夕方と夜の間。そんな時間に僕は久しぶりに外にいた。
目的の方に近づいて行くと少しずつ活気付いている声が聞こえてきた。今日はいつもとは違う姿の商店街。
子供たちが仲良くグループで駆け回って、大人たちはまだ夜になり切っていないのにお酒を飲んでいる。
そんないつもとは違う風景の中に僕は電柱に体を預けてスマホをいじっていた。
「大庭‼︎」
周りは人だかりでろくに人を探すこともできない状態だ。
だけどそんな中でも彼女のことはすぐに見つけられた。
ただ彼女が綺麗だったのだ。
周りの人たちを寄せ付けないほどの綺麗な服装。
気がついたら周りも彼女とは少しだけ距離をとっていた。
「美竹さん…………綺麗だね」
「なっ!?何言ってんの‼︎」
素直に感じたことを口にしただけなのに怒られる。
だけど本気で怒っているわけではない。この顔をしている時の彼女は照れ隠しをしている時なのだ。
少しだけ赤くなった顔すらも彼女の美しさを引き立ていた。
女性の服装は褒めた方がいいとさっきのサイトには書いてあったがどうやら正解だったようだ。
「何その顔…………」
「ふふ、なんでもない…………行こっか」
今日はいつもに増して人が多い。
だからだろうか。自然と彼女に手を差し伸べていたのは。
最初は遠慮をしていたが小さな声でうんと言うと、かっこいい見た目とは裏腹な小さな手で握り返してきた。
そしていつもとは違う商店街に僕たちは足を進めた。
「どこから行く?」
「なんでもいいよ…………」
なんでもいいが一番困ると昔から母親に言われてきた。
確かにその通りだ。
僕は夏祭りというものに来たのは小学生以来なのだ。だから、どこに美竹さんを連れて行けばいいかわからない。
「あそこはどう?」
苦し紛れに出した案は小さな綿菓子屋さんだった。
確か小学生の時に連れて行ってもらった気がする。
「うん、行こ…………」
店主のおじさんに二人分の綿飴をもらう。それを少し外れたベンチで座って食べていた。
こんな時に陽キャなら気の利いた言葉でも言って場を盛り上げるのだろうか。
いまだに美竹さんの横にいるだけで緊張している僕に何かこの場を盛り上げることはできそうになかった。
少し大きかった綿菓子を不器用に食べている美竹さんがハムスターみたいで可愛い。
今度はどこに行こうか。
流石にこの状況でスマホをいじるほど僕もバカじゃない。
この後どこに行くのか普段使うことのない頭で必死に考えていた。
少しはお腹が膨れたから今度は遊戯系の方がいいだろうか。それとも美竹さんは食べ歩きの方がいいだろうか。
隣にいる本人に素直に聞けばいいのにそれができない。
何故だろう。いつもならこんなことすぐに聞けるのに。
今日の彼女に話しかけられないのは。
やっと食べ終わったのか割り箸を持っていない手で髪を耳にかけていた。
その仕草がやけに色っぽくてドキッとする。
「何?」
「ううん、なんでもない」
「そう…………」
少し外れているこの場所には人がそんなにこない。だからここだけ別世界のように感じる。
僕と美竹さんだけが切り離された世界。周りの音が何一つ聞こえないで確かに今だけは二人の空間が出来上がっていた。
「大庭?」
「…………え、ごめん。ボーッとしてた」
「そう…………ごめん、やっぱ大庭は祭りとか人が集まる行事は好きじゃないよね…………それなのにアタシ無理言って連れてきて」
「そんなことない!!…………ご、ごめん、急に大きな声出して」
「う、ううん…………アタシこそネガティブなこと言って」
「「…………」」
気まずい沈黙。いつもなら別に何も感じない。それなのに今日は、この時だけはいつもとは違う気がしていた。
人の気持ちなど全くわからない僕だが、最近は美竹さんのことなら少しはわかってきたと思ったのに。
それは僕の思い違いだったのかもしれない。
「ん」
出来る限り下は向かないように気をつけていたのに、いつの間にか視線は見慣れた地面を見つめていた。
そこに小さく綺麗な手が差し伸べられた。
顔を上げると美竹さんがいつもよりほんの少しだけ赤くなった顔で手を差し伸べてきていた。
「ほら、速く行かないと終わっちゃうから…………行くよ」
「うん…………ありがとう」
今度は彼女から差し伸べられた手をしっかりと握りしめて人混みに向かった。
パッンっと空気圧に押されてコルクが銃口から勢いよく飛び出した。その弾道は綺麗な直線を描いてフィギュアに当たった。
