不遇キャラを救っていった結果……   作:naonakki

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第9話

 華々しい豪勢な装飾が施された輝く刀剣を静かに腰に付けた鞘に収める彼女の動きには一切の無駄がなく、その動作一つ一つが流れるようで、精錬された舞のようでもあった。

 自身が放った渾身の超級魔法があっさり破られたことも忘れ、思わず目の前の光景に目を奪われた。

 肩の高さで切り揃えられた短めの金色の髪、鮮やかな瑠璃色の目。

 剣士とは思えないほどのほっそりとした身体を包むのは、一目で業物とわかる純銀の鎧だ。鎧以外の部分は白を基調とした衣装に身を纏っており、まさに聖騎士のようだ。

 若々しく、しかし幼さの抜けたその見た目から、年は20歳くらいに見えた。

 

 ……彼女がイリア、世界最強と言われている英雄の実の娘、か。

 

 目的としていた人物が目の前に現れたものの、色々なことが起きているせいで思考が追いつかず、ただ茫然と彼女の姿を見つめることしかできなかった。

 そのイリアは、こちらに気付いたのか顔をこちらに向けてきた。

 一瞬ドキッとした俺だったが、すぐにイリアの様子がおかしいことに気付く。

 

 イリアの目は俺を捕えていなかったのだ。

 

 いや、俺だけでない。

 目の前で起きたことがあまりに驚愕だったのか、その場に尻もちをつき、目を見開いてカタカタと震えているアリーや、すぐ近くで倒れているおじいさんの姿も見ていなかった。

 その深く、すべてを飲み込みそうな深い瞳はどこか虚ろとしており、こちらに焦点が合っていなかった。

 イリアは何かを探しているように見えた。

 では何を見つけようとしているか。

 その答えはイリア自身が口にすることで知ることが出来た。

 

 「……モンスター、モンスターはどこだ……? 倒さねば、私のせいで、私のせいで……。」

 

 と、自分に言い聞かせているのか、あるいは何かを悔いるようにそうブツブツと呟いていた。

 とてもまともな精神状態であるとは思えなかった。あれだけでかい氷柱を斬っておきながら無反応というのもおかしな話だしな。

 ……おじいさんの話が本当ならイリアは既に2週間もぶっ通しで剣を振るっていることになる。むしろ、まともでいられるはずがないか。

 

 しかし、そうなると不可解な点がある。

 イリアの生命力と魔力の両方が充実していることだ。

 俺なんて1日中、戦い続ければ、生命力も魔力もすっからかんになり、ぶっ倒れるだろう。

 

 そう思考を巡らせている時だった。驚くべきことが起きた。

 

 先ほど不幸にも最強の斬撃と超級魔法の同時攻撃を喰らったギガントゴーレムの亡骸の全身が光り輝き始めたのだ。それらは生命力と魔力を帯びた無数の光の粒子へと変化し、イリアが腰に帯びている剣に吸い込まれていった。

 そしてそのまま剣を通じてイリアの身に光の粒子が流れていき、ギガントゴーレムが持っていた生命力と魔力がイリアのものになったのだ。

 

 ……まさか、魔物の生命力と魔力を今の様に吸いつづけながら戦っているのか?

 恐らくあの剣の効果なのだろう。どう見ても聖剣ぽい見た目してるし。

 だが、これで辺りに魔物の亡骸がなかった理由がわかった。全てああやってイリアに吸収されたのだろう。

 

 ……しかし、なんて危険なことを。

 

 魔物の生命力と魔力は人間のそれと少し異なり、人間にとって魔物の生命力と魔力は毒にしかなり得ないのだ。

 A型の人にB型の人の血を輸血することを想像すれば分かりやすいだろうか。血液とかあんまり詳しくないから適当だけど。

 ちなみに、普通人間が魔物の生命力と魔力を取り込むと、瞬間的に限界を超えた凄まじい力を得るが、すぐに想像できないほどの破壊衝動にかられ、頭が狂い、そのまま苦しんで死ぬらしい。

 強い精神力があれば、それに耐え、限界を超えた力を得ることが出来るらしいが……。

 イリアも強い精神力によって耐えているんだろうか?

