ぱっちぇさん、逆行!   作:鬼灯@東方愛!

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これからしばらくさっきゅん視点です(*´ω`*)


22話

 生まれも育ちもルーマニア。

 少し前に日本に引越して来たとは言え、ずっと洋館で勉強の日々。

 

 だから、赤い鳥居を潜った時には、緊張で体が強張ったし。

 拝殿を視界に入れた時には、異国の宗教文化を感じて、多少なりとも胸を高鳴らせもしたのだけど。

 

 ――……おかしい。

 

 湧き上がる疑問に、首を傾げる。

 巫女とは、神に仕える無垢なる乙女であると、本には書いてあったはずだ。

 しかしながら、目の前に転がる自分と同じくらいの大きさの幼子には、神聖さの欠片も見えはしない。

 そこまで考えて――……あることに思い至り、一人頷く。

 

 例え、異国、異文化の宗教とはいえ。

 それがシスターか巫女かなんて、些細な違いなのだろう。

 

 自国のシスターだって、決して神聖な存在などではなかったではないか。

 

 

 とどのつまり――……私『十六夜咲夜』の『博麗の巫女』に対する第一印象は『最悪』だった。

 

 

 

 

「……どうしましょうか」

 

 そう呟きながら、パチュリー様は小さく溜息を吐いた。

 

「起こすと、機嫌を損ねそうだし……」

 

 顎に指を添え、眉を顰めて考え込んでいる横顔を眺めながら。

 少しだけ、面白くない気分に陥る。

 

 最近、私の中に芽生えたこの感情の名前はなんと言うのか。

 それは、自分でもよくわからないのだけど。

 とても面倒臭くて、厄介な代物だということだけは、理解している。

 

 

「……咲夜?」

 

 服の裾を引っ張ると。

 パチュリー様は、すぐに振り向いてくれた。

 

「どうしたの?」

 

 目尻を、少しだけ緩ませて。

 穏やかな声音で、問いかけてくれる。

 

 

 この美しい魔女は、私のことを『愛している』らしい。

 

 

 愛など、この世に存在しない――……ずっとずっと、そう思ってきたけれど。

 

 白皙(はくせき)の頬を彩る赤にも。

 潤む紫水晶(アメジスト)の瞳にも。

 震える唇から紡ぎ出された『愛の言葉』にだって。

 

 決して『嘘』は含まれていないのだ、と。

 

 

 ようやく、それだけは信じられるようになった。

 

 

 そうしたら。

 急に、色々なことが許せなくなった。

 

 ねえ。

 本当に、私のことを『愛している』なら。

 

 

 ――……私以外、見なければいいのに。

 

 

 そんなことを考えていたら。

 言葉は、スルリと零れ落ちてしまった。

 

 

「もう帰りましょう」

 

 

 パチュリー様が、目を見開いて声を上げる。

 

「ええっ!?」

 

 ちょっと、裏返った声に。

 なんだか、胸がソワソワしたので。

 キュッと、その手を握った。

 

「きっと、疲れているんですよ、修行とかで」

「いや、疲れる程修行するような奴じゃ……」

「なんでわかるんですか? 初対面でしょう?」

「あー……うん、まあ」

「……」

 

 ……気に食わない。

 自然と、眉間に皺が寄る。

 

「起こすのも、悪いじゃないですか」

「いや、でも、このまま帰るのだって」

「小さければいいんですか」

「え」

「やっぱり『ロリコン』なのか、と聞いてるんです」

「ええー……」

 

 情けない声。

 下がった眉。

 

「違うって、何度も言ってるじゃない……」

 

 無意識なのか、縋るみたいに、握り締めてくる手。

 

「私は、ロリコンでも、ペドフィリアでもないわ。ただ、貴女のことが」

 

 普段は、落ち着き払ったこの魔女が。

 こんなふうに、慌てたり困ったりするのは。

 

 私のことを『愛している』から、なのだと思うと。

 

 それは、なんだか、とても――……。

 

 

 

「ちょーっと待った。帰るのは困るわ」

 

 

「ッ!」

 

 軽やかな声の後。

 寝転がる巫女の頭上。

 空中に走った亀裂。

 その『スキマ』から身を乗り出したのは『妖怪の賢者』。

 

 

「八雲紫!」

 

 

「はぁい。今日も二人はとっても仲良しね。素晴らしいですわ」

 

 紫は、扇子で口元を隠して、楽しそうに笑った。

 その、次の瞬間。

 

「――……うぅん」

「っ!」

 

 流石に、うるさかったのか。

 小さな唸り声が上がった。

 その声の主に向けて、全員の視線が一気に集中する。

 

「むにゃ……すぴー……」 

 

 しかしながら。

 声の主……小さな巫女は、寝返りをうっただけで、目を覚まさず。

 また、気持ち良さそうに寝息を上げ始めた。

 

「まったく、この子ってば」

 

