国が力を上げて獲るほどの膨大な量ではないが……確かに、かなりの量が眠っている。

 

『ロドスってこんなこともするんですね。はーきっつ、太陽が眩しい……』

『これをモデルケースにして、もっと感染者の居場所を作り上げていきたいんだ。これが初の試みだよ』

『思い切ったことするなあ。ロドスからここまで来るの、結構大変でしょうに』

『いいのさ。これはちゃんとした取引だ、ロドスにも、ここに根を下ろすことになる感染者たちにもメリットがある』

 

僕たちは村を作る主導をして、その後の鉱石病への治療を。

 

この村に住む感染者は、僕たちに資源と援助を。そしてまた新しい感染者の受け皿にもなれる。

 

『でも、よくケルシー先生が許可を出したよねー。あの人、こういうこと嫌いだと思ってたなー……』

『そりゃ、ブレイズはあの人に会う時基本的に叱られてばっかりだからね。無理もない……のか?』

『無理もないさ。あの人の優しさは分かりにくい。厳しい面ばかり目についてしまうが……ケルシー先生は本当に優しい人だ。俺たちみたいな古参のオペレーターはみんな知ってる』

『僕も知ってる。ケルシー先生はすごいんだからな』

『ブラストがケルシー先生を好きなだけじゃん』

『そりゃあ、僕を拾ってきたのはケルシー先生だからね』

『え? そうなの? Ace、知ってた?』

『いや……チラッと聞いたことはあったが。そうだったか』

 

そういえば、この時はあんまり人に身の上話なんて話したことなかったなあ。今もあんまり話さないけども。

 

確か、この頃の村は結構荒れ果てていた印象があった。草とか伸びきっていて、Whitesmithさんが文句垂れながら刈っていたんだったかな。ロドス全体の行動隊の数も少なかったし、隊員数も今も半分もなかった。だからエリートオペレーターですら現場に出て汗を流すことになっていたんだ。

 

剥がれた壁や塗装、それから道や、インフラの整備。

 

初めてやることばかりだったが……楽しかったな。Mechanistさんが大活躍だった。クロージャが来た時は流石に肝を冷やしたけど……。

 

『感染者になって落ちぶれてた僕を拾ったのはケルシー先生だよ。僕はその時、結構人生に絶望してたんだけど……ほんと、あの人に拾ってもらえて良かったよ』

『……ふーん。そうなんだー』

『なんか含みのある反応だな……』

『べっつにー? なんでもないよー』

 

ブレイズの釘を打つ強さがその時だけ二割くらい増していたような気がする。うろ覚えだが……それだけ妙に覚えているもんだね。

 

『よし……。ここはこれでオッケーだな。後はメカニックの連中に任せて、俺たちは一旦休憩にでも入るぞ』

『了解。はー、やっと休憩だ……。訓練よりキツい気がするよ』

『そんな訳ないでしょ? この暑さのせいだよ』

『あー。ロドスは基本室内だもんな。太陽って暑いね……。あれ、ブレイズ……焼けた?』

『え、うそ。やっば、日焼け止め塗るの忘れてたかな!?』

『日焼け止め? ブレイズがそんなこと気にするなんてね。明日は雨──いってえ! ちょとブレイズ!? なんでいきなり叩いてくるんだよ!』

『ブラスト、今のはお前が悪いな……。よりによってお前が言うか』

『はあ? Aceさんまで……。なんか悪いこと言ったかな……』

『信じらんない……。もう、全くこの男は……』

 

懐かしい記憶だ。

 

とても懐かしい。まだ下っ端の隊員だった頃だ。

 

この村の名前は────

 

 

 

 

「エスペランサ村?」

「ああ。僕がまだエリートオペレーターになる前から関わっている村でね、知り合いも多い……というよりは、知り合っていったと言うべきかな」

 

助手席に座るグレースロートが見渡す限りの草原を眺めて顔をしかめた。

 