 あるいは剣の力で魔物の生命力と魔力を人間に無害になるように中和しているのだろうか?

 だとしたらあの武器はチートすぎるな。チート能力しか持っていない俺が言うのもなんだが。

 まあ何にしてもモンスターの魔物の生命力と魔力をとるなんて行為は危険に変わりないだろうから俺は絶対にしないが。強い精神力があるとも思えんし。

 

 そう言えば、なんで俺はモンスターの生命力と魔力が毒だなんてことを知っているんだっけ?

 

 ……ああ、そうか。以前読んだ魔術書にそんな記述があったんだ。 

 

 ……確か

 

 

 

 ちょうど今、アリーにその魔術書を勉強用として貸しているんだったけ?

 

 

 

 まあ、そんなことはいい。今はイリアのことだ。

 いくら体力が尽きていない状況とはいえ、それでも2週間戦い続けられるかといえば、答えはノーだろう。そもそも人間とは体の構造的に寝ずに活動し続けることなんてできない。世界最強と言われいてるイリアだって例外ではないはずだ。

 とっくに限界は超えているはずだ。

 

 「初めまして、イリア。俺は佐藤かいとと言います。」

 

 何はともあれ初めて会うのだから、まずは挨拶からだろうと、なるべく穏やかな口調でそう言いながらイリアに近づいていく。

 しかし、イリアはこちらに気付いた様子もなく、先ほどまでと同様に虚ろな瞳であたりをキョロキョロと見渡している。

 

 ……これは無理やりにでも休ませた方がいいか。

 

 俺とイリアの距離は既に5メートルほどだ。これで気付かないというのは、明らかに異常だ。今のイリアは一刻も早く休む必要がある。

 イリアが正常なら、俺の魔法は避けられるかもしれないが、今のイリアなら睡眠魔法をかけて眠らせることができるかもしれない。

 俺はなるべく、イリアに悟られないように静かに魔力を練り、魔法を徐々に完成させていく。

 そして、イリアがこちらから視線を外したタイミングを見計らって魔法を発動させる。

 

 瞬間

 

 イリアの姿が消えた。

 

 誇張や冗談でなく、まじでイリアの姿が目の前から消えた。

 消える直前、残像が見えた気がしたが、それも定かではない。

 

 どこに行った!?

 辺りを見渡そうとしたその直後

 

 

 

 ゾクッ!?

 

 

 

 感じたことのないほどの強烈な殺気を感じた。

 ……それも真後ろから。

 振り返るまでもない、イリアのそれだろう。

 心臓が鷲掴みされたような感覚に陥り、大量の汗が噴き出してくる。

 後ろは見えないが、いつでも俺を切り裂けるように剣の切っ先がこちらに向けられていることが直感的に分かった。

 ……いつの間に後ろに移動されたんだ? 

 まさか俺の魔法が反応されるとは……

 かなりの速度で放ったつもりだったが。

 しかも目で追えないほどの速さで移動するなんて……、これが世界最強か。

 

 「……貴様、今攻撃を仕掛けてきたな? ……まさかモンスターの手先か?」

 

 イリアの初めて聞く僅かに感情のこもった声は、底冷えするような、殺意の籠ったものだった。

 一般人ならこれだけで気絶するんじゃないだろうか?