 本当に、しょうがない子なんだから、なんて。

 そんな風に言いながらも。

 紫は、扇子では隠しきれないくらいに。

 

 その整った顔を、蕩けさせて笑った。

 

 その顔が、あまりに優し気だったから。

 

 ああ、あれも『愛』なのかなあ、と。

 

 そう思っていたら。

 

「ほーら、起きなさい、この寝坊助め」

 

 紫は、扇子をスキマの向こうに放り投げて。

 開いた両手を、巫女の露出している脇に突っ込んだ。

 

「ちょっ」

 

 パチュリー様が、制止の声を上げようとしたけど。

 もう、遅い。

 

 

「こーちょこちょこちょこちょこちょこちょ」

 

 

 さっきまでの――……多分『母性的』と言ってもいい笑顔から、一変。

 悪戯っ子みたいな顔をした紫は。

 心底楽しそうに笑いながら。

 ピアノでも弾くみたいな見事な指使いで、その無防備な脇をくすぐりまくった。

 ……うわあ。

 

 これには、流石の寝坊助巫女も、ひとたまりもなかったようで。

 

 

「ひゃっ、は、はははははははっ!? え、な、なにっ!?」

 

 

 盛大な笑い声をあげながら、跳び起きた。

 そして。

 

「くっ、ゆーかーりーっ!?」

 

 凄い勢いで表情を怒りに染め上げると。

 目にも止まらない速さで『御札』を取り出して。

 

 それを、紫の頭に思い切り叩きつけた。

 

 

 

 ドガーンッ!!!!

 

 

 

 臓腑を震わす爆発音が、境内に轟いた。

 

 

 

 

「もー、酷いわ、霊夢。私じゃなかったら死んでたわよ」

 

 先程の爆発で乱れた髪を、つげ櫛でとぎながら、拗ねたように抗議する紫。

 あれだけの爆発でも、髪が乱れる程度の被害で済んでいるのが、彼女が妖怪の賢者であることの証明か。

 ……いや、まったく賢者っぽくはない顛末だったけど。

 

「威力が足りないわね。もっと改良しないと……ふわぁああ」

 

 不機嫌そうに呟いた後、大口を開けてあくびをする幼子。

 彼女こそが、この幻想郷の超重要人物『博麗の巫女』。

 

 今日、私達が会いに来た相手だ。

 

 

「……」

 

 ジィッ、と。

 その姿を観察する。

 生憎、聖職者に良いイメージは持ち合わせていない。

 この子にしたって、初っ端から怠惰な様子を見せつけられて、第一印象は最悪と言っても良かった。

 

 ……でも。

 先程の、紫の様子を思い出す。

 

 少なくとも。

 この子は、あんな顔を向けて貰える存在なのだ。

 

「咲夜」

 

 ぽんっ、と。

 頭の上に、置かれた手。

 くしゃ、と。

 やわらかく、撫でられる。

 

「ほら」

 

 穏やかな声で、促される。

 見下ろしてくる紫水晶(アメジスト)の光は、優しかった。

 

「……あの」

 

 だから。

 躊躇いながらも、呼び掛けて。

 そっと、一歩を踏み出した。

 

 

「はじめ、まして」

 

 

 一生懸命勉強した、日本語。

 まだ、発音には自信がない。

 

「……?」

 

 振り向いた巫女は、小さく眉を寄せた後。

 真っ直ぐこちらに向き直り、口を開いた。

 

「はじめまして――……あんた、誰?」

 

 飾り気のない、その問い掛けに。

 

「私の、名前は」

 

 返答しようとした、その時。

 

 

 

 ぐうぅぅうううううう……。

 

 

 

 地響きのような音が、空気を揺らした。

 

 

「……」

 

 少しだけ、頬を赤くした巫女は。

 自らの腹を、そっと撫でながら。

 気まずそうに、視線を逸らした。  

 

「……え、っと」

 

 私は。

 戸惑いながらも、持参した包みを差し出した。

 

 

「これ、食べる?」

「くれるのっ!?」

 

 巫女の顔が、ぱあっと輝いた。

 その、急激な感情の推移に。

 

「……!?」

 

 私は、あまりの驚きで、硬直してしまった。

 

 

「「ぷふっ」」

 

 視界の隅で。

 大人達が噴き出したのには、気付かないふりをしよう。




人気投票、投票しました?
私は、今回は以下のメンバーに投票しました。

1. ぱっちぇさん(一押し)
2. さっきゅん
3. おぜうさま
4. パルスィ
5. 霊夢
6. アリス
7. ゆかりん(新作のゆかりん、カッコいいし可愛いし最強でしたね!)

でも、結果発表を見てとんでもない危機感に襲われました。
ぱ、ぱっちぇさんが!

あと一歩で門から閉め出されちゃうーっ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

ど、どこに行くのぱっちぇさん!
小悪魔でも探しに行くの!?

こ、今年投票しなかった皆様も、来年はぱっちぇさんに清き一票をお願いします!

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