ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

21 / 30
遅くなりましたっ(>_<)


20話

 映画を観る時。

 ポップコーンは食べるけど、コーラは飲まない。

 

 実は珈琲派な私、パチュリー・ノーレッジ。

 

 アイスコーヒーをストローで啜りながら、隣を覗き見ると。

 

「……」

 

 真剣な顔で画面を観つつ、定番のコーラを飲んでいる、私の愛しい人(さくや)

 たまに、二人の間に置いたポップコーン(塩バター味)に、小さな手を伸ばしては。

 これまた小さな口に運んで、モキュモキュと咀嚼している。

 

「か……」

 

 可愛い、と呟きかけて。

 慌てて口を押さえた。

 いけない、いけない。

 

 映画を観る時は、私語は厳禁だ。

 

 

 

 

 最近、咲夜と二人で映画を観ることが多い。

 引越し蕎麦異変……じゃなかった、吸血鬼異変でも使用した、映像を空中に投影する魔法。

 アレを改良して、映画のDVDやブルーレイを大画面で楽しんでいる。

 いつもの図書館が、一瞬でシアタールームに早変わり。

 やはり、魔法は素晴らしい。

 

 なぜ、映画か、というと。

 咲夜の日本語の勉強の為だ。

 

 現在、私達はルーマニア語で日常会話を行っている。

 当主(レミィ)をはじめとして、館の住人のほとんどがルーマニア出身なのだから、当たり前だ。

 

 しかし、此処は日本。

 今後の生活には、日本語が必須なのである。

 

 

 引越しを決定した後。

 紅魔館の住人は、私主導で日本についての勉強を開始した。

 

 一番最初に日本語を覚えたのは、フランだった。

 というか、実はフランはもともとある程度の日本語は話せたし、日本についての知識も、それなりに持っていた。

 何故か、というと。

 地下の自室に居る間、暇潰しに日本のアニメや漫画を嗜んでいたからだ。

 

 ……余談だが、フランは料理漫画にハマった時期があった。

 その際、漫画に出てくる料理を実際に食べてみたいとねだられて、片っ端から作ったことがある。

 正直、再現した料理の味は、美味しいとは言えない物の方が多かった。

 ミス〇ー味っ子なんか、特に……。

 

 二番目に日本語を覚えたのは、美鈴だ。

 別に意外な話ではない。

 美鈴は中国出身だが、私と初めて会った時から、流暢なルーマニア語を話していた。

 私の愛娘は、ああ見えても、とても賢い子なのだ。

 

 三番目は、レミィ。

 あの子は、地頭(じあたま)はとてもいいのだけど、コツコツと地道な努力をするのは苦手だ。

 だから、日常会話はすぐに覚えたものの、漢字やことわざ、四字熟語なんかは、未だに怪しい。

 最近は、勉強と称して、フランから借りた漫画を読み漁っている。

 

 小悪魔は例外中の例外で、種族特性として翻訳魔法が使える。

 召喚主とまともに会話が行えないのでは話にならないから、これも当たり前の話だ。

 

 その他の使用人達は、だいたい団栗の背比べといったところか。

 

 ――……しかし、その中で、咲夜は少しだけ皆よりも学習速度が遅れていた。

 

 後に、『完全で瀟洒な従者』などと称される私の愛しい人(さくや)

 しかしながら、現在の彼女は、まだ十歳にも満たない幼子だ。

 しかも、今までは生きるのに精一杯で、ろくに何かを習ったことがないのだから、無理もなかった。

 

 レミィと話し合った結果。

 咲夜の教育は、じっくりと時間をかけて行う了承を得た。

 六年後には、どこに出しても恥ずかしくない、立派な淑女に仕立てあげて見せよう。

 

 そんなわけで。

 焦る必要は、まったくないのだけれど。

 

 最近の咲夜は、気が付いたら辞書を片手に、日本語の勉強をしている。

 

 急がなくても大丈夫なのだ、と。

 そう言い聞かせたって、きっとあまり意味はない。

 

 周りが出来ることを自分が出来ない、なんて。

 そんな状況に甘んじられる様な性格ではないことは、知っている。

 

 だからこそ、彼女は『完全で瀟洒な従者』なんて呼ばれるようになるのだ。

 

 でも。

 それなら、せめて。

 

 楽しみながら学んでくれたらいい、と。

 

 そう思って、考えた。

 その結果が、日本語の映画鑑賞。

 観終わった後は、日本語で感想文を書かせている。

 

 

「――……ふぅ」

 

 映画を観終わった咲夜が、ゆっくりと息を吐いた。

 今日は、日本のアニメ映画の隠れた名作『平〇狸合戦ぽんぽこ』を観た。

 

「面白かったわね」

 

 話しかけると、咲夜はひとつ頷いて、口を開いた。

 

「はい……でも、結局、狸は人間に追いやられてしまいましたね」

 

 その声が。

 少し、悲しそうな響きだったので。

 