 しかし、俺が人間だったからか、いきなり斬ってこない程度には理性が残っていたのは助かる。

 睡眠魔法をかける前に、万が一反撃されてもいいように、自身に最強出力の結界魔法をかけて防御していたのだが杞憂に終わったようだ。

 

 ……さて、どうする。

 

 一応、俺だって勇者候補の一人なのだ。

 この状態からでもイリアに睡眠魔法をぶつける術はいくつかある。

 しかし、いずれもイリアと激しい戦闘に発展する可能性があるし、確実ではない。

 それにいくら俺でも、正気を失っているとはいえ、イリアを相手に村やアリーに流れ弾が行かないように気遣いながら戦うのは不可能だ。

 返り討ちに遭い、殺されてしまう可能性だってある。それだけは避けなければならない。

 そこまで考えたところで俺は決断する。

 

 「……違います。いきなり魔法を撃ったのはすみませんでした。だが、イリア。あなたは、すでに連戦続きだ。無理やりにでも休ませる必要があると思ったんです。さっきの魔法も攻撃ではなく、睡眠魔法です。」

 

 俺はイリアに包み隠さず正直に話した。

 良くも悪くも、イリアは今こちらに意識を向けている。こちらの言葉が届くこの状況なら、説得できるかもしれないと考えたのだ。

 

 しかし

 

 「……休む? ……必要ない、いや、私にはその資格がない。」

 

 イリアは、一応俺を味方と認めてくれたのか、殺気を収めるとそんなことを言ってきた。

 しかしイリアの後半の方は声が震えており、後悔、怒りの念を含ませていた。

 この様子から何かイリアを縛る過去の因縁があることは確実だ。アンデッドモンスターを無策で葬ったことだろうか?

 

 「なぜ資格がないんですか? この村人にかかっている呪いのことを気にしているのですか? それは信仰系の魔法で十分に回復するでしょう? 幸い眠っているだけのようですし。村には傷一つつけていないし、あなたはもう十分頑張ったでしょう。後は俺が引き継ぎますよ。」

 

 そう言う俺だったが、いつの間にか後ろから気配は消えており、振り返るとそこにイリアの姿は見えなかった。おそらくモンスターを討伐しに行ったのだろう。

 

 だめか……。

 

 村人が眠り続け、モンスターが湧き続ける限り、イリアも同様に戦い続けるだろう。

 こうなると解決策は一つだ。

 俺がこの状況を何とか打破するしかあるまい。

 幸い、俺の手元には50年ほど前に大賢者と呼ばれた、マサールだったかハマールだったかの、強力な信仰系魔法の使い手によって作成された呪いに対抗するための魔法が封じ込められた巻物がある。

 正直変な名前だと思ってしまったが、実力は本物だったようで、巻物から漏れ出る魔力から推定するに間違いなく超級レベルの魔法が封じ込められている。魔法使いとしての素質はチート能力を持った俺をも上回るのではないかというほどだ。

 他にも数個、アンデッドモンスター対策用に信仰系魔法が封じ込まれた巻物を持っているがこれだけは別格だ。

 ……まあその分、巻物一つに金貨20枚という法外な価格がついていたが。

 これを使えば、Aクラスモンスターの呪いなんて余裕で消し去ることができるだろう、お釣りがくるほどだ。

 後は、呪いの発生源がどこか分かればいいだけだ。

 

 「おじいさん、例の強力なアンデッドモンスターがどこに現れたか分かりますか?」

 「……ふぁ? あ、ああ、それなら分かるぞ。この村から北東に向かって1キロ離れた辺りじゃ。」

 

 ずっとポカンとしていたおじいさんは急に声をかけられてびっくりしたようだ。悪いことをしたが、これでアンデッドモンスターがいた場所は分かった。近くまで行けば、後は魔力の流れで正確な呪いの発生源も分かるだろう。

 

 ……よし、なら俺がちゃっちゃっと行って片付けますか。

 今回は、いつものように事前の情報収集ができず、不透明な部分が多いところが不安要素だが、そこは気合で何とかするしかないだろう。

 イリアの体調も心配だしな。

 

 ……全てが片付いたら、イリアの身に何があったか調べる必要があるな。

 魔王討伐の為にはイリアの力が必須だろう、今日この目でイリアを見て、改めてその考えが強くなった。

 後は、イリアが抱える問題がなるべく軽いことを祈るだけだ。

 

