無事にテストも終えて夏休みに突入した。すでに一週間が経っているが家はおろか部屋からもろくに出ていなかった。今年は猛暑日が続き外なんかには出る気がさらさらなかった。
僕が普段からしているFPSがつい先日アップデートされたばかりでそればっかりやっていた。プレデターに行けるか行けないか。そのギリギリの戦いが連日から続いていた。そしてついに次の試合に勝てば圏内だと言うところまできた。
相手チームとキル数が均衡していて後一人というところで普段は全くならないスマホが鳴り出した。うるさいのですぐに切ろうと画面を見たらそこに表示されている文字は美竹さんだった。
あまりのことに驚いてマウスを投げ飛ばしてしまった。
「あっ」
急いでマウスを取り椅子に腰をかけたがすでに試合は終了していて見事に僕たちのチームは負けていた。鳴り止まないスマホを睨みつけて出るボタンを押した。
「…………もしもし」
「あ、お、大庭?」
「どうしたの美竹さん…………」
「…………機嫌悪い?」
「別に…………」
もう完全に萎えてしまった。美竹さんが悪いわけではない。通知を切らなかった僕が悪いんだ。
「そ、その…………」
電話越しで聞こえる美竹さんの声は少し吃っていて聞こえづらい。
「僕に何か用事?」
「う、うん…………明日って暇だよね。大庭がどこかいく予定なんかないよね」
確かに僕の夏休みの予定は何もない。だからと言って美竹さんにそう思われていると少し悲しい。普通の高校生は男女数人のグループで海に行ったりフェスに行ったりして夏休みが終わる時期になると勉強会という名目上でお泊まり会でもするんだろう。
「まあ、暇だけど…………」
「よ、よかったら…………あたしとプール行かない?」
「プール?」
今、美竹さんはなんと言ったんだ。プールと言うのはリア充兼陽キャしかいくことができない夢の国ではなかったのか。それに僕を誘って行こうと言っているのか。
正直言ってめんどくさい以外の何者でもない。どうせこの暑さだ。人が溢れかえっていて、まともに歩くことすらままならないだろう。
美竹さんには悪いが断ろう。
「うん、いいよ。どこに集合にする」
「本当‼︎…………じゃ、じゃあ10時に駅前で」
「わかったよ」
「それじゃあ…………明日楽しみにしてる」
そう言って通話が途切れる。
おかしいな断ろうとしていたはずなのに勝手に了承していた。
「って、水着ない」
急いで水着を買いにショッピングモールに向かおうと家を出たがあまりの暑さに引き返した。日が沈んでからにしよう。
「焼ける…………溶ける…………死ぬ」
駅前の時計台の足元に美竹さんを待って一人で立っていた。
「お、大庭…………」
これのする方を見ると美竹さんが居た。いつも制服を見ていたから私服姿の美竹さんは新鮮だった。
だけど、少し肌の露出が多くないだろうか。
ちなみの僕の服はお母さんが買ってきたものだ。どこのブランドの物かわからないけどいい服らしい。
「美竹さん…………いいセンスだね」
「そ、そう…………友達に選んでもらったんだけど」
いつもの友達だろうか。だとしたら美竹さんのことがよくわかっていると思う。
「行こうか」
「うん」
そこから電車に乗って近くのプールまで行った。最近できたばかりなのかわからないが人の量がとてつもない。
「これ…………優待券。お父さんからもらったから」
「ありがとう」
あの怖いお父さんからもらった。一体どう言う風の吹き回しなんだ。僕が美竹さんと一緒にいることがわかったらすごく覇気が出ていたのを覚えている。
そこからは優待列に並んでいるとスラスラと入場できた。
「じゃあ、更衣室こっちだから」
「うん、あそこで待ってるよ」
どうせ先に僕の方が先に着替え終わるから目印になる建物を指定しておく。更衣室に入ると筋肉が空間を密集させていた。
この日のために鍛えてきたのだろうか、みんな各々すごい威嚇し合っている。そんな中端の方でささっと着替える。
自分の体を見てみると全くと言っていいほど肉がなかった。骨と皮しかない。そんな自分の体が情けなくて上着を羽織った。
待ち合わせ場所で待っていると少ししてから美竹さんがきた。
「…………お待たせ」
スマホをいじっていると声をかけられた。
美竹さんの水着姿は綺麗だった。私服姿といい美竹さんの姿にびっくりするのは今日で2回目だった。
「…………可愛いね美竹さん」
「なっなに言ってるの!?」
「…………あ、ごめん口に出てた?」
「思いっきり出てたよバカ!!…………でも、ありがとう」
「う、うん」
てっきり罵倒されるだけだと思ってたから面くらう。
なんだか最近の美竹さんは何を考えているかわからない。急に態度がよそよそしくなったかと思えば今日みたいにプールに誘ってくるなんて。