体勢が崩れたのかゆっくりと後ろに倒れてポトリと後ろに吸い込まれるように落ちて行った。
次の瞬間、丸太のように太い腕のおじさんが威勢よくベルを鳴らしてくれた。
「はいよ!!すごいな坊主」
少し照れ臭そうな表情をして景品を受け取る。
横で見ていた彼女に少しはかっこいいところを見せられただろうか。
「すごいね大庭…………五百円でゲットするなんて」
「…………ありがとう」
彼女にすごいと言われた。それだけなのに少しだけ嬉しくて気持ちが高揚した。
「よかったらこれあげるよ」
獲得したそれは日曜日の朝にやっている魔法少女物のフィギュアだった。
内容もわからないから持っていても仕方がない。こう見えて僕はバイトもしていないからお金は持っていない。
だけどゲームセンターに通ってなるべく最短でフィギュアをゲットしてそれをネットで売って少しばかりの利益にしていた。
そのためクレーンゲームもいつの間にか得意になっていた。
「いいの?」
「う、うん…………もしかして美竹さんもいらなかったかな」
「…………そんなことない。大事にする」
少しだけ赤くなった顔で大事そうに僕から景品を受け取って大事に抱えた。浴衣にフィギュアは少しだけおかしな組み合わせだけど、美竹さんはそんなことは気にしていないとばかりにギュッと抱えていた。
「次どうしよか?」
だいぶいい時間になってきたので人混みも夕方よりも多くなってきていた。
気を抜けばすぐに逸れてしまいそうだ。
「そろそろ、友達が太鼓の演舞の時間だからそれ見に行きたい」
「うんわかった…………」
何をいうわけでもなく自然と手を繋いで目的地である広場まで向かっていく。
「お、お姉ちゃん〜!!」
「キャ!?」
少しだけ人混みを抜けたところに出たらいきなり美竹さんがバランスを崩しかけたのでそれを支える。
「だ、大丈夫?」
「う、うん…………へいき」
ち、近い。こんなに美竹さんの近くにいると少しだけ変な気持ちになってくる。
それにしても今日の美竹さんはいつもと違ってやっぱり少しだけ綺麗だ。
普段はしないであろう化粧をしているのだろうか。
「お、お姉ちゃん?」
ドキドキしているのも束の間美竹さんの足元にはまだ小学生にもなっていなさそうな小さな女の子が浴衣の裾を掴んでこちらを見上げていた。
「美竹さん、妹いたの?」
「そ、そんなわけないでしょ!!…………何言ってんの!!」
「ご、ごめん」
「ひぅ…………」
美竹さんが少しだけ大きな声を出すとその女の子は怯えたような声を出す。
「あ…………ご、ごめん」
完全に怯えてしまったのか小刻みに体が震えていた。
美竹さんも小さい子の相手などしたことがないのか戸惑っているように見える。そして何よりもパッと見、美竹さんは少しだけ怖い。釣り上がった目と赤いメッシュ。そして漂うオーラが完璧にクール系だ。そんな人に睨み付けられるように見られていたら小さな子に怖がられるのもしょうがない。
「どうしたの?…………もしかして迷子?」
「…………」
返事をするわけでもなくコクンと小さな首を縦に振る。
流石にこの人混みの中だと逸れるのも仕方がない。ただでさえこのぐらいの歳の子はすぐどこかに行ってしまうから少しでも目を離したらすぐに迷子になるだろう。
「とりあえずかき氷食べる?」
すぐ近くにある屋台を指で示すとこれまた小さく首を縦に振った。
逸れないように僕と美竹さんで手を繋ごうとしたが完璧に美竹さんに怖がってしまったのか僕の背中に隠れてしまった。
「あはは、完璧に嫌われちゃったね」
「るっさい…………」
見えないように小さく、頭を叩かれた。
かき氷屋に着くとさっきまでのテンションはどこに行ったのかぴょんぴょんと跳ねている。
よいしょと後ろから抱きかかえてあげる。
「どれがいい?」
「いちご!!」
「いちごね…………いちごとコーラ味一つずつお願いします」
注文を聞くと手早く作ってくれる。財布から400円を取り出して渡すと少し離れた路地裏でかき氷を食べ始めた。
「美味しい?」
「うん!!美味しいよ!!ありがとお兄ちゃん!!」
幼女に思わずにっこりと笑顔を向けられると思わず心がポカポカする。おかしいな僕はゲームでも現実でもお姉さんキャラが好きなのに。
「…………ロリコン」
そんなポカポカしていると横からドギツい発言が飛んでくる。