「……こんな場所に?」

「うん。地理の関係上、天災が来にくい場所みたいでね。この辺りには昔、たくさんの集落があった。まあ、今じゃ見る影もないんだけど……」

「ふーん。そう……で、私たちはそんな場所に何をしに行くの」

「素材の運搬かな。それと交流。医療班の護衛も含まれるね」

「素材? ああ……資料で読んだ。アケトンの原料が取れるんだよね」

「そう。一口に原料と言ってもいろいろあるんだけど、話すと長くなるから今はやめておくよ。授業の気分でもないだろうしね」

「私は構わないよ。ブラストの話は、それなりに興味があるから」

「あれ、グレースロート、君……お世辞とか言えるタイプだっけ」

「本心だけど」

「……それは嬉しいな」

 

僕の話は回りくどいとか、面倒くさい話が多いとか日頃から言われるように、僕もそれなりの自覚があったんだが……。

 

「じゃあ授業でもしようか。エスペランサ周辺で取れるのは主にエステルの原料なんだけど、そもそも原料って何だかわかる?」

「確か、触媒……だったかな。合ってる?」

「その通り。ある金属のことだね。ちょっと加工した工業用のアルコールを分解するための、結構貴重な金属。この金属を利用して分解した後のアルコールが、いわゆる初級アケトンになるんだけど……この話の肝はそこじゃない。金属についてなんだよね」

「ただの金属じゃないの?」

「いいや。毒性があるのさ。少なくとも、自然界にはその状態で存在している。素手で触れると毒が肌から入るくらいヤバいやつ」

 

そして、非常に脆く水に溶けやすいという特異な性質を持つ。

 

その金属を溶かした水は、即効性と致死性を持つ水になり、どうなったのかというと──。

 

「もしかして、兵器になった?」

「よく分かったね。まあ今じゃ非人道兵器ってことで、国際条約で禁止されてる。昔、この村が滅んだ原因もその金属……脆弱化カルカロイにあったらしいよ。軍人崩れがその金属の毒性に目をつけて、奪い取ろうとしたっていう」

「それで、その後は」

「カルカロイ中毒で死んだ。ちゃんとした安全対策を怠ってね。お粗末な話さ」

「……そんな素材をロドスが受け取ってるって言うの?」

「アケトンの原料ってことを忘れてない? 全ては使い方次第さ、猛毒にも有用な素材にもなる」

「……それもそっか」

「こんなところかな。まあ素材の運搬はちゃんと防護服着込んだ連中がやるから、僕らは基本的に見てるだけだし、心配は要らないよ」

「別に心配なんてしてない」

「そう? 一応言っておくけど、村の住民はみんな感染者だ。君が平気かどうか、僕はちょっと判断しかねてるんだけど」

「ちゃんと理解してる。避けて通れない道なら、早めにやっておくべきだと判断した。大丈夫。今更下ろしたりしないでね」

「まさか。安心したよ──ほら、見えてきた」

 

ロドスと感染者たちが作り上げてきた一つの楽園。

 

エスペランサ村だ。かなり前、行動隊E3にいた頃に、Aceさんたちと一緒に建設を手伝ったことがあった。

 

村の人たちが手を振って歓迎してくれていた。

 

ドアを開いて降りると、駆け寄ってきてくれる人がいる。

 

「ブラストさん!」

「ギノ。久しぶり、元気にしてたかい?」

「はい! 今年は作物がうまく出来そうなんです、ロドスにも送ろうと思ってて」

「お、やっとか……。長かったね」

「はい、まあゆっくりしていってください。歓迎の用意は出来てますから」

 

ギノはこの村では一番若い青年だ。僕より幾らか年は下だが、しっかりとしていて、若者らしいアグレッシブさでこの村を引っ張っていっている。

 

村で生きていくなら、自給自足が最低原則だ。農業などやったこともない感染者は多く、最初は苦労していたが……やっとか。そうか、やっとこの村も軌道に乗り始めたのか……。

 

「数年の苦労が報われたね」

「ええ、本当に……。そちらの方は、初めて来られる方……ですよね」

「ああ、彼女は──」

「いい。私のことは気にしないで」

「……悪い、彼女悪気があるわけじゃないんだ。まだ新人でね」

「いえ、構いません」

 

