そろそろ季節も本格的に夏になってきた。そして待ちに待った夏休みという学生の楽園が来ようとしていた。それと同時に地獄に叩き落とされる定期テストというものも近づいていた。
僕は毎回テスト前日の夜から始めるから毎回徹夜してギリギリセーフだ。今回もその作戦でいこう。最悪補修になっても数日学校に来るだけで済むし。
隣で音楽を聞いている彼女はどうなのだろうか。見た感じは大丈夫そうだと思うけど。
見ていたのが気づいたのか一瞬目があってからすぐにそらされる。
それを見て少しため息が出てくる。
定期テストとは別の悩みが僕にはあった。それは最近やけに美竹さんに避けられているということだ。
いつからだったかは忘れたけど、ある日から急に態度がよそよそしくなった。いつもなら美竹さんから話題を振ってくるのに最近はまともに会話すらしていない。
だからと言ってどうもないけど。
…………いや、やっぱり少しだけ寂しい気がする。
いつの間にか、僕の生活の一部に美竹さんの存在はすっかりいるものになっていた。それが急にいなくなると違和感がすごい。
向こうはそう思っていないのかな。そもそも僕が何かやらかしいたのだろうか。
一番考えられる原因は僕以外に新しいパシリを見つけたということだ。そいつが僕よりも使いやすいから用済みになった僕と距離を置こうとしているのではないか。
い、いや、コミュ障の美竹さんに限ってそんなことは。盗み見るように様子を確認してみると誰かと連絡しているのかスマホをいじっていた。
そ、そんなバカな。友達がいない美竹さんが誰かと連絡を取るはずがない。…………それとも本当に新しいパシリだろうか。
考えれば考えるほど、負のスパイラルとなって頭の中を駆け巡る。
「美竹さん‼︎」
「な、何…………急に大きな声出して」
「僕、美竹さんのためならなんでもするから捨てないで‼︎」
「…………はぁ!?な、何言ってんの‼︎」
「だ、だって美竹さん新しいパシリを見つけたから、僕のことがお荷物になったから捨てるんでしょ…………」
「そんなわけないじゃん…………あたしが大庭のこと捨てるはずないし」
「じゃ、じゃあどうして、最近無視するの…………」
「そ、それは…………べ、別にあたしの勝手でしょ‼︎」
「勝手じゃないよ‼︎僕が話しかけようとしてもどっか行っちゃうし…………」
「うっ」
痛いところを突かれたような声を出した。
「だからあたしは大庭のことは別に嫌いになってないから、これ以上しつこいなら本当に捨てるから」
もう話すことはないと、机に伏せて寝たふりを始めてしまった。
本当どうしてあたしってこうなんだろう。
あの日自分の気持ちを自覚してから大庭に話しかけずらくなった。そのせいか、今だって大庭に心配かけてたし。
挙げ句の果てに結局あたしの逆切れで喧嘩みたいになっちゃたし。
ひまりならこんな時もうまい具合にできるんだろうけど、あたしはそんなに器用じゃない。大庭の顔を見るだけで声が詰まるし、少しだけ動悸が上がる。
で、でもさっき言っていたことが本当なら大庭は少なくともあたしといることは嫌じゃないみたいだ。
それがわかっただけで少しだけ嬉しい。
チラっと大庭の方を見てみると落ち込んでいるのか次の数学の授業のワークを黙々と答えを写していた。
いつもならテスト前ギリギリにやるとか言ってたのによほど堪えたのか。
そういえば、もうそろそろで夏休みに入る。今年はいつもより出るライブの数も多いから練習も多くなっていた。そのためにも今回のテストで赤点を取るわけにはいかなかった。
だからいつもより少しだけ勉強をしている。
夏休み。絶対にひまりらへんが海に行こうとか言ってくるに違いない。そしてそれをみんなで断る未来が見える。
ん、でもそうなると大庭とは一ヶ月近く会えないことになる。
それだけで少しだけ夏休みが嫌になってくる。どうせ大庭のことだから一日中家に引きこもっている未来が見える。
「ね、ねえ…………」
聞こえるかわからないぐらいの声量で声をかける。
「何!?」
「お、大庭はテスト勉強してるの?」
「してるよ」
そう言ってさっきまで答えを写していたワークを見せてくる。それは勉強じゃない。
「も、もしよかったら一緒に勉強しない?」
「ほ、ほんとう!?」
「大庭がよかったらだけど…………」
放課後の図書館。いつもなら人がいないのにテストが近いからか利用している学生が多い。そんな中僕たちは一番端の席で教科書を開いていた。
ここまで二人で来たのに放課後のチャイムがなってからまだ一言も話していなかった。
何か話題を探ろうと話しかけようと何度も試みたが全て撃沈した。僕の持っている話題はゲームか音楽のことぐらいだ。
音楽関係のことは全部あの日に話したから話題が何もなかった。
