ガヤガヤと教室中でクラスメイトは友達同士なのか喋っている。それが授業中なのにも関わらず。その声が鬱陶しく感じるが何も出来ない。
もう季節はゴールデンウィークも終わり高校生活も波に乗って来たところなのに、僕は友達の一人もいなかった。自分から声をかけに行かなかったらいつの間にかほかの人たちは既にグループを作り固定メンツを作っていた。完璧に乗り遅れた。だけど今更行動する気にはなれない。
この学校は元から男子生徒が少ないから少ない男同士すぐ仲良くなれると思っていたのに。…………僕以外の男子生徒は席が近く、そのせいかいつも一緒に行動していた為僕の入れる隙間はなかった。
(学校……辞めたいなぁ)
せっかく苦労して入ったのにそんなことを思っている自分が情けない。
「それじゃあ、グループでこの問題解き終わったら持ってきて〜」
先生が大きな声でクラス全体に指示を出す。
今は数学の授業中。そして僕が1番嫌いな授業でもあった。
この先生は無理やり近くの席の人達でグループを作らせてその中で用意した問題を解かせるスタイルだ。そしてそれは僕みたいなぼっちには考慮も何も無い。
クラス全体で席を動かしグループを作る。自分以外はみんな女の子だからただでさえコミュ障な僕を殺しにかかっている。少しだけ席を離している。
そしてグループのリーダー的な人が人数分のプリントをもらってくる。それを遠慮気味に受け取る。
「あ………ありがとう」
久しぶりに発した声は向こうには届かなかった。誰とも話していないといきなり声を出そうとしてもどもり気味になる。それのせいでますます声が出せなくなる。
僕を含めて5人のグループだが、3人は友達同士なのか仲良く問題を解きあっている。
どうせ僕がやらなくても他の人がやってくれるからいいだろう。
ふてくされている自分がさらに惨めになって机に顔を埋める。
こんな態度だから誰も声をかけてきてくれないのだろう。早く終わらないかな。早くイベントの周回をしたい。そんなことを心の中で考えていた。
「ねえ…………」
僕に声をかけたのだろうか。前方から声がする。半分寝かけていた顔をゆっくりと上げると僕と同じでハブられている女の子が声をかけてきた。
「え、えっと…………何か」
「ここなんだけど…………」
そう言って問題を見せてくる。すでに僕の心臓はバクバクと鼓動が早まっていた。心なしか顔を赤くなっている気がする。
ちらりと視線を動かして顔を見る。確かこの人も友達がいないのかいつも一人でいる。なんでも聞いた話だと不良ではないかと言う噂を耳にしたことがある。屋上を縄張りにしていつも放課後に屯っているとか。
前髪の赤いメッシュといつも鋭い目つきで周りを寄せ付けないオーラを出しているからクラスメイトには怖がられていた。そのせいで孤立してしまったのだろうか。どっちにしろ僕とは全く正反対の理由なのだろう。
「ちょっと聞いてる…………?」
ボーっとして反応しない僕を怪しんでか睨みつけてくる。その視線が鋭くて少し…………いやだいぶ怖い。女の子にビビっている自分が情けなく感じる。
「う、うん。えっとここは…………」
目をつけられないように必死に考える。だがまともに授業を聞いていない僕がわかるはずがない。教科書を開いてテスト前日の夜ぐらいしか使わない頭を一生懸命フル回転させながら考える。
「た、多分これでいいと思う」
「…………そっか。ありがとう」
「い、いえ…………」
それを最後に彼女はまた視線をプリントに戻した。
それを確認すると一気に疲れが襲いかかってきた。なんでぼっちの僕に声をかけてきたのだろうか。もう友達はいらないからせめて平凡な学生生活を送れればいいと考えていたのに。
とりあえずやろう。
寝ようとしていた頭は完全に冴えてしまい、とてもじゃないが寝る気分ではなくなっていた。
カリカリとシャープペンシルをプリントに走らせて、教科書と問題に視線を反復させる。わからない問題は誰にも聞けないので飛ばす。
一通りの問題は終わり時計を確認する。授業終了までだいぶあった。
先生も終わった人から見せてきてとクラス全体に声をかける。その号令を聞くと数人の生徒が席を立ち前に向かった。