そんな不思議な美竹さんと一緒にいろいろなところを回った。
流れるプールからウォータースライダー、波が出るプール、こんなに動いたのはいつぶりだろか、というぐらいには遊んだ気がする。
帰ったら襲ってくる筋肉痛のことなど考えることなく美竹さんに振り回されていた。
そしてやっと落ち着いたのかお昼にしようと言う話になった。
適当なテーブルに腰を下ろした。やっと座れた。今日は朝から立ちっぱなしだったから少し疲れた。
「相変わらず体力ないね」
「引きこもりの陰キャにしては頑張ったよ」
「それもそうだね…………大庭何食べたい、あたし買ってくるから」
「えっ、僕も一緒に行くよ」
「二人で行ったら場所取られちゃうかもしれないでしょ…………」
そう言われたらそうかもしれない。今はお昼真っ只中なのでフードコートは人が溢れている。そして奇跡的に座れたこの場所もすぐに取られてしまうだろう。
そして何よりあの人混みのなか美竹さんと僕の分のお昼を買ってこれる自信がない。
美竹さんほどの圧があれば簡単に行けそうだけど。
「うん…………だったらお願いします。ジャンクなものがいいです」
「…………本当ジャンクフード好きだよね」
美竹さんにお金を渡す。
あの人混みの中に行ってくれた彼女に感謝しながらスマホを開いた。
「…………遅いなぁ」
もう、結構な時間が経っていた。もしかして何か合ったのだろうか。もしかして迷子?
いや、彼女に限ってそんなことはない…………と思う。
探しに行こうか悩んだ時に僕に声をかけてくる物好きな人がいた。
「あ、お姉ちゃんさっきから一人でいるけどもしかして暇だったりする?」
「えっ!?」
声をかけられた方を見てみるとそこには細マッチョで顔が整ったイケメンが二人でいた。これぞ世間で言う陽キャと言う生き物なのか。
「俺たちさっきから君に声をかけようと思ってさ、見たところ一人だしよかったら一緒に遊ばない?」
「そ、その…………」
知らない人から声をかけられて吃る。自慢じゃないが僕は家族以外だと美竹さん以外とは、まともに会話ができる自信がない。
「ほら、いきなり声かけちゃって怖がってるじゃん。ごめんね、こいつ可愛い子見ると後先考えなくてさ」
「い、いや…………大丈夫です」
「そっかそっか、もしかしてお友達と来てた?」
「は、はい」
早く美竹さんが帰ってくるように心の中で必死に祈る。
それにしてもこの人たちはもしかしなくても僕のことを女子と勘違いをしているのだろうか。確かに今は水着の上からメッシュパーカーを着ているから隠れている。
僕は確かに体は美竹さんより細いし、身長も低い。顔だって昔から女みたいと言われてきた。それが僕の軽いコンプレックスでも合った。
それに比べてこの人たちは筋肉もすごくて顔もかっこいい。
…………美竹さんも一緒にいるならこの人たちみたいにかっこいい人がいいに決まっている。
そう思うと少しだけ自分が惨めになってきた。
「う、ひっく…………」
「あ、ご、ごめんね。俺たち別に無理やりとかじゃなくて」
自分の情けなさに泣けてきた。
「大庭‼︎」
「美竹さん?」
その時やっと帰ってきたのか美竹さんが僕のことを抱きしめてきてくれた。
「大丈夫!?何かされたの?」
「う、ううん。何も…………」
「だったらどうして泣いてるの!」
「こ、これは泣いてとかじゃ」
本当にダサすぎる。コミュ障を発揮して少し泣いてそれをクラスメートの女の子に慰めてもらうとか。
「そう、わかった。もういいよ…………ねえ、あたしの友達に何してくれてんの?」
「い、いや。ご、ごめん。ほら行くぞ」
美竹さんの殺気に押されてそそくさとその場からいなくなった。
「ふぅ…………ほら、買ってきたから食べよ」
「う、うん。ありがとう美竹さん」
「別に…………あたしの大庭に手を出したら誰だって許さないから」
「あ、ありがとう」
あたしの大庭ってどう言う意味だろうか?
そのことが気になって買ってきてもらったハンバーガーとポテトが全く喉を通らなかった。
大庭椿
女顔の男子高校生
プールの件から少しは体を鍛えて男らしい体にしようと決意したら美竹さんにそのままでいいと言われて少し嬉しかった
あの時のことを冷静に考えると普通プールイベントは男が女の子をナンパされているのを助けるのではないかと思っていたそうだ
美竹蘭
イケメンな女子高校生
夏休みに入り大庭と会う機会がなくなったのでどうしようか悩んでいたところお母さんにプールでも行けばいいと言われて三日悩んだ挙句なんとか大庭を誘えた
大庭がナンパされているところを見て自分より女らしい大庭が少し恨めしくなったそうな