グレースロートは車から降りて、広がる村落を眺めていた。

 

車両の後ろから部隊の連中が降りてくる。数台のロドスの車も続いて停まり、医療班と資材運送班も村に降り立って、歩き出した。

 

「じゃ、早速定期検診をやろう。ギノ、僕らが準備してる間、村の人たち集めてくれる?」

「はい、すぐに。それじゃ」

 

クランタの青年、ギノは感染者となってからカシミエージュを追われ、放浪しながら略奪を繰り返していた。生きるためには仕方がなかった。

 

「……あの人も、感染者なんだよね」

「うん。数年前、強盗事件を起こしてロドスに捕まった……っていうか、保護されたんだ」

「それってつまり、犯罪者ってことじゃない」

「言葉を選ばないならね。でも珍しいことじゃない……生きるためには、仕方がなかったってヤツだよ。犯罪行為を肯定するつもりはないけど、僕にはその気持ちがよく理解できるから」

「ブラストが?」

「僕にだって、背負っている過去があるってことさ。もちろん感染者だからって罪にならないわけじゃない。感染者になったって、誰もがみんな略奪をする訳じゃない。罪は罪だ。けど……仕方がなかったんだって叫ぶギノを、僕はどうにも責められなくてさ。本当、この村を作ることが出来てよかったと思うよ」

「ふーん……」

「さ、仕事しよう。まずは医療班の手伝いから。任務概要は頭に入ってる?」

「鉱石病の検診と治療って聞いてるけど……本当にこんな場所でやるの?」

「僕たちロドスが感染者のために出来ることはそう多くないけど……やれることはあるさ。どんな場所でもね」

「……そう」

 

グレースロートには経験が必要だ。

 

こういう世界もあるんだってことを、知ってもらいたかった。今回の任務が彼女にとって、有意義なものになれば喜ばしいことだ。

 

子供の成長は、何より嬉しいものだから。

 

 

 

 

 

 

「はい、じゃあ腕出してくださいね」

「うっ……痛くしないでくれよ」

「もう、大人なんだからしっかりしてください!」

 

仮設したテントの中では、村の住人たちの感染状況の記録、及び鉱石病の抑制剤を打っている医療班の姿がある。

 

緑の豊かな村だ。

 

踏み鳴らされた道を、資材運搬班が荷物を抱えながら歩いていく。脆弱化カルカロイの運搬だ。ちゃんと防護措置をとっている。村の住人にも貸し出されているものだ。

 

「たーいちょっ」

「……イーナ。何その……変な掛け声」

「変な、ってなんですか! 可愛げですよ、可愛げ。それよりいいんですか、あの小娘放っておいて。ここの人たちに何言うか分かんないですよね。ほら、今あそこで村の人と喋ってますけど、怒らせちゃうかもしれませんよ?」

「僕が付きっきりってのもよくないでしょ? それにほら、村の人の表情もあんまり悪くない。心配するほどじゃないよ。てか小娘って……」

「ほんとかな〜。そもそも隊長、あの小娘と一体どんな関係なんですか。べったりですよべったり。親か何かですか」

「ははは、親ね……。そうだったらよかったかもね」

「え? うそ」

「冗談さ。十歳くらいしか離れてないのに親と子供なんてありえないだろ」

「じゃあなんなんですか? まだ二日目なのに、私あの子が隊長の事どう思ってるかわかっちゃうくらいなんですよ?」

「どうって?」

「それ聞きます?」

 

イーナは本気で頭を抱えたが……。こいつわかるのか?