 そうと決まれば、早く行動に移そう。

 

 俺は、アリーに今からの方針を話そうとしたところでようやくアリーの様子がおかしいことに気付いた。

 相変わらず尻もちをついた状態のアリーだったが、その視線は虚空を彷徨っていた。

 顔を覗きこんでみると、アリーの顔は真っ青だった。

 口が僅かに動いており、注意深く聞いてみると、消え入りそうな声で「まさかここまで差があるなんて……私がいたら足手纏いに……」と呟いている。

 後半は何を言っているのか聞き取れなかったが、ただ事ではなさそうなので、急ぎアリーに声をかける。

 

 「アリー? 大丈夫か? どうしたんだ?」

 

 肩に軽く触れ、そう声をかけると、ビクリと大きく反応を示したアリーはこちらにゆっくり振り向いた。

 

 「……あ、かいと。ご、ごめんね? ちょっと色々起きたせいで動揺してたみたい。」

 

 と、無理をしているようだが、笑顔を浮かべこちらを見返してくれた。

 さっき「差がある」みたいなことを言っていたが、イリアのあの強烈な斬撃やら、超級レベルの攻撃魔法を始めて見たことで色々刺激を受けすぎたのかもしれないな。

 俺もイリアにあっさり超級魔法を破られてちょっとショックだし……。

 

 「アリー、今から俺は呪いの発生源まで行って呪いを打ち消しに行ってくる。1キロくらいしか離れていないらしいから30分もあれば戻れると思う。だからアリーは、この村で待っていてくれ。村には結界魔法をかけて魔物が入ってこれないようにするし、安心してくれ。」

 

 アリーと行動を別にするのは少々怖いが、一緒に不安要素が残る呪いの発生源まで行くよりはマシだろう。その辺を闊歩しているモンスターもまだまだアリーでは対処できないだろうし。 

 そう思っての提案だったが、アリーはなぜかショックを受けたような表情を浮かべ、食い気味にこちらに迫ってくる。

 

 「ど、どうして!? 私も行くよ? わ、私でも力になれることが少しはあるはずだし……。」

 

 だんだんと自信なさげに声が小さくなっていくアリーの姿は、俺には無理をしているように映った。手伝おうとしてくれる気持ちは嬉しいが、やはり危険が付きまとう以上連れていくわけにはいかない。

 

 「いや、アリー。無理をしなくてもいい。今回の件はあのイリアでも手こずるほどだ。万が一のことがあってからじゃ遅いし、アリーは村に残っておいてくれ。その気持ちだけありがたく受け取っておくから。」

 

 頭を優しく撫でながらそう説得するが、アリーはそれでも食い下がってくる。

 そのたびに俺は危険だから村に残るように説得するが、アリーは決して認めようとしなかった。

 なぜ、ここまで付いて来ようとするのか理由を聞くも、明確な回答は帰ってこなかった。イタの村に行きたくないと言っていたあの時の様子が重なる。

 一瞬、ここまで言うのならば連れていこうかなと思わなかったでもないが、やはり不安要素が大きかったため俺は心を鬼にしてこう言った。

 

 「……アリー、厳しいことを言うが、さっきの魔物、ギガントゴーレム如きで怖気づいているようでは一緒には連れていくことはできない。……分かってくれ。」

 

 俺の言葉にアリーは、本当に、本当に心の底からショックを受けたように、顔をくしゃりと歪め、その綺麗な赤い目に、じわぁ、と涙が溜まっていく。

 そのまま顔を伏せたアリーを前に、俺は罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、アリーを危険な目に遭わせないように、その意見を撤回することはしなかった。

 ただ代わりにアリーの小さな頭を優しく撫でながら「ごめん、すぐ戻るから」そう言って俺はすすり泣くアリーを後にした。

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