その中にはさっきの女の子もいた。周りは友達同士で話しているのに彼女だけが一人で並んでいた。
その姿が見ていて痛々しくなる。不良と噂されているがさっき話した感じではそんなことはあまり感じなかった。きっと彼女も僕と同じコミュ障なのだろう。そのせいで周りに話しかけられずにいて見事に孤立してしまったのだろう。
先生にプリントを確認してもらい席に戻ってきた。そして間違ったところをやり直している。あの先生は全問正解できないとやり直させてくる。そのことがわかっているから、僕は絶対に終わることはできない。
それがわかってから僕は見せに行くのをやめた。どうせ見せに行くだけ時間の無駄だ。
彼女もそのことはわかっているはずなのに一生懸命問題をやり直している。真面目な性格なのだろう。誰にも頼れないから一人でやるしかない。でも最後の問題は難しいから一人では解けない。それを周りの生徒と一緒に解いて欲しいのが先生の考えなのだろう。生憎僕たちみたいなボッチには無理なことだが。
やり直しが終わったのか再び先生のもとにプリントを持っていった。
「…………うーん最後だけできてないなぁ。その問題は難しいから友達と一緒にやってみて」
「…………はい…………わかりました」
ガヤガヤとしている教室なのに先生と不良さんの声がしっかりと聞こえてきた。席に戻ってきた彼女はまた問題に向き直す。教科書で一生懸命に調べているがそれでもわからないのかシャーペンの動きが止まっている。
そして目尻を手の甲で拭った。
悔しいのだろう。自分で問題が解けず何度もやり直しを言い渡されることが。その問題を自分の力で解けなくて思考を停止させることが。
そして何より…………誰にも声をかけられない自分自身の臆病さが。
その姿がやけに自分に重なる。
だからその行動は同情からだった。いつもなら可哀想で終わらせるはずの僕が行動したのは。
「あの、よかったら一緒にやりませんか…………」
「えっ」
いきなり声をかけられてびっくりしたのかすごい勢いでこちらに振り向く。初めてじっくりと彼女の顔を見たが確かに鋭い目つきに、赤いメッシュだ。これなら不良だと噂をされても仕方がないのかもしれない。
だけどとても不良だとは感じなかった。
「い、いいの?」
「う、うん。僕もその問題だけわからなかったから」
そして二人で一緒に解き始める。教科書の応用問題を見ながらなんとか食らいつく。彼女も違う方法で証明を探している。
ダメだ。やっぱりわからない。…………勇気を出して声をかけた結果がこれなんてとんだ恥さらしじゃないか。
「…………わかった?」
「…………ごめん。やっぱりわからないや」
「見せて」
そう言って僕のプリントを覗き込んでくる。そして自分のプリントと見比べる。
「ねえこれって…………あたしのと組み合わせると行けるかも」
差し出されたプリントを見比べる。
「本当だ…………僕たちのを合わせたらできる」
「だよね」
「うん」
二人でゆっくりと確認して証明をしていく。これは絶対に一人だとできない。
「「できた」」
彼女が席を立って先生のところに向かう。
「何してんの…………」
「えっ⁉︎」
「…………行くよ」
彼女について来いと言われて後ろを遠慮気味に追いかける。列に並ぶと周りは楽しそうに会話をしているのに僕たちは会話の一つもない。
先生に見せるとなんとか丸をもらえた。その時彼女が小さくガッツポーズをとっていたのを後ろから見つめていた。案外負けず嫌いのところもあるのだろうか。
席に戻ると残り時間も少なくなっていた。
「あの…………」
「な、何…………」
「あんた名前は?」
「大庭…………椿」
「そっか…………さっきはありがとう」
それっきり彼女との会話は途切れてしまった。
ここで彼女に名前を聞き返せなかったのは僕が生粋のコミュ障だからだろう。
大庭椿
陰キャでコミュ障の男子高校生
1人で学校生活を送って行くことを覚悟したが不良さんに声をかけられた
不良少女
赤いメッシュを入れて鋭い目つきで誰も近づけさせないオーラが漂っている
だけど本心は仲間思いの優しい女の子