かと言ってゲームのことなんか美竹さんは興味ないだろうし。
現代文の問題集を見ても全く進んでいなかった。とりあえずやろう。美竹さんも真面目にやってるのに僕がだらけるわけにはいかない。
初めて自分から意欲的にシャーペンを動かしたが記号問題以外のところは全てわからない。
特に”この時の人物の考えている時の心情を抜き出して書きなさい”これなんか心情と言ってるくせに抜き出すとか意味がわからない。
この心情系と数学の点Pは絶対にこの世から抹消するべきだ。僕は文系でも理系でもないから得意な教科はない。唯一できると言ったら美術とか音楽とかの技術的なやつだ。
僕のシャーペンが止まっているに気がついたのか美竹さんが声をかけてきた。
「わかんないの?」
「恥ずかしながら…………現代文は苦手なんだ」
「見せて」
そう言って僕のワークを覗き込む。少しだけ美竹さんとの距離が縮まる。それだけなのに少しだけドキドキする。
このドキドキはきっと恐怖から来るものだ。こんなのもわかんないあんたとやる意味ないじゃんと言われて捨てられるのが怖いのだ。
「これはここにヒントがあるから」
美竹さんがシャーペンでチェックをつけたところを見ると確かにそこに書いてあった。
「これはここ。こっちはこう解釈して…………」
「ちょ、ちょっと待って…………そんなに一度に言われても」
「あ、ごめん」
その時に近くにいた美竹さんと目があった。きれいな顔立ちだ。赤いメッシュも少し落ちてきたのか黒が強くなっていた。
美竹さんを無意識のうちに見つめていると顔がみるみる赤くなっていく。
「だ、大丈夫?」
「こっちみんなバカ!!」
そう言って机に伏せる。
やはり僕が無能だから怒ってしまったのだろうか。じゃなきゃこの美竹さんの情緒不安定な行動を説明できない。
そうだよな。美竹さんだって女の子なんだからじろじろと顔を凝視するのは不味かった。
ここはなんとか話題を逸らさないと。
「そ、それにしても美竹さん現文得意なんだね」
「別に…………」
「いや、だってこんなにわかるなんてすごいよ。僕なんか記号問題しかろくにわからないから」
「あっそ…………」
「やっぱり美竹さんはすごいな〜」
「それ以上言ったら怒るから!!」
もう怒ってるじゃん。とは言えなかった。
それからは少しずつ美竹さんが教えてくれたところを自分なりに解釈してなんとか終わらせた。
本当大庭はバカだ。あたしが勇気を出して放課後誘ったのに緊張しっぱなしでまともに会話ができなかった。図書館についても、ろくに会話の一つもできなかった。
それに燐子さんに大庭と一緒にいるところを見られてしまった。それだけならいいけど微笑ましいものを見てくるあの目線はいかがなものか。燐子さんは誰にも言い触らさなそうだからそれがせめて物救いかもしれない。
そして少し時間が経ったあと大庭が悩んでいたから少しだけ見たあげた。あたしが得意な現文だったからか少しだけヒートアップしてしまい一気に喋り過ぎてしまった。
それを大庭に止められて気がつくと目の前に大庭の顔があった。
目元まで伸ばした長い髪の毛。男のくせに白い肌。香水も何もつけてないくせに少しだけいい匂い。大きくてぱっちりとした二重。
女みたいな顔してくるせに目があってるだけで無性にドキドキしてくる。
意識すればするほど体が熱を持っていくのがわかる。
「だ、大丈夫?」
「こっちみんなバカ!!」
あまりの恥ずかしさについ声を上げてしまう。
「そ、それにしても美竹さん現文得意なんだね」
「別に…………」
「いや、だってこんなにわかるなんてすごいよ。僕なんか記号問題しかろくにわからないから」
「あっそ…………」
「やっぱり美竹さんはすごいな〜」
好きな人からそれだけ褒められると本当に恥ずかしくなる。それと同時にうれしがっている自分がいることに驚いた。
「それ以上言ったら怒るから!!」
本当に大庭はバカだ。
大庭椿
勉強ができない男子高校生
毎回テスト前日の日付が変わり始めた頃にやり始めるが今回は美竹さんがせっかく教えてくれたのにやらないわけにはいかないとかなり前から勉強を始めた
結果はかなり順位が上がった
母親はすごく大喜びしたらしい
美竹蘭
勉強がまあまあできる女子高校生
作詞をしているからか現代文は得意らしい
結果はいつもより少し点数が落ちてしまったそうだ
勉強をしようとしても図書館の出来事を思い出して悶絶していたそうな
全部大庭が悪いと本人は言っている
点P
高校生を苦しめる最悪な点
仲間にQとZがいる
証明とは気があって同盟を結んでいるらしい
心情系
現代文の最大の敵
まともにやっても点は取れないので運任せである
ちなみに中の人は数学はゴミだったのになぜか物理はできたらしい(誰も聞いていない)