 

日陰から日向を眺めていると、よそ風が髪を揺らす。グレースロートはまた村人と別れ、村を見学しに行ったようだ。

 

「僕は、懐かれてるだけだと思ってるけど」

「……隊長って、ほんと、もう、なんて言うか……救い様がないです」

「そこまで言うか」

「そりゃあ、懐かれてるってのも間違いじゃないと思いますよ? でもあれは……依存に近いです。ぶっちゃけ危ういです。隊長が」

「僕が? あの子じゃなくて?」

「隊長ってほんと人間関係の沼ですよね。あーやだやだ、こんな隊長の下で働けて光栄ですー」

「……まあ、皮肉はよせよ。依存はないだろ、依存は」

「その油断がいつか隊長を殺しますよ。ブレイズさんともあんなんだし……エフイーターさん連れてきたときは、本当に殺してやろうかと」

「物騒だね……。なんでイーナがそんな事思ってんだよ……」

「……隊長。私じゃなかったらこの時点で刺してます」

 

じとっとした目をイーナが向けてきた。

 

「そりゃイーナは術師だもんね。刺しはしないでしょ」

「わざとやってます?」

「至って真剣さ。……いや、冗談だよ。うそうそ、だからサバイバルナイフ取り出すな? しまって?」

「次同じような事言ったら刺します」

「ほ……本気の目だ。殺意を感じる……」

「はぁ……。ま、いいですけどね。どうなろうと、隊長は私の隊長ですからね」

「? そりゃそうだろ。僕はお前の隊長だ」

「ならいいんですよ。ふふっ」

「さっきまでナイフ取り出してたヤツとは思えない笑顔だね……。ところで、グレースロートの腕はどう?」

「不本意ですが……悪くないです」

 

イーナはまた不服そうに言う。

 

青空を見上げながら渋々評価を口にした。

 

「ちゃんとしてます。才能っていうか……努力ですね。基礎的な動作がしっかりしてて、ミスが少ないです。飛び抜けた技術は持ってないんですけど……とにかく堅実です。癪ですけどね」

「ジフとかと比べてどう思う?」

「そりゃ、ジフの方が強いに決まってます。でも……」

「でも?」

「……。いや、これ以上褒めるの嫌なんでこれ以上は言いません」

 

大体分かった。

 

狙撃手にはそれぞれ特徴がある。ジフはかなり荒削りだ。攻撃力に特化しているとも呼べる。グレースロートは堅実。まあどちらがいいかと言われれば……好みの問題もあるだろうが、僕は堅実な方がいいと考えている。

 

かと言って、じゃあグレースロートをいきなりウチに入れるのかと言われれば否。

 

腕前よりも、僕が重視するのは信頼関係だ。

 

平時から連携でき、いざというときに助け合える。それがチームの理想像だ。

 

まあグレースロートならいずれは大丈夫だと思ってる。いずれは──そうなるかもしれないけど、まあそれは僕一人で決める問題じゃないし。

 

「とにかく。隊長、しっかりしてくださいね」

「あの子の世話は僕一人が見る訳じゃないよ。お前らとの交流も大事だと思ってる」

「そうじゃなくて……もういいです。ほんとにもう……。私、医療部の方見に行ってきます。それじゃ──あ、隊長。今度の非番、買い物に付き合ってくれませんか?」

「予定が空いてたらね」

「やった! 忘れないでくださいね! それじゃー!」

 

イーナは去っていった。

 

空を見上げると、晴れた空が腹立たしいほど青かった。

 

いい天気だ。

 

 




・ケルシー先生
アークナイツを進めていくごとに印象がどんどん変わる先生。
えちち。
優しい先生だと信じてます

・グレースロート
複雑なお年頃。
かわいい……。昇進2がえっちい

・エフイーター
ブラストと映画を作っていた。尺の都合で全カットしたが、ブラストの給料と休みが消し飛んだ

・Aceさん
回想シーンに登場。エスペランサ村を作る作業に参加していた
他のエリートオペレーターも一緒に働いていたと思います

・ブラスト
ケルシー先生に拾われてきた

・イーナ
行動隊B2の女術師。
あっ……
外見イメージは適当ですが、ペッローのイメージで書いてます

・エスペランサ
どっかの言語で希望を意味する言葉。
皮肉です

・アケトン
理性生える
化学系の知識は適当です。ゆるして

Catcher in the rye(ライ麦畑でつかまえて)
D.J.サリンジャーによるベストセラー長編青春小説。実在します。ブラストは面白いって言ってましたが私は全然面白くなかったです

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