不遇キャラを救っていった結果……   作:naonakki

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第2話

 俺は、神様と名乗る白髪の爺さんから『魔王を倒せ、さすれば想像もつかない褒美をやろう』というありきたりにもほどがあるお言葉と共に、これまたありきたりだが、転移特典、いわゆるチート能力を与えられ、異世界に転移した。

 ちなみにチート能力が何かを簡単に言うと、天才的魔法のセンスと常人を遥かに圧倒する魔力量というものだった。

 その力が凄いの何の……、まさにチートだったわけだ。

 何はともあれ、俺はそのチート能力を惜しみなく使っていき、転移したその地で破竹の勢いで自身の名を世に広めていったのだ。

 

 一気に有名になったのは転移して1週間ほど経った頃だろう。

 その日、活動拠点である『アマの町』の北にある洞窟の主で討伐ランクAという高難易度に属するキングトロルを多少手間取ったものの、危なげなくソロで見事に討伐したのだ。見た目はゲームとかで見るあの姿そのものだった。人型だが5メートルを超える巨体であり、黄土色に包まれた皮膚、ぶよぶよとした胴体、丸太のような腕と足、そして豚や猪を混ぜ合わせたような醜い顔をもつあれだ。キングトロルは、名前の通りトロルの中の王であり、通常のトロルよりも2回りほども大きいそいつは魔力こそほとんどないものの、その剛腕から繰り出される一撃で樹齢何百年の大木をもなぎ倒すとかなんとか。

 そのキングトロルは、度々配下のトロルたちと共に町に襲い掛かり、食料や金品を強奪していくという厄介な存在として知られていた。

 それを彗星のごとく現れた謎の青年が独力で討伐したといことで、一気に話題の中心となったというわけだ。

 

 正直、最初は何の努力もなしにこんなにいい思いをしていいのかという気持ちにもならなかったわけではない。俺はアニメなどを見ていた方だが、そもそもこういう異世界転移チート能力者が登場する作品を嫌悪していた節さえあるほどだ。

 だってそうだろう? 楽していい思いをしやがってと思うものだろう? 

 だが、等の本人になってみて分かったのだが、こんなに楽しいこともないというものだ。

 街を歩けば、若く綺麗な女性にキャーキャーと黄色い声援を投げかけられ、同じ冒険者である男からは羨望の眼差しを向けられる。

 舞い上がらないわけがなかった。

 結果、今までの平凡な生活では味わえなかった新しい世界を思う存分満喫してしまったのだ。

 

 そんな順風満帆な異世界生活を送っていた俺だったが、それからさらに5日ほど経った頃、運命の日がやってきた。

 

 その日は、ソロで討伐ランクBのクエストを1日で3件もこなすという人間離れした偉業を成し遂げた日だった。

 俺は報奨金がたんまり入った革袋を携え、意気揚々と集会所から寝泊まりしている高級宿屋まで帰っていた。

 日が暮れ、暗くなった町中は賑やかな昼間とは打って変わり人通りが少なくなり、どこか不気味さを感じさせていた。

 そんな雰囲気の中でも冷めぬ高揚感を伴い、レンガ造りの家が立ち並ぶ街道の石畳の上をスキップ気味で歩いている時だった。

 ふと家と家の間の路地に目がいったのだ。理由は特にない。本当になんとなくだった。

 二階建ての家に挟まれた細い空間は、辺りの街灯から漏れ出る僅かな光を遮り、完全な闇と化していた。

 普通はその光景を前にすれば気味が悪いと、そそくさと立ち去ってしまうというものだろう。

 しかし、このときの俺は違った。テンションが上がっていたこともあってか、謎の探求心により、その闇に歩を進めたのだ。方角的に宿屋まで近道できるかもしれないと思ったことも大きかったかもしれない。

 

 かくして俺は、初級の光魔法を用い、辺りを照らしながら歩いていたわけだが、意外と路地は入り組んでおり複雑な迷路のようになっていた。それでも構わずどんどんと進んでいくとある変化があった。