「み、美竹さん…………僕は決してロリコンなんかじゃ」
「嘘つき…………アタシといるときより楽しそうだった」
「それは子供相手だから同じ気持ちで接してるだけで」
「ふん…………どうだか」
完璧に拗ねてしまったのかそっぽを向いてしまった。
「美竹さん」
「何…………ング!?」
こちらを向いた瞬間もう一つのかき氷を口に無理やり突っ込んだ。
「美味しい?」
「…………べ、別に」
「はい、これあげる」
コーラ味のかき氷を美竹さんに差し出した。
「ありがと…………だからってロリコンは許さないから」
「わかってるよ」
僕のそれを聞くとシャクシャクと食べ始めた。
そろそろお姉さんも心配してると思うから迷子センターに行こう。
美竹さんも後半になるに連れて少しだけ慣れてきたのか、お互いのかき氷を交換もしてたし仲良くなったのだろう。
立ち上がりパンパンと膝を叩くとまだ小さい手がムギュと握ってきた。
今度は反対側でしっかりと美竹さんとも握っていた。
「お姉ちゃんはまほプリ好きなの?」
「…………普通かな」
「えぇ〜ピンクのフィギュア持ってたから好きだと思った〜!!」
「どっちかと言うとレッドの方が好き…………」
「絶対ピンクの方が可愛いよ!!」
「いや、レッドの方がかっこいい」
「まあまあ、美竹さんもそんなに熱くならなくても…………なんでピンクが好きなの?」
「うーんとね…………お姉ちゃんがピンクが大好きだから!!」
「…………そっか、お姉ちゃんもピンクが好きなんだね」
「うん!!お姉ちゃんはすごいんだよ。ピンクのフリフリの衣装着てたくさんの人の前で歌ってるアイドルなんだよ!!」
「アイドル…………それはすごいね」
アイドル。それが本当だとしたらすごい人だ。最近流行のたくさんのアイドルグループの中の一人だろうか。
でもあのアイドルはどちらかと言うとピンクのフリフリを着ているイメージはない。
そんなことを考えてると美竹さんが難しそうな顔をしていた。
「美竹さん…………どうしたの?」
「いや、なんでもない…………知り合いにそんな人がいたと思っただけ」
「ふーん」
美竹さんにアイドルの知り合いなんかいるわけない。
僕と同じぼっちコミュ障なんだから。
そんなことを考えてるといつの間にか迷子センターに到着していた。
係の人に説明するとさっきそのお姉ちゃんらしき人が来て係の人総出で探していたらしい。
スマホで連絡するとすぐに来てくれるらしい。
「それじゃあ、僕たちは…………ここで」
せめてお姉ちゃんがくるのを待てばと言われたがもう数分で太鼓の演舞が始まってしまうため少しでも早くしろと美竹さんから圧が飛んできていた。
「お兄ちゃんありがとう」
「うん、今度は迷子にならないようにしっかりお姉ちゃんの言うこと聞くんだよ」
「わかった」
ポンポンと頭を撫でるとニコっといい笑顔で微笑んでくれた。
「お姉ちゃんもまたね」
「またね…………あとこれあげる」
今まで大事に抱えていたフィギュアを差し出す。
「いいの!?」
「うん、あたしが持ってるより大事にしてくれそうだし…………」
「ありがとう、お姉ちゃん大好き!!」
「わかったから離れて!!」
感傷的になったのか美竹さんにガバっと抱きつくがそれを無理やり引き剥がすと僕の手を取って広場までズカズカと歩いて行った。
「よかったの?」
「いいよ…………大事にしてくれそうだし…………それにまた大庭が取ってくれるでしょ」
「うん、そのつもり」
その瞬間広場から大きな太鼓の音が二人の声を遮った。
大庭椿
クレーンゲームがうまい男子高校生
従姉妹に幼稚年の子がいるため少しばかり子供の扱いはうまい
あまりに手慣れているから美竹さんからはロリコンだと思われていたらしい
美竹蘭
レッドが好きな女子高生
この日のためにモカ達に誘われていた祭りを断っていた
そのせいで完璧に怪しまれたが本人は隠し通せているつもりらしい
大庭がロリコンではないかと帰った後に本気で悩んだようだ
幼女
ピンクが好きな幼稚園生
お姉ちゃんが久しぶりに休みだったために祭りに連れてきてもらったがいつの間にか逸れてしまった
お姉ちゃん
まん丸お山に彩りがありそうなフワフワピンク担当
あまりにポンコツがすぎるため妹の方がしっかりしているのではないかと何処ぞの微笑みの鉄仮面は思っているらしい
これでもやるときはやるグループのリーダーである