「そうね……でも、消えてなんかいない」

 

 その銀髪に指を滑らせながら、ゆっくりと言葉を重ねた。

 

「大切な友達や家族と寄り添いながら、確かに生きているじゃない」

 

 見上げてくる、綺麗な青い瞳。

 見詰め返して、微笑む。

 すると、彼女も目を細めて、頬を綻ばせた。

 

 ……うわあ、可愛い。

 

 それだけのことで。

 どうしても、照れてしまって。

 視線を逸らすと、咲夜の小さな手が視界に入った。

 

「あ、咲夜、バターとかついてるわよ」

 

 ポップコーンを食べていたから、汚れてしまったのだ。

 机に置いていた布巾を手に取り、その手をそっと包み込んだ。

 指の間も、丁寧に拭いてやる。

 咲夜は、大人しくそれを受け入れた。

 

「……よし、綺麗になった」

 

 呟いて、顔を上げる。

 当然のように、至近距離にある顔。

 

 睫毛が、長い。

 

 ――……うん、さんざん、可愛い可愛いと言ってきたけど。

 咲夜の顔立ちは、可愛いというよりは、美しい。

 本当に、美人だ。

 

「ありがとうございます」

 

 静かに。

 素直な言葉が、降ってくる。 

 

「……」

 

 

 受け止めきれず、

 言葉を失くす。

 

 最近、咲夜は素直だ。

 前みたいに、毛を逆立てて威嚇してこなくなった。

 

 ……私が、馬鹿みたいに戸惑って、固まってしまっても。

 呆れて逃げたりなんて、しない。

 

 

 

「お邪魔するわよ」

 

 

「ッ!?」

 

 急にかけられた声に、息を詰まらせながらも。

 瞬時に立ち上がり、臨戦態勢に入った。

 

 ……喘息の発作が起きたら、どうする気だ。

 私は病弱なんだぞ、と。

 

 眉を吊り上げた後――……驚愕に目を見開く。

 

 

「はぁい……いや、ホントにお邪魔だったかしら?」

 

「紫っ!?」

 

 其処には、妖怪の賢者『八雲紫』が立って居た。

 

 

「お母さん! お客様をお連れしました!」

 

 その後ろから、ニコニコ笑顔の美鈴が顔を出す。

 美鈴の隣には、紫の式神である『八雲藍』の姿もあった。

 

 溜息と共に、言葉を吐き捨てる藍。

 

「パチュリー・ノーレッジ……貴女の娘を、何とかしてくれないか?」

 

 非常に疲れ切った様子の藍を見て、首を傾げる。

 よく見ると、藍の尻尾の一本が、美鈴の腕に抱え込まれていた。

 

「モッフモフですよ! モッフモフ!」

 

 楽しそうにそう言いながら、藍の尻尾へ顔を埋める美鈴。

 

 

 そこに、騒ぎを聞きつけた小悪魔が現れた。

 

「なんですか、さっきから騒がし、ぅわ!? や、八雲ゆか……っ!?」

 

 小悪魔は、『八雲紫』という圧倒的格上の存在が居ることに気が付くなり、ビクッと肩を震わせた。

 日頃の態度は大きいが、戦闘能力的には、その呼び名の通り『小悪魔』でしかないのだから、無理もない。

 前回の異変でも、ずっと隠れていたのだ。

 

 そのまま、逃げ出すかと思ったが――……。

 

 

「……え、」

 

 私の愛娘――……『美鈴』の姿を視界に収めると。

 ピタっ、と動きを止めた。

 そして。

 

 

「……美鈴さん、何やってるんですか?」

 

 

 藍の尻尾に頬擦りを繰り返している、美鈴。

 その姿を、穴が開きそうな程ジッと見詰めながら、そう問いかけた。

 

 

「あ、小悪魔さん!」

 

 美鈴は、悪びれもせず、笑顔で返す。

 

「モッフモフですよ! モッフモフ!  小悪魔さんも一緒にモフりますかー?」

 

 まだ、あと八本あります! ……なんて。

 藍の迷惑など考えもせず、小悪魔に誘いを掛ける美鈴。

 

「何を勝手なことを!? は、な、せーっ!」

 

 我慢が限界を迎えたのか、怒鳴り散らす藍。

 

「……いえ、遠慮しておきます」

 

 小悪魔は、静かな口調で美鈴の誘いを断ると。

 にっこりと笑いながら、言葉を続ける。

 

 

「美鈴さんも、早く離れた方がいいですよ――……ノミがうつりますから」

 

 

 その言葉に。

 一気に、空気が凍りつく。

 

「……ッな!? だ、誰がノミなんぞいるか!」

 

 しかし、数瞬後。

 その凍った空気を、藍の叫び声が砕き割った。

 

 

「ちゃんと、薬用シャンプーとリンスでお手入れしているんだからなーッ!」

 

 

 その叫びに。

 しれっと補足を入れる紫。

 

「フジ〇製薬のク〇ルヘキシジンシャンプーとク〇ームリンス。仕上げのブラッシングは私が」

 

 それを聞いて、ハッと鼻で笑う小悪魔。

 先程のビビり様は何だったのか。

 心底馬鹿にした口調で、新たな毒を吐き捨てる。

 

 

「畜生風情が」

 

 

 血管がブチ切れる音が、あたりに響いた。

 

 

 

 

 飛び交う罵声を、聞き流しながら。

 

「……あー」

 

 どうしてこうなった?