 悪臭が漂ってきたのだ。生ごみが発酵したような不快なものだ。

 これには、違和感を覚えた。

 というのもここ、アマの町は大きな町というわけではないが、治安がよく街並みも綺麗であることが有名らしいのだ。他の町を見ていない為、比較したわけではないが、確かにアマの町の中は清掃が行き届き、清潔さを保っていた。少なくとも俺の地元よりは綺麗だろう。

 余談だが、そんな人気の出そうなアマの町だが、周辺に出現するモンスターが強いせいで、人が集まりにくいと言った悩みはあるそうだ。

 とにかくそういうわけもあり、この路地も例に漏れず綺麗であったのだが、そこに来ての突然の異臭だ。

 流石に先ほどのまでの上がり切った気分もこの状況で少し落ち着いてきた。

 その場に立ち止まり、注意深く奥に目を凝らし、前方を確認すると、その異臭の正体が目に入った。

 それは、薄っぺらく穴だらけの汚らしい毛布のようなものにくるまれた何かだった。

 そしてその中身が何かはすぐに分かった。

 

 『人間』だ。

 

 この魔力は人間のもので間違いなかった。

 だが、その弱々しい魔力からその人間がかなり弱っていることが分かる。

 そしてなぜ臭いかも分かった。

 その人間が纏っている毛布のあちこちに食べかす、ごみ、そして見間違いでなければ動物の糞のようなものさえ付着していたのだ。

 それらは明らかに悪意ある誰かに投げつけられたものだった。自然にそうは絶対ならないだろう。

 そこまで状況を把握したところで、微かな音がこの閉鎖された空間に鳴り響いていることに気付いた。

 

 

 

 「……うぅ、……っ……」

 

 

 

 注意深く聞いてみると、それは今にも消え入りそうなすすり泣く少女の声だった。目の前の毛布にくるまった者から発せられているものだ。

 その声は既に枯れ果てたようにカラカラの声で、悲しみと苦痛に満ちたものだった。

 聞いているこっちまで悲しい気持ちになるような、そんな泣き声だった。

 

 

 

 「……そこにいるのは誰だ?」

 

 

 

 気付けば俺は、その誰かに声をかけていた。

 大声を出したつもりはなかったが、この静かな空間に俺の声は良く響いた。

 声をかけてどうするのかといったことは何も考えていなかったが、この状況を前に何かしなければ、なんて変な正義感にかられたのかもしれない。

 毛布にくるまった少女はこちらの声にビクリと反応し、慌ててしまったのか頭まですっぽり覆っていた毛布を落としてしまった。

 ふわりと落ちていった毛布の下から出てきたのは、まさかの

 

 全裸の少女だった。

 

 白い肌が露出した瞬間、ぎょっとしたものだが、そんなことがどうでもよくなってしまうほどの光景がすぐさま飛び込んできた。

 

 少女の全身が信じられないほど、ガリガリにやせ細っていたのだ。

 

 痩せている、なんてレベルではなかった。

 ボサボサの長い銀色の髪のせいですべては見えなかったが、その身体は、ほとんどが皮と骨だけであり、筋肉がほとんどなかった。年齢は自分より少し下くらいと見たが、正直同じ人間かと疑うレベルであった。

 少女はこちらに背を向ける形で座っていたようで、正面は見えないが、正面も同様に痩せこけているのだろう。

 日本で過ごしてきた俺には縁がなかったが、明らかな栄養失調のそれだった。

 

 その少女は、落ちた毛布を拾おうともせずに、怯えたように震えながらゆっくりと体をこちらに向けてきた。

 こちらに正面に顔を向けてきて、ようやくその少女の顔を見ることができた。

 

 薄暗い空間に浮かぶ、見る者を魅了するような美しい真っ赤な瞳を持つ少女を。

 

 

 

 これが俺『佐藤かいと』と『アリー』との出会いだった。

 

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