不遇キャラを救っていった結果……   作:naonakki

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誤字修正報告して頂いた方ありがとうございますm(__)m

また指摘ありましたが、転生→転移に修正しました。


第8話

 イタの村は、風が吹けば飛びそうな木の柵で囲まれた小さな村である。

 木造の民家が数十立ち並び、他には畑や家畜小屋がところどころにあるだけの何の変哲もないところだ。15分も歩けば村を一周できるだろう。

 いつの日かの様に、どんよりとした厚い雲が天を覆っており、元々活気のない村はさらにさびれているように見えた。

 一応門のつもりなのだろう、木を一生懸命組み合わせて作った鳥居のようにも見える入り口をくぐり、村の中に入っていく。

 門兵? 当然そんなのものはいない。

 後ろからは、相変わらず何が気に食わないのか、ご機嫌斜めなアリーが渋々といった様子で付いてくる。

 アリーは何の意図があってか、片手でちょこんと俺の服の袖をつまんできている。

 むくれながらそうする様子は大変可愛らしいので、俺も特に何も言うことなく黙認している。

 

 ……はたしてここにまだイリアはいるのだろうか?

 イリアがこの村にいる理由というのは、このあたりに現れた強大な魔物を滅ぼさんとする為だと聞いている。それがどんな魔物かまでは分からなかったが。といってもそれはもう2週間以上も前の話だ。人類最強と言われているイリアは、あっという間に魔物を討伐し、この村を去った可能性もあるわけだ。

 まあ、その場合でもイリアが次にどこに行ったのかの情報がもらえれば儲けものだと思っている。

 

 村の中に入ったものの、どこに行けばいいのか分からなかったので、辺りをキョロキョロと見渡していると、違和感を覚えた。

 まったく人が見当たらないのだ。

 それどころかあたり一帯に人の気配はほとんどなく、閑散としている。

 それでも注意深く辺りを観察していると、こじんまりとした家から一人の初老のおじいさんが出てきた。どことなくやつれて、疲れ切っている様子のおじいさんは、こちらに気付いたようで、驚いたような表情を浮かべ、ヨボヨボとした足取りでこちらに近づいてきて、声をかけてきた。

 

 「……まさか旅人ですかな? どうやってここへ? ……まあいい、悪いことは言わん。今この一帯は危険じゃから……って黒髪に平べったい特徴的な顔、何よりこの溢れる魔力、まさか……!?」

 

 おじさんは、俺たちをまじまじと見つめながらその正体に心当たりがあったのか、急に目を見開き、こちらに迫ってきた。ちょっと怖い……。

 ていうか、黒髪はともかく平べったい顔って……まあ、この世界の人から見たら日本人の顔は薄い顔立ちなのかもしれないけどさ……。

 俺が地味にショックを受けていると、おじさんは興奮したように目を血走らせながら、

 

 「あ、あなたは……アマの町で現れたという勇者候補の佐藤様ですかな!?」

 

 と、唾をまき散らしながらそう叫んでくる。汚い。

 

 「ええ、その通りです。佐藤かいとといいます。そしてこっちは俺の妹です。」

 

 と、なんとか不快感を表に出さずに自己紹介を済ませると(ちなみにアリーは終始俺の後ろに隠れていた)、おじいさんは、さらに目を見開き口を開いてくる。

 また唾が飛んでくることは容易に想像できたので、簡単な結界魔法を瞬時に唱え、唾がこちらに直接飛んでこないようにしておいた。

 というか、こんな村でも俺の存在が知れ渡っているとは。

 改めて勇者候補という存在の大きさを思い知らされる。

 

 「……おぉ、おぉ!! 良かった!! これであの悪魔の手から救われる。」

 

 おじさんはまるで地獄で仏に会ったかのように天を仰ぎ、そう喜びに打ちひしがれている。何があったのだろうか? 

 ……それに今聞き捨てならないことを言ったな。悪魔、と。

 それがこの村の近くに現れたという魔物だろうか?

 

 「あの、おじいさん? その悪魔というのは何でしょうか? 魔物でしょうか?」

 

 悪魔というからには、もしかしたら上級の悪魔でも現れたのかもしれない。しかし、その割には、村の様子を見ても魔物の襲撃を受けたという風でもない。そもそもイリアがこの村にいたのだからその魔物は退治されている可能性が高いのだ。

 

 「違いますとも佐藤様! 悪魔とは恐れ多くもあなた様と同じく勇者候補などと言われているイリアのことです!」

 「……え? イリア??」

 

 まさかだった。

 イリアとは、あのイリアのことだろう。まさしく俺が今追い求めている人類最強と言われている剣士である。

 世界中の人間から憧れ、尊重されるべき勇者になり得る存在を悪魔?

 一体どういうことだ?

 しかし、おじいさんの表情は紛れもない怒気に包まれており、それを冗談で言っていることでないのは一目瞭然だ。

 

 「イリアとは、勇者候補のイリアのことですよね? なぜ彼女を悪魔だなんて。むしろ我々人類の救世主的存在ではありませんか?」

 

 俺がそう言うとおじいさんは、怒りの感情からか半ば叫び捨てるように説明してくれた。

 

 曰く、2週間以上前にこの村の近くに突如として強大な力を持つアンデッドモンスターが現れたらしいのだ。直接的な被害はなかったものの、その魔物出現から周囲の下級のアンデッドモンスターまでもが活性化し、いつ村が襲われてもおかしくなかった状況だったそうだ。

 そして何より厄介だったのが、そのアンデッドモンスターがこれまで観測されたことのない新種のモンスターだったのだ。

 その魔物が下級のアンデッドモンスターを従える様子、何より抱える魔力量から推定討伐ランクは高難易度であるAとされたらしい。

 討伐ランクAとは、通常、名の通った冒険者20~30人ほどの大規模パーティーを組んで挑み、犠牲を多数出しながらようやく勝てるといった次元のものだ。

 もちろん、当時この村にそのモンスターに対抗できる勢力があるわけもなく、村中が絶望に陥ってしまったようだ。

 しかし、そこに颯爽と現れたのが世界最強であり、かつての英雄の娘であるイリアだったのだ。

 その存在の登場に村中は歓喜と希望に包まれたようだ。そしてイリアはそれに応えるように、推定討伐ランクAとされたアンデッドモンスターを瞬く間に討伐したようだ。

 驚くべきことに、それはイリアがイタの村に到着し、一時間も経たないうちの出来事だったらしい。

 まさに偉業、世界最強と呼ばれるに相応しい。

 同じ勇者候補である俺でも同じことはできまい。

 

 だが、そのイリアが起こした行動に一つだけ致命的なミスがあった。

 

 アンデッドモンスターを何の対策もなく、討伐してしまったことだ。

 というのもアンデッドモンスターを倒すと、稀に自らの破滅を発動の条件として、呪いをあたりに振りまくモンスターがいるのだ。

 そしてそれは、より強いアンデッドモンスターになればなるほど、その能力を持ちやすく、かつ強力な呪いを振りまく傾向がある。

 そのため、アンデッドモンスターを倒す際には呪いを相殺する信仰系魔法、もしくは呪いを打ち消すアイテムが必須なのだ。

 俺もアンデッドモンスターをいくらか討伐してきたが、信仰系魔法が封じ込まれた魔術の巻物を携帯する形で対策を練っていた。

 しかし、これは別に特別なことではなく割と当たり前のことであり、俺でなくても冒険者なら大抵は何かしらの対策を練っていることだろう。

 

 しかし、なぜかイリアにはその対策がなかった。

 

 強力な呪いを振りまくアンデッドモンスターの最期を前に何もできなかったのだ。

 その呪いはイリア自身には効かなかったようだが、近くにあった村の住人は別だ。

 呪いは霧となり、村を襲った。いくらかの住人は逃げおおせたらしいが、大半の村人は呪いをまともにくらってしまい、決して覚めぬ深い眠りについてしまったのだ。

 今でこそ呪いの霧は晴れたようだが、村人は覚めぬまま。

 さらには、呪いの影響なのか、アンデッドに限らない、辺りの様々なモンスターが活性化してしまったらしい。

 その活性化したモンスターは、イリアが休みなくひたすらに討伐を繰り返しているらしい。

 驚くことに、この2週間ずっと……。

 そのおかげで、まだ村は無傷ということらしい。

 しかし、モンスターは際限なく湧いてきており、イリアが魔物を斬っても斬ってもキリがないらしい。

 村人の何人かを派遣し、周辺の国に救援を出したらしいが、これだけ活性化したモンスターの巣窟に助けが来るまでにはどんなに早くても1カ月はかかるらしい。

 派遣した大部分の村人も途中で魔物に襲われてしまったらしい。

 つまり結局は、イリヤが最後の綱となってしまったわけだ。

 しかしイリアも人類最強と言われているものの結局は人間であり、救援が来るまで持つかどうかも分からない、いや、普通は途中で力尽きるだろう。

 そして呪いから逃れられた僅かな村人は、この状況に対してどうすることもできず、この村に閉じ込めれた状態で天に祈りをささげることしかできない、という状況だったらしい。

 そのため、この村人は、この惨事を招いたイリアのことを悪魔と呼んでいる、ということらしい。

 

 ……まさか、こんな事態になっていたなんて。もっと情報を集めておくべきだった。

 のんびりこちらに向かっている場合ではなかったのだ。

 

 ……しかしイリアは何をしているんだ??

 村人の様に悪魔と呼ぶつもりはないが、無策でアンデッドモンスターを討伐するなんて、軽率にも程が過ぎる行為だ。しかも強力な新種のモンスターに対してだ。

 このおじいさんが言っていることが全て本当なら、悪いが村人が怒り狂うのも頷けてしまう。

 そんな当たり前のことを知らなかったのか? あるいは、それに考えが及ばないほどのなにかがあったのか? 

 そもそも当のイリアはどこだ? 村を守るため、魔物を討伐しているとのことだが姿が見えない。

 それに魔物が討伐され続けている割には、辺りには争った跡も、魔物の亡骸も見えないのはどういうことだろうか?

 様々な疑問が頭を駆け巡っていく。

 

 ……いや、ここでそれを今考えてもしょうがない。とにかくこの状況を何とかしなければ。

 

 「くそ……、なにが人類最強の剣士、英雄様の娘だ……とんだ期待外れだ。そもそも、前いた国でも問題を起こしたと聞いていたし、あいつはやはり悪魔なんだ……。」

 

 目の前のおじいさんは俺に半ば怒鳴る形で散々怒鳴った反動だからだろうか、力なくそう言うと、項垂れてしまった。

 おじいさんが言っていた内容は気になるが、それどころではない事態が起こった。

 

 ズン……ズシン……ズシンッ

 

 地鳴りが響いてきたのだ。巨大な何かが近づいてくる音だ。

 振り向くと、そこには15mを超える全身を岩や土に覆われた人型の巨体がいた。

 その正体はギガントゴーレムだ。

 討伐ランクはCランクに分類されるものの、その耐久力と力はBランクモンスターにも匹敵するモンスターだ。

 この村に来るまでに出会ったモンスターの中では一番強い。

 しかし、見た目と裏腹に割と温厚であることが知られ、遭遇しても何もしてこないというパターンが多い。

 ただ、目の前にいるギガントゴーレムは、アンデッドモンスターの呪いの影響なのかは分からないが、明確な敵意を持ってこちらに近づいてきている。

 おじいさんはギガントゴーレムを確認すると、「あわわ」と狼狽え、腰を抜かし、その場に尻もちをついてしまった。

 そしてアリーですらその圧倒的存在感に恐怖の感情を抱いているようで、俺の手を振るえる手で強く握ってきた。

 

 すぐ側は村だ、おじいさんだっている。あまり激しい戦闘はできない。

 仕留めるなら一撃だ。

 ギガントゴーレムを一撃仕留めるとなると、攻撃の手段はかなり絞られてくる。

 俺は思考を素早く働かせ、すぐさま決断する。

 

 「……安心してください、おじいさん。一瞬で終わらせますので。ほら、アリーもそんなに怖がるなよ。俺が誰か忘れたのか?」

 

 俺はアリーの頭をポンポンと優しく撫でると、すぐさま気持ちを切り替え、体内に巡る膨大な魔力を練り上げていく。アリーもそんな俺の様子を見て、びくつきながらもゆっくりと俺から距離をとった。

 この魔法は魔法においてチート能力を持つ俺でもかなりの集中力を要される。

 意識を集中させ、魔力をどんどんと練り上げ、膨張させていく。

 やがて、あまりの量の魔力の奔流に、俺のまわりには風が吹き荒れ、草木が大きく揺れていく。

 

 アリーは、俺がとんでもない魔法を放とうとしていることが分かったのだろう。

 その目は信じられないものを見るようで、何かに絶望しているようにも見えた。

 まるで決して届かぬ壁が目の前に現れてしまったかのように。

 まあ、そう見えただけだが。

 

 魔法の完成が近づいてきたことから、俺はまっすぐ目の前の敵を見据える。

 こちらに向けられた敵意を何十倍にもして、向き返すように。

 

 ギガントゴーレムは魔法には全く精通していないはずだが、それでも何か感じるものがあったのだろう、じっと構え、やがて来るであろう攻撃に備えている。

 

 魔法には、炎、水といった様々な分類のものが存在する。

 いずれも、魔力量、威力、技量の観点から、初級、中級、上級の3種類によって分けられる。

 だが、確かな才と凄まじい修練の果てに、稀にそれらを超越した魔法を習得できることがあるらしい。

 それは文字通り超級魔法と名付けられ、それを使える人間はこの世でも片手で数えるほどしかいないとか。

 そして、神様からチート能力を授かったこの俺は、その超級魔法を信仰が必要なもの以外の全属性を使いこなすことができる。ちなみに俺がちょくちょく使っている瞬間転移魔法も、技量の点から超級魔法に数えられている。

 俺がこれから放つ魔法は、氷属性の超級魔法。

 その氷は、どんな氷よりも冷たく、どんな物質よりも固く、どんな剣よりも鋭い威力を持ち、術者が魔法を解かぬ限り魔力を込められたその氷は、数十年は解けないとされている。

 

 そして俺は、魔法を発動させた。

 

 瞬間、周囲の温度が急激に低下していき、

 15mを超えるギガントゴーレムの巨体は、一瞬のうちに40メートルは優に超える巨大な氷柱によって覆われた。

 その絶対的な氷によってギガントゴーレムは絶命し、終わるはずだった。

 

 しかし

 

 事は魔法の発動と同時に起こった。

 

 

 

 線が、見えた。

 

 

 

 音はなく、定規で引いたような綺麗なずれのないまっすぐな光の線が天を仰ぐほどの氷柱を斜めに引いたのだ。

 その線は正確にギガントゴーレムを捕えていた。

 直後、信じられないことが起きた。

 さきほど見えた線を境界に、氷柱が村の方向に崩れだしたのだ。

 

 斬られた

 

 そう判断するのに数瞬かかった。

 

 あまりの事態に呆気にとられたが、崩れた氷柱をそのままにしておけばとんでもないことになることは明確だ。

 無理やり意識を引き戻し、魔法を解除し氷を消滅させる。

 

 消滅させた氷の残滓である結晶が舞い降りる中にそれはいた。

 

 靡く金髪は、あたりの結晶を反射させキラキラと輝いている。

 純銀の傷一つない鎧に身を包む彼女は、まさしくうわさに聞く、見る者に思わずため息をこぼさせるほど美しく、世界最強である剣士

 

 イリアだった

 


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