 

 一瞬、そう考えて。

 いや、おかしい話ではないのか、と思い直す。

 

 紅魔館の門番である紅美鈴(ほんめいりん)と、私の使い魔である小悪魔。

 彼女達は、前の時間軸でも、この館の住人同士として付き合いはあったが。

 それなりによく話す『同僚』という域は出ていなかった、はずだ。

 

 でも、今の『美鈴』は、私が育てた。

 私の可愛い『愛娘』なのだ。

 

 育ち方が違う以上、前の時間軸の彼女とは異なる点が、多々ある。

 

 ――……そんな美鈴と接した小悪魔が、前の時間軸とは異なる感情を抱いたとしても、不思議ではなかった。

 

 

「親として、主としては、なかなかに複雑な気持ちになるけれど……」

 

 口出しをするつもりはない。

 そういった感情は、止められて止まる物ではないことは、私が一番よく知っている。

 そんなふうに考えて。

 小さく溜息を吐きながら、隣に視線を移した。

 そして――……。

 

「……」

 

 

 愛しい人(さくや)が、目を輝かせていることに気が付いた。

 

 

「……咲夜?」

 

 名前を呼んでも、反応してくれない。

 ジィッと、一点を見詰めている。

 焦燥感に駆られながら、その視線の先を追う。

 

「ッ!」

 

 咲夜が、何に夢中なのか。

 気が付いて、息を呑む。

 

 先程まで、私と咲夜が観ていた映画は、日本のアニメ映画の隠れた名作『平〇狸合戦ぽんぽこ』。

 登場するのは、人間と、狸と、『狐』。

 

 非常に、タイムリーでもあった。

 その為、それに心惹かれても、無理はない……ないのだが。

 

 

「……もふもふ」

 

 

 ――……やはり、面白くはない。

 

 

「……おい! パチュリー・ノーレッジ! 貴女の娘と使い魔を、何とかしてくれないか!」

 

 切実さを感じる、藍の叫び声に。

 

 

 

「黙れ、女狐が」

 

 

 

 とても低い声で、そう返した。

 

 

「ぷはっ!」

 

 紫が噴き出す音が、部屋に反響した。

 

 

 

 

 ――……数十分後。

 溜息と共に問いかける。

 

「それで? 本日は、どんなご用向きで?」

 

 紫は、微笑みながら口を開く。

 

「今日はね、貴女に会いに来たんじゃないのよ」

 

 そう言うと、空中に開いた隙間から、上品な扇子を取り出した。

 その扇子をスッと前に出して、ある一点を指し示しながら、言葉を続ける。

 

 

 

「貴女のお嫁さんに、お願いがあって来たの」

 

 

 

 指し示された先……そこに居るのは、私の愛しい人(さくや)

 

「え、私……?」

 

 自分を指差しながら、問い返す咲夜。

 

「ええ、貴女」

 

 笑顔で頷く紫。

 

 私は、眉を顰めながら口を挟む。

 

「……この子に危害を加える気なら、容赦しないわよ」

 

 そして、いつでも咲夜を庇えるように、一歩前に踏み出した。

 しかし。

 

「あら、そんな気は微塵もないわ。メリットもないし……私は、意外と子供好きなのよ?」

 

 そんなふうに嘯いて、笑う紫。

 そのまま、言葉を続ける。

 

「そう、私は、子供好きなの……それでね? 特に目をかけている子供が一人、居るのだけれど」

 

 そこでいったん、言葉を止めて。

 わざとらしく溜息を吐いた後、続きを口にした。

 

「その子ったら、友達が少なくて。情操教育の為には、同年代の子供達との関りも必要でしょう? ……まあ、つまりは」

 

 一際華やかな笑顔を浮かべて、言い放つ。

 

 

 

「幻想郷の愛し子――……博麗霊夢と『友達』になって欲しいの」

 

 

 

「……あー」

 

 どうしてこうなった?

 

 一瞬、そう考えて。

 いや、おかしい話ではないのか、と思い直す。

 

 

 この数百年。

 私は、以前の時間軸とは、異なる行動を続けてきた。

 その結果として、『今』がある。

 

 それならば。

 あらゆる事象に変化が生じるのは、必然だ。

 

 

 

「とも、だち……?」

 

 

 きょとん、と目を丸くして。

 私の愛しい人(さくや)が、小首を傾げた。





 今日、美容院行ったんですよ。
 銀髪にしてもらいました!
 さっきゅんリスペクト(*´